スポーツ&ツアラーとして進化してきたNinja 1000SXシリーズが大きな変化を迎えた。さらに上質に仕立てるように走りの要であるエンジンの排気量アップをした他、各部を熟成した言わば極み版として登場した。今回のテスト車はリアにオーリンズサスペンションを装着しフロントブレーキキャリパーにブレンボを採用するSE。標準仕様にも乗ったのでその極み版としての味付けが明確に伝わってきた。それも含めてリポートする。
- ■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信
- ■協力:カワサキモータースジャパン
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI https://store.56-design.com/collections/spidi、Xpd https://store.56-design.com/collections/xpd
Ninja 1000SXでカワサキが提唱してきたスポーツ&ツアラーとしてのバランス点は多くのファンを魅了してきた。2020年に登場した先代からすでにETC車載器などツーリング必須アイテムはおよそ標準装備し、自慢の水冷4気筒エンジンによるスムーズなパワーデリバリーと、乗り心地とハンドリングのバランスをとった車体により世界でも少数派となりつつあるオンロードスポーツツアラーを体現し続けてきた。
その後継モデルたるNinja 1100 SXは、ボア径はそのままにエンジンのストロークを3mm延長。排気量を1048㏄から1098㏄へと拡大。モデルキャラクターにベストなトルク特性を作り込まれたのが特徴で、パワーカーブでは先代のエンジンよりも5000rpm以下の常用領域において厚いトルクを実現。最高出力値は141PS(104kw)から136PS(100kw)となってはいるが、最大トルク値は113Nmと2N・mアップ。パワーカーブを見る限りその最大値よりもアイドリングからすぐ上の回転領域から先代モデルのトルク値を常に上回るゆとりを与えたのと同時に、最高出力が10000rpm→9000rpm、最大トルク値は8000rpmから7600rpmへと引き下げられている。
吸排気を含む特性の最適化、さらに一次減速比、二次減速比、5速、6速のギアレシオを最適化したという。
エメラルドブレイズグリーン×メタリックディアブロブラックに塗り分けられ、パニアケースや各部にスライダー類のオプションを纏った試乗車は、これまでのSXらしさそのままにパーキングで待っていた。
今回のテスト車はNinja 1100SX SE。スタンダードのNinja 1100 SXが177万1000円なのに対し、198万円となる。SEの特徴はリアサスペンションにオーリンズ製S46ガスショックを採用するほか、フロントブレーキにはブレンボ製M4.32モノブロックキャリパーを採用している。価格差約21万円がフィーリングにどのような差を生むのか。Ninja 1100 SXとも乗り比べてみた。
排気量が増したエンジンからスムーズで豊かな低回転トルクが伝わってくる。発進が楽である、という表現は先代でも同様なのだが、さらにモリっとしたトルク感が加わったようで半クラにして発進したことすら忘れてしまいそうなほどラクラクの押し出し感。走りだしから気持ちがいい。クイックシフターのKQSも、シフト可能な下限回転数が1000rpm下がって1500rpmになったので、一般道の速度域でもクラッチレバーを操作することなくシフトアップ、ダウンが可能になった。これ、速度を問わずこの装備を使うと走りのリズムが楽しいのだ。
そして走り出してすぐに感じたのが乗り心地の良さ。バネレートとダンパーの減衰圧のバランスが絶妙。このあたりは「標準装備」されたオーリンズをカワサキの開発陣がNinja 1100 SX SEをこうしたかったんだろうな、というメッセージが伝わってくるよう。サスペンションセットアップはもちろん、イニシャルプリロード調整、圧側減衰圧、伸び側減衰圧のダイヤルを調整すればある程度の設定変更は可能だが、ベースの造り込みは造り手だけが識っているバイクの特性や「こんな速度域で走りをこんな風に楽しんで欲しい」というシェフの味付けにも似たストーリーがある。そこにオーリンズという名前に対する期待や変化値をわかりやすく伝えてくれているのだ。
その直後に乗ったNinja 1100 SXの標準モデルも味付け的には市街地速度から峠のワインディングまで楽しめるものだったし、これはこれ。しかし乗り心地の上質感さ、足周りの吸収性の良さでSEモデルが一枚上手。例えばタンデムする機会が多いライダーならパッセンジャーにもこの恩恵は大きいだろうな、と市街地のギャップを通過しながらそう直感した。
ワインディングを楽しむ時も、SXの標準モデルがよりソリッドでダイレクトな印象なのに対し、SEは前後のバランスがよく、フロントフォークの動きにも滑らかな感触すら漂い、全体がとても上質。ブレーキの制動力は同等ながら、タッチのダイレクトさにブレンボらしさが味わえる。全体にマイルドな乗り心地なのに、しっかりとした受け止めをする足周りの懐の深さを感じるNinja 1100 SX SEなのだ。
ハンドルスイッチ周りの操作性も短時間の試乗ながら親しみやすくTFTメーターの視認性も先代同様。長い時間をかけて磨いてきたSXというモデル。Ninjaというタイトルが継承される中、GPZ900Rから続くNinjaの無二の系譜がここへと繋がっているんだな、と実感。振り返ればスポーツツアラーというジャンルはアドベンチャーツアラーに取って代わられて久しいバイク界にとってこの存在は宝のようだ。そんな意味でNinja 1100 SX SEはちょっと気になる一台でした。
(試乗・文:松井 勉、撮影:渕本智信)
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:1,098cm3 ■ボア×ストローク:77.0mm×59.0mm ■圧縮比:11.8 ■最高出力:100kW(136PS)/9,000rpm ■最大トルク:113N・m(11.5kgf・m)/7,600rpm ■全長×全幅×全高:2,100mm×805mm×1,190mm(1,225mm ※ハイポジション時) ■ホイールベース:1,440mm ■最低地上高:135mm ■シート高:820mm ■車両重量:235kg ■燃料タンク容量:19L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C (58W)・190/50ZR17M/C (73W) ■ブレーキ(前・後):ダブルディスク・シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:エメラルドブレイズドグリーン × メタリックディアブロブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,980,000円
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