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試乗・解説

Honda NC750X DCT 進化したド定番モデルの実力。
2021年春にフルモデルチェンジしたNC750X。史上もっともパワフルなスペックとクールなスタイルを身につけつつも、歴代NC・Xシリーズのコンセプトを護っている。エンジン、シャーシは軽くなり全体のライディングフィールもスポーティーに。一言で表現すればファン要素を伸ばした新型、となる。ホンダ自慢のDCTとのコンビを含めあらためて報告したい。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI 56design https://www.56-design.com/




スペック、装備も納得。

 2021年に登場した現行NC750X DCT。デビュー1年を経た今、じっくりと乗ってみることにした。個人的に、どこか波間から飛び出したイルカのような躍動感があるスタイルだと感じていて、初代から気になるモデルの一つ。現行型へのモデルチェンジではNCシリーズらしさをキープしつつ、よりスタイリッシュに、スポーティな味付けになった。DCTモデルは99万円のプライスタグを付けていて、6速MT車より6万6000円高い。エンジンスペックは共通ながら、車重はDCT車の方が、油圧変速や2組になるクラッチパックといったメカニズム、電子制御パーツ、パーキングブレーキなどの追加により10㎏重い224㎏となっている。

 今回のモデルチェンジでは多くの部分に手が入れられた。最新の環境規制に適合したほか、エンジン、ブリッジ型のフレームなど従来通りのレイアウトを踏襲しつつも、各部のパーツ使いを見直し、全体に軽量化して、DCTモデルでは先代より7㎏のダイエットに成功した。また、スロットルバイワイヤーの採用やスロットルボアの拡大もあり、パワーとトルクも先代NC750Xの40kW(54PS)6250rpm、68N.m・4750rpmから、43kW(58PS)6750rpm、69N.m・4750rpmに向上した。パワーの発生回転数が上がり、レブリミットも7000rpmにあげられている。
 

 
 NCのエンジンを解析すると明らかだが、ボア×ストロークが77.0 mm×80.0mmと基本的にロングストローク型。最大トルク値も5000回転以下で発生するのも従来通り。パワー特性は、アクセルの開け方によっては、アイドリングから2000rpm、そこから2500rpmまでのわずかに思える回転数の幅の中にNCらしい力感のドラマが潜んでいる。
 また燃費性能もアップグレードしていて、60km/h二人乗り時の燃費値が43km/lへと1km/l向上。WMTCクラス3-2燃費値は28.6km/lとコンマ3ポイント上げている。これはDCTとMTモデルは共通なので、ともにNCシリーズとしては上出来な燃費値となる。

 ライディングモードは4種類から選択が可能になった。SPORT/STANDARD/RAIN/USERがそれで、パワー、HSTC(トラクションコントロール)、エンジンブレーキ、DCTモデルの場合、シフトスケジュールもモードに併せて異なるほか、USERを選択し、各種のパラメーターを好みの値へと作り込むことも可能になった。
 また、グリップヒーター、ETC2.0を標準装備するからツーリング性能が整っているモデルと言えるのだ。
 

 

スロットルバイワイヤーの効果。

 800mmのシート高とステップ、ハンドルバーが作るライディングポジションは上体がリラックスしてツーリングにも適したもの。クロスオーバーモデルながらオフロードの匂いはあまりしない。
 エンジンを始動しNCらしいパルス感ある排気音が耳に届く。聴覚に心地よい音を聞くと、振動は大きくないのにエンジンが鼓動を主張するようで不思議だ。メーターパネルも長方形で面積も拡大されたLCDメーターで情報量が多い。
 DCTモデルのシフトボタンも新しくスマートな印象のものになった。Dにシフトしてあとはアクセルを捻る。4つから選択できるライディングモードは、イグニッションをオンにする度にスタンダードを基点とする決まりになっていて、もし好みに合わせるのであれば左のスイッチからMODEスイッチでまず表示エリアを切り替え、ライディングモードのパートにアンダーバーを併せ、それから上下キーを使ってライディングモードを選択する。
 

 
 先代まではアクセルグリップでワイヤーを曳くタイプだったため、その遊びがイタズラをしていたのか、スロットルボアを拡大し、アクセルの開け口のトルクの出方を開け方によってよりマイルドに出来たのか、あるいはそもそも出だしのクラッチ制御を少し変えたのか、それらの相乗効果なのか解らないが、発進に滑らかさが増してドンと出る印象が減っていた。2020年モデルまではスタンダードだとクラッチのつながりに唐突さを感じる場面があり、もっとじんわり繋げてくれたらな、と思った記憶がある。元気はいい。でもゴーストップが多い市街地だとアクセルワークに気をつかう面もあった。

 シフトスイッチでニュートラルからドライブにシフトしたとき、動き出さないまでも、停止時でもクラッチのフリクションゾーンが動き出さないギリギリまで半クラッチ状態となる。4輪のトルコンオートマにあるクリープこそしないものの、明らかに駆動が後輪に掛かる様子が分かる。そこからの発進もドンとでる感じが減じている。クラッチ制御とライドバイワイヤになったアクセル周りの制御の決め細かさだろうか。

 シフトアップのマナーは相変わらずスムーズ。二つのクラッチが連携した途切れが極めて少ない駆動力。ギア抜け、シフトミスも無し。もちろんエンストの心配も無い。今や多くのモデルにアシスト&スリッパークラッチ的な機構が盛り込まれ、クラッチレバーの操作力が軽くなった。それによりクラッチ操作の正確性がキープしやすくなった。それでも毎度パーフェクトにクラッチとシフト操作をこなすDCTの完璧さには敵わない。クラッチ、シフト操作から解放される分、市街地では周囲の状況に目を配った時に入ってくる情報量の多さに驚くことになる。つまり、自分の頭の空きメモリー領域がグンと広がった印象なのだ。

 不思議なのだが、CVTのスクーターに乗ってもここまではリラックスできない。モデルによって遠心クラッチがつながるセッティングが異なるし、それまではアクセルを開けても動き出さない。渋滞路など、小開度のアクセルでは加速が一瞬遅れ、それがライダーの焦りを呼び、グっと捻ったアクセルで車体がポンと出ることになる。
 そうなるかも知れない、という気構え、身構えを意識するのが意外に疲れるもの。排気量とプレミアムな走りに定評のあるTMAXだと低い回転からスルリと動き出す滑らかさがあるので気にならないが、CVTというよりもスクーターのキャラによるところが多いのかもしれない。
 同じATな乗り物でもDCTはその点で一歩先を行くと思う。
 

 

でもRAINモードがスキ。

 STANDARDモードからRAINモードへ。実は市街地でも低い回転域を使いながら早めにシフトアップし、弱めなエンジンブレーキとなるこのモードが好みだ。海外での試乗取材で体験したスペインやイタリアの市街地のアスファルト、石畳が雨が降ると恐ろしく滑る。そのため、ヨーロッパ系モデルの多くがRAINモードでは動き出し超マイルドに仕立てられている。でもそこまでの路面が少ない日本ではこのRAINモードがSTANDARDでも良いのかも、と思うこともある。

 低いエンジン回転で鼓動感を楽しみつつ走るNCはまるでクルーザーの如き所作だ。この味わいは悪くない。低いアクセル開度、低い回転。でも、ロングストロークで粘りのある特性を活かしつつ走る……。
 今回のモデルチェンジでは3000rpm以上のトルクがお勧めゾーンの一つになっている。そんな領域でキビキビした動きをもたらすエンジンと、オンオフタイヤがもたらす少しおっとりとしたハンドリングがちょっとちぐはぐに感じる場面もあった。標準装備のダンロップ・トレールマックスD609がテスト車の走行距離に比例して後輪のプロファイルが変わっていたのもその一因かも知れないが、このエンジン、このシャーシで今のNC750Xを楽しむのなら、ロードスマート4的なタイヤが欲しいところ。もちろん、現在のアウトドアブームと重ねたら圧倒的にルックスはオンオフ的トレッドパタンを持つD609なのだが。

 そんな思いはワンディングでも同様だった。SPORTモードで走ると、エンジンのパンチを生み出す回転域をさらに使うので、バイクを曲げてバランスさせる時、少々ライダーの仕事量が多くなるような印象だった。流れに合わせたツーリングペースならば全く気にならないが、エンジンのレスポンスが誘う領域に活きたがるモードだとそんなライダーの心境まで変化する。RAINモードで走っているとそこは解消出来るのだが。
 

 

ニューミッドコンセプトは健在なのか。

 高速道路も余裕でこなすNC750X DCT。120km/h制限の高速道路でもラクラクにクルージングができ、先代までよりこのときの滑走感のようなものが増している。一定速度をキープしていても疲れにくい。なんだ、遠慮してないでクルーズコントロールも着けてくれたら良かったのに。とはいえ、遠出の相棒として性能は充分。

 ラゲッジボックスにレインスーツを放り込み気軽に出かけることもできる。そんな点で初代から貫かれる「ちょうど良いホンダ」感は健在。装備、スタイルも進化を続け、スポーティーなエンジンとなった今、これ以上ナニを望む? と完成度を高めたNC750X。DCTの制御も常にアップデイトされている。願わくば、60km/h未満で6速が使えると嬉しい。
 結論を言えば、どんな使い方をしても90点代前半を取る偏差値レベルの高いNC・X。それだけに優秀なツーリングバイクを探している人、DCTってAT免許の人向けでしょ、と思っている人を含め、進化したMTの世界とも言えるDCTは体感してみて欲しい。デビューから10年たった今も周りに埋没しないキャラを持つNCを一度体験してみて欲しい。そんなバイクなのだ。※後編の「燃費編」へ続く。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

並列2気筒OHC4バルブヘッドのNC用エンジン。前傾したシリンダーレイアウトが特徴。700の時代から変わらぬロングストロークタイプで回転馬力よりもトルクで推し進める強さを持っている。現行モデルになってMTとDCTで6速ミッションのギアレシオを共用化。一次/二次減速比はそれぞれ専用となる。全体で先代よりも1.4㎏軽量化されたエンジンはレブリミットが7000rpmに設定された。

 

φ320mmの外径を持つディスクプレートは、ディスク中央にインナーを持たずダイレクトにホイールスポーク部分に締結される。インナーを持たないことで慣性マスの軽量化はもちろん、ホイールのハブ部分の軽さにも好影響を与えている。デュアルベンディングバルブを採用したフロントフォークは細かな路面の入力に対する応答性が上がっているように感じた。

 

スイングアームは角型スチールパイプ製。リアサスはイニシャルプリロード調整が可能。プロリンクを採用する。
歯切れの良い排気音を奏でるマフラー。五角形の本体のエンドはステンレス製のカバーを備えたもの。スイングアーム下側に見えるのはパーキングブレーキ用のキャリパー。リアブレーキはφ240mmのディスクプレートを使う。

 

ステッププレート、ステップ、ブレーキペダルなどデザインにも配慮して全体の質感にあわせたもの。DCTモデルでは左ステップ側にはチェンジペダルを持たない。左スイッチボックスにあるシフトパドルで任意にシフトアップ、ダウンが可能(規定エンジン回転数以内で)。マニュアルモード以外でもそれは可能で、シフトダウン後は一定時間が経過すると自動でATモードに復帰。DCTらしいタイムラグがないシフトが可能だ。

 

シートは前後分割式。ライダー用シートは、後方を幅広でフォームを厚めに、前方は細くタイトに仕上げて足着き性を向上させている。タンデム用シートはテール部分と同一の高さになるようフラットな造形。ガッチリとしたグラブバーを備える。ラッシングベルトの種類によってはラゲッジを固定し難い面もあるかもしれない。リアシートはご覧のように給油リッドを兼ねるため、途中給油必須のロングツーリング派はリアキャリアを装着してそちらに荷物を積みたいところ。オプションリストにはパニアケース、トップケース、ラゲッジキャリアが豊富に用意される。

 

シリンダーが前傾、燃料タンクはシート下に。そんなレイアウトから生まれたトランクスペース。ライダーの膝の間に23リットルもの空間を備える。手前ヒンジで開くラゲッジリッドは、イグニッションキーで開閉。信号待ちでサングラスを出したり、汚れたヘルメットのシールドをウエスで拭くなど、クイックな対応をしたいライダーには開閉行程のアクションが多く、手前ヒンジなため跨がった状態での使い勝手はけして良くない。この点、ちょっと勿体ない気がする。パッケージの基本でもあるだけにナニかソリューションが欲しいところ。ツーリング時に一応もっていくレインウエア、宿に着いてから出す荷物などをしまうのには便利なのだが。

 

LCDモニターを採用したメーターパネル。エンジン、車体周りのパッケージは完成度が高いので、モニター周りでできること、モニターの拡大など次なる改善はそのへんがテーマになるような気がする。私のライディングポジションだと大きなひさしがあまり効果を生まず、空などの映り込みが多く視認性抜群とは言えなかった。ただし、左スイッチボックスから表示切り替え、リセットなどが行えるのは◎。標準装備のグリップヒーターは幅がもう少し欲しいところ。

 

右のスイッチボックスにはスターター+キルスイッチ、シフトスイッチが備わる。シフトスイッチの左側中央にあるグレーのボタンはマニュアル、ATモードの切り替えスイッチ。左スイッチボックスにはターンシグナル、ホーン、ヘッドライトのビーム切り替えスイッチ+パッシングに加え、右上側にあるグレーのスイッチは、上下キー、MODE切り替えスイッチ。ターンシグナル下にあるグレーのボタンは、DCTのシフトパドルが付く。前側にシフトアップスイッチがある。左グリップ内側にグリップヒーターのスイッチがある。使い勝手は悪くないが、少々グリーンのLEDが眩しいので、インジケーターはメーター内のみでも良いと思う。スイッチボックスの右隣にあるのはパーキングブレーキレバー。その解除にはレバーをいったん手前に引き、ロックボタンを押して解除する必要があった。渾身の力でリリースボタンを押すとキャンセルできることもあるが、できれば、4輪の足踏み式パーキングブレーキ同様、ワンアクションで解除できるようにして欲しい。平坦部分では両手を使ってもかまわないが、斜面でキャンセルする際、リアブレーキしかバイクを停止させておく手段がなく、両足を着いていたい場面では不便に感じた。

 

テールランプ、ウインカーなどはLED光源を採用。減速時ABSが作動するとエマージェンシーストップシグナルとしてウインカー両方が素早く点滅する機能も備える。
スクリーンは幅、高さともそれほど大きくないがウインドプロテクション性能は上々。ヘッドライトはLED光源を使う。被視認性においての輝度は高く〇。が、ライダー目線からクッキリとロービームエリアを隅々まで主張をもって照らして欲しい。市街地を走ると、LED街灯、他の車両のLEDヘッドライトに容易にNCのライトが埋没する。個人的にこの10年近くLEDヘッドライトのバイク(海外ブランドのブランド)を使っているが、負けるコトがほぼない。もちろん、同系車とすれ違ってもそのライトが眩しいことも無い。対比で言うと、国産モデルのLEDは灯具なのか、バルブ本体の性能なのか解らないが、パッケージとして照射範囲隅々を照らしているという主張が弱いと感じるバイクが多いのが残念。

 

●NC750X DCT / NC750X 主要諸元
■型式:ホンダ・8BL-RH09 ■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒OHC4バルブ ■総排気量:745cm3 ■ボア×ストローク:77.0×88.0mm ■圧縮比:10.7■最高出力:43kw(58PS)/6,750rpm ■最大トルク:69N・m(7.0kgf・m)/4,750rpm ■全長×全幅×全高:2,210×845×1,330mm ■ホイールベース:1,525[1,535]mm ■最低地上高:140mm ■シート高:800mm ■車両重量:224 [214]kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式:電子式6段変速(DCT) [常時噛合式6段リターン] ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・160/60ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:グランプリレッド、パールグレアホワイト、マットバリスティックブラックメタリック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):990,000円[924,000円] ※[ ] はMT

 



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| 2019年型 NC750X DCTの試乗インプレッション記事はコチラ |


| 2012年型NC750X 『 “DCT”ってホントのところどうなんだ?』はコチラ(旧サイトへ移動します) |


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2022/03/28掲載