ハーレーはクルーザーでしょう? カッコ良く、堂々と、そしてのんびりと余裕を持つ走りこそがカッコ良さでしょう? という感覚は決して間違ってはいないのだけれども。先代から「これは、スポーツの視点で見ても完全にアリだぞ!?」と思っていたローライダーSTがモデルチェンジで完全にスポーツバイクになった。うぬぬ、欲しい!!
- ■試乗・文:ノア セレン
- ■写真:Harley-Davidson Japan
- ■協力:Harley-Davidson Japan https://www.harley-davidson-japan.jp/
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、カドヤ https://ekadoya.com/
最近のハーレーは……
最初に白状するが、筆者はバイクを積極的に走らせるのが好きであり、クルーザーというジャンルそのものがあまりヒットしないタイプのライダーではある。が、それでもハーレーならではの哲学や走らせる面白さには一目を置いていて、他にはできない「らしさ」があるとは思っていた。
これまでハーレーのモデルでそんな筆者の感覚に「刺さった」といえば、ストリートボブなど街乗りに特化したような気軽なモデルか、あるいはかつてのVロッドシリーズや今のパンアメリカのような本気のスポーツバイク。王道のハーレーとはちょっと違うところにいるモデル達かもしれないが、それでもそこにはイズムがちゃんとあって、「伊達に老舗メーカーじゃないよな」と納得する場面があったのだ。
そんなハーレー、最近はそのパンアメリカ系の水冷エンジンを搭載するモデルが増えたし、最近当サイトで紹介したX500/350など比較的小排気量で気軽かつモダンなスポーツ性を持ったモデルも出てきた。かつての空冷ビッグツインこそがハーレー!と思ってきた層には「ハーレーは変わっちまった」などとお嘆きかもしれない。し、そうでもないかもしれない。
そんな「最近のハーレー」事情をむしろ好意的に受け取っている筆者だが、そんな中でローライダーは伝統の45°Vツインを空油冷&4バルブにしたミルウォーキーエイト117エンジンをソフテイルフレームに搭載するスポーツクルーザー。レシピは「昔ながらのハーレー」でありオールドファンも納得の構成……にもかかわらず、その内容は筆者のようなスポーツバイク愛好家にもしっかりとアピールするものになっている。
スイッチ類という細かなトコロから、エンジン本体まで
とっても細かい、のだが、こういう所が大切なんだよなぁ! という所を最初に書いておこう。それは、左右のスイッチボックスである。ハーレーといえば伝統的に左右に独立したウインカーボタンがあり、その構成は新型でも同様なのだが、これまでのウインカーボタンは親指から遠く、しかも押した感覚がグニュッとすることが多く「ちゃんと押せたかな?」と感じることも少なくなかった。ところが新型ではその位置が親指に近くなり、しかもしっかりとした「押し感(?)」が出たのだ。同様にモードボタンなど他のスイッチ類も国産車的なしっかりとした「押し感」があり、全くの無意識で操作できるようになった。「そんなこと……」と思うかもしれないが、こうしてライダーと直接触れる部分にマゴつく要素がないとぐっと親しみやすく感じたりするものであり、ハーレーがそこに注力したのが嬉しかった。
そして同様により親しみやすくなったのがエンジンだ。パワーモードについては後述するとして、全体的に大幅に洗練されている。電子制御スロットルの設定が格段に緻密になっているため、右手の入力に対する反応がちゃんと1:1になっていていつでも思い通りの入力ができるし、回転の上がりだけでなく、アクセルを閉じた時の回転の落ちも夢のように素直になった。エンジンからのメカニカルノイズが少ないのはミルウォーキーエイトエンジンになってからの特徴で、今回はそれに加えてミッションのタッチも良くなったと感じる。ハーレー本社からの正式な発表はないものの、ニュートラルから1速に入れた時のショックの少なさや、クラッチを握らずとも回転さえ合わせてあげればスイッとシフトチェンジできてしまう精密さは明らかに従来モデルよりも上。いい意味で国産車的ですらあり「洗練」を感じさせてくれた。
と、当日のハーレー担当者に申し上げたら「その洗練が必ずしもイイ、と言い切れないのがハーレーブランドの難しさですけどね(笑)」と答えてくれたのが面白い。筆者としてはこの洗練を大歓迎したのだが、そう言われてみると従来型のファジーな感覚もまたハーレーらしさだったかなぁ、などと考え込んでしまった。確かに、新型ほどピッとはしていないものの、乗れば従来型ならではのおおらかさや面白さがあり、「僕としてはコッチの方がハーレーっぽくてスキかも」という人がいても不思議ではない。ただ、筆者としては洗練された新型はその代償に何か大切なものを失ったとも思えないのだった。
ハーレーでスポーツする
冒頭に「バイクは積極的に走らせるのが好き」と、ハーレーブランドとは違った趣向を白状してしまった筆者。しかしローライダーSTはそんなスポーティマインドにもしっかり応えてくれる。まずはエンジン、排気量があるのはもちろんだが、同じミルウォーキーエイト117でもローライダーSTに搭載されるのはブレイクアウトのものとは違った「ハイアウトプット」型で114馬力を発生する。これが数値以上に本当に速い!
今回新たにライドモードが追加され、従来モデルのパワー感に相当するロードモードの他にレインモード、スポーツモードを備えることになった。ロードモードでも十分に速いのに、スポーツモードにするとアクセルレスポンスだけでなく高回転域を維持するような走りも許容するような非常にパワフルかつ伸びやかな特性を見せてくれる。323kgと決して軽くはない車重なのにもかかわらず、アクセルをしっかり開けてあげれば弾けるように加速していき思わず「おおおおお!!」と声が漏れてしまうほどだ。
それでいてこのスポーツモード、過敏すぎないのも好印象。中にはアクセルレスポンスをダイレクトにすることで「速い感」を演出するようなモデルもあるのに対して、ローライダーSTはあくまで使いやすいレスポンスを保ったままにパワフルな特性を実現。例えば路面の継ぎ目などで意図せずにアクセルがちょっとだけ開いちゃったような場面で「ウワッ!」とライダーの意図とは別の所で車体が飛び出してしまうような神経質さは一切ないのが素晴らしい。結果としてロードやレインは使わず、ずっとスポーツモードで走っていたのだが、しかししばらくして我に返った。これはダメだ、はしゃぎ過ぎちゃってすぐに法の範疇を踏み越えてしまう……。飛ばし屋こそ、スポーツモードはワインディングや高速道路のために封印しておいて、普段は自制心のためにロードモードにしておいた方がいいだろう。
ちなみにレインモードは優しくて淡々と走るのは良いのだろうが、個人的には他のモードの作り込みがあまりにも良くてレインモードを使う場面があまり浮かばなかった。ただ、各モードはトラコンの設定などとも連動しているため、ウェット路面ではレインモードにしておいた方が安全ではあるだろう。
ローライダーSTをスポーツバイクとしてくれているキモは気持ちの良いエンジンだけではない。倒立フォークや強力に効くブレーキなどフロント周りの絶対的安心感が「ソノ気」を掻き立ててくれる。こんな巨体なのにフロントブレーキをギュッと握り込めばしっかりとピッチングが引き出せ、そこから接地感の豊富な19インチフロントホイールのジャイロが効いてグリーッと弧を描き始める感覚はタマラナイ。重めの車重、フレームマウントのカウルの重量が車体全体にズシっと乗っかり、「決して路面を離しません」というオンザレール感があるのだ。そしてコーナーが回り込んできた場合でも十分なバンク角があるためさらに寝かし込んでいくことができるし、そしてやり過ぎた時に最初に接地するのはマフラーなどではなくステップだということも安心事項。「あ、ここら辺で辞めておかなければ」というバイクとライダーの対話がバッチリなのである。
もう一つ印象的なのは重心の高さだろうか。かつてスポーツスターで本気でスポーツをする人たちはサスを伸ばして車高を高くしていたが、ローライダーSTもどこかあんな感じがある。こんな重たいバイクのハズなのに、絶妙に高い位置に重心がありそれによって重さを感じさせずにヒラヒラと扱えてしまうのだ。
幅広い潜在ユーザーに
ローライダーSTは兄弟機種のブレイクアウトと共に、日本で人気を二分するハーレーのスター商品。「バイクの酸いも甘いも知り尽くした人はローライダーSTを選ぶ傾向にありますね」と説明されたが、まさにそれに納得である。長くハーレーと付き合ってきたライダーからすればハーレーらしさをしっかりと引き継いだうえでの正常進化を楽しめることだろうし、他ブランドから乗り換えてきたライダーにとっては細かいところでつまずくことなくハーレーの魅力にダイレクトに触れることができるだろう。
近年のハーレー全般において、親しみやすく、かつ乗る上で妥協のない進化が一気に進んでいると感じているが、ローライダーSTはハーレーらしさをしっかりと引き継ぎつつもそんなトレンドの代表のような味付けに感じた。幅広い人バイク好きに是非とも触れていただき、感じていただきたい魅力的な一台である。
■エンジン種類:ミルウォーキーエイト117 ■総排気量:1,923cc ■ボア×ストローク:103.5×114.3mm ■圧縮比:10.3 ■最高出力:114HP(85kW)/ 5,020rpm ■最大トルク:173Nm/–rpm ■全長×全幅×全高:2,360×890×──mm ■軸間距離:1,615mm ■シート高:715mm ■車両重量:323kg ■燃料タンク容量:約18.9L ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):110/90B19 62H・180/70B16 77H ■ブレーキ(前・後):ダブルディスク・シングルディスク■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):3,220,800円~