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レース・イベント

全日本ロードレース選手権が、4月3日~4日に栃木県ツインリンクもてぎで開幕戦を迎える。それに先立ち3月25日から3日間、事前テストが開催された。JSB1000、ST1000、ST600、J-GP3に参戦するチーム、ライダーが、マシンそしてタイヤのテストを行った。レース・ジャーナリストである佐藤洋美さんに、今年のレースの見どころを教えて貰おう。
■取材・文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝




JSB1000──中須賀克行が、10度目のチャンピオンを掴めるか?

 昨年は新型コロナウィルスの影響で開幕が大幅に遅れ8月開催となり、最高峰クラスであるJSB1000は全4戦で戦われた。絶対王者・中須賀克行や、ホンダの清成龍一らとの激戦を制し、YAMAHA FACTORY RACING TEAMの野佐根航汰が初の栄冠に輝いた。今季、野佐根は念願のスーパーバイク世界選手権(SBK)へ参戦を決めたことで“ゼッケン1”不在のシーズンとなる。
 やはりチャンピオン候補の大本命は野佐根の先輩であり、これまで9度の王座に輝いた中須賀克行。昨年はノーポイントレースがありランキング7位という不本意な結果に終わったが、誰もが認める実力者。中須賀は「10回目のタイトルを掴めるチャンスは、そうそう巡って来ない。ぜひ、掴みたい」と、意欲を語る。吉川和多留監督も「最大限のバックアップを」と誓った。
 

過去9度のチャンピオンを獲得している中須賀克行が、10回目のタイトルを狙う。

 
 それを阻止しようと挑むのがAstemo Honda Dream SI Racingの清成龍一だ。清成は、昨年ランキング2位を獲得しており「2の上は1しかない」とチャンピオンを狙う。伊藤真一監督も「中須賀に対抗できるように力を尽くしたい」と真っ向勝負の構えだ。

 中須賀はヤマハMotoGP開発テストもこなし、代役参戦したMotoGPレースで2位表彰台に上がった実績を持ち、清成はブリティッシュスーパーバイク選手権(BSB)で3度もタイトルを獲得と、世界に通用するふたりの対決が焦点になると見られている。
 

昨年ランキング2位の清成龍一も、虎視眈々とチャンピオンを狙っている。

 
 このふたりに追いつき、割って入り、勝利に辿り着こうと狙うライダーたちがひしめく。ホンダのビッグチームとして、ロードレース世界選手権(WGP)250チャンピオンとなった青山博一や、現在、MotoGPで活躍する中上貴晶らを輩出したMuSASHi RT HARC-PRO.Honda。同チームに所属していた水野涼がホンダの若手育成プログラムでBSB参戦のチャンスを掴んだことにより、ST1000に参戦していた名越哲平が繰り上がり、JSB1000フル参戦を開始する。名越は「チーム入りした頃、エースライダーの高橋巧さんが活躍していたポジションで自分が戦うことが出来るのは夢のよう。中須賀さん、清成さんと勝負が出来るようにレベルアップしたい」と語る。

 昨年ランキング3位に浮上したのは濱原颯道(Honda Dream RT 桜井ホンダ)。濱原は190cmの長身と、曾祖父が大関汐の海(岸本忠夫)ということで話題となったライダーだ。JSB1000参戦5年目を迎え「昨年、表彰台に登ることが出来たが、今年はそれを毎戦、出来るように」と更なる飛躍を誓う。全日本フル参戦が5年ぶりながら、昨年ランキング6位へと食い込んだ岩田 悟(Team ATJ)も「表彰台が目標」と語る。
 亀井雄大は、ホンダの社員ライダーで、社内チームHonda Suzuka Racing Team からJSB1000参戦3年目。「JSBに乗るようになり、筋力をつけ体重を12㎏増やした。やっと、操れる感覚が持てるようになって来た。野佐根、水野選手が抜けたので、その分、自分が前に行きたい」と闘志を燃やす。中須賀のタイトル獲得連覇を阻止し2度もチャンピオンとなった実力者、秋吉耕佑(Kosuke.TJC.RT)も上位を狙う。
 

ホンダの社内チームであるHonda Suzuka Racing Teamから参戦する亀井雄大はホンダの社員だ。
レジェンドライダー・加賀山就臣は、今年も元気な姿を見せてくれる。

 
 スズキ勢は、ヨシムラが世界耐久選手権(EWC)参戦を決め、全日本から世界へと活動の場を移した。替わって、そのヨシムラチューンのGSX-R1000を駆るのがBabyFace Powered by YOSHIMURAの津田一麿だ。監督にヨシムラで活躍、スズキワークスライダーだった辻本聡を迎え、ヨシムラスタッフも加わり体制強化して「上位を狙う」と飛躍を誓う。
 Team KAGAYAMAの加賀山就臣は、SBK、BSBと世界を舞台に活躍したレジェンド。未だトップライダーとしての力を示している。

 カワサキZX-10RRはwill-raiseracingRS-ITOHの柳川 明が駆る。柳川も、秋吉や加賀山同様に、レジェンドライダーであり、SBKを戦い、カワサキのエースライダーとして活躍して来た。3年前から、鈴鹿8時間耐久で名コンビだった井筒仁康が監督となり、黄金コンビ復活で戦い始めた。井筒監督は「集大成のシーズン」と語る。
 他にもBMW S1000RRで挑むのはSANMEI Team TARO PLUSONEの関口 太郎。RankUp Apriliaの江口謙がRSV4 1000 Limited Editionを駆る。チームスガイレーシングジャパンの須貝儀行はドゥカティで参戦を決めた。
 
 

盟友井筒仁康監督とのコンビで、ZX-100RRを駆る柳川 明。

 
 日本のホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ、そしてイタリアのドゥカティ、アプリリア、更にドイツのBMW最新リッタースーパースポーツバイクをベースにレース向けに仕上げられたマシンは、いずれも200馬力以上。世界レベルのテクニックを持つトップライダーたちがモンスターマシンを自在に操る姿は圧巻だ。

ST1000──イコールコンディションの戦いが見物だ。

 昨年から新設されたST1000は、JSB1000同様に国内外の最新リッタースーパースポーツによって争われる。違うのは、より改造範囲が狭く、市販車に近いという部分だが、JSB1000より重く、ブレーキも市販車のキャリパーを使わねばならず、ライダーの技量が問われる。タイヤは、ダンロップのワンメイクで、よりイコールコンデションとなり激しい争いが見物のクラスとなった。

 昨年のチャンピオンは元MotoGPライダーで全日本でもタイトル経験のある日本郵便 HondaDream TPの高橋裕紀が獲得。高橋はJSB1000で中須賀や清成に並ぶ実力者、その走りは健在で、今年もタイトル候補の最右翼。だが、世界耐久選手権(EWC)と全日本のダブルエントリーで、そのスケジュール調整が鍵を握る。
 

2020シーズンのST600のチャンピン、岡本裕生がST1000に挑戦する。
そして、J-GP3チャンピオンの村瀬健琉がステップアップ。

 
 ランキング3位はAstemo Honda Dream SI Racingの作本輝介。作本は、宇川徹、加藤大治郎、玉田誠、清成龍一らを輩出した名門チーム高武出身で更なる飛躍が期待される。また、昨年のST600チャンピオンのBLUcRUニトロレーシング51ガレージ YAMAHAの岡本裕生、J-GP3チャンピオンのTeam TKRの村瀬健琉がステップアップ。そして、JSB1000からAstemo Honda Dream SI Racing の渡辺一馬、bLUcRU伊藤レーシングBORGヤマハの前田恵助が参戦を開始する。ST600から若手が続々とスイッチ、JSB1000を凌ぐ22台がエントリーする。激しいトップ争いに期待が高まる。
 

昨年JSB1000を戦っていた渡辺一馬が、ST1000に参戦。
2019年のJ-GP3チャンピオンの長谷川 聖は、昨年のランキング12位からの巻き返しを誓う。

 

ST600──二世ライダーの戦いにも注目だ。

 
 ブリヂストンのワンメイクで争われるST600は、かつてはWGPで活躍し、また2019年度のこのクラスのチャンピオンである日本郵便 HondaDream TP小山知良が主導権を握りそうだ。そこへ、NCXXRACING&善光会 TEAMけんけんの長尾健吾、MOTOBUM HONDAの荒川晃大、TOHO Racingの國峰啄磨が挑む。他にも若き才能が数多くエントリーし、全日本の中で一番の参加台数を誇る(32台の予定)。SBKのスーパースター芳賀紀行の長男瑛大、次男涼大(ニトロレーシング41YAMAHA)がフル参戦。天才ライダー阿部典史の長男真生騎は、開幕戦にスポット参戦、二世ライダーたちの躍進にも注目が集まる。
 

スーパースター芳賀紀行の長男である瑛大が、弟の涼大と共にフル参戦する。
阿部“ノリック” 典史の長男真生騎が、開幕戦にスポット参戦するのも注目だ。

 

J-GP3──世界に最も近いクラスと言われるJ-GP3

 昨年タイトル争いの末にランキング2位となったSunny moto Racingの小室旭は、今季限りで現役を退くことを表明しており、ラストチャンスで初タイトルを狙う。WGPで活躍したマルマエMTRの徳留真紀や41Planning Team One For Allの宇井陽一も参戦。P.MU 7C GALE SPEEDから尾野弘樹が参戦を開始することも話題だ。女性ライダー3人がフルエントリー、TEAM NAOKO KTMの高杉奈緒子、RT YOLO SARD&ぱわあくらふとの岡崎静夏、P.MU 7C GALE SPEED ChallengeFox桐石 瑠加らにも注目が集まる。

事前テストから見た、今年の展望。

 開幕戦を直前に控えた3月25日(木)から3日間、事前テストが行われた。2日間はメーカーテスト、3日目はタイヤメーカーテストで、参加ライダーが変わったが、概ねそれぞれに2日間の走行を行った。

 JSB1000では、2019年4月6日に中須賀が1分46秒878のレコードを残している。
 テスト初日、1本目の走行では清成が1分49秒516でトップに立ち、2本目では中須賀が1分49秒552と僅かに上回る。3本目には中須賀が更に1分49秒038とタイムを短縮するが90度コーナーで転倒、赤旗が提示された。この日、50秒を切ったのはふたりだけとなる。3番手に名越が1分50秒258、加賀山、濱原、津田、秋吉が50秒台に続いた。
 2日目、中須賀は1分48秒989と唯一の48秒台にタイムアップ。2番手には1分49秒713を記録した名越。3番手に1分50秒016の加賀山、続いて、津田、清内、濱原、秋吉が50秒台で続く。3日目には、亀井雄大が1分50秒423をマークした。
 

中須賀と清成の戦いになるのか? 割って入るライダーは?

 

加賀山就臣や柳川も、虎視眈々と狙っている。

 
 ST1000のレコードは、高橋裕紀が昨年10月18日に1分51秒249を記録している。だが、高橋はEWCテストのため、帰国するも隔離期間と重なり、事前テストはキャンセル。初日、JSB1000からスイッチした渡辺一馬がレコードタイムを超える1分50秒724でトップ。2日目も渡辺がトップタイムとなる1分50秒台を記録して速さを示した。2番手51秒台の榎戸育寛(ホンダ)3番手に岡本が浮上、星野知(BMW)、前田と51秒台で続いた。3日目は渥美心(BMW)が1分51秒321でトップタイムとなった。
 ST600は小山が2020年10月18日に記録した1分53秒826を残している。初日は1分54秒477で小山がトップ。2日には國峰啄磨が1分53秒894を記録しトップとなった。
 J-GP3は2013年8月3日、國峰が残した1分59秒732がレコードタイム。テスト初日では尾野弘樹が2分01秒044でトップ。翌日は小室が2分1秒693でトップタイムを記録した。

 今シーズンが楽しみだ。
(取材・分:佐藤洋美)
 
 


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2021/03/31掲載