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レース・イベント

パラモトライダー体験走行会 新たな協賛会場で開催
青木三兄弟の、三男・治親と長男・宣篤が立ち上げた一般社団法人サイドスタンドプロジェクトの活動も2年目、13回目となる「パラモトライダー体験走行会」に、今回も3名のパラモトライダーが参加し、これまでの参加パラモトライダーは延べ46名を数えることとなった。
■レポート・撮影:青山義明 ■協力:一般社団法人サイドスタンドプロジェクト https://ssp.ne.jp/






 車いすドライバーとして活躍する元WGPライダー、青木拓磨を再びバイクに乗せるという、2019年の鈴鹿8耐の場で実現した「Takuma Ride Again」のプロジェクトから派生した一般社団法人サイドスタンドプロジェクト(SSP)のプログラム「パラモトライダー体験走行会」。2020年の全6回の開催に続き、2021年もすでに7回目を数える今回は、10月11日(月)に埼玉県にあるファインモータースクール上尾校で開催された。

 青木3兄弟の三男・治親選手が代表理事、長男・宣篤選手が理事として、このふたりが立ち上げたSSPは、事故などで障がいを抱えてしまって、2輪車を諦めた人に再びオートバイに乗ってもらい、オートバイに乗る趣味を一緒に楽しんで行けるように応援する非営利支援団体となる。
 

埼玉県のファインモータースクールの上尾校ではメディア向けの記者会見も行なわれ、(写真右から)臼田和弘代表取締役と青木治親選手、宣篤選手が一緒に写真に収まった。
朝のブリーフィングで挨拶を行った今回の参加者。左から、囲 美和さん、辰己晃一さん、古谷 卓さん。

 
 今回の体験走行会は、このSSPの活動に賛同し、その運営活動にも協力をすることとなったファインモータースクール上尾校で初開催となった。これまで国内サーキット3か所、そして2か所の自動車教習所で体験走行会を開催してきたが、今回その3か所目の教習所として初めて開催となった。ファインモータースクールの臼田和弘代表取締役は「今回SSPの青木さんの思いに共感しましたし、当社の考えに通ずるものを感じましたので、今回協力を申し出ました。今後も協力させていただければと思っております」とコメントしている。

 このパラモトライダー体験走行会は、まずSSP専属の理学療法士が参加者の問診を行ない、健康面や身体の状況を確認したうえで、参加の可否を判断。参加できると判断されたところで、SSPが独自に作り上げたチェアバイク、独自のシフト操作ユニットを搭載したアウトリガー補助輪付きの小型車両による走行ステップアップを経て、大型車両による走行という段階を踏む。
 

理学療法士の時吉直祐さんによる参加者の問診、そして体調などをチェックし、スタッフへのケアのポイントも伝える。
普通のイスに車輪と補助輪をつけたチェアバイク。これでしっかりバランスが取れるよう動作の確認をする。

 
 車両は、半身不随の障がい者に向けて手元でシフト操作が可能となる補助システムを搭載した車両を用意するが、それ以外の障がいによって、随時カスタムをしていくこととなる。バイクは発進および停車時に不安定になるわけだが、数多くのボランティアスタッフがこのタイミングで支えることでライディングを可能にしている。
 

バイクの乗降や発進時および停止時のサポートはもちろん、アウトリガー補助輪の付け替えや各種調整など、ボランティアスタッフが迅速に行う。
今回も20名以上のボランティアスタッフが集結するが、新規参加者もいることから、朝からサポートの仕方の確認を行っていく。

 

今回は4名の障がい者が参加した。

 辰己晃一さんは16歳からバイクに乗っていたが19歳の時に鈴鹿サーキットでの練習走行中に追突されての事故で脊髄損傷(胸椎Th11-12)となってしまった。現在は下半身の不全麻痺で車いすを使用しているものの、つたい歩きは出来るという。事故後はバイクから離れ、障がい者用補助装具などを製造販売するニッシン自動車工業(現ミクニ ライフ&オート)で、障がい者へ商品を提供する側にいるという。6月に開催された鈴鹿でのパラモトライダー体験走行会を見学し、今回の参加となった。走行前には、38年ぶりのバイクに「楽しみと緊張で、できればもう帰りたい」と漏らしていた。
 

朝は期待と不安が混じった状態だった辰己晃一さんだが、走行を終えると次回への期待が大きくなっているようだ。

 
 Th12-L1の脊椎損傷による下半身の完全麻痺の古谷 卓さんは、8月の向ヶ丘自動車学校での走行会、そして9月の袖ケ浦フォレストレースウェイでの走行会に続いて、今回が3回目の参加となった。「日常生活にハリが出てきた」と言い、さらに疼痛(感覚がない下半身に痛みの感覚が出る症状)が軽くなったとも。前回サーキットデビューまでしたものの、路面がウエットだったこともあって、いろいろ試してみたいことができなかったということで、今回はバイク慣れをさらに進め、次回のサーキット走行に向けての練習をしたいということで参加した。
 

今回3回目の体験走行会になった古谷 卓さん。「走ることができる」から「もっと自分の操作で走らせたい」へ本人の想いのステージは上がっていく。

 
 辰己さんと同じく今回初参加の奈佐誠司さんは、18歳の時に峠道の見通しの悪い右コーナーで事故を起こし(その前後の記憶がないという)、その状況はひどいもので、両肺の肺挫傷、脊椎損傷(Th7-8)で3か月の入院を強いられた。脊椎損傷だけでなく、引き抜き損傷もあり左手はグリップを握ることが難しいという。2年前の鈴鹿での青木拓磨のデモ走行を知って自分もバイクに乗りたいと動き回って、ここにたどりついた、という。この日、事故前に着ていた当時の自身のツナギを持ち込むほどの気合いの入れようだ。
 

SSP側でライディングギアをレンタルできるよう用意しているが、奈佐誠司さんは事故の前に作っていた革ツナギで参加した。

 
「壊死性筋膜炎(人喰いバクテリア)」によって右足大腿部から切断し義足で生活をしている囲 美和さんは2回目の参加。25歳までバイクに乗ってツーリングなどを楽しんでいたが、3年前にこの病を発症し、目が覚めたら足がなかった、という。前回の初参加の際には、いろいろなアドバイスを受けて、その操作に一生懸命でバイクに乗ったという記憶があまりなかったことが悔しくてもう一度走りたいと参加した。現在「返してしまった免許を取り戻したい」とAT普通二輪を有効にするための準備をしており、いずれはMTも復活させたいという。
 

囲 美和さんは今回2回目の参加。その傍らには元全日本ライダーである小林 大さんの姿も。

 
 当日は、秋晴れの好天に恵まれ、少しキツい陽射しの下、取材メディアも含めると総勢40名以上がこの体験走行会に参加した。SNSを通じてこの活動を知り、ボランティアスタッフとして初めて参加する方々がいて、ライダーとして参加経験のある全盲の縫田政広さんも今回からスタッフ側として参加。また、前回参加の義足の丸野飛路志さんも今回は付き添いとしてやってくるなど、いろんな人が気軽に立ち寄れる、和気あいあいとした雰囲気の中での走行会となった。また、参加する前に一度走行会見学を促しているこの体験走行会、今回も1名の全盲の見学者が来場してもいる。

 今回の会場は、自動車教習所の定休日を活用する形で、教習コースを貸し切り状態で使用することとなった。複数車線を持つ広い直線路を使用して、まずはアウトリガー付きの小型車両でバイクの基本的な制御ができるかを確認。同時進行でプログラムを進めるのではなく今回は、それぞれ1時間ずつの時間を設けてステップアップをして行く形を取り、参加者のプログラムに合わせ、ライダーの休憩のタイミングでその場で3タイプあるアウトリガーを付け替えながらプログラムを進めていった。
 

 
 SSPで使用する車両はすべて、シフトべダルにアクチュエーターを取り付け、シフト操作を手元で行なえる仕様となっている。が、下半身不随でかつ左手の握力がない奈佐さんに対応するため、SSPでは今回クラッチレバーをハンドル右側に移植し、ハンドルの前方にブレーキレバー、手前側にクラッチレバーという形で操作できるよう改造している。一方左手はハンドルを握れないことを考慮し、ウエイトリフティング選手用のシャフトと手首を固定するサポーターを用意し、手を置くだけでハンドルを押さえることができるようにして走行を行った。

 ライダーとサポートスタッフとの通信用インカム「B-com」は、インカム装着者だけがその内容を聞いていたが、今回からは外部スピーカーを通して会場全体にその内容が流されることとなった。そのため、パラモトライダーのつぶやきはもちろん、実際に走行をできた際の歓喜の声が会場に何度も響き渡ることとなった。
 

SSPが製作する補助輪のアウトリガー付きのデューク。補助輪の角度によって3タイプが用意されており、徐々に角度を上げていくよう、現場でアウトリガーの付け替え作業も頻繁に行なわれた。

 
 走行前は緊張していた辰己さんは「ちゃんと走れることがわかりました。次のステップを目指したいと思っています。まずはサーキットを走れるというところまでもっていきたい」とコメント。「前回は緊張しかなかったけれど今日はしっかり楽しめました」と囲さん。奈佐さんは「言い表せられないくらいに、感激です。自分が歩けるようになるのに近いくらいの感動です」とコメントしてくれた。

※次回は初めて九州での開催となる「パラモトライダー体験走行会」。11月14日(日)、熊本県にあるHSRサーキットで開催予定だ。
 

 



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2021/11/01掲載