カワサキ2025年モデルのイッキ乗り試乗会で走らせたZ900 SEはSUGOMIデザインで、Zらしさをさらに整え、走らせるとどこまでも磨かれた走行感に満たされるモノになった。オーリンズサスペンションやブレンボキャリパーというキラキラパーツを見事使いこなすのはもちろん、電子制御スロットルのチューニングも見事。バイクの味わいを最高レベルにまとめた1台だったのである。
- ■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信
- ■協力:カワサキモータースジャパン
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI https://store.56-design.com/collections/spidi、Xpd https://store.56-design.com/collections/xpd
バイクの魅力として欠かせないのがエンジンだ。今や直列4気筒エンジンを搭載するモデルを一番多く国内市場に投入するカワサキにとってZ900は250、400、650からのステップアップ組はもちろん、大排気量バイクで経験を積んだライダーにとっても軽くて乗りやすくしかも期待どおり(あるいは期待以上)に走ってくれる一台だ。ミドルクラスと片付けるには申し分け無いほど力こぶのはいった作り込みに感心したのだ。
948㏄の水冷4バルブDOHC直列4気筒エンジンは91kWと98Nmを生み出すほど良いチューニング。剛力過ぎず物足りなさのないスペックを持つ。Z900 SEではメタリック調のライムグリーンに彩られたトレリスフレームに搭載される。そこにクラウチングフォルムの外装を合わせてまとめたスタイルが特徴だ。
新型では6軸IMUを搭載しそこでセンシングしたバイクの走行状態を旋回時のブレーキングやエンジン出力の調整にも活用。いわば電子制御の最新化が図られた。副産物として5インチのカラーTFTモニター内に、走行時の左右へのリーンアングルの表示も行われている。もちろんこうした機能を活かすのに同時装備がマストだった電子制御スロットル(バイワイアータイプの)も装備。合わせてクルーズコントロールも搭載されたほか、スポーツ/ロード/レインというライディングモードも搭載された。
またシフトアップ、ダウンの両方を可能にしたクイックシフターのシフトタッチにも拘ったチューニングをほどこしたと開発者達は胸を張る。例えばレザースーツやレーシングブーツを着用したサーキットユースでは、スロットル開度も大きく、タイムアップを昰とした調整が行われるのだが、ストリートバイクであるZでは低開度のスロットル時や市街地速度に合わせたチューニングにおいて、左のつま先がペダルをかき上げる、押し下げる時の力加減やつま先に感じるコクンというシフトの満足感のようなもののようだ。
またBluetooth接続でスマホと連携し、新たに音声コマンドやターンバイターンによるナビゲーションをモニター内に表示するRIDLOGY THE APPを新採用している。
タンク周りのマッシブさと、劇画の世界に描かれたビーストを思わせるZのスタイルの迫力とは裏腹に跨がるとどこかコンパクトでまるで自分が400クラスのバイクに乗ったのか?と錯覚する。5インチのTFTモニターが表示されると回転計を中心に四角い盤面の4隅にライディングに必須となる情報が表示される。
リアにオーリンズS46ガスショックを装備し、フロントのブレーキキャリパー、ローターにブレンボ製のものを採用するこのZ900 SE。価格は166万1000円と、ベースとなるZ900が148万5000円と比べると17万6000円のアップとなるが、USBタイプCソケットの給電ポートやETC2.0車載器を標準装備することを含めると価格差そのものにはナットク。
実際に走り出すと前後のサスペンション設定がしっかり煮つめられた印象で市街地の少々あれたアスファルトでも乗り心地は良好で快適。それにも増してスロットル操作に呼応するエンジンの扱いやすさがものすごく印象的。1速、2速というギア比が低く駆動力を強く引き出せる時でもドンツキひとつ出さずにスムーズな走りを楽しませてくれる。
事前に説明があったクイックシフターの拘ったタッチは、時につま先にシフトした触感をしっかり伝えるタイプで、アクセル開度によってはコクンだったりゴリっと入る感触が残ったりする。今回は一般道主体でスロットル開度があまりないからそんな感触だったのかもしれない。しかしシフトの正確性に不満などなくビッグバイクといえども排気量そのものが1000㏄以下なのでシフトをしてキビキビ走るのが楽しいタイプ、その点で400カテゴリーからステップアップしてもリズムを作りやすいかもしれない。
限られた時間でワインディングに足を伸ばすと、そこでは4気筒らしいスムーズなパワーユニットがもたらすシームレスな回転上昇感、それに比例して力が増す解りやすい特性、市街地同様想像しやすいハンドリングキャラの恩恵で流すのは楽しい。タイヤのグリップ感も良き足周りによって充実のフィーリングとしてライダーに届く。とにかくどこかにピークを持たせることなく全体をまとめた走りはZ900 SEの魅力だと思う。
また、ライディングモードもスポーツ、ロード、レインを切り替えるとその違いは明確にライダーにつたわるが、実走でしっかり煮つめた様子が手に取るように伝わるタイプで、過度な演出は無し。自信を持って走れるようしたてられているように感じた。とにかくリソースをしっかりかけてるな、という乗り味なのだ。
自分では見るチャンスが少ないが、リアシート下に広がる導光タイプになったLEDテールランプといい、新しいZ900 SEは短時間でもその魅力がクッキリ伝わる輪郭造りに腐心した開発者達の思いが込められた作品だったのだ。
(試乗・文:松井 勉、撮影:渕本智信)
■エンジン種類:水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:948cm3 ■ボア×ストローク:73.4×56.0mm ■圧縮比:11.8 ■最高出力:91kw(124PS)/9,500rpm ■最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/7,700rpm ■全長×全幅×全高:2,065×830×1,110mm ■軸間距離:1,450mm ■最低地上高:145mm ■シート高:810mm ■車両重量:215kg ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70R17M/C・180/55R17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式(倒立)・スイングアーム式 ■フレーム:ダイヤモンド ■車体色:メタリックグラファイトグレー × エボニー ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,650,000円
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