- ■試乗・文・撮影:毛野ブースカ
- ■協力:スズキ https://www1.suzuki.co.jp/motor/
今や通勤・通学や日常使いの足として欠かせない存在となっているスクーター。原付免許は16歳から取得可能なことから、最初に乗ったオートバイが原付スクーターという方も多いのではないだろうか。かく言う私も最初に乗ったオートバイは原付スクーターだった。そんなスクーターは主に3つに分類できる。原付免許や普通自動車免許で乗れる排気量50㏄以下の原付一種、小型限定普通二輪免許やAT限定小型普通二輪免許もしくは普通二輪免許が必要な排気量51cc~125cc以下の原付二種、そして排気量250㏄もしくはそれ以上の排気量を持つビッグスクーターだ。
さらに細かく言うと、2025年4月1日から施行された原付バイクの法改正により50cc以下の原付一種は生産終了となり、最高出力が制限された125㏄以下のスクーターが原付一種(原付免許で乗車可能なもの)として区分されることになった。これによりスクーターは車両区分では原付と普通二輪、大型二輪、免許区分では原付免許と小型限定普通二輪免許、AT限定小型普通二輪免許、普通二輪免許、AT限定普通二輪免許、大型二輪免許、AT限定大型二輪免許、道路運送車両法では原付第一種、原付第二種、軽二輪(126㏄~250㏄以下)、小型二輪(251cc以上)に分類される。
ちょっと話がややこしくなってしまったが、今回実走検証することになったスズキのバーグマン400は普通二輪に区分される普通二輪免許で乗れる、小型二輪にカテゴライズされるスクーター、要するにビッグスクーターである。ビッグスクーターと聞くと、ここ最近オートバイに乗り始めた方には馴染みのない言葉かもしれない。ビッグスクーターは1990年代後半から2000年代にかけて一大ブームを巻き起こした。一時期はオートバイの販売台数の6割を占めるほど売れたという。ビッグスクーターブームのきっかけを作ったのは1995年に販売されたヤマハのマジェスティ。排気量250㏄で高速道路走行が可能、無段変速(AT)で操作しやすく、シート下に広いトランクスペースを備え、都会的なスタイリッシュなデザインは、従来の原付スクーターにはない魅力を持っていた。
ヤマハのマジェスティに続けとホンダはフォルツァ、スズキはスカイウェイブを発売。このビッグスクーター御三家が人気を牽引したことによりビッグスクーターはオートバイのカテゴリーとして定着。人気の影響を受けてAT限定普通二輪免許が設置されることとなった。しかし2010年以降、ビッグスクーターブームは落ち着き、現在普通二輪免許で乗車できる国産ビッグスクーターはホンダのフォルツァ(250㏄)、ヤマハのXMAX(250㏄)、そして国内販売向けでは唯一の排気量400㏄のスズキのバーグマン400がある。
スズキのバーグマン400は2017年にスカイウェイブ400の後継機種として登場した。スズキを代表するビッグスクーターであるスカイウェイブは、1998年にスズキ初の250㏄スクーターとして発売された。同年10月にはスカイウェイブ400、2002年には当時量産車としては世界最大排気量を誇ったスカイウェイブ650が加わった。このスカイウェイブという名称は国内市場向けの名称で、1990年代当時から海外市場向けにはバーグマンと呼ばれており、2017年の販売開始時に名称が統一されたのだ。現在バーグマンの名称を持つスクーターはバーグマン400、バーグマン200(国内販売終了)、そして原付二種のバーグマンストリート125EXがある。
バーグマン400の実車を見た第一印象は「これぞまさにビッグスクーター!」。原付二種スクーターとは一線を画す大柄なボディと、スポーティなイメージを持たせたスタイリッシュでラグジュアリーなデザインはビッグスクーターそのもの。特にセンタートンネルのあるフレームとウインドスクリーン、段差のあるバックレスト付きシートがその印象を強めている。試乗車のカラーはマットソードシルバーメタリック。他にもソリッドアイアングレー、マットブラックメタリックNo.2が用意されている。
ボディのほぼ中央、前方方向へ寝かせるようにマウントされているDOHC399㏄水冷式単気筒エンジンは2本のイリジウムプラグを採用したスズキデュアルスパークテクノロジーとトラクションコントロールシステムを搭載。最高出力は21kw(29PS)/6,300rpm、最大トルクは35N・m(3.6kgf・m)/4,900rpm。気になる燃料消費率は定地燃費率がリッター27.2㎞(2名乗車時)、WMTCモード値がリッター25.2㎞(1名乗車時)となっている。私の愛車で同じ排気量のホンダ400Xよりやや低い数値となっており、最高出力が400Xより低く(400Xは34kw(46PS)/9,000rpm)、重量が218㎏(400Xは199㎏)、単気筒で無段変速機ということが影響しているのだろうか。燃料タンク容量は13リットルなので、リザーブ容量を2リットルで換算するとWMTCモードで約277㎞になると燃料警告灯が点く計算になる。実際にどんな数値になるのか楽しみだ。
フロントサスペンションは110mmのストロークを持つインナーチューブ外径41mmのテレスコピックフォークを採用。プリロードを7段階に調整可能なリンク式モノショックリアサスペンションはエンジンの前方、ボディ下部に水平にマウントされている。エンジン、リアサスペンションともにボディに隠すように配置することでスリムでスポーティーな外観を実現している。フロントブレーキはダブルディスク、リアはシングルディスクを採用。もちろんABSが標準装備されている。
ビッグスクーターのメリットと言えばボディの大きさを生かしたラゲッジスペースだろう。ハンドル下のフロントボックスには左右に収納スペースが設けられ、グローブなどの小物類が収納可能。シート下のトランクスペースの容量は42リッターとなっており、ヘルメットはもちろんジャケットやレインウェア、バッグなどが収納できる。こうした豊富なラゲッジスペースは日常使いだけでなくツーリングでも重宝する。オプションでトップケースを装着すればさらに積載量がアップする。いかにもビッグスクーターらしい座り心地が良さそうな厚みのあるシートはブルーのダブルステッチ仕上げ。バックレストは2段階(15mmと30mm)で調整できる。
さて、いよいよ乗車してみよう。実際バーグマン400のそばに立つと、一般的なスクーターをひと回り以上大きくしたボディが気になるものの、これがビッグスクーターらしさなのだろう。センタートンネルはあるものの跨ぎにくくはない。シート高は755mmで、左右の足元付近が大きくえぐられたカットフロアボードのおかげで足つきは良好。シートに跨るというより背もたれのある椅子に少し寄りかかるように座る感じと言えばわかりやすいだろうか。やや前傾姿勢となる一般的なオートバイのライディングポジションに慣れていると違和感を覚えるかもしれない。
ハンドルの位置は自分にはちょうどいい感じだが、私より少し背の低い同僚にはやや遠く感じるとのこと。アナログ式の大型スピードメーターとタコメーターの視認性は良好。中央部のマルチファンクションに表示される情報は、以前試乗したホンダADV160に比べれば少ないが、必要にして充分な情報が表示されるので、日常使いやツーリングで支障をきたすことはないはずだ。各操作系はわかりやすく配置されており、シンプルで扱いやすい。ウインドスクリーンはライダー目線から見ると面積が広く、防風性や雨天時の保護性能が高そうな印象を受けた。
ビッグスクーターに乗車するのは初めてなので、様子を見ながらじわっとスロットルを開けながら走ったところ、走り出しから40㎞/hくらいまでもっさりしており、鈍重な感じがしてあまりいい印象を受けなかった。しかし、慣れるにつれてスロットルはじわっと開けるではなく3,000~4,000rpmくらいになるようにスロットルをがっと開けて、それを一定のスピードになるまで維持しながら走るとキビキビとした印象に変わった。ここがMT車と無段変速のビッグスクーターとの明確な違いなのだろう。60㎞/hで約4,500rpmと想像よりもエンジンの回転数は低く、車重もあってホイールベースも長めなことから走行フィーリングはどっしりとしており、シートポジションと相まって運転しやすい。
ビッグスクーターと聞くと、一部のマナーの悪いライダーがカスタマイズしたビッグスクーターで街中をかっ飛ばす様子を見て、私はビッグスクーターに対してややネガティブなイメージを抱いていた。しかし、いざバーグマン400に乗ってみると意外と楽で面白い。特に渋滞の多い都内だとギアチェンジの必要がないので走行時の負担が減る。また積載量が多いのもいい。原付二種のスクーターに比べて大柄かつ重く、駐車時や取り回し時に気を遣うが、これは慣れの問題だろう。
今回の実走検証では、ビッグスクーターが通勤や通学をメインに使われることを考慮して、伊豆方面へのツーリングした際の燃費や走行フィーリングだけでなく、通勤や都内の移動に毎日使用することで、渋滞が頻発する都内における燃費も計測してみた。そこにはビッグスクーターのメリット・デメリットが垣間見えた。(続く)
(試乗・文・撮影:毛野ブースカ)
■型式:8BL-DU11N ■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ ■総排気量:399cm3 ■ボア×ストローク:81.0×77.6mm ■圧縮比:10.6 ■最高出力:21kw(29PS)/6,300rpm ■最大トルク:35N・m(3.6kgf・m)/4,900 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,235 × 765 × 1,350mm ■ホイールベース:1,580mm ■シート髙:755mm ■車両重量:218kg ■燃料タンク容量:13L ■変速機形式:Vベルト無段変速 ■タイヤサイズ(前/後):120/70-15M/C・150/70-13M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■車体色:マットソードシルバーメタリック、ソリッドアイアングレー、マットブラックメタリックNo.2 ■メーカー希望小売価格(消費税込み):895,400円
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