Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説






2016年に復活したイギリスのバイクブランド/BSA。2021年には、完全新設計の新型車「ゴールドスター650」を発表。2025年春より、日本でもデリバリーがスタートした。そのBSAの次なる新型車が「Bantam350(バンタム350)」と「Scrambler650(スクランブラー650)」だ。2025年7月末に英国ロンドンで両モデルの発表会および試乗会が開催されたのだが、今回はバンタム350の試乗インプレッションをお届けする。
■試乗・文:河野正士 ■写真:BSA
■協力:BSA https://bsacompany.jp、ウイングフット https://wingfoot.co.jp
■ウエア協力:クシタニ、アルパインスターズ

バンタムの歴史は1948年に始まった

 BSA「バンタム350」の発表は、自分にとって少し意外だった。ネットにスパイショットも上がっていなかったし、ブランドが復活してもBSAの動きはスローで、ようやく復活第一弾の「ゴールドスター650」が欧州以外での販売に動き出し、日本でも今年/2025年4月から販売がスタートしたばかりだったからだ。今年初めの英国のモーターサイクルショーで、ゴールドスター650とプラットフォームを共有する「スクランブラー650」が発表され、まずはそのリリースが先だろう、と考えていたからだ。

#Bamtam350
BSA バンタム350/アヴァロン・グレイ。

 それにBSAといえば、単気筒エンジンを搭載した当時のスーパースポーツモデルである名車ゴールドスターがあり、並列2気筒エンジンを搭載した名車揃いのA10およびA65シリーズがあり、タンクバッヂを変えてトライアンフと同じ車体を分け合った並列3気筒エンジン搭載のロケット3がある。かつて英国最大の二輪車ブランドで、世界中の二輪市場を席巻していたBSAのブランド復活の狼煙を高らかに上げるための第二弾市販車としてならば、キャラ強めのビッグネームはまだまだ居る。

 しかし登場したのは、中型排気量の「バンタム350」だった。もちろんBSAにとって「バンタム」というモデルは、BSAの繁栄を支えた重要なモデルだ。バンタムの歴史は、1948年に排気量123ccの2ストローク単気筒エンジンを搭載した「D1 バンタム」からスタートした。そのエンジンは、当時ドイツ最大の二輪車メーカーであったDKWが開発し、それをベースにBSAが改良を加えたものだった。余談だが、当時ドイツは戦後賠償処置として機械や設備の現物提供にくわえて、工業製品の設計図提供も行っていた。D1 バンタムに採用されたエンジンは、その賠償処置の一環としてDKWから提供を受けたもので、同様にその設計を採用したメーカーにはハーレーダビッドソンやヤマハがあるという。

#Bamtam350
発表会会場に展示されていた1949年式125cc「D1 バンタム」。ナショナルモーターサイクルミュージアム蔵。
#Bamtam350
同じく1968年式650cc「A65 ファイヤーバード・スクランブラー」。

 話をバンタムに戻す。バンタムはその後、150ccおよび175ccのバリエーションエンジンをラインナップし、1971年まで永く愛されたという。その間、スタンダードなネイキッドモデルはもちろん、スポーツバージョンやスクランブラーバージョンなどのモデルバリエーションをくわえ、約35万台を販売(この総販売台数にはいろいろな説があり、正確な販売台数は分かっていないという)。一貫して、2ストロークエンジンを採用し、それを活かした軽量コンパクトなモデルとして、イギリスはもちろん、世界各地でBSAを代表するモデルとして広く親しまれていたという。当時は警察や政府の各機関、軍隊などにも広く利用され、教習所の訓練車にも使われたことからも、日本におけるスーパーカブのような、価格や車体サイズ、操作性や耐久性、メンテナンス性に優れたバイクであったことが想像できる。新たにラインナップした「バンタム350」は、かつてのバンタム・シリーズが担った責務を引き継ぐために開発されたのだという。

 したがってBSAは、インパクトではなく、実をもってBSA復活を謳うという手法を採用したのである。「バンタム」というモデルは、それに相応しいストーリーを持っているのだ。

 ではなぜ新生バンタムは、2ストロークエンジンではなく、125でも150でも175ではなく、排気量343ccの4ストローク単気筒エンジンを採用したのか。その問いに対してBSAブランドを持つクラシックレジェンズ社の共同創業者/アヌパム・タレジャ氏は、世界戦略を考えた場合、いま350ccカテゴリーが需要と供給が高いレベルで交差するスイートスポットだからだ、と語った。歴代のバンタムと同じように、現代において多くの人々をモーターサイクルカルチャーに導き、バイクに乗る楽しさを提供するという役割を果たすには、排気量350ccアタリの4ストローク単気筒エンジンを搭載した、軽量コンパクトで安価なモデルが必須だった。新生「ゴールドスター650」を世に送り出す目処が付いた後から、次なるBSAモデルはどうあるべきか考え抜いた。そこで導き出したのが「バンタム350」だった、という。

#Bamtam350
発表会会場および試乗会の発着所は、ロンドンのバイクカルチャースポットとしてすっかり有名になったバイクカフェ&ショップ「Bike Shed(バイク・シェッド)」。
#Bamtam350
BSA バンタム350/オックスフォード・ブルー。

 その「バンタム350」は、なかなかに楽しいモデルだった。跨がった感じは、彼らがライバルと公言するロイヤルエンフィールド・ハンター350に近い。が、ハンターはややスポーティに振った感があったが、この「バンタム350」は、「ど」が付くほどのスタンダードなスタイルとポジションだ。両車ともに前後17インチホイールを装着していることから、シートやニーグリップ部分もコンパクトで、足着き性も良い。現在、英国をはじめとする欧州でロイヤルエンフィールドは人気が高まり、またホンダGB350も今年から欧州に上陸している。イギリスのジャーナリストたちに、そのネオクラシック350カテゴリーについてユーザーの反応を聞くと、概ね良好だと言う。クラシックレジェンズのスタッフに話を振っても同様で、350カテゴリーは人気が高まりつつあり、そのなかでスタイルやパフォーマンスなど一点集中でキャラを強めるのではなく、トータルバランスで良いバイクだと感じてもらうように開発したと語っていた。

 今回の試乗は、スタート前にちょっとしたトラブルがあり、30台が一斉にスタートした試乗グループと行動をともにできず、単独でロンドンの街中を抜け、約50km先にある郊外のカフェを目指した。そのほとんどがロンドン市内の混雑した道路であり、そこは一方通行がアチコチにあり、舗装は荒れていて、速度制限は低めでそこら中にスピードチェックカメラがあり(車体後部を撮影するので二輪車も対象)、何とも走りづらかった。しかし「バンタム350」のホームコースは、このロンドンのように、街を縫うように走る繁雑な道路だ。

 制限速度はほとんど20マイル/h(約35km/h)で、使用するギアは3速で十分だが、あえて4速を使い、制限速度が30マイル/h(約50km/h)まで上がれば5速や6速も使ってみた。さすがに6速はギクシャク感が出てしまうが、4速はしっかり使えるし、ときと場合によって5速も使える。前車にノロノロと追従するときや、信号の変わりっぱなにシフトダウン無しで加速するという、街中のよくあるシチュエーションで、さほど神経質にシフト操作をせずに走ることも可能だ。ロイヤルエンフィールドの350単気筒エンジンのような、ロングストローク感&重いフライホイール感とは違い、軽い爆発感とエンジンフィーリングだが、ギア比と燃調をしっかり造り込んできた、という感じだ。

#Bamtam350
BSA バンタム350/バーレル・ブラック。

 ハンドリングも、良い意味で、極々普通。前後17インチホイールらしい軽快感というよりは、じつに素直で安定感がある。走行中にさほど車体の重さは感じないが、荒れた舗装面の影響を受けやすい。このあたりはタイヤを変えるだけでも、フィーリングはグッと良くなるかもしれない。ブレーキも、制動力は十分。もう少し初期のタッチが欲しい感じはするが、試乗した車両は走行距離80kmで、なにもかも当たりが出ていない感じ。最初の目的地まで50km走っただけでも、エンジンのほかサスペンションや操作系のフィーリングがよくなってきたので、詳細なフィーリングはよく分からなかった。

 そして、ダラダラと走っていたら集団に追いつき、そして目的地の付近になって混雑した街中を通り抜け、少し広い道に出た。そこでようやく6000回転以上エンジンを回し、70マイル/h(約115km/h)あたりまでスピードを上げることができた。そこでのエンジンのフィーリングは、とても良かった。エンジンが5000回転を超えたあたりからエンジンのビート感が高まり、そこからのエンジンの伸びも良い。このあたりはDOHCらしさと言えるだろう。ライバルたちが低回転域での扱いやすいトルク特性をモデルキャラクターの中心に据えていることから、この違いと高回転域での気持ちよさは「バンタム350」の特徴と言えるだろう。
(試乗・文:河野正士、写真:BSA)

#Bamtam350

#Bamtam350
#Bamtam350
バンタム350のライディングポジション。極々自然なライディングポジション。この車格からすれば、ややシートは高めだが、足着き性は良い(テスター/身長170cm 体重65kg)。

#Bamtam350
エンジンは排気量334cc水冷単気筒DOHC4バルブ。最高出力は29hp、最大トルクは29.62Nmを発揮する。BSAを管理するクラシックレジェンズ社は、ほかにもチェコ生まれのJAWAやインド生まれのYezdiという二輪ブランドを展開。このエンジンは、各部を変更し、その両ブランドでも使用している汎用性の高いエンジンだ
#Bamtam350
燃料タンクは、クラシカルなティアドロップ型とエッジの効いたトレンドミックスした形状。タンク後端の幅広さやエッジが効いた少し幅広のシートによって、足着き性は良いが、やや高めの800mmのシート高となる。

#Bamtam350
フロントフォークはインドのガブリエル製正立タイプ。直径320mmのシングルブレーキディスクにバイブレ製ブレーキキャリパーをセット。タイヤはインド大手MRF製ZAPPER-FX3を装着している。
#Bamtam350
リアブレーキもバイブレ製。直径240mmのシングルブレーキディスクに組み合わせる。タイヤはMRF製STEEL BRACE SP-01を装着。スポーティなキャラクターのタイヤである。

#Bamtam350
デジタルメーターディスプレイは、中央の速度計を囲うようにエンジン回転計をデザイン。ギアポジションや走行距離、時計を表示。上部にインジケーターライトを配置する。装着角度が寝ていて景色が反射しやすく、またコントラストが弱く、走行中に見づらいときがあった。
#Bamtam350
リアのツインショックは5段階のイニシャル調整機構付きで、試乗車は最弱から2段目というセッティング。初期の動きが硬い印象であったが、走行距離が伸びれば固さが取れてきた。

●BSA Bantam350 主要諸元
■エンジン形式:水冷4ストローク単気筒DOHC ■総排気量:334㏄ ■圧縮比:11.0 ■最高出力:29hp / 7,750rpm ■最大トルク:29.62N・m / 6,000rpm ■ホイールベース:1,440mm ■シート高:800mm ■キャスター角:29度 ■装備重量:185㎏ ■燃料タンク容量:13L ■サスペンション(前・後) :正立タイプ/135mmトラベル・ツインショック5段階調整機構付/100mmホイールトラベル ■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後)320mmシングルブレーキディスクABS付・240mmシングルブレーキディスクABS付 ■タイヤサイズ(前・後):100/90-18M/C 56H・150/70-ZR17 M/C 69W ■価格未定


2025/08/18掲載