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レース・イベント

2022年9月11日(日)、神奈川県にある有料道路・アネスト岩田ターンパイク箱根で、二つのイベントが行われた。『モトライダースフェスタin箱根』と『やるぜ!! 箱根ターンパイク2022』である。2つのイベントでターンパイクを借り切ったわけだが、ここでは『やるぜ!! 箱根ターンパイク2022』の様子を紹介しよう。
当日は、パラモトライダー14名にそのツーリング仲間が76名、付き添い10名が参加。さらにこのクラウドファンディングに出資協力した80名が見学にやってきた。ちなみにこの日のボランティアスタッフは150名にも上った。
■レポート&写真:青山義明 ■協力:一般社団法人サイドスタンドプロジェクト




ついに箱根にSSPがやってきた!
夢にも思わなかった夢が実現した

『やるぜ!!箱根ターンパイク2022』を主催したのは、一般社団法人サイドスタンドプロジェクト(SSP)である。このSSPは、ロードレース界のレジェンドでもある青木三兄弟の、三男・治親と長男・宣篤が立ち上げた法人。1998年にGPマシンのテスト中の事故によって脊髄を損傷し、車いす生活を余儀なくされた元WGPライダーで、この三兄弟の次男・拓磨をもう一度バイクに乗せようという企画からスタートし、実際に拓磨がバイクに乗るようになった。そして、「この感動をもっと一般のライダーにも」とバイク事故などによってバイクを降りることになってしまった方を対象とし、『パラモトライダー体験走行会』なるイベントを2020年6月から積極的に開催している。
 

好天に恵まれ、Uターン場所では富士山も顔を出してくれた。またターンパイク各所からは相模湾が見渡せ、まさにツーリングとなった。
各パラモトライダーがそれぞれに友人を招待。「昔一緒に走っていたバイク仲間らと再び一緒に走れる機会を」という配慮の下、大勢のライダーがパラモトライダーの公道再デビューを祝った。

 
『パラモトライダー体験走行会』は、サーキットや自動車学校といったクローズのコースを使用して、“バイクに再び乗ってみる”という機会を多くの障がい者に提供している。この走行会に使用する車両は、下半身での操作ができない拓磨のライディングにも使用したものと同じ、シフト操作を手元で行なえるハンドドライブユニットを搭載している。下半身は、ブーツをビンディングでステップに固定し、太腿部をベルトで締めて固定させる。バイクの動き出しと停止のタイミングでボランティアスタッフが支えることによってバイクの乗車体験が可能となる。当初は拓磨と同じ脊椎損傷による下半身麻痺や足の切断といった障がい者を対象としていたが、現在では視覚障がいなども対象としており、それぞれの障がいに合わせた車両をセットアップし、実際の走行に使用し、厳冬期を除き、毎月のようにこの走行会を開催している。
 

バイクへの移乗、そして発進&停止の際にボランティアスタッフがサポートする。今回ライディングギアは各個人が持ち込むこととなったため、ステップへの足の固定については各個人のシューズをプレートに括り付ける形となった。

 
 2020年からこのパラモトライダー体験走行会を開催しているが、その最終的な目標は、“実際の公道を使用して、パラモトライダーたちと一緒にバイクでツーリングをする”というものであった。神奈川県にある『アネスト岩田 ターンパイク箱根』なら、一般公道でありながらも占有が可能。これを貸し切りにしてしまえば、事故を機に2輪免許を返納してしまっているパラモトライダーでもツーリングが可能になる。できれば10年以内、2030年までには実施したいというのが、スタッフのSSP設立当初からの夢であった。

 そこに、今回『モトライダースフェスタ』と合同で箱根ターンパイクを借りるという話が立ち上がり、急遽計画を8年前倒しし、2022年9月11日(日)にパラモトライダー一般公道走行会『やるぜ!! 箱根ターンパイク2022』の実施に向けてクラウドファンディングを立ち上げ、この日の開催に至ったのである。

 参加パラモトライダーは、SSP側から招待された14名となった。いずれも脊椎損傷および大腿切断の障がいを持つ。今回はツーリングをするということで、通常の走行会で用意するレーシングスーツのレンタルは無し。パラモトライダーは自身のライディングギアを持ち込んで、自分の装備でツーリングすることになる。ステップへの固定については、通常は加工したライディングブーツを使用してビンディングで取り付けていたが、今回はビンディング加工したプレートを各自のシューズに取り付ける形で対応した。各パラモトライダーはそれぞれ一人につき9名まで仲間と一緒にツーリングするということも可能となっており、各参加者がそれぞれ友人を誘って一緒に箱根に行けるという嬉しい企画となっている。
 

「モトライダースフェスタ」のターンパイク走行イベントが終了した正午過ぎから順番にパラモトライダーがスタートしていき、日が大きく傾いた夕方5時には、全14名のパラモトライダーが無事に走行を終えた。
先導役を買って出てくれたのは、地元小田原警察署。会場で参加者やスタッフとの意見交換も行われた。そして2台の白バイ隊員がこのツーリングに参加し、10グループの先導を務めてくれた。

 
 パラモトライダーは、箱根ターンパイクの小田原料金所で、バイクに移乗し、ボランティアスタッフが走り出しと停止時にサポートに入る。走り出してしまえば、そのまま大観山展望台まで駆け上がり、今回特別に用意されたUターン路を使用してまた小田原料金所まで戻ってくるというもの。残念ながら途中で停止をすることはできない。パラモトライダーの前後には、先導車と、緊急時用にタンデムでサポートスタッフが乗り込んだ追走車2台がつき、その後ろに友人たちが一緒に走行することになる。サインハウスのバイク用インカム「B+com」で先導車と追走車との会話をしながら走行ができるようになっている。その走行距離は全長26kmにもおよぶ。そのコース上では、この日集まった友人ライダーズとボランティアスタッフが沿道からこのパラモトライダーたちに声援を送る。好天に恵まれたこの日、スタート&ゴール地点の小田原はまだ残暑が厳しかったが、さすがに大観山展望台近くは涼しく、途中で富士山の姿も相模湾もしっかり見渡せる、まさにツーリング日和となった。(レポート&写真:青山義明)
 

SSP代表理事の青木治親は締めくくりに涙を流しながら感謝を伝えていた。「過去に例のないこの走行会の開催は“隔たりのない社会”の実現の未来に向けた、大きく、そして大切な第一歩です」と語った。この活動がさらに回数を重ねていくことに期待したい。
元モトクロスライダーの横沢たかのり参議院議員は「仲間と一緒に走って、対向車に手を振って、富士山も海も見えて、バイクの楽しみをすべて取り戻した感じです。世界に誇れるこの活動をもっと発信していきたい」とコメント。

 

パラモトライダーひとりにつき9名まで一緒に走行ができるように設定された。阿部一雄さんと一緒に走るのは、VFR750R(RC30)軍団。会場からは「懐かしい~」という声も上がった。
「これだけの一般道をしっかり管理してもらって、白バイに先導までしてもらって、本当にいい催しだと強く思いました。来年以降もまた同じようにここで走れることを心待ちにしています」と中垣良則さん。

 

「楽しかった。常に同じコースを走るサーキットと違って、景色は次々と変わっていくし、路面も整備されているわけではなく、落ち葉があったりして、それはそれでまた楽しくて、いい意味で緊張もありました。何しろ天気が良かったのは最高ですね。この活動が2回、3回とつながっていってほしい」と樋榮 聖さん。
千葉工業大学2輪部の仲間に声を掛け、9名までという枠を大きく超える15名を招待した関口和正さん。枠をはみ出た6名は他のパラモトライダーの友人枠を拝借して一緒に走行。「最初は20kmを超える距離に、長いな~と思ってましたが、走り出してしまったらあっという間でした。ミラーに写る仲間たちのバイクのヘッドライトは本当に感激モノでした」

 

「願っていたこと、でも諦めていたこと、これが今日かなった。これってすごく人生の中で大きなこと。こんな日が来るなんて本当に考えもしなかった。これまでのサーキットとも教習所とも全然違って、もっとバイクに乗りたいという気持ちでいっぱいです」と辰巳晃一さん。
囲 美和さんは「もう感無量です。この感動をどう表現したらいいのか……。SSPと出会ってからのこの一年は本当に人生の転換点になっています。ただ、このSSPがやろうとしているこの活動の重みがありすぎて、この活動を次につなげなきゃ、ということで気持ちがいっぱいです」と。

 

丸野飛路志さんは走行中に義足を落とすというハプニングを経験。「パラモトライダー体験走行会でバイクに再び乗れるようになったけれど、やはり公道は違いますね。22年ぶりの走行は本当に楽しかった。アクシデントはあったけど、ね(笑)。ここまでやってもらえたことにSSPと関係者の皆さんに感謝しかないです」。
事故直後に丸野さんと知り合い、今回一緒に走ることとした古谷 卓さんだったが、丸野さんが義足を落とすというまさかのアクシデントが発生。「でもこのおかげで丸野さんはその後飛ばして走ることができたみたいだし、僕は想定よりもゆっくり景色を見ながら走ることができて、木漏れ日の中をのんびり走る幸せな時間を堪能することができました」

 

栗本秀幸さんは「ワインディングでバイクに乗れる。こんなに早くこういったことが実現できるとは思わなかった。事故をして入院中にバイクを手放してしまいました。もっと早く知っていれば、と悔しくも思ってますが、これからももっとこのイベントが開催されることを期待したいです。それと、バイクを諦めてしまった人に知ってもらえたらと思ってます」
野口 忠さんは「最初にこの箱根のツーリングの構想を訊いたときは、2030年までにはって話だったので、実現する時はもう60越えちゃってるんだろうなぁと思ってたんですけどね。こんなにも早く実現できるとは、ですね。サーキットはサーキットで楽しいんですが、やっぱりこのツーリングってのは楽しいですね。最高でした」と。

 

野口 忠さんの甥っ子となる野口 輝さん。今回のツーリングでも2人で一緒に走行を楽しんだ。「今まで生きてきて一番楽しかった、最高の時間でした。昔に戻った感じで、天気も良く景色もしっかり楽しめました」
車いすYouTuber「現代のもののけ姫Maco」こと渋谷真子さんも取材を兼ねて来場。沿道での参加者の走りを見るだけでなく今回スタッフのバイクのタンデムシートで、この箱根ツーリングを満喫した。「後ろのシートでも良かったけれど、筑波での体験走行会でバイクには乗れたから、今度は自分で走りながらゆっくり景色を楽しみたい」と語る。

 

以前このコーナーでも登場してもらった長田龍司さん。今回も昔の峠仲間である「FUNKY BOY’S」のメンバーが集まった。今回は奥様をサポートライダーがタンデムで同行したこともあって「嫁に走っている姿を見せられてよかった。サーキットと違って空気も変わるし路面状況も変わる、そんな身体に伝わってくる一般道の感覚が実感できてよかった。先導車のいい感じのスピードも絶妙で最高でした」と地元での走行を堪能した様子。
「バチクソ楽しかった!」と渡邊友章さん。「30分くらい乗っているはずなんですが、体感的には10分にも満たないくらいでしたね。途中で沿道でギャラリーの皆さんが手を振ってくれたり白バイとツーリングできたのも特別な体験でしたね~」


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2022/09/23掲載