2021年春に発売された現行モデル。エンジンをかけて、ブリッピングすると、排気音がこれまでよりくぐもったものではなく抜けが良くなったような集合管らしい音になったことがわかる。4-2-1レイアウトだったエキゾーストマフラーが4-1に変わったことの効きめ。もちろん音だけの効果をねらった変更ではなく、直線状に並んでいる4気筒の内側2気筒、2番と3番のシリンダーと、外側2気筒、1番、4番と長さが違うエアファンネルを採用して、吸排気を変更。これに変更の目玉であるスロットルバイワイヤシステムを組み合わせた。
走り出すと、右手のアクセルワークとその排気量1284ccが生み出すエンジンとのリニアリティが気持ちいい。高回転では呼応してスピードと伸びていく“ザ・直列4気筒”らしいフィールが味わえる。乗っていると「直列4気筒じゃなきゃだめなんだよ」と口説かれ続け、押しに弱い私の心はすぐに「うん、そうだね」と同意して仲間になってしまう。これ以前より説得力が増したよう。
車両重量が266kgで、最近のネイキッドスポーツとしては大きな車体は、エンジンをかけずに押したり引いたりしていると、デカさ、重さを意識させられる。シートに腰をおろしハンドルグリップをつかんでも迫力があり、身長170cmにとって「普通の大きさだね」とはお世辞にも言えない。だけど、動き出してしまうと、低回転域でノロノロとした進み具合でもとにかく従順で扱いにくく感じさせない。交差点を曲がるときや、駐車場から道路へ合流するなどの場面でもハンドルが適度に切れてスムーズに曲がれて、手こずるようなところがない。だからUターンもお茶の子さいさい。初代、すなわち今から30年前に登場したCB1000 SUPER FOURから、ビッグバイクを操っている醍醐味を大切にしてきたが、現行モデルもそれがこの機種のキモだと思う。ただ、今乗ると、初代CB1000 SUPER FOURはとても小さくコンパクトな印象になるから人間の感覚はおもしろい。
コントロールする楽しみと、それを支える力強さとスムーズさ
エンジンの特性はコントロールのしやすさがいっそう磨かれた。厚いトルクで加速するのが楽しく、高いギアで低い回転数でもスムーズでイージー。上質と表現しても言い過ぎではない。このパワーだから幅広い運転レベルのライダーが乗ることを考えるとホンダトルクコントロールの採用は有益というより、ある意味で当然のことだ。『SPORT』『STANDARD』『RAIN』のライディングモードが選べ、もっともレスポンシブルな『SPORT』でも持て余すようなところはないから、いろいろな走行シーンに合わせやすい。
アシスト&スリッパークラッチの装備でクラッチレバー操作が軽いのも好印象。伸び側の減衰を無段階でセッティングできるφ43mmカートリッジフォークと、伸び側が15段、圧側が4段の減衰調整ができる2本のリアショックからなる前後のサスペンションは、低速時からよく動いて、高荷重になる高速域で振り回すように乗ってもへこたれたそぶりを見せずに、狙いどおりに動かせる。スタビリティも高くて速度を上げても安心できるもの。
型式が“SC54”になったのは2003年だった。そこから変更を加え続けて、今に至る。思い出してみると、最初の頃にあったシャキシャキっとしたフットワークのスポーツ性はやや影を潜め、適度なスポーティーさでよりどっしりとした安定志向に変わった。どちらが好きかという個人の好みは別にして、今はレトロモデルがネイキッドの主流となっていて、それに合わせたセッティングの車両が増えている事実という現在のユーザー嗜好を考えると、味付けをこうしたのはある意味で正義だと思う。速く走るための性能を上げるだけがバイクの進化ではないのである。
同じ大排気量ネイキッドにファイアーブレードのエンジンをベースにしたCB1000Rがあるから高いスポーツ性を目指す必要はない。作り込むときの目標が明確にあったからこそ現行モデルのバランスはとても良くなっていると勝手に思う。グリップヒーターやETC2.0が標準装備されているのみならず、これからクルーズコントロールを採用したのも、差別化としての汎用性を重視したことの現れだろう。
ザ・ホンダ
いま流行っているネオレトロモデルの中でもCB1300SFにしかない個性がちゃんと出せていると思う。何より、操作、走り、エンジンにあるきめ細かさは他メーカーにはないホンダならでは。これはスペックからじゃあ伝わらない。長く作り、販売してきたから熟成という言い方をしたくなるけれど、これはビッグバイクを操る痛快さを高めながら、ライダーの気持ちによりそったエボリューションだ。個人的には、ホンダ車すべての中でもっとも「ホンダだなぁ」と言いたくなるバイクである。(試乗・文:濱矢文夫)
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