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レース・イベント

●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com

 皆様、3年ぶりの日本GPはいかがでしたか。雷雨に翻弄された土曜の予選から、台風一過ですっきりとした秋晴れに恵まれた日曜のドラマチックなレースに至るまで、会場を訪れた人も自宅観戦組の方々も、じつに印象深い週末になったのではないでしょうか。なかでも、Moto2とMoto3両クラスで日本人ライダーたちが見せた大活躍はいずれも素晴らしく、見どころ語りどころは尽きないわけですが、まずは最高峰のMotoGPクラスから。

#日本GP
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※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 優勝は、みんなのジャックことジャック・ミラー(Ducati Lenovo Team)。今回の日本GPは、前戦スペイン・アラゴンからの2週連続開催で荷物の搬送に時間がかかった場合のことを考慮して金曜午前のセッションを取りやめ、午後に行うFP1を通常の45分より長めの75分へ延長。土曜は午前に45分のFP2で、午後に30分のFP3を行って予選Q1とQ2、という変則的なスケジュールである。通常よりも全体の走行時間とセッション数が少ないため、ウィークのアプローチをいつもと少し変える必要があるのかどうか、走行前の木曜にジャックに訊ねてみると、

「多少はね。FP1は一時間少々あるから、グリップレベルやバンプなどの路面状態を確認してからレースペースを見て、最後にタイムを出しに行く、という流れで、最終的にはいつもと同じようなセッションになると思う」

 という返事が返ってきた。実際に、金曜はその言葉どおりの充実したメニューをこなしてトップタイムを記録。雨に見舞われた土曜の予選は7番手に沈んだものの、決勝日午前のウォームアップ走行では、タイヤの見極めを含めた最終確認をキッチリすませ、決勝レースの準備ができた模様。

 このタイヤ選択だが、フロントに関してはおしなべてハードコンパウンド一択だったものの、リアはハード/ミディアム/ソフトの選択でレースの明暗が分かれたようだ。ジャックはハードを装着してレースに臨み、これがバッチリと決まった模様。フロント・リアともに高い安定性と耐久性を存分に引き出して、狙い澄ましたオーバーテイクを続けて3周目にはトップに立った。あとは周回ごとに後続を引き離し続け、同郷の先輩ケーシー・ストーナーの全盛時代を髣髴させるような圧巻の走りで独走優勝を達成した。クールダウンラップでは、ヘルメットの中で赤ん坊のように泣いた、とレース後に明かし、

「あのような(独走の)レース展開になると、自分の中にいるもうひとりの自分が最大の敵になる。だからその声には耳を貸さないようにしながら走った。あれだけバイクがうまく走ってくれると、脳内の声に耳を貸さないようにして走るのも簡単で、とにかくミスをしないことを心がけて走った」

 と振り返った。表彰台では、ジャックの代名詞シューイ(ブーツにシャンパンを注ぎ込んで飲み干す行為)で祝杯を挙げ、そのブーツを表彰台下の観客たちに向かって放り投げる、という彼らしさ満載のレースだった。

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 2位はブラッド・ビンダー(Red Bull KTM Factory Racing)。表彰台獲得は開幕戦のカタールGP以来で、

「今シーズンはチームと一所懸命頑張ってきたけどなかなか結果に恵まれなかったので、久しぶりに表彰台に上がることができて本当にうれしい」

 と顔をほころばせた。

 今シーズンのKTM勢は減速から倒し込みの領域に課題を抱えており、ビンダーもチームメイトのミゲル・オリベイラも「流れるようにスピードに乗せて走るコースならまだしも、もてぎのような典型的ストップ&ゴーのコースはちょっと厳しいかもしれない」と走行前に漏らしていた。しかし、予選を終えてビンダーは今季初のフロントローを獲得して2位表彰台、チームメイトのオリベイラは5位、と揃って高いリザルトを獲得した。ちなみにこの両選手ともリアタイヤはハードを選択している。

「ハードを入れたのは、ぶっつけ本番だった。序盤は前について走って強いところと弱いところを見極め、アドバンテージを探っていった。やがて、どんどん気持ちよく走れるようになってきた。ハードで行けると自信を与えてくれたチームに心から感謝をしたい」

 ところで、今回優勝したジャックは来シーズンにKTMファクトリーへ移籍するため、ビンダーのチームメイトになる。

「今日のジャックはレベルが違った。僕を追い抜いたあとは、3~4周もすると大きく引き離していった。彼もハードを履いていたと思うけど、10周目くらいになるともう見えなくなっていた。ジャックと来年同じチームになるのは、本当に心強い」

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 3位はホルヘ・マルティン(Pramac Racing/Ducati)。前のふたりと違い、マルティンはリアにミディアムを選択していた。ちょうど全周回数の半分くらいの段階で、ヒヤリとする瞬間があった、とレース後に明かした。

「最終手前のコーナー進入でハイサイドしそうになり、以後はそれまでとは違うギアでこのコーナーに対応しなければならなかった。その影響で毎周0.2~0.3秒ほど損することになった。そういう問題を抱えながらでも、表彰台を獲得できたのだから良かった。(最終盤にビンダーにオーバーテイクされたことについては)ブラッドとの差をキープしたかったし、2位で終われたほうが良かったので少し残念だけど、表彰台はバルセロナ以来なので久しぶりだし、この結果で自信を取り戻してまた上位争いを続けていきたい」

 このように表彰台はヨーロッパ陣営が占拠する結果になったが、4位には復帰2戦目のマルク・マルケス(Repsol Honda Team)が入っている。マルケスは、フルウェットになった土曜のセッションで最速タイムを記録してポールポジションを獲得。マルケスが予選最速タイムを記録するのは2019年の日本GP以来、つまり、前回の日本GP以来3年ぶりで、日数にすれば1071日目になる。

「コンスタントな走りでしっかりしたレースをできたので、本当にうれしい。最も大事なのは、レース最後まで腕の痛みがなかった、ということ。だるくなって疲労感はあったけど、痛みを感じなかったので、ラスト2周でオリベイラに勝負を仕掛けることができた。レース終盤にアタックできたのは本当に久しぶりで、以前なら痛みもあったし集中力の維持も難しかった。腕の疲労感はあったけれどもすべてコントロールできたので、安定した走りをできたし、とてもよかった」

 そこで、自分の走りにどれくらいの自信を取り戻せてきたのか訊ねてみると、以下のような答えが戻ってきた。

「自信はどんどん大きくなっているけど、金曜にも話したとおり、このコースではバイクの弱点をカバーできるという点もあるので、そこは冷静に考える必要がある。今回、唯一アンラッキーだったのは、序盤のうちに攻めようと思ってリアにソフトコンパウンドを選択したこと。(戦略に反して)オープニングラップではちょっと問題が出てしまい、多くのライダーに追い抜かれてしまった。マッピングを変えて問題には対応できたけれども、その後は集団の中で走ることになってしまった。でも、そんなことがありながらも、自分なりのレースをできてハッピーな結果になった」

 では、力強い走りをできるほど腕の状態は完璧に近い状態まで戻ってきたのだろうか、とさらに訊ねてみると、

「いやいやいやいや、まだまだ」

 と言下に否定した。

「1周だけの一発タイムなら、かなり乗りたいように乗れるようになってきたけど、安定して走るためには、ブレーキングでの振られや切り返しでのシェイキングなど、予想外の挙動が発生した際のコントロールには課題が多い。まだ復帰2戦目だし、このあたりのことはこれからのタイ、オーストラリア、マレーシア、バレンシアで改善していきたい。大丈夫なように見えるかもしれないけど、まだまだ腕の問題はある。今回がいい週末になったのは、天候に助けられた要素も大きい。土曜の雨で体力を温存できたし、ポールポジションも取れた。普通のウィークなら、4位じゃなくて7位から9位くらいだったと思う」

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 では、負傷前の2019年レベルまで戻すにはあとどれくらい時間がかかると思うか、と仲間の英国人ジャーナリストが重ねて訊ねると、マルケスから非常に示唆的な答えが返ってきた。

「腕のレベルとバイクのレベル、というふたつの基準がある。腕のレベルはどんどん良くなっているし、これからも良くなっていくと思う。ライディングスタイルを完全に取り戻すのがいつになるのかはわからないとはいえ、筋肉は確実に戻ってきている。

 で、2019年のような走りということについては、現在の2022年はバイクが当時とかなり違っていてエアロダイナミクスも異なるので、現在のMotoGPでは追い抜きが非常に難しくなっている。たとえば、誰かの後ろについているとバイクを止めにくくなるし、立ち上がりでも空力効果を利用できないのでウィリーしやすくなる。以前のほうが、後ろについて走ることは今よりもラクだった。今も1周だけならともかく、レース周回になると、かなり厳しい。

 要するに、腕の要素についてはどんどん走り込めば良くなっていくけど、バイクはさらに改良していく必要がある、ということ」

 このような言葉を聞いていると、マルク・マルケスという人はやはり、ホンダが勝つために最も重要な「部品」なのだなということがよくわかる。しかし、その「部品」を欠いた状態だと現在のような苦戦を強いられてしまう、という今の陣営のありように、彼らが抱えている問題のカギがあるのかもしれない。

 と、以上のように今回の日本GPでは、チャンピオン争いに絡まないライダーたちが印象的な走りを披露した一方で、チャンピオンの座を熾烈に争う選手たちはというと、いずれも厳しい内容や結果に終わっている。

 ランキング首位のファビオ・クルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)に対して、5連続表彰台で猛烈に追い上げ始めたフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)は、12番グリッドスタートで苦しいレースを強いられ、クルタラロの直後で9番手を走行中の最終ラップに、3コーナーで転倒してリタイア。

「最後の最後は1ポイントで明暗が大きく分かれるので、それを考えて狙いすぎてしまった。後になって考えれば、ファビオの直後で終えるとか別の機会を狙えばよかった、とも思うけど、レースの最中はファビオを追い抜いて、さらにその前にいるマーヴェリックを追いかけ、彼がミスしたらさらにその前に出よう、と考えていた。チャンピオン争いで勝つにはそれが唯一の方法だと思って大きな野心を持ちすぎて、転倒で終わってしまった」

 12番手からのスタートでは自分のペースで走ることが難しかったので、次回はいつもどおりに、アグレッシブになりすぎずに高い戦闘力を発揮し、アラゴンでやミザノで見せたようなトップ争いをしたい、と述べた。

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 一方、タイトル争い首位のクアルタラロは8位でゴールして8ポイントを加算。バニャイアがノーポイントで終わったために、ふたりの点差は18ポイントになった。

「いろいろあったことを考えると、8ポイントを失うのではなく加算できたのだから、まあまあの結果だと思う。今回はジャックと争うことはできなかったと思うけれども、ミゲルやマルク(の4位争い)とは戦いたかった。でも、オーバーテイクがまったくできなかった。セクター2からセクター3で追いついても、セクター4からセクター1で引き離されるので、かなりストレスの溜まるレースになった」

 金曜の初日を終えた際にも、クアルタラロは他のライダーをオーバーテイクできる場所が7コーナーしかない、と苦笑していたが、レースではさらに厳しい走りを強いられた、ということなのだろう。また、決勝前にマシンに施した最後の微調整が裏目に出てしまった、とも述べた。ある意味ではこれもまた土曜の台風に翻弄された結果、ともいえるのかもしれない。

 もうひとりのチャンピオンシップコンテンダー、アレイシ・エスパルガロ(Aprilia Racing)は6番グリッドからのスタートだったが、スタート前のウォームアップラップで信じられない出来事が発生した。

「チームが燃費節約マップを解除していなくて、4~5000回転以上回らなかった。このマッピングでは100km/h以上出せないので、ピットに戻ってきてバイクを乗り換えた」

 ウォームアップラップを終えた全員がグリッドへ向かうなか、エスパルガロはガレージ前へ戻り、このバイクを乗り捨てるようにしてスペアの2号車へ乗り換えた。だが、ルール上はピットレーンスタート、つまり、全員がスタートを切った後にピットレーンからコースに入るために、最後尾でレースを始めることになる。さらには、この乗り換えたバイクにはリア用にソフトコンパウンドが装着されていたという。ちなみに、決勝で走る予定だった当初の一号車では、ミディアムコンパウンドを選択していた。

 前戦アラゴンからの連戦でチームも疲れていたのでは、と問われると、

「いや、僕だって疲れているし、皆が疲れている。これは仕事なんだから、こういうミスはけっしてあっちゃいけない。でも人間はミスをするものだし、チームで力を合わせて次のタイでは優勝を目指したい」

 この大きな過失がなければ、優勝を狙えていただろう、とも述べた。

「ここ数戦使ったこともないようなソフトタイヤで、今週は天気の影響で二号車も全然使っていなかった。そんな状態だったから、なんとか1分46秒台で走るのが精一杯。(リアタイヤが)ミディアムなら、安定して45秒台中盤で走れいていたので、ジャックのような走りをできたと思う」

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 結果はポイント圏外の16位。それでもタイトルを争うバニャイアが転倒し、クアルタラロが8位という低位に沈んだので、傷は最小限で終わったのでは、と問われると、

「大きなチャンスを逸したことになるわけだから、なおさら最悪」

 と失望感をあらわにした。

「彼らふたりが1位や2位なら、タイトル争いはさらに難しくなっただろうけれども、実際にはそうじゃなかった。今日の自分は彼らよりも速く走れていたし、そういうチャンスは滅多にないだけに……」

 次戦のタイGPではタイトル争いのことなど考えず、とにかく優勝を目指す、と述べて話を締めくくった。

 さて、お待たせしました。今回の日本GPでは、ひょっとしたら最高峰クラスのMotoGPよりも日本のファンにとってはメインイベントだったかもしれない中小排気量クラスであります。

 まずはMoto3。土曜の予選では鈴木竜生(Leopard Racing)がポールポジションを獲得。ここ数戦は上位争いに加わりながら表彰台圏内を逃すことも多かっただけに、今回の日本GPでは大きな期待がかかった……が、決勝レースでは残念ながら5周目にV字(9コーナー)で転倒。

 この段階では、佐々木歩夢(Sterilgarda Husqvarna Max Racing)が先頭集団のトップを走行していた。佐々木は15周目までトップをキープしていたものの、やがてイザン・ゲバラ(Autosolar GASGAS Aspar Team)に前を奪われ、最後は3位でチェッカーフラッグを受けた。レースを終えた佐々木は、優勝をひたすら目指していたであろうだけにやや残念そうなそぶりも見せたが、それでも前戦からの2戦連続表彰台である。それを日本で達成したわけだから、ひとまずは満足、といった様子で口を開いた。

「正直なところ少し残念ですが、ホームGPの表彰台は目標にしていたことなので良かったと思います。新品タイヤのうちはとてもいいペースで走れて、レースを引っ張ることができました。ラスト5周までいい感じで走れていて、イザンにオーバーテイクされた後もついていこうと思ったのですが、彼のほうがコンマ数秒速く、マシアにも抜かれてしまいました。終盤までずっと気持ちよく走れていたのですが、タイヤの落ちが予想以上に大きく、これは今後に向けていい教訓にしたいと思います。日本の人たちの前で長くトップを走れたのは、とても良かったと思います。

 3年ぶりの日本GPで、多くの方々が自分の旗を振って応援してくださったのはとても力づけられました。今日は3位だったので、次もいい結果を目指します」

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 今年の佐々木は、シーズン前半は不運に見舞われたりケガで欠場したり、という展開が続いた。最近では表彰台の常連になりつつあるが、どうやって流れを自分の側へ引き寄せようとしてきたのか訊ねてみた。

「シーズン序盤は、運に恵まれないことが多かったですね。ミスもあったし、自分のミスじゃないレースもあったけど、アップダウンが激しくて、ムジェロではケガもありました。イザンのノーポイントは2レースだけだけど、僕の場合は6戦でポイントを取れていません。それがチャンピオンシップにかなり影響することになったのですが、今は気持ちよく安定して走れるようになりました。来年もMoto3を走ることになると思うので、来年こそ改めてがんばりたいと思います」

 現在の佐々木はランキング4番手で、首位のゲバラからは80ポイント差。シーズンの残りは4戦なので、あくまでも計算上はまだチャンピオンの可能性がある。とはいえ、それは現実的ではない、と佐々木自身は考えているようだ。

「チャンピオンシップのことは、あまり考えていません。80ポイントはかなりの大差なので、何ごとも不可能はないとはいえ、現実問題としては非常に難しいと思います。だから、1戦ごとにいい走りをしながらまずはレースで勝つことに集中し、ランキング2位は可能だと思うのでそれも視野に入れながら、まずは一つ一つのレースで勝つことを目標にしたいです」

 続いて行われたMoto2のレースでは、ご存じのとおり、小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)が圧巻の走りで優勝を飾った。

 5列目13番グリッドスタートの小椋は、スタートを決めて1周目で一気にポジションを上げ、その後もぐいぐいと前に出て、レース半ばの12周目にはトップに立った。以後も力強い走りで2秒近い差を築いてトップでゴール。日本人選手が日本GPで優勝を飾るのは、小椋のチーム監督・青山博一が2006年に優勝したとき以来。ちなみにこのときの決勝日は9月24日だったので、本当に文字どおりの16年ぶりである。

#79

#Moto2
#Moto2

「ホームGPで勝てて、とてもうれしいです。レースでは前方にたくさんのライダーがいたので、序盤から飛ばさなければなりませんでした。長くてキツいレースでしたが、自分自身も含めてうまくマネージできました。ホームGPなのでちょっと緊張はしたし、マネージするのは簡単ではなかったけど、普通の一戦だと思って集中しました」

 小椋のMoto2クラス優勝は、第6戦スペインGP、第13戦オーストリアGPに続き、今季3回目。初優勝のヘレスも2回目のレッドブルリンクのときも、もちろん優勝したことを喜んでいるのはよくわかったが、それでもいつもの冷静さをどこかに残しているようにも見えた。しかし、今回の小椋はチェッカーフラッグを受けた瞬間から全身で感情を爆発させ、感情をむき出しにして勝利の喜びを表していた。そこで、過去2回の優勝と今回の日本GPで達成した優勝の味わいの違いを訊ねてみた。

「(過去の2回と比べて)もちろんこの勝利がスペシャルです。ヘレスとレッドブルリンクで勝ったときは、どちらもFP1からずっと速かったし、決勝でも優勝を見据えて走ることができていました。今回は最初からあまり強く走ることができなかったので、今日は自分でもとても驚きました。スタートもうまく決めることができて、最後はレースをうまくマネージできました。だから今回は特別だし、3回の優勝の中でもいちばんうれしいです」

 チャンピオンシップを争うライバル、アウグスト・フェルナンデス(Red Bull KTM Ajo)が2位で終わったことにより、小椋はフェルナンデスとの間の7点だったポイント差を2点に詰めた。今回のレース前に青山監督は、

「勢いも技術も、正直なところ向こうの方が少し上かもしれません。でも、勝負は最後の最後までもつれるだろうし、その最後の瞬間に強い方が勝つのだろうと思います」

 と話していた。

 残りの4戦で、フェルナンデスと小椋の戦いがどんな展開を見せるのかはまったく予想がつかない。争いはこれからいっそう熾烈さを増していくだろうし、彼らのチームメイトであるソムキアット・チャントラとペドロ・アコスタが、レース展開次第では重要なカギを握る存在になっていくことも考えられる。また、ある意味ではRed Bull KTM AjoとIDEMITSU Honda Team Asiaの総力戦、といった様相を呈してくるかもしれない。

 いずれにせよ、両陣営の真っ向勝負で、若いふたりのライダーが正々堂々と実力を存分に発揮しあう戦いになることは間違いないだろう。

 というわけで、MotoGP・Moto2・Moto3全クラスのチャンピオン争いが佳境にさしかかる第17戦はタイGP。戦いの舞台はブリラムのチャーンインターナショナルサーキットで今週末に開催されます。日本との時差は2時間なので、くれぐれもお間違えなきよう。ではでは。

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【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と最新刊「MotoGP 最速ライダーの肖像」は絶賛発売中!


[MotoGPはいらんかね? 2022 第15戦 アラゴンGP|第16戦 日本GP|第17戦 タイGP]

[MotoGPはいらんかね目次へ]






2022/09/27掲載