Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

欧州メーカーや日本メーカーが長らくやってきた「アドベンチャー」カテゴリーだが、アメリカは長距離を走るならクルーザーというスタンスだった。しかしいよいよハーレーからも、いわゆる一定のオフロード性能も確保する、足の長い「アドベンチャーモデル」が登場。このカテゴリーへの初挑戦なのに素晴らしい完成度なのだ!
■試乗・文:ノア セレン ■写真:Harley-Davidson Japan ■協力:Harley-Davidson Japan https://www.harley-davidson.com/jp/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/

並ぶだけではなく先を行く

 アドベンチャーカテゴリーは本当に大人気である。巨大なリッターオーバーのものからより現実的なナナハンクラスのもの、さらにもう少し小さいモノまで、各メーカーから充実のラインナップがあり世界的にも人気は継続している様子。快適に長距離を走れ、それでいて快適なだけではなく速くてかつ路面を問わずスポーツマインドもあり、そしてラゲッジ含めて快適装備のアクセサリーパーツも豊富で自分のスタイルに合わせて作り込めるのだから、成熟するライダー人口を考えると当然の人気だろう。

 そこに後れを取っていたハーレーだが、並みいるライバルに引けをとらないパワフルさを持つ水冷レボリューションマックスエンジンを開発したことでこのカテゴリーへの参入も叶った。しかしいくらなんでも遅いだろう。他社は一日の長というか、何年ものアドバンテージがあり、今からでは追いつくのは困難にも思える。
 ところが、パンアメリカは凄かった。エンジンはとても速くかつトルクフルでアドベンチャーモデルとして十分の性能と魅力を発揮。足周りもこれまでのクルーザーメインのハーレーがどこにこんな技術を隠し持っていたのだろうと感心するほど良いバランス。そしてなんと、ライダーが跨って発進するまでは車高を自動で下げておいてくれる「アダプティブライドハイト」機能まで、他社に先駆けて搭載してきた。
 初めて出したアドベンチャーモデルが、完熟の他社モデルに引けをとらないどころか先を行く技術まで提案してくれている。ハーレーの底力を見た。

Harley-Davidson PanAmerica125SPL

「巨大」ではない

 こういった1Lを超える排気量を持つアドベンチャーモデルは、どのメーカーのものもだいたいは「巨大」である。とてつもなく大きなバイクであり、高性能で乗りやすいことは多いものの、そもそもガレージから引っ張り出してくるだけで、跨るだけでハードルが高いと感じる人も多いはずだ。
 パンアメリカは4輪アメ車を連想させてくれるような独特なボリュームあるフロントデザイン含めて、見た目はやはりけっこう大きいのだが、ところがまたがってみると意外とコンパクトな印象がある。走り出すまでは車高が低くなっているため全体的に低重心であることも安心感につながるが、それだけでなくタンクがけっこうスリムで長く、どこか絶版車的なスマートさがある。またがった時に目に入るパーツも、大きなスクリーンやカラーの液晶メーター、やたらとスイッチが多いスイッチボックスなどアドベンチャーらしい構成ではあるものの、面構成がシンプルでゴテゴテ感がとても少ない。
 こんなスリムさやシンプルさゆえ、威圧感のようなものが少なく感じ、走り出して車高が正常の位置までアップしてからも「巨大」と感じることはなかった。イメージとしては他社のナナハンクラスといった感じで、いい意味で気軽さを感じることができるだろう。

Harley-Davidson PanAmerica125SPL

速く感じないため注意

 スポーツスターSにも搭載されるレボリューションマックス1250エンジンだが、同じ水冷DOHCエンジンでも性格がかなり違う。スポーツスターSでは121馬力、このパンアメリカでは150馬力とエンジンそのものの作り込み/セッティングも違い、さらに搭載される車体の性格でもかなり違いを感じるようになっている。
 スポーツスターSでは、コンパクトで路面に近い車体とストロークの少ないサスペンションで、より直感的に「速い!」と感じさせてくれていた。しかしアドレナリンが駆け巡るような強烈な加速を持っているものの、速度計を見るとその感覚ほど実速度は出ていないということがあった。逆にパンアメリカでは、そんなに飛ばしているつもりもないのに速度計を見ると「おおっと!」という速度が出ていることがあったのだ。これは注意が必要だ。
 同じエンジンなのに不思議にも思えるが、電子制御サスに支えられた快適な乗り心地や、高い位置に設定すればかなり防風効果の高いスクリーンの設定、または大柄ながらスリムな車体のライダーへのフィット感など複合的な要因でこのバランスが成り立っているのだろう。アドベンチャーモデルとしては理想的な特性に思えるし、ここでもまた、「ハーレー初のアドベンチャーモデルでこの完成度か!」と感心してしまった。

Harley-Davidson PanAmerica125SPL

押し付けてこない電子制御

 こういった大排気量アドベンチャーの一つのアピールは充実の電子制御だろう。確かにパンアメリカも通常のライディングモードに加えてオフロードモードを追加したり、電子制御サスを備えたりとライバル同様の構成はしている。しかしそれが上手に裏方に回っている感覚がまた好印象だった。
 今、何モードに入っているか、というメーター上の表示がとても小さくて押しつけがましくないのだ。走り出す前に「ええっと、どんな設定にしようか」と心配するような必要はなく、とりあえず走り出しちゃえ! というベーシックさが、なぜかある。

 事実、各モードの作り込みも上手で変な演出も感じない。スポーツモードではビンビン過ぎて疲れちゃって、レインモードではかったるい……なんて言うことはなく、どのモードでもちゃんとパワフルでちゃんと扱いやすかったのが好印象。オフロードモードを試す機会はなかったが、舗装路を走り回るには一番パワフルなSモードで何も問題はなかった。アクセル開け始めもジワリとやりやすく、そこから先も飛び出す感じはない。しっかりとスロットルをひねれば素っ頓狂な加速も見せる。そのライダーの意志とバイクの反応の間に妙な演出はなく、思い通りなのだ。「電子制御満載ですよ! どうぞご活用ください!」ではなく、あくまでライダー主体で電子制御は裏方サポート、という感覚がとても好きだった。

シェア拡大必至

 アドベンチャーカテゴリーに新規参入したパンアメリカ。既に様々な提案や技術があふれ飽和状態かと思っていたこのカテゴリーに新風を吹き込んでくれたと感じる。確かにアドベンチャーであるのに、同時に確かにハーレーでもある。その佇まいも、乗り味も、アドベンチャーというカテゴリーへのアプローチ姿勢も、全てに「ハーレーらしさ」が宿っていると感じられる。
 確かにハーレーとしては新しいチャレンジであり、まだ出たばかりということもあり今後アップデートやリファインもしていくことだろう。しかしハーレーはディーラー網も充実しており、旅バイクとしては安心のサポート体制も期待できる。アドベンチャーカテゴリーが飽和状態に感じている人ほどパンアメリカを試して欲しい。独自の魅力にあふれており、これまでハーレーに縁の無かった人でも惹きつけられるはずだ。
(試乗・文:ノア セレン、写真:Harley-Davidson Japan)

Harley-Davidson PanAmerica125SPL

Harley-Davidson PanAmerica125SPL
ハーレー初の本格アドベンチャーモデル「パンアメリカ」。スタンダード版はキャストホイールで電子制御サスを搭載しないが、試乗できたのはスポークホイールで電子制御サスを備える「スペシャル」の方だ。カラーはこのイエローの他、グレーとブラックの3色展開。

Harley-Davidson PanAmerica125SPL
19インチのスポークホイールのフロント周りは倒立フォークにブレンボのラジアルマウントキャリパーとアドベンチャーのセオリー通り。寒かった試乗日当日はタイヤの空気圧が低かったのかステダンのオイルが硬かったのか最初はハンドリングに重さがあったものの、温まってきたら作動性は極めて良好だった。
Harley-Davidson PanAmerica125SPL
リアにはリンク式モノショックと17インチホイール。長いスイングアームがアドベンチャーらしく、また駆動もオフロード走行を考慮したチェーンとなっていた。センタースタンドも標準装備。

Harley-Davidson PanAmerica125SPL
トルクフルで、高回転域では素晴らしいパワー。速度を感じさせない快適性もある。ただ走行中に右足ふくらはぎあたりにエキパイの熱を感じることはあった。
Harley-Davidson PanAmerica125SPL
とても長いサイレンサーは良く消音されていて、かつ排気口がライダーから遠いおかげか音量が気になることはなかった。排気音が静かだからこそ長距離では快適だろうし、またエンジンのキャラクターをより感じやすいとも思う。

Harley-Davidson PanAmerica125SPL
非常に快適なシートは特筆したいところ。幅も厚みもあり、これならば何時間でも乗れそうな快適性があった。各社日本仕様ではローシートを設定することもあるが、ローシートはどうしてもクッションが犠牲になる。しかしアダプティブライドハイトを備えるパンアメリカにその必要はないのだ。なおリアシートも厚み十分。
Harley-Davidson PanAmerica125SPL
ルックス上とても個性的なフロントマスク。横長のヘッドライトと、さらにその上にはコーナリングライトも備える。グイッと左右にボリュームのあるその姿はいかにも「アメ車」。それでいてタンクはスリムで接しやすい絶妙なさじ加減を持っているのだ。
Harley-Davidson PanAmerica125SPL
テールもLEDのモダンなテールランプとしながらも、ウインカーは丸形状でクラシカルな雰囲気もしっかりと追求。なおリアシートとキャリアの間に段差があるのは、ボックスをつけるためのベースプレートを装着した時にシートと平らになる設定のため。

Harley-Davidson PanAmerica125SPL
大きなハンドルと複雑なスイッチ類などはアドベンチャーらしい構成ながら、メーター左側のレバーでワンタッチでスクリーン上下ができるシンプルなシステムやスリムなタンク、見やすいメーター等、どこか親しみやすい感覚がある。
Harley-Davidson PanAmerica125SPL
カラーメーターは、各種文字は小さ目で老眼世代に全てを読み取るのは難しいかもしれないが、しかし速度やタコ、モードや時計などは一目でわかりやすいと感じた。様々な設定や表示も「シンプルでカッコいい」というハーレーらしいものだった。

Harley-Davidson PanAmerica125SPL
Harley-Davidson PanAmerica125SPL
●Harley-Davidson Pan America 1250 Special 主要諸元
■エンジン種類:水冷V型2気筒DOHC 4バルブ Revolution Max1250 ■総排気量:1,252cm3 ■ボア×ストローク:105.0×72.3mm ■圧縮比:13.0 ■最高出力:112kw(150PS)/8,750rpm ■最大トルク:128N・m/6,750 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,270 × – × -mm ■軸間距離:1,585mm ■シート高:低830mm 高875mm ■車両重量:258㎏ ■燃料タンク容量:21.2L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ(前・後):120/70R19 60V・170/60R17 72V ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS)■メーカー希望小売価格(消費税込み):3,198,800円~


[『2021年 Pan America 1250の試乗インプレッション記事』へ]

[『2022年 Pan America 1250 Specialの試乗インプレッション記事』へ]

[『STREET BOBの試乗インプレッション記事』へ]

[『Sporster Sの試乗インプレッション記事』へ]

[『Breakoutの試乗インプレッション記事』へ]

[Harley-DavidsonのWEBサイトへ]

2023/03/29掲載