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試乗・解説

ハーレー・ダビッドソン初のアドベンチャーはスゴイ奴だ Harley-Davidson Pan America 125
パンアメリカ1250スペシャルに試乗。新しいカテゴリーに参入してくる意気込みを感じさせる、エンジンからサスペンションなど全てが最新の技術を使った手の混んだものになっていて、個性的なスタイルだけで終わらない仕様である。もちろん走りも。
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:渕本智信 ■協力:Harley-Davidson Japanhttps://www.harley-davidson.com/jp/ja/index.html■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html




ハーレーらしさを主張するスタイリング

 アドベンチャーモデルに必要とされる一般的な要素は、走る場所を選ばないマルチパーパス走行性能と長時間、長距離の移動をいとわない快適性と操作性の2つ。それをベースにして各メーカーは排気量の違い、販売価格、考えの違いで、取捨選択をして個性のあるモデルを送り出している。そこにハーレーも加わったわけだが、魅力的なクルーザーメーカーとして確固たるブランド力があるハーレー・ダビッドソンが、この分野へ新たに参入してくることを発売情報を知った当初はいくらアドベンチャーツアラーカテゴリーが流行しているとはいえ不思議に感じた。
 

 
 パンアメリカ1250スペシャルはフロントフェンダーが高い位置で前に飛び出た、いわゆるクチバシのない造形。前に向かって徐々に傾斜していくスラントノーズではなく、横長になったLEDヘッドランプのフェイスがネガティブ面、逆スラントノーズになっているのがデザイン的なおもしろさ。そのフロントフェアリングから内側のダッシュボードに続いて、真ん中に樹脂製のコンソール風トリムが載った燃料タンク部分のカタチは、同社のツーリングファミリーにも通じる雰囲気で遠くにあってもパンアメリカとわかるスタイリング。ここまで個性的ながらまとまりのある造形は、他とは違うものに仕上がっている。

 走り出し、片手だけで上下させられるウンドスクリーンを最大に上げてスピードを出すと、それと、スクリーンの両サイドにあるついたてみたいな外装もあって、向かってくる走行風をいなしてくれているのを体感できた。風が押す力に抗うためにハンドルを持つ手や体に力を込め続けなくていい。暗いところでヘッドランプは広範囲を照らしてくれて暗闇で視界が広く保つ。リーンアングルによってコーナーに向けての照射を変化させるアダプティブランプも効いている。
 

 

電子制御のサスペンションを採用

 このスペシャルの特徴は、電子制御によるセミアクティブの前後サスペンションが装備されていること。車両に加わる荷重によって制御し変化させるもの。エンジンを始動しない状態でまたがった段階では、身長170cmにはシートが高めだと思えるものだが、そこからイグニッションスイッチをオンにするとセミアクティブサスペンションが生き物のように動いてグッと沈み込み足つきが良くなる。SHOWA(日立Astemo)と共同開発の「アダプティブライドハイト」によりプリロードが自動で抜かれて静止、停止時にはシート高を低くしてくれるからありがたい。ローポジションは830mm。

 そのサスペンションは、「スポーツ」「ロード」「レイン」「オフロード」「オフロードプラス」といったライドモードによってストローク感や減衰が変化。「スポーツ」ではより減速でフロントフォークが奥まで入り込まず、リアクションが素早く軽快な動きで旋回。逆に「オフロード」ではスタンディング姿勢でステップ荷重をしながら車体を上下にゆすると、柔らかく深く入り込む。プログレッシブに減衰が効いて別のバイクになったくらいの違いが出た。

 車両重量258kgで本気でダートを走らせようとはしていないだろうと初めて乗る前は勝手に決めつけていたが、すぐに反省をした。試しにちょっとしたダートに出てみると、凹凸に対する追従や手応えは本気の動きだ。名ばかりのマルチパーパスではないということ。このカテゴリーの定番となっている19/17インチ外径のリムに、万能タイプのミシュラン製のスコーチャーアドベンチャーを履いていたが、さらにダートよりのタイヤに履き替えてもっとオフロードへ行きたくなる気持ちさえ生まれた。
 

 

伝統とは違う構造の新設計エンジン

 新開発した水冷DOHC4バルブのVツインエンジンは可変バルブタイミンク機構を採用しており、スムーズでアクセルを回して高回転域を積極的に使っていくと加速の伸びが気持ちいい。とはいえ個人的には豊かなトルクにまかせて5千回転以下を保って進む方が好きだ。力強く粘りのあるトルクで穏やかに走ると実に楽ちん。そうやって走ると、水冷だし、Vバンクはハーレー伝統の45°ではなく60°でまったく違うものなのに、ビッグツインのテイストがそこはかとなくある。さすがクルージング専門でやってきたメーカー、“馬は馬方”ということだ。ライディングモードによっての出力変化もわかりやすいが、たとえモードが「スポーツ」でも扱いにくいところはない。6軸IMUを採用した他、最新の電子制御技術を取り入れた。

 細部にいたっていろいろなアイデアを投入し実現して、いろんなところが他とは違うけれどアドベンチャーとしての完成度は高い。同じ山の頂上をめざしながら、このパンアメリカ1250スペシャルは、異なるアプローチから違う道を選んでその高みに近づいたよう。ハーレー・ダビッドソンのフィロソフィーが下地にあり、そこから新しいことをふんだんに積み重ねていったような革新的なモデル。説得力があり素直に感心してしまった。
(試乗・文:濱矢文夫)
 

 

ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

水冷4ストロークDOHC4バルブ60°VツインのRevolution Max 1250エンジン(1252cc)。ボアが105 mm、ストロークが72.3 mmのショートストローク。圧縮比は13:1と高い。位相のクランクでヘッドには可変バルブタイミング機構を採用。最高出=152ps/8750rpm、最大トルク=13.06kg-m/6750rpm。クランクケース内とフロント側のヘッド部分にバランサーが入って振動を低減。クラッチはアシストスリッパータイプでクラッチレバー操作は軽い。変速は6段。リアブレーキペダルは2つのポジションを工具いらずに切り替えられる。エンジンをストレスメンバーに使い、フロントサスペンションを支えるスチールフレーム、スイングアームピボット部分のミッドフレーム、それに接続するトレリスタイプのスチールリアフレームの3つに別れている。

 

インナーチューブ径47mmのフロントフォークは電子調整式セミアクティブダンピングコントロール付。ラジアルマウントされたダブルのフロントブレーキキャリパーはブレンボ製のモノブロック対向4ピストン。ブレーキローターをハブではなく最近多いスポーク部分にマウントしている。19インチのフロントホイールは、このキャストタイプだけでなくチューブレス構造のワイヤースポークタイプもある。樹脂製フロントフェンダーは小ぶり。
リアサスペンションはボトムリンクのモノショック。ショックユニットはフロントと同じくSHOWA(日立Astemo)製自動電子。プリロードコントロールとセミアクティブのコンプレッション&リバウンドダンピング付。長いスイングアームはアルミでできている。リアホイールは17インチ外径。タイヤ空気圧モニタリングシステム(TPMS)を装備。

 

6.8インチタッチスクリーンディスプレイを採用。スマートフォンとBluetoothでペアリングすれば、ワイヤレスヘッドセットを使って電話をかけたり音楽などを再生可能。さらにハーレー専用アプリをスマートフォンにダウンロードしてアカウントを作成し、車体番号を入力すると、行きつけのディーラーの登録だけでなく、出先でも近くにあるディーラーがわかる。さらに地図も表示でき、アプリから行き先を入れてナビゲーションとしても使える。メーター左上にスクリーンの上下を手動でやるためのノブがある。

 
 

ブレーキマスターシリンダーはブレンボ製。ハンドルグリップにもHARLEY-DAVIDSONの文字が入る。左右のレバー調節機能あり。樹脂製のクローズドタイプハンドガードが装着されている。右側スイッチ:スマートキーを採用しているのでスイッチ上面にある丸いスイッチ(ハザードの右隣)を回してイグニッションオン。この前にはモード切り替えボタン。接続したスマートフォンなどをコントロールするスイッチがライダー向きの面に。左側スイッチの上面にはクルーズコントロールのスイッチ各種やヘッドライト切り替え。ライダー向き側には各種の設定を選択、変更するスイッチ。その下側にウインカーとホーン。

 

コンソール風トリムがついているところがハーレーらしいところ。燃料タンク容量は21.2L。ハンドルはテーパーバー。ラジエターのサイドに転倒したときに破損から守るブラッシュガードが付いている。この写真では見えないがハンドルクランプと燃料タンクの間にステアリングダンパーが装備されている。
LEDヘッドランプ。下にはガードも装備。リーンアングルによってコーナーを自動的に照らすアダプティブランプもあり、8度、15度、23度の順に点灯する。トリプルクランプはアルミ製で剛性が高いもの。他のアドベンチャーとは趣が異なるスタイリング。

 

●Harley-Davidson Pan America 1250 [Pan America 1250 Special] 主要諸元
■エンジン種類:水冷V型2気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:1,252cm3 ■ボア×ストローク:105.0×72.0mm ■圧縮比:13.0 ■最高出力:112kw(152PS)/8,750rpm ■最大トルク:128N・m/6,750 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,265 × – × -mm ■ホイールベース:1,580mm ■シート高:-mm ■車両重量:245kg[258㎏] ■燃料タンク容量:21.2L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ(前・後):120/70R19 60V・170/60R17 72V ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■車体色:ビビッドブラック、リバーロックグレー [ビビッドブラック、ガーントレットグレーメタリック、デッドウッドグリーン、バハオレンジ×ストーンウオッシュホワイトパール] ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,310,000~2,339,700円 [2,680,000~2,7350,000円] ※[ ] はPan America Special

 



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2022/08/26掲載