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バイク承前啓後





第48回 浅間二輪車記念館のステップスルーモデル= スーパーカブを追い抜け=

 
 2024年6月、初夏の陽気に誘われて浅間二輪車記念館をスーパーカブ110で訪れました。
 2021年4月、記念館が浅間牧場の入り口付近に移転してから初めての訪問になりました。
 記念館は、以前と比べると展示スペースは狭くなっていますが、長い時を生きてきた歴史的な工業製品を前に、タイムスリップしたかのような時間を楽しむことができました。

 私にとってのトピックは、1960年代のステップスルータイプのモデル群です。スーパーカブを追い抜けとばかり造られた意欲的なモデルが並んでいます

浅閒記念館
スーパーカブC100(輸出車)を含め、7台のステップスルーモデルを一堂に展示。ヤマハのMF1以外は、全て17インチのタイヤを装着していました。

 1958年8月、ホンダの革新的なバイク「スーパーカブC100」が発売されました。
 スーパーカブは、燃費が良く耐久性に優れた4ストロークエンジンや、扱いやすい自動遠心クラッチ、女性にも安心して乗っていただける「またぎ空間」をたっぷりとったスタイリングなどで大ヒットしました。ライバルメーカーとしては、ホンダの独走を許すはずも無く、各社が意欲的な製品を開発して世の中に投入していきました。では、古い年代順に紹介させていただきます。

※年式、車名、諸元値などは、展示車の案内ボードを参考にしています。

■1960年 ヤマハ MF1 2ストローク単気筒 49cc
ヤマハが初めて製作したモペッド。流麗なスタイリングは、「デザインのヤマハ」と言われただけに時代に先駆けた意欲作です。前後サスペンションには特殊なゴムを用いた構造としています。カラーリングも鮮やかで、女性ユーザーを意識していたと思われます。私の想像では、スーパーカブとは一線を画した独自路線を目指したのだと思います。展示車を見る限り、タイヤサイズは16インチでした。スーパーカブが17インチを採用していましたので、タイヤサイズにも違いを出しています。モノコックフレーム一体型の燃料タンクなど、技術の塊のようなモペッドです。

※1960年発行のヤマハニュースには、前後のタイヤサイズが20×2.50 4Pと記載されています。取り回し重視のモペッドに20インチのタイヤを採用するのは考えられません。記念館の他社と比較しても、同等かむしろ小さい感じです。20インチは間違いなのではと思いますが、次に訪れる機会がありましたら入念に調べたいと思います。

MF1
MF1
ヤマハ MF1 モダンなヘッドライトケースと一体化されたようなレッグシールドで、独特なフロントビューとしています。

■1962年 山口自転車工場 シンクロペット SP50 2ストローク単気筒 50cc
老舗の自転車メーカーが手がけた50ccのモペッド。スーパーカブ誕生の4年後に発売。前後17インチのタイヤやシート下の燃料タンクなど、基本構成はスーパーカブの特徴を抑えています。自転車の販売網を活用して販路を確保していたと思われますが、二輪メーカーにとって群雄割拠の時代では、優位性を発揮できなかったようです。エンジンのクランクケースカバーには、SYNCHROPETのロゴが誇らしげにあしらわれています。エンジンは、東京瓦斯電気工業~富士自動車工業(通称ガスデン)と紹介されています。

ヤマグチ シンクロペット SP50
ヤマグチ シンクロペット SP50
ヤマグチ シンクロペット SP50
今となっては貴重な販売店の看板と一緒に展示されています。

■1963年 ホンダ スーパーカブC100(輸出仕様) 4ストローク単気筒 49cc
記念館のステップスルーコーナーで唯一の4ストロークエンジンを搭載。鮮やかなカラーリングから、アメリカ向けに輸出されたCA100(HONDA 50の名称もあり)と同系と思われます。またぎの空間を大きくとり、足元を守る大型のレッグシールドやシート下に燃料タンクを配置したパッケージングは、他社の製品開発に多大な影響を与えました。60年以上が経過しても現代に通用する偉大なモデルと言えましょう。

ホンダ スーパーカブC100(輸出仕様)
ホンダ スーパーカブC100(輸出仕様)
今も古さを感じさせないスタイリングとカラーリングは、とても魅力的です。

■1963年 スズキ セルペット M30 2ストローク単気筒 49cc
前年までのセルペット(ME)は、燃料タンクをシートの前側に配置していました。このM30からはスーパーカブと同様にシートの下に配置し、またぎやすくなっています。しかしながら、エンジンは横型ではなく前傾型ですから、またぎの空間は広くできないことがウィークポイントかもしれません。

スズキ セルペット M30
スズキ セルペット M30
スズキ セルペット M30
フロントフォーク部に配置されたウインカーは、現代のカスタマイズの参考にもなります。

■1963年 ブリヂストンサイクル工業 チャンピオンホーマー55 2ストローク単気筒 53cc
50ccのチャンピオンホーマーをベースに排気量をアップした原付2種仕様。17インチタイヤや、フロントのボトムリンクサスペンション、シート下の燃料タンクにまたぎ空間を大きくとったバックボーンタイプのフレームなど、スーパーカブを手本にしたものと思われます。スーパーカブのために造られた17インチサイズのタイヤ(井上ゴム工業製)とホイール(大同工業製)は、スーパーカブの大ヒットによって他のタイヤ、リムメーカーも製造に着手し、比較的容易に入手できたものと思われます。17インチタイヤは、原付のモペッドタイプでは定番になりました。

スズキ セルペット M30
スズキ セルペット M30
ブリヂストン チャンピオンホーマー55
展示車のタイヤはブリヂストン製でした。

■1965年 ヤマハ メイトU5  2ストローク単気筒 49cc
1960年に発売したMF1は意欲作でしたが、販売面では苦戦しました。この事から、1962年にはカブタイプのMF2を開発して投入しました。このメイトU5はMF2をベースに、2ストロークエンジンの革新的な技術である分離給油の「オートルーブ」を採用しました。これまでの混合ガソリンを給油する必要が無くなり、利便性の向上やエンジンの性能維持に大きく貢献しました。

ヤマハ メイトU5
ヤマハ メイトU5
ヤマハ メイトU5
展示車は、フロントフェンダーに原付2種のマークがあるので、排気量をアップしたと思われます。

■1970年 スズキ スーパーフリー70 2ストローク単気筒 69cc
スズキのデザインの特徴でもある、馬蹄形と呼ばれるヘッドライトを採用。ウインカーをレッグシールドに配置するなど、独自のデザインをとりいれています。潤滑方式は、スズキ独自の分離給油方式のCCIを採用し、使い勝手が格段に向上しています。

スズキ スーパーフリー70
スズキ スーパーフリー70
スズキ スーパーフリー70
働くバイクというオーラを出しているように思えます。

 私が勝手にステップスルーコーナーと呼んでいますが、これは浅間二輪車記念館の正式な呼び名ではありません。どうぞご了承ください。

 1960年代は、ホンダのスーパーカブも他社の大攻勢に合い、開発陣や営業スタッフは大変な苦労をされたと思います。各社は、毎年のように新しいモデルを投入して優位な状況をつくり出す必要があったと思います。
浅間二輪車記念館では、当時の激しい競争を物語る歴代の製品が見学者を待っているのです。
 私も、新しい発見を探しに再訪したいと思います。

ライトクルーザーSL
記念館では、浅間火山レースを戦った貴重なレーシングマシンを間近に見ることができます。このマシンは、昌和製作所の工場レーサー ライトクルーザーSLで、2ストローク単気筒125ccエンジンを搭載。1959年の第3回浅間火山レースに川合稔選手とともに出場しました。
浅間二輪車記念館
浅間二輪車記念館
〒377-1412 群馬県吾妻郡長野原町北軽井沢2032-23
営業時間:10:00~16:00
入場料:500円(中学生以下は無料)
定休日:火曜日、水曜日

お出かけ前には、公式サイトで詳細を確認してください
http://www.asamaen.tsumagoi.gunma.jp/kinen.html


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2024/06/25掲載