「ベンチ? 100㎏ぐらいなら上がるかな」「フルマラソンは今年2回出て、次はトライアスロン」……なんていう、健康に突如目覚める40代がたまにいる。どうしたどうした?? というストイックさ。素直にすごいと思う。
1050に乗ってそんなことを思った。Vストロームシリーズは幅広いライダーを楽しませてくれるラインナップだが、こと1050に関しては頂点モデルだけにストイックさが滲んでいるのである。
- ■文・写真:ノア セレン ■撮影:依田 麗
- ■協力:SUZUKI
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズ https://www.instagram.com/alpinestarsjapan/
隠しきれないTLイズム/スズキイズム
Vストロームシリーズもずいぶんの世代交代が進んできた。かつて筆者も愛車として6万キロ以上を共にした名車650は絶版となり(SV-7GXの発表で復活も期待されるが)、後に登場した250㏄クラスの2台は先のVストロームミーティングを見ても大変な人気。そして完全なる新世代エンジンを搭載した800シリーズも加わり、Vストロームブランドは変化、進化してきた。かつてはVストロームシリーズはあくまでオンロードツアラーと位置付けられていたのに、1050と800にオフロードに向けた「DE」が加わったのもトピックだろう。
そんな中でフラッグシップとなるこの1050(無印)は、今乗るとちょっと旧世代的というか、どこか懐かしさを感じさせるのだから面白い。そもそも(期待される650の復活までは)唯一のVツインなのだ。それはVストロームシリーズに限ったことではなく、なんと、国産メーカー唯一のVツインエンジンなのである! 効率化が叫ばれる昨今、スペース的にも有利とはいえず、かつコスト的にも厳しいであろうVツインを作り続けているスズキにまずは拍手である。
なぜそこまでこだわるのか……。最新のVストロームである800に乗るとエンジン、車体共に格段にモダンである。1050がオールドスクールに感じるのは800を知ってしまったからというのもあろう。しかしそれでも1050は存在し続け、クイックシフターも装着するなど地道に進化を果たし、今もVストロームシリーズの頂点にある。
その理由を、筆者はまさに「こだわり」に思える。こだわりというのは本来良い意味で使う言葉ではないのだが、1050に関係する技術者とお話しすると「ボア100㎜ですよ! そんなエンジン、他にないじゃないですか!」とか「クイックシフターを付けたときにギアレシオまで見直したんです」とかいったことを、かなりの熱量で話してくださる。のだが、それらの内容が「そこ、そんなに大事かな⁇」と思わせられる事柄も(失礼ながら)あったりするのだ。
もはやこれはコダワリ以外の何物でもないのだろう。あの、良くも悪くも一世を風靡したTL1000S/Rのエンジンを、ここまで熟成させてアドベンチャーマシンとして成り立たせているという自負。設計の旧いエンジンでも各種規制に対応させながら魅力の核となるパフォーマンスを失っていないという事実。確かに800がある今、1050は少し旧く感じる人がいるように思う。しかし旧いというのは必ずしも悪いことではないのだ。ちょっと旧いぐらいの方がライダーの感覚にマッチすることもあるし、そのモデルの本質が垣間見えたりもするもの。1050にはやはり奥底にTLイズムが、そしてそれを支えるスズキイズムが隠れていると感じた。
ストリートは狭いぜ!
スズキのデポから1050を借り受け、都内の下道でビッグサイトへと向かった。モビリティショーへと向かうためだ(その記事はこちら )。またがった瞬間から、1050はとても大きい。シート高は850㎜だが、目の前の大きなタンクや立派なウインドスクリーン、幅広ハンドルには純正でナックルガードが付いており、視覚的に「でかい!」という感覚が強い。このサイズ感の時点でハードルは決して低くない。
100㎜ボアのVツインと考えると驚くほど粘り強く調教されている低回転の頼もしさであり、不意なエンストなどは考えにくいのだが、それでもストリートではこの巨大な体躯がさすがに厳しい。筆者は身長185㎝、文頭に書いたようにベンチプレス100㎏は上がらないが、それでも割と力持ちな方にもかかわらず、「ちょっと持て余すなぁ」というのが正直な感想だ。やはりフラッグシップともなると、650や、ましてや250兄弟のような気軽さはさすがに望めない。……想定される距離や使用状況がそもそも違うのだ。また巨体ゆえにすり抜けもあまりできないため冷却ファンが回ることも多く、ライダーも熱気に包まれる。
ビッグサイトで駐輪場に入れるときにも、やはりその巨大さを思い知った。もうとにかくでかいのだ! 駐輪スペース2つを使ってしまいそうなほどで、隣にはみ出さないようにセンスタにかけておいた。なおハンドル切れ角は大きく取り回しそのものに無理はないのだが、装備重量242㎏はなかなかにズシッとくるためかなり慎重になった。
モビリティショーを満喫し帰路で首都高に上がると、やっと解き放たれた気がした。素直に車速が載せられ、スイスイと進んでいける気持ちよさと言ったら。季節外れに暖かかった日中の気温も落ち着いたため、ライダーにもバイクにも涼風が当たり「あぁ気持ちがいい!」と思えた。
やはり1050にストリートは狭かったか……。フラッグシップのアドベンチャーモデル、大陸横断も涼しい顔してこなす実力なのである。ビッグサイトに行っている場合ではなかった。
気を取り直してツーリング
さて、ストリートはほんの前菜である。メインディッシュはVストロームミーティングに参加するための、浜松までのツーリングだ。とはいえ、高速道路のみのハイペースクルーズだけなら1050はお手の物のはず。それではつまらない。
筆者が大好きなのは舗装林道だ。対向車が来たらオットットとなるぐらい狭く、ところどころ舗装が切れちゃったりするぐらいがいい。そんな道はちょっとマニアックなツーリングルートを選べば無数に登場するし、アドベンチャーモデルならそんなところもお手の物のはず。1050よ、君の実力を試させてもらおう!
自宅の茨城県からまずは高速で都心を跨いで中央道の大月へ。そこから下道で富士山を反時計回り。本栖湖から西へと折れ、身延のあたりから舗装林道三昧である。
ツーリングマップルとにらめっこして、なるべく「色のついていない道」(国道は赤、県道は緑、市道は黄色)を選ぶのだ。どんどん寂しくなってきて、道が狭くなってくるほどワクワクする。しかもストリートではもてあまし感が高かった1050も筆者と同調するようにワクワクしてくるではないか!
舗装林道はある種ジムカーナ的な動きも多い。強めのブレーキからペタンと寝かせ、出口が見えたらグイッとアクセルを開ける。しかしジムカーナと違うのは路面がすごく不安定なこと。だからこそバイクのフトコロが試される。
そして1050はここで本当によく光った。車体は大きいのに身の翻しがとても軽いのは細身のタイヤのおかげかそれともクランクの短いVツインのおかげか、あるいはもっと総合的なことなのかもしれないが、前日に抱いていた「巨大感」のようなものはスッと消え失せ、まさに手の内で振り回せていた。舗装が荒れていようと、落ち葉があろうと、タイヤ、サス、車体バランスが素晴らしく「アブねっ!」という場面は一度も起きずに気持ちの良いペースが維持できたのだ。また今やVストロームシリーズ唯一のアルミフレームだが、これが硬質に感じることもなかったのがうれしく、この点も大きな安心感を提供してくれた。
これだけのサイズ・重量のものを荒れた路面において積極的な入力をするのだから、ABSやトラコンといった電子制御に支えられているというのも心理的に嬉しいもの。ただ今回のツーリングでは一度もこれらが介入することはなく、電子制御に頼らずとも突っ込んだ部分の性能を満喫させてくれる素の良さを実感することができた。
大排気量エンジンもまた、ことさら主張することなくこの難しいシチュエーションをこなすのに尽くしてくれた。回転数がかなり落ちてもアクセルを開ければビッグボアツインにもかかわらず、ガチャガチャしたりグズついたりすることなく力を発揮し、いざ1速でも低すぎるような速度に落ちたとしても、クラッチをスッと滑らせばすぐに問題解決。またこの油圧のクラッチが軽いうえに繋がり感が非常にわかりやすかった。
白い道ばかりを走っていたため通行止めに出くわすこと数知れず。2008年のツーリングマップルを見ていたのもよくなかったのだろう。たびたび迷子にはなったものの、これだけ楽しく走り回れるなら通行止めも歓迎。ここまでの楽しい道を引き返してもう一度走れるということなのだから。ただこんな走りを延々楽しむライダーがどれだけいるだろう。なかなかストイックな遊びにも思う。
行き止まりまで行って帰ってきてを繰り返す、シャトルランのようなツーリングを楽しんだのち、最終的には菊川あたりで国道1号バイパスに合流。そこからは流れの速い国道でノンビリと浜松入りした。昨日までのもてあまし感はどこへやら。「なんだよ1050、最高じゃないの!」とすっかり惚れ込んでしまっていた。ちなみにこの日の燃費はカタログスペックの19.4㎞/L(WMTCモード)を上回る22.7㎞/Lをマーク。ワンタンクで420㎞を走った。最初は堅めに感じたシートだったが、一日が終わった時に尻へのダメージは意外なほど少なく、また肩や首への負担も少なかったことも印象深い。あれだけ走り回ったのに「まだ走れるな」と思わせてくれたのだった。
高速を突き進む
今年で11回目となったVストロームミーティングは残念ながら雨だった。夕方には上がるかと思ったがそうもいかず、帰路につくころにはしっかりと冷たい雨。帰りはフル高速だ。
ガス満、トイレも済ませた。一発で帰ろう。この状況での1050の頼もしさといったらなかった。大きなウインドスクリーンは風も雨も吹き飛ばしてくれ、ヘビーウェットをものともせずハイペースでぐんぐん距離を稼いでいく。一度決めた速度をかたくなに守り、淡々と、ビジネスライクに進み続ける。もちろんクルーズコントロールもついている。個人的にはアクセルを開け続けることが苦にならないため使わないが、使える人は使うといいだろう。
結果、完全なるノンストップ作戦で素早く帰宅成功。雨具も通り抜けるほどの雨だったが、1050は常に頼もしい安定性、接地感を提供してくれ、雨中走行をものともしなかった。その粛々と任務をこなす様は、どこか軍用車のような印象すら抱かせてくれた。
ただ欲を言えば、この状況でグローブを脱いだり付けたりはとても面倒なためETCと、そして前々日とはうって変わって寒かったためグリップヒーターは標準装備としてほしいと思った。
マッチョな40代、我こそは! と手を挙げよ!
1050に乗り始めた前半は、「あの優秀な800がある今、1050の存在意義はどこにあるかな?」という疑問が浮かぶこともあった。しかし1050で合計1016㎞走り切った頃には「これはこれで世界観がある」という結論に達した。
確かにデカい。そして軽くはないし、パワーも十分以上かつショートストロークビッグツインという個性付き。ストリートではもてあます。しかしこの巨体を振り回す楽しさは代えがたいし、適度に前世代的だからこそライダーと一体感が持ちやすいと言うか……。「あぁ、こういうバイクなら、こういう雰囲気なら知ってるな」と。ベテランライダーほど1050に妙な親近感を抱くのではないかな、と思った次第だ。
とはいえ、フラッグシップだけあってハードルはそれなりに高い。800のように「どなたでもどうぞ」というわけにはいかない。マッチョな40代(じゃなくでもいいけど)な貴方、出番です。「よし! 俺がいっちょ乗ったろうか!」の心意気で挑んでほしい。
(文・写真:ノア セレン、写真:依田 麗)
■車名型式:8BL-EF11M ■エンジン種類:水冷4ストローク90度V型2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,036 cm3 ■内径×行程:100.0×66.0 mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力:76 kW (103 PS)/8,500 rpm ■最大トルク: 97N・m (9.9 kgf・m)/6,000rpm ■全長×全幅×全高:2,390×960×1,505mm ■軸間距離:1,595mm ■最低地上高:190mm ■シート高: 880mm ■装備重量:252kg ■燃料タンク容量:20L ■変速機: 6段リターン ■タイヤサイズ前・後: 90/90-21M/C 54Hチューブタイプ ・150/70R17M/C 69H ■ブレーキ形式(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■車体色:チャンピオンイエローNo.2×グラススパークルブラック、パールテックホワイト×グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み): 1,793,000円
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