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MoToGPはいらんかね

●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com

 いやホント、ビックリしましたね、今回の第15戦アラゴンGP 1周目に発生した出来事は。レースでは何が起こるかわからない、ということをまさに絵に描いたような展開で、レースを観戦していた人々は、きっと世界各地で同時多発的に「わあ」と声をあげたのではないでしょうか。

 そのときの状況は周知のとおり、この週末から復帰を果たしたマルク・マルケス(Repsol Honda Team)がオープニングラップ3コーナーの出口近くで挙動を乱し、ファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)がそれに巻き込まれる格好で転倒。続く8コーナー進入の通称リバースコークスクリューでは、中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)がマルケスに絡んで転倒。転倒した中上の脇を多くのバイクがすり抜けていっただけに、これはじつにヒヤリとする一瞬だった。これらの転倒の原因になったマルケスも、ほどなくピットへ戻ってリタイアした。一方、中上はこの転倒で右手薬指と小指の腱を損傷。月曜にバルセロナで手術をした後に、地元の日本GPへ向かうことになった。

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※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 このふたつの出来事は、いったいどういうことだったのか。決勝レースの途中にもマルケス自身が公式Webサイトのライブフィードでピットレポーターの質問に答えていたが、レース後に明かしたより詳細な説明によると、一部始終は以下のとおり。

「3コーナーでは、リアが少し滑ってスロットルを閉じた。とはいっても、大きく振られたわけではなかった。後で映像を見ると、ファビオがものすごく近くにいたことがわかる。彼の狙いとしては、あそこの切り返しで僕を抜こうとしたんだと思う。自分の少しアウト側にはエネア(・バスティアニーニ/Gresini Racing MotoGP)とアレイシ(・エスパルガロ/Aprilia Racing)がいたけれども、僕は彼らを抜こうとはしていなかった。1周目ではよくあるように、タイヤがまだ冷えていたので挙動が少し危うくなって、レーシングインシデントになった。スタート直後だったので、ファビオがすごく接近していて、とてもアンラッキーな出来事になってしまった。

(クアルタラロと)接触する感覚があって、その後、5コーナーの進入で違和感があったので、どうしたのかなと思ったものの、スロットルを開けて6~7コーナーと入っていった。7コーナーではタカがイン側から僕を抜いていったあと、彼が少しワイドになった。そこで、彼のインを突いて少し前に出たところで、ホールショット(ライドハイト)デバイスを入れた。デバイスを入れたとたんにリアがロックする印象があった。映像をじっくり見てみると、フェアリングから破片らしきものがこぼれていくのが確認できる。リアがロックした感触があり、何もかもがおかしくなった。リアがロックした状態でバイクが左へ流れ、トラクションもなく、(中上と接触した)インシデントになってしまった」

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 一方、3コーナーで早々にリタイアとなってしまったクアルタラロも、マルケスとの接触がレーシングインシデントということに異論はないようだ。

「誰でも多少のミスはする。マルクは上手く旋回していたけど、滑ってもいた。僕のほうがトラクションはよかった。ああいう形で追突するとは思わなかった。追突した瞬間の詳細は憶えていないけど、3コーナーで終わってしまったのは本当に残念だ」

 ちなみに、ヤマハのマネージングディレクター、リン・ジャーヴィスも両者が追突した数分後には、不運なレーシングインシデントだった、と言明している。

 また、クアルタラロは、あの出来事がなければおそらく上位でレースを終えることができていただろう、とも述べた。

「トップファイブは争えていたと思う。プラクティスでは速く走れたけれどもレースは難しかったと思うので優勝争いはともかくとしても、3位から6位あたりで戦えていたと思う」

 この出来事を近くで見ていたライダーたちの証言も紹介しておこう。まずはヨハン・ザルコ(Pramac Racing)から。

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「スタートはまずまずで、ブレーキングではマルクとファビオがアウト側から入ってきた。2コーナーではファビオのイン側に入ろうかとも考えたけれども、彼は序盤から飛ばしていたので、安全策で少し距離を作ることにした。マルクの3コーナー立ち上がりがとても良かったので、ファビオは彼のライン取りに少し驚いたようにも見えた。マルクは次の左コーナーに向けて右側へ振っていてクラッシュが発生したので、ファビオのバイクに接触しないように減速しなければならなかった。マルクのバイクにフェアリングの残骸がひっかかっているのは、すぐにわかった。それでマルクは5コーナーでリアが滑ったのだと思う。中上の件は、レース後にボックスへ戻ってきてから見た。他に何人か絡む可能性もあった出来事だと思った」

 カル・クラッチロー(WIthU Yamaha RNF MotoGP Team)は前回のレースで引退したアンドレア・ドヴィツィオーゾに代わって参戦しているが、8コーナー進入では中上をかすめるような格好で接触を回避している。

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「急ブレーキをかけた。何がどうなっているのかわからない状態でいきなりバイクとライダーが目の前を滑っていくわけだから、あそこにいた全員が急ブレーキをかけた。最初のファビオの出来事も同様で、急ブレーキでレバーを握りこんで、どっちの方向へ避ければいいかもわからないような状況だった。(中上の転倒直後は)ブレーキをしてレミー(・ガードナー)とぶつかりそうになり、ダリン(・ビンダー)にも当たられそうになって、左へ避けてブレーキしてから自分が挟まれるような格好になって右へよけた。レースに復帰した1周目でこんなことになるとは、まあ思ってもいなかったね」

 そして、この出来事でクアルタラロが早々にリタイアしたことにより、レースのトップ争いとチャンピオン争いがにわかに緊迫度を増してきた。クアルタラロを追い上げる立場のフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)と兄エスパルガロにとっては、ここで可能な限り上位でフィニッシュして高ポイントを獲得しておきたいところだ。

 トップ争いは、前回同様にバニャイアとバスティアニーニの一騎打ちになった。2週間前のサンマリノGPではバニャイアに軍配が上がったものの、今回は最終ラップ7コーナーでバスティアニーニが仕掛けて優勝をもぎ取った。この最後の攻防について、バスティアニーニはレース後に以下のように説明した。

「(バニャイアの)後方にずっとつけていて、どのコーナーで抜こうと特に考えていたわけではないけれども、5コーナーでペコにすごく近づいたので、よし、狙うなら今だ、と思って、上手く走れていた7コーナーで勝負を仕掛けた」
 

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 この勝利で25ポイントを加算したバスティアニーニは、ノーポイントで終わったクアルタラロの48ポイント差まで迫った。残りは5戦。計算上はまだ充分に射程圏内である。

「48ポイントはギャップを埋めるにはかなり大きい点差だけど、シーズン終盤もこの調子で高い戦闘力を発揮し、一戦一戦を大切にして戦っていきたい。今後に向けて仕上がりがいいのもポジティブだと思う」

 持ち味である粘りと終盤の力強さを存分に発揮して4勝目を達成しただけに、残りのレースでも彼がチャンピオン争いのキャスティングボートを握ることになりそうだ。

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 0.042秒差で惜しくも優勝を逃したとはいえ、2位でゴールしたバニャイアは20ポイントを加算してクアルタラロとの差を10ポイントに縮めた。

「全力で走ったけれども最後はエネアのほうがトラクションがあったようで、最終ラップに抜かれたとき抜き返せなかった。限界だったし、エネアを抜くのはリスキーだった。今日のレースはミスをしやすかったので、20ポイントを獲るのが重要だった」

 この結果により、ドゥカティは2022年のコンストラクターズタイトルを早々に確定させた。

 そして3位は兄エスパルガロ。4番手でじわじわと前に迫り、終盤にポジションを上げて8戦ぶりの表彰台を獲得した。パルクフェルメに戻ってきたときに述べた、

「レジリエンス(逆境からの回復)こそが僕の人生なんだよ!」

 という第一声はじつにこの人らしい、いい言葉である。

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「今週はチャンピオンシップでとても重要なウィークなのになかなかうまく進まず、金曜は2度も転倒してバイクのフィーリングもいまひとつだった。それでも、少しずつ良くなっていった。レースではよけいなことを考えず、ただ愉しんで走ろうと思った。前のふたりには追いつけなかったけれども、3位はファンタスティックな結果だと思う」

 クアルタラロまで17ポイント差、と緊迫するチャンピオン争いに関しては、

「ペコは自分たちより上手く乗っているし、ドゥカティはベストバイクだから自分とファビオには厳しいけど、これからはヨーロッパを離れて温度条件もグリップも異なるサーキットで戦うから、何があってもおかしくない」

 と、日本~タイ~オーストラリア~マレーシア、と続くフライアウェイに向けて期待を述べた。

 チャンピオン争いは、Moto2クラスでも緊迫度を増している。

 ランキング首位のアウグスト・フェルナンデス(Red Bull KTM Ajo)はポールポジションスタートで、決勝でも圧倒的な強さを発揮しそうにも見えたが、中盤以降にペースを落とし、最後は3位でゴール。優勝はチームメイトのペドロ・アコスタ。フェルナンデスはこの3位で16ポイントを加算。一方、ランキング2番手の小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)は8番グリッドからのスタートで、難しいレースを強いられそうにも見えた。しかし、そこはさすがミスターレジリエンス(↑上参照)。しぶとい走りでポジションを上げ、最後は4位でゴールして13点を加算。表彰台こそ逃したものの、フェルナンデスとの差を最小限の7ポイントに留めた。次戦は小椋の地元日本GPだけに、ここで再び順位を逆転してランキング首位に返り咲くことも充分に考えられる。

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 Moto3クラスでは、佐々木歩夢(Sterilgarda Husqvarna Max Racing)がシーズン6回目の表彰台となる2位でチェッカー。優勝のイザン・ゲバラ(Autosolar GASGAS Aspar Team)と最後まで争ったものの、最後は少し及ばなかった。

「今日はベストを尽くしましたが、イザンは自分より少し速かったです。ラスト3周は攻めたけれど、フロントタイヤが限界でした。最後まで頑張って追いかけられたかもしれないけど、ちょっとリスクが大きかったです。前回が残念な結果だったので、今回は落ち着いて2位を獲ることにしました。次の日本では、もうひとつ上の結果を狙います」

 もちろん、日本の3500万人MotoGPファンと佐々木歩夢ファンもそれを期待しております。

 ということで、今週末は3年ぶりの日本GP。新型コロナウイルスの感染状況は改善の兆しを見せつつあるとはいえ、気を抜かず従来同様に手指消毒とソーシャルディスタンス、閉鎖空間でのマスク着用を励行し、モビリティリゾートもてぎでお会いいたしましょう。合い言葉は「山田さん、Hiroshi’s Kitchenは今回もおいしいですね」

 ……うそです。

 では、週末に。

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【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と最新刊「MotoGP 最速ライダーの肖像」は絶賛発売中!


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2022/09/20掲載