ハーレーらしさを主張するスタイリング
アドベンチャーモデルに必要とされる一般的な要素は、走る場所を選ばないマルチパーパス走行性能と長時間、長距離の移動をいとわない快適性と操作性の2つ。それをベースにして各メーカーは排気量の違い、販売価格、考えの違いで、取捨選択をして個性のあるモデルを送り出している。そこにハーレーも加わったわけだが、魅力的なクルーザーメーカーとして確固たるブランド力があるハーレー・ダビッドソンが、この分野へ新たに参入してくることを発売情報を知った当初はいくらアドベンチャーツアラーカテゴリーが流行しているとはいえ不思議に感じた。
パンアメリカ1250スペシャルはフロントフェンダーが高い位置で前に飛び出た、いわゆるクチバシのない造形。前に向かって徐々に傾斜していくスラントノーズではなく、横長になったLEDヘッドランプのフェイスがネガティブ面、逆スラントノーズになっているのがデザイン的なおもしろさ。そのフロントフェアリングから内側のダッシュボードに続いて、真ん中に樹脂製のコンソール風トリムが載った燃料タンク部分のカタチは、同社のツーリングファミリーにも通じる雰囲気で遠くにあってもパンアメリカとわかるスタイリング。ここまで個性的ながらまとまりのある造形は、他とは違うものに仕上がっている。
走り出し、片手だけで上下させられるウンドスクリーンを最大に上げてスピードを出すと、それと、スクリーンの両サイドにあるついたてみたいな外装もあって、向かってくる走行風をいなしてくれているのを体感できた。風が押す力に抗うためにハンドルを持つ手や体に力を込め続けなくていい。暗いところでヘッドランプは広範囲を照らしてくれて暗闇で視界が広く保つ。リーンアングルによってコーナーに向けての照射を変化させるアダプティブランプも効いている。
電子制御のサスペンションを採用
このスペシャルの特徴は、電子制御によるセミアクティブの前後サスペンションが装備されていること。車両に加わる荷重によって制御し変化させるもの。エンジンを始動しない状態でまたがった段階では、身長170cmにはシートが高めだと思えるものだが、そこからイグニッションスイッチをオンにするとセミアクティブサスペンションが生き物のように動いてグッと沈み込み足つきが良くなる。SHOWA(日立Astemo)と共同開発の「アダプティブライドハイト」によりプリロードが自動で抜かれて静止、停止時にはシート高を低くしてくれるからありがたい。ローポジションは830mm。
そのサスペンションは、「スポーツ」「ロード」「レイン」「オフロード」「オフロードプラス」といったライドモードによってストローク感や減衰が変化。「スポーツ」ではより減速でフロントフォークが奥まで入り込まず、リアクションが素早く軽快な動きで旋回。逆に「オフロード」ではスタンディング姿勢でステップ荷重をしながら車体を上下にゆすると、柔らかく深く入り込む。プログレッシブに減衰が効いて別のバイクになったくらいの違いが出た。
車両重量258kgで本気でダートを走らせようとはしていないだろうと初めて乗る前は勝手に決めつけていたが、すぐに反省をした。試しにちょっとしたダートに出てみると、凹凸に対する追従や手応えは本気の動きだ。名ばかりのマルチパーパスではないということ。このカテゴリーの定番となっている19/17インチ外径のリムに、万能タイプのミシュラン製のスコーチャーアドベンチャーを履いていたが、さらにダートよりのタイヤに履き替えてもっとオフロードへ行きたくなる気持ちさえ生まれた。
伝統とは違う構造の新設計エンジン
新開発した水冷DOHC4バルブのVツインエンジンは可変バルブタイミンク機構を採用しており、スムーズでアクセルを回して高回転域を積極的に使っていくと加速の伸びが気持ちいい。とはいえ個人的には豊かなトルクにまかせて5千回転以下を保って進む方が好きだ。力強く粘りのあるトルクで穏やかに走ると実に楽ちん。そうやって走ると、水冷だし、Vバンクはハーレー伝統の45°ではなく60°でまったく違うものなのに、ビッグツインのテイストがそこはかとなくある。さすがクルージング専門でやってきたメーカー、“馬は馬方”ということだ。ライディングモードによっての出力変化もわかりやすいが、たとえモードが「スポーツ」でも扱いにくいところはない。6軸IMUを採用した他、最新の電子制御技術を取り入れた。
細部にいたっていろいろなアイデアを投入し実現して、いろんなところが他とは違うけれどアドベンチャーとしての完成度は高い。同じ山の頂上をめざしながら、このパンアメリカ1250スペシャルは、異なるアプローチから違う道を選んでその高みに近づいたよう。ハーレー・ダビッドソンのフィロソフィーが下地にあり、そこから新しいことをふんだんに積み重ねていったような革新的なモデル。説得力があり素直に感心してしまった。
(試乗・文:濱矢文夫)
■エンジン種類:水冷V型2気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:1,252cm3 ■ボア×ストローク:105.0×72.0mm ■圧縮比:13.0 ■最高出力:112kw(152PS)/8,750rpm ■最大トルク:128N・m/6,750 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,265 × – × -mm ■ホイールベース:1,580mm ■シート高:-mm ■車両重量:245kg[258㎏] ■燃料タンク容量:21.2L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ(前・後):120/70R19 60V・170/60R17 72V ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■車体色:ビビッドブラック、リバーロックグレー [ビビッドブラック、ガーントレットグレーメタリック、デッドウッドグリーン、バハオレンジ×ストーンウオッシュホワイトパール] ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,310,000~2,339,700円 [2,680,000~2,7350,000円] ※[ ] はPan America Special