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試乗・解説

ハーレー純正カスタムとしてデビューしたブレイクアウトもはや10年、最新型はミルウォーキーエイトエンジンの大きい方の排気量、117ci(1924cc)を搭載してデビューした。ただそれだけではない、実用的進化も果たしているのだ。
■試乗・文:ノア セレン ■写真:Harley-Davidson Japan ■協力:Harley-Davidson Japan https://www.harley-davidson.com/jp/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/

不便を楽しむ、から少しだけ脱却する

 ハーレーモデル全般でそうとも言えるが、最先端の運動性や究極の快適性を満喫するというよりは、いくらか「不便も楽しむ」といった趣があるだろう。パーフェクトじゃないから逆に良いというか、ちょっと旧世代的な構成だからこそライダーの感性にマッチするというか。それこそがハーレーモデルの確かな魅力でもある。
 しかしその中でもブレイクアウトはかなり極端なモデルだった。純正の時点で極端なロー&ロング、大径フロントホイールに240幅のリアタイヤ。足は前方に投げ出しているのにハンドルも一文字で上半身も伏せ気味の姿勢。ライダーは体を「く」の字に折り曲げて走ることになる。以前に「これはなかなか……」と思ったものだが、極端なものを敢えて楽しむという意味では、まさにその通りだっただろう。

 だが新型はちょっとだけ優しくなった。ハンドルバーの高さが改められて前傾姿勢はいくらかやわらぎ、それに合わせてシートの位置も微調整、タンク容量は約19Lと先代よりも5.7L増え、またクルーズコントロールも搭載するなど、「短距離でカスタム感を楽しむための極端なモデル」からツーリングも許容するモデルへと進化したのだ。個性は楽しみつつ、しかしもう少し「使える」。ブレイクアウトはちょっと優しくなったのだ。

Harley-Davidson Breakout

なぜ成り立つのかがわからない

 バイクのカスタムはバランスが難しいもの。極端になればなるほど、乗りにくくなってしまうというのも珍しくない。しかもフロントホイールが21インチと大きく、リアタイヤはなんと240幅。極端なロー&ロングでは、やはりスタイル優先で走りの方は多く期待せずに、場面によっては我慢もあるかもしれない……といった印象もあるだろう。事実先代までは走りを語る前にポジションが独特過ぎて、元気よくコーナリングしようなどという気持ちは一切起きなかった。
 ところが新型では運動性の部分でもたいぶ優しくなったと感じる。2000ccに届こうかという排気量を持つエンジンはとてもパワフルで、先代に比べるとフリクション感が少なく、持てるパワーのうち実際に後輪に伝わっているパワー量が増えているような、そんな不思議な感覚があった。

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 そしてこんな足周り(失礼!)なのにこれが意外と良く曲がることにも驚かされる。良く曲がると言ってもUターンが得意だとかそういうことではないのだが、240幅のリアタイヤと言われたら「まともにバンクしていけるとは思えない……」というイメージもあるのに、そんなことないのだ。特に速度が乗るコーナーでは、かなり前方にあると感じる21インチホイールが大きなジャイロを生み、極端に太いリアタイヤを優しく良いバンク角へと導いてくれるのだ。そして一度その「良いバンク角」に入ればドシッと安定していて、ついついアクセルをワイドオープン! さらにもう一速上げてすかさずまたワイドオープン!! ストロークの少ないサスのおかげでダイレクトに路面を蹴っている感覚が楽しめ、なんともダイナミックで刺激的なのだった。
 極端なモデルには間違いないが、得意な場面になれば極上の一体感と興奮を提供してくれるブレイクアウト。それこそがハーレーらしさかもしれない。

Harley-Davidson Breakout

無理せずドヤろう!

 下衆な言葉だとは思うが、「ドヤれる」という表現を耳にする。いわゆる「ドウダスゴイダロウ!」と自慢できるかどうか、ということのようだ。しかしバイクという乗り物、ましてや大排気量の高級車に乗るのだったら、この感覚はとても大切でもあるだろう。せっかくハイエンドの乗り物を買うのだ、「どうだ!」とも言いたくなるし、そもそも「どうだ!」と言いたくて買っている部分も大きいはず。
 しかしいくら「どうだ!」と言える乗り物を買っても、乗ってちっとも楽しくないのでは本末転倒。その点、新型ブレイクアウトはだいぶライダーに歩み寄ってくれ、どこかに出かけていって「ドヤる」ためのハードルが低いと感じる。優しくなったポジションやクルーズコントロールの追加、タンク容量の増大でより遠くに出かけていき、「どう! カッコイイでしょう!」と言えるわけである。そこに無理や我慢がないのが素晴らしい。

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ハーレーの本質を見た気がする

 この日、このブレイクアウトの他にも複数台の新型ハーレーに乗ったわけだが、共通して感じたのは「シンプルでオートバイの楽しさの本質を追求している」ということだった。今や多くのオートバイがとてもハイテク化している。様々な電子制御やライダーエイドが便利である一方、それが逆にオートバイの楽しさの本質をぼやかしていないか、と感じることも少なくない。

 それに対してハーレーは、「このモデルはハンドルを高くしてみました」「このモデルはステップの位置を変えました」「このモデルは前輪を大きくしてみました」といったハード面の変更を楽しんでいる印象なのだ。こういったちょっとした変化でオートバイは見た目だけでなく乗り味も大きく変わるもの。そしてそんな、時には極端にも思えるような変更を加えつつもちゃんと成り立たせ、魅力を発することができるように、サスのストロークを短くしてみたり、重いホイールを使ってみたりと、昔ながらのアプローチで「面白い≒興味深い」乗り味を実現していると感じる。
 もちろん、ある程度のハイテク化や電子制御の導入をしつつも、そんなオートバイの楽しさの本質を追求している姿勢が、ハーレーが変わらず魅力的でいられる一因に感じたのだった。
(試乗・文:ノア セレン、写真:Harley-Davidson Japan)

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新たに搭載されたミルウォーキーエイト117は1923cc。5020回転で102HP、最大トルクは3500回転で168Nmを発揮。回転数に関わらずアクセルを大きく開ければドカドカッと巨体を進めてくれる。なお極低回転域での扱いも洗練され、街中での低速域もストレスが少ない。
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エンジン右側に突き出すエアクリーナー「ヘビーブリーザー」はクロームのカバーがついてカスタム感を演出。吸気音が耳に届くという印象もなかったがアイテムとしては外せないだろう。長身の筆者はスネが当たることもあったが。

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マフラーはファットボーイなどと同様の2本出し。連結するバイパスパイプはあるものの、各シリンダーからストレートに排気しているイメージはデザイン的にも力強い。排気音はうるさすぎず、かつ存在感のあるものでマフラー変更の必要性も感じない個性を出してくれている。
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キャストなのにスポークが多く、かつ互い違いに切削されていて本当に「手が込んでいる」という印象。まさに純正カスタムマシンだ。ブレーキシステムは小径のシングルディスクで、視覚的にはホイールの径に対して心許ない気もするが、リアブレーキと併用して良く止まれた。

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リアタイヤの幅は240という超ファットサイズを先代から継承。これだけの幅があると迫力はあるものの曲がりづらそうなものだが、車体と上手にマッチングされているのだろう、あまり意識することなく乗ることができた。
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リアショックをシート下に隠したソフテイル系フレームをもつことでリアのホイールも見えやすい。駆動は伝統のベルトドライブで静か&メンテナンスも容易。美しいホイールに油が跳ねないのも良い。

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大きく取り上げられてはいなかったが、シートも変更され着座位置は前方に微調整されたという。相変わらずホールド感は高く、ドラッグ的に加速しても体幹をしっかりと支えてくれた。
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伝統的な丸形状を守りつつも、その中に近代的なデザインのLEDをうまく入れ込んでいるヘッドライトは本当に魅力的。ハーレーの新旧の癒合の取り組みは見習うべきものがあると思う。

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メーターはハンドルクランプ上に位置する超シンプルなモノのみ。速度と時計と燃料計、これ以外に何が必要なものか! その下に位置する各種インジケーターは小さくて見やすいものではなかったが、このシンプルさは素直に称えたい。
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スポーツスター系は左のスイッチボックスにウインカーを集約した、国産モデルのようなスイッチ配置になっているが、ブレイクアウトはハーレーがずっとやってきた左右独立ウインカースイッチを採用。メインキーは電子キーで、キルスイッチでオン/オフをする。左スイッチボックスには新たに採用されたクルーズコントロールのボタンを配置。パワーモードなど複雑な電子制御が一切ないのが清々しく、バイク本来の魅力を追求していると感じた。

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●Breakout 主要諸元
■エンジン種類:ミルウォーキーエイト117 ■総排気量:1,923cc ■ボア×ストローク:103.5×114.3mm ■圧縮比:10.2 ■最高出力:102HP(76kW)/ 5,050rpm ■最大トルク:168Nm/3,500rpm ■全長×全幅×全高:2,370×──×──mm ■軸間距離:1,695mm ■シート高:665mm ■車両重量:310kg ■燃料タンク容量:約18.9L ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):130/60B21 63h・240/40R18 79V ■ブレーキ(前/後):シングルディスク+4ポットキャリパー/シングルディスク+2ポットキャリパー ■懸架方式(前・後):正立型テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:ビビッドブラック、モノトーン ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):3,264,800円~


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2023/03/14掲載