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MoToGPはいらんかね

●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com

 第14戦サンマリノGP、舞台はおなじみミザノワールドサーキット・マルコ・シモンチェッリ。いやそれにしても、MotoGPの決勝レースは最後まで息詰まる緊張感に満ちあふれた高密度の、じつにいいレースでしたね。

 トップを快走するペコことフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)をマーヴェリック・ヴィニャーレス(Aprilia Racing Team)が終始ひたひたと追いつめ、終盤数周になると、今度はヴィニャーレスを抜いて2番手に浮上してきた〈野獣〉エネア・バスティアニーニ(Gresini Racing MotoGP)が猛追。最後はペコが0.034秒の僅差でバスティアニーニを凌ぎきって優勝、というじつに高密度のレース展開。行き詰まる接戦、という言葉を絵に描いたような結果に、レースを観戦した皆さんもきっとご満悦なさったことでありましょう。

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※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

#63

 優勝を飾ったペコは、これで4戦連続優勝を達成。4連勝は自身にとってもドゥカティにとっても初の快挙で、つまりはあのケーシー・ストーナーでさえ成し遂げたことがなかった偉業、というわけである。

「スタートはグリップをあまり得られず少し苦労したけれども、周回ごとに良くなってきた。最終ラップに差を広げようとしたけど、エネアはとても強かった。5番グリッドのスタートから勝てたので、とてもうれしい」

 バスティアニーニの強烈な猛追は、彼が2番手へ浮上してからチェッカーフラッグ(LAP27)までのタイム差を見れば一目瞭然だ。

LAP21-0.208
LAP22-0.111
LAP23-0.125
LAP24-0.120
LAP25-0.092
LAP26-0.101
LAP27-0.034

 真綿で首を絞める、とはまさにこういうことだ。最終ラップは4コーナーでオーバーテイクを狙ったバスティアニーニが挙動を乱し、これで勝負あったかとも見えた……が、後半区間で再び差を詰めて、最終コーナーのブレーキ勝負に持ち込んだ。この立ち上がりがまた強烈だったが、ペコに一日の長があった。それにしても、昨年型でここまで熾烈な勝負をするのだから、マシンの素性もさることながら、ペコのチームメイトになる2023年のバスティアニーニは、さらに強烈な走りを披露することになるのだろう。

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 「レースの間ずっと、誰かが後ろにいることは感じていたけれども、何も考えず、ただスマートに走りコンスタントなペースを維持することをひたすら心がけた」

 とは優勝を飾ったペコの弁。

「ラインを塞ぐことも考えなかった。後ろのラインを塞ごうとすることがかえってオーバーテイクのチャンスを与えることになるかもしれない。だから、可能な限り自分が速く走れるベストラインで走り続けた。そのおかげで、安定して最後まで速いペースで走れたのだと思う」

 この優勝でランキング2位に浮上。首位のファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha)まで30ポイントになった。

「30ポイントはまだかなりの差。そこは考えず、シーズン後半の一戦一戦を丁寧に戦い、状況を見極めながら最善の結果をいつも目指したい」

 と現在の状況について述べ、タイトル争いを視野に入れるのはもっとポイント差が詰まってきてからだ、と話した。

「5~10ポイント差になってから考えたい。今まではチャンピオンシップのことを考えて失敗もしてきたので、シーズン後半戦はタイトルのことを考えず、いつも高い水準で速さを発揮して、勝利を目指すことを心がけたい」

 この調子でペコが波に乗り続ければ、シーズン最終盤には緊張感に満ちた大きなヤマ場がやってくるのかもしれない。

 ドゥカティの1-2に続き、3位のヴィニャーレスは直近4戦で3回目の表彰台。シーズン序盤からアレイシ・エスパルガロが披露してきたポテンシャルの高さは、ヴィニャーレスの場合にも発揮されており、アプリリアの高い性能はもはや誰の目にも疑いようがない。

「ペコが言っていたように、序盤はちょっと苦労しているふうに見えたので、有利に運ぶよう落ち着いて走った。レース後半までがんばったけれども、終盤になると少し問題があらわれはじめた」

 とはいえ、3位表彰台を獲得できたことにはおおいにご満悦の様子。彼がアプリリアのマシンに初めて跨がったのは、ちょうど1年前のミザノテストだった。当時は前途の多難さを予想する声も多く、彼自身もある程度の苦労を覚悟していたようなコメントだった。だが、前向きな努力が実り、あれから12ヶ月で表彰台を常に狙える状態に仕上がってきた。「人には添うてみよ、馬には乗ってみよ」というが、まさに至言である。

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 さて、このトップスリーに続く4位はルカ・マリーニ(Mooney VR46 Racing Team)。前戦のレッドブルリンクに続き、2戦連続の自己ベスト4位。

「週末を通してがんばってきたこの結果には、皆が満足していると思う。金曜はトップファイブから離れていて厳しい状態だったけれども、土曜はまずまずで、今朝のウォームアップでもバイクをちょっと良くすることができた。レースでは気持ちよく、いいペースで走ることができた」

 と、こういった方向のコメントは、なんとなく往年の兄を髣髴させないでもない。

「トップ3の選手たちは自分より少しだけ速く、レース終盤に勝負することができなかった。ペコとエネアはすごい走りだった。マーヴェリックにはついていけて、序盤は彼のほうが速かったけれども、後半になると彼は何度かブレーキでミスをしてワイド気味になっていた。それで最後はこっちに近づいてきたのでチャンスがあれば狙おうと思ったけれど、ちょっと今回は無理だった」

 表彰台まであと1.071秒という結果には、きっと悔しさと手応えの両方を感じたことだろう。

 ランキング首位のクアルタラロは、5位でゴール。最終的にひとつ前のマリーニまで0.428秒。追いつきそうで追いつかない微妙な差を最後まで詰めることができなかった。

「限界だった。怒りを通り越して、ストレスしかない。全力で戦って、あれ以上はできなかったので、その原因を突き止めたい。僕のペースはプラクティスとほぼ同様で、自分ではまったくノーマルな走りだったけれども、オーバーテイクを仕掛けたり他のライダーたちみたいに走ることはできなかった」

 そして、次のように述べた言葉は、ドゥカティ勢との差を暗示するものとしてきわめて象徴的だ。

「とてもフィーリングよく走ることができた。悪くなかった。でも、5位にしかなれなかった」

「いちど10コーナーでまっすぐ突っ込んでしまったことがあったけれども、マリーニの背後にまた戻ることができた。けれども、ずっと喉にナイフを突きつけられているような状態で、勝負を仕掛けることはできなかった」

 ファビオとしては、これからの6戦でなんとしてでも毎回ペコの前で終えたいところだ。ポイント差が30、ということは、たとえば残り全戦でペコが優勝し、ファビオが2位で終え続ければ、ふたりの点差はゼロになってしまうのだから。

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 さて、前戦までランキング2位につけていた兄エスパルガロは、今回6位でゴールしたことにより、ペコと3ポイント差のランキング3番手になった。つまり、首位のファビオとは33ポイント差である。

 とはいえ、悲観的な様子はなく、あくまでポジティブに結果を捉えているようだ。

「ハッピーじゃないよ。けれども悲惨だったわけでもない。今年の最初から、オーストリアとミザノ、アメリカは苦労するだろうと言っていたし、じっさいにアメリカはかなり厳しいレースになった(11位)。オーストリアとミザノは、ともに6位で終えることができた。アッセンの前は32ポイント差だったけれども、今は33ポイント差。だからけっして悪くない。

 今日のレースでは、マーヴェリックのようなペースがなくて、切り返しが特に厳しかった。マーヴェリックはとても力強い走りをしていたけど、僕のレースペースもかなりの水準で、レース中盤は優勝者とほぼ同じくらいのレベルだった。だからハッピーとは言わないけれども、厳しいコースでこの結果だから満足している」

 苦手コースをともに6位で乗り切り、今後は戦いやすいコースが続きそうだ、とも言う。

「これからはダウンヒルだよ」

 と言うあたりは、やはり自転車好きの兄らしい比喩である。

「これから走るサーキットは、過去のレースでもバイクのフィーリングがホントに良かった。だから楽しみだし、チャンピオンシップ終盤はいい戦いになると思う」

 実際に、次戦のアラゴンは去年のレースで4位を獲得している。今年のパッケージなら、さらに好結果を期待するのも当然だろう。

 ところで、今回の第14戦では、負傷欠場のジョアン・ミル(Team SUZUKI ECSTAR)の代役として日本人選手の渡辺一樹が参戦した。MotoGPの経験が乏しい状態で突然の決定だったものの、天性の愛されキャラゆえか、公式サイトの実況でもプラクティス段階からたびたび名前が言及されて注目を集めた。決勝前のグリッドでも、実況インタビューが行われるのは異例のできごとだ。8列目23番グリッドからスタートしたレースは、21位で無事完走。めでたしめでたし。

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 というわけで次回はアラゴンGP。昨年はバニャイアvsマルケスの緊迫したバトルを、僅差でバニャイアが制した。今年は、果たして誰がどんな戦いを繰り広げるのでしょうか。乞御期待。 

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#サンマリノGP

【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と最新刊「MotoGP 最速ライダーの肖像」は絶賛発売中!


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2022/09/05掲載