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第26回 ホンダ二輪と四輪のネーミングについて =前編=

 ホンダは、”ダックス”や”ハンターカブ”のようにネーミングを復活させたり、また二輪と四輪に同じ車名が使われるなど、ネーミングについては過去から現在までとても興味深いものがあります。すでに、専門誌やWEBなどでネーミングについて紹介されていますが、少し深堀をして私見を交えながら紹介してまいりたいと思います。
 製品に名前を付ける時には、二輪、四輪に限らず商標登録という大きな壁が立ちふさがり、使用できるネーミングが限られます。そのために、記号を用いるなど苦慮している企業が多いですね。ホンダの場合は、二輪の歴史が長く、また1980年代に二輪のバリエーションが急拡大し、それに伴い新たなネーミングが続々と誕生しました。そのような背景から、四輪が1980年代の二輪のネーミングを採用する事につながっています。
 では、二輪から四輪や汎用(パワープロダクツ)にネーミングが移行した例を紹介いたします。なお日本国内で販売された製品を対象としました。

【マイティダックス、マイティ11 】 MIGHTY:力強い意

 古い例としては、1972年に発売されたダックス最強ともいえる「マイティダックスST90」があります。マイティ(MIGHTY)は強いという意味合いから、1985年に発売された乗用管理機(農業トラクター)の「マイティ11(イレブン)」に採用されました。

1972年 マイティダックスST90
1972年 マイティダックスST90 。
1985年 マイティ11
1985年 マイティ11。

 マイティダックスは、オフロードも楽しめるように、90ccのエンジンや前後14インチタイヤにストロークの長いサスペンションを採用するなど、まさしく力強いダックスでした。
 マイティ11は、強制空冷4ストローク単気筒337ccエンジンを採用し、初めて4WS(四輪操舵)を採用したトラクターでした。当時の私は、青山本社のウエルカムプラザの展示担当でしたから、ショールーム内を4WSを駆使して走り回っていました。建前はお客様対応のために商品知識を身につける事でしたが、青山にはトラクターの事を聞きに来るお客様はいませんでした。2年後にはプレリュードに4WSが採用され脚光を浴びることになります。

【インテグラ INTEGRA】 INTEGRATE:統一する、一体化されるなどの意

 1982年8月、日本で初めて二輪車にフェアリングが装着されたモデルが正式に認可されて発売されました。「CBX400F インテグラ」です。この後に、ホンダのインテグラ戦略が始まります。CB750、CBX550F、VT250F、VF400F、MBX80にフェアリングを装着したインテグラタイプを設定しました。
 インテグラシリーズは、1985年のVT250F インテグラ・スペシャルエディションが最後のモデルとなりました。

1982年 CBX400F インテグラ
1982年 CBX400F インテグラ 。
VT250F インテグラ・スペシャルエディション
1985年 VT250F インテグラ・スペシャルエディション。

 四輪では、1985年2月に「クイント」からモデルチェンジしたスタイリッシュな「クイント インテグラ」がベルノ店から発売されました。二輪と四輪のネーミングが同時期に使われるというホンダ史上まれなケースでした。当時、スポーティな四輪をメインに取り扱うホンダベルノ店は苦戦していました。ようやくスタイリッシュで若者に支持されるモデルが誕生したわけですから、早急に新しいネーミングが必要だったと思われます。
 そして、1989年にモデルチェンジし「インテグラ」のみの車名になりました。

1985年 クイント インテグラ
1985年 クイント インテグラ 。
1989年 インテグラ
1989年 インテグラ。

 クイントの名前を残した経緯は知る由もありませんが、たぶん「クイント」のお客様に遠慮したのかもしれません。インテグラは、モデルチェンジ毎にファンを拡大していきました。超人気俳優のマイケル・J・フォックスを起用したときは、ウエルカムプラザ青山にカタログやポスターを求める女性が殺到して、毎日対応に追われていました。
 インテグラは、すっかり四輪ブランドとして定着しましたが、2004年の新製品リリースが最後になりました。

 2012年4月、インテグラが二輪で復活することになります。私は、前年2011年9月に新型エンジン(燃費性能に優れDCT搭載の次世代2気筒)の発表会を担当し、その時に公開したミラノショー出品車のネーミングがインテグラでした。これまでのホンダには無かった二輪から四輪、そして二輪にブーメランのように帰って来たのです。ネーミングには違和感を覚えましたが、決定事項ですからPRに努めるだけでした。
 せっかくの名ブランドでしたが、長続きはしませんでした。次に復活するのはどんな車種になるのでしょうか。

2012年 インテグラ  国内仕様
2012年 インテグラ  国内仕様。

【ラクーン RACCOON RACOON】 アライグマの意

 1980年、50ccスポーツ「ラクーン」が発売されました。当時は原宿にホンダの本社がありましたので「原宿バイク」というキャッチコピーでも宣伝されました。私は原宿本社勤務でしたので、毎朝原宿の交差点付近にラクーンを止めて、大勢の人たちに見てもらうのを仰せつかっていました。車体にはアライグマを表すRACCOONの文字がありました。
 そして、1994年にラクーンが復活します。軽四輪の特別仕様「ストリート G ラクーン」です。良くみると「RACOON」となっています。二輪と比べるとCが1文字なのです。

1985年 RACCOON
1985年 RACCOON 。
1994年 STREET G RACOON
1994年 STREET G RACOON。

 スペルは違いますが、どちらもアライグマを意味しますので間違いではないのですが、違いを出した経緯は分かりません。
 その後、「ラクーン」は1995年の電動アシスト自転車のネーミングにも採用されました。スペルはRACOONです。ただしこれはアライグマを意味するというより、「楽~ん」という意味合いでした。デザイン上、英語表記する必要があったのだと思います。

1995年 ラクーン RACOON (電動アシスト自転車)
1995年 ラクーン RACOON (電動アシスト自転車)。

【ストリーム STREAM】 流れ。傾向などの意

 1981年、ホンダ・スリーター(三輪スクーター)の戦略機種として発売されたのが「ストリーム」です。近未来的なフォルムと乗用車感覚で高級感のある仕様でした。パーキングブレーキが付いて停車時は自立する優れモノでした。
 約20年経った2000年に四輪の「ストリーム」にバトンタッチされました。

1985年 RACCOON
1981年 ストリーム。
1994年 STREET G RACOON
2000年 ストリーム。

 どちらのストリームも流れるようなフォルムということでは共通しています。四輪のストリームは、2012年の製品リリースが最後になりましたが、10年を超えて幅広い層に支持されたミニバンで、今でも街中を軽快に走っている姿を確認できます。

【セイバー SABRE】 SABRE:サーベル、剣の意

 1982年、世界初の水冷4ストロークDOHC V型4気筒エンジンを搭載した「VF750セイバー」が登場しました。エレクトロニクスによる先進技術を満載したスポーツツアラーでした。同時に発売されたアメリカンスタイルのVF750マグナとともに、この後のV型エンジンモデルに大きな影響を与えました。
 1995年、ベルノ店向けの高級セダンとして登場したのが「セイバー」です。クリオ店のインスパイアの兄弟車という位置づけでした。

1982年 VF750 セイバー
1982年 VF750 セイバー。
1995年 セイバー
1995年 セイバー。

 コンセプトに共通点は感じられませんが、四輪のセイバーは、FFミッドシップレイアウト、縦置の5気筒エンジンを搭載していました。どちらも独創的なエンジン形式という点ではつながりがあるようです。
 当時、ウエルカムプラザ青山では、販売チャネルが違うインスパイアとセイバーの両車種を展示していました。お客様から、「どちらの車種を購入すべきか」という相談には上手く回答できませんでした。結局、「お客様の好み次第ですから、展示車をじっくりご覧ください。」というしかありませんでした。

【ビート BEAT】 BEAT:音楽用語で、たたく、拍子をとる、連打するなどの意

 1983年、衝撃的な50ccスクーターが誕生。近未来的なスタイリングに、スクーターでは世界初のデュアルハロゲンヘッドライトを装備。スクーター初の水冷2ストロークエンジンや、二輪初のMFバッテリーなど「初モノ」が満載でした。その中でもV-TAXと名付けられた可変トルク増幅排気システムは、大きなセールスポイント。左足でペダルを踏むと、シャープに吹き上がり加速が楽しめるという2段階の出力特性でした。
 二輪のビートは短命に終わりましたが、1991年に登場した軽四輪オープンスポーツの「ビート」に引き継がれます。

1983年 ビート
1983年 ビート。
1991年 ビート
1991年 ビート。

 四輪のビートは大変な人気で、ウエルカムプラザ青山では乗車されるお客様が長蛇の列になりました。身体が大きな方もいますから、ビートのシートは一週間持ちませんでした。シートの縫い目がほつれてしまうのです。そのたびに新しいシートに替えていました。
 どちらのビートも乗るとワクワクしますから、そういった意味ではネーミングにつながりがあると感じています。

【トゥデイ TODAY】 TODAY:今日、現代などの意

 1985年、550ccの商用軽自動車「トゥデイ」が誕生しました。商用タイプでしたが、スラントしたフロントウインドウからリアに流れるようなフォルムは、見ていてもきれいでした。空力に優れたボディにより、燃費に優れた軽として支持を広げていきました。トゥデイは、1996年の製品リリースが最後になり、その座はライフにバトンタッチされました。
 スクーターのトゥデイは、2002年に発売されました。原付ユーザーの拡大を目的に、中国生産で94,800円という思い切った価格設定にしました。消費税を加えても10万円を切るスクーターとしてテレビの経済ニュースでも取りあげられました。ネーミングのトゥデイは、生活を支える軽自動車で浸透していましたので、違和感なく受け入れられたと思います。ホンダの二輪車は、他社に比べて高いイメージがありました。しかしながら、原付の普及には低価格戦略も必要でした。この頃からホンダ二輪車のグローバル調達が本格化していきました。

1985年 トゥデイ
1985年 トゥデイ。
2002年 トゥデイ
2002年 トゥデイ。

 どちらも生活に根差したミニマムコミューター、働き者のイメージがあります。トゥデイのネーミングは、二輪や四輪などの工業製品以外でも活用できそうです。

【ハミング HUMMING】 HUMMING:ハミング、鼻歌の意

 トゥデイと二輪の関係をもう一つ紹介します。
 1980年、原付スクーターの「ハミング」が誕生。取り回しの良さを追求し、一段と低いシート高を実現した女性向けスクーターでした。
 1994年、軽四輪の「トゥデイ ハミング」が発売。サブネームにハミングが採用されました。

1980年 ハミング
1980年 ハミング。
1994年 トゥデイ ハミング
1994年 トゥデイ ハミング。

 四輪には特別仕様車が多く設定されますので、サブネーム(ペットネーム)として活用される例も多くあります。ホンダは、音楽に関連するネーミングを多く採用しています。このハミングも、鼻歌交じりで楽しく運転できるイメージが伝わってきます。
(前編 了)


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2022/09/16掲載