HONDA NT1100 車両解説
余裕の超弩級ツアラーは欲しいが、普段の取り扱いを考えると二の足を…のユーザー待望の“スポーツツアラー”が誕生した。
しかも、ユニカム2気筒、1,082cc+DCTを組み合わせたアフリカツインをベースにするなどしてプライスも極力抑えた“リーズナブル・スポーツツアラー”の登場だ。
1989年のXRV650Rでヒストリーが始まった、ホンダのアドベンチャーモデル“Africa Twin”シリーズ。その“Africa Twin”の名を冠して颯爽と復活したCRF1000L Africa Twin。2016年の2月発売以来、このジャンルのリッターモデルとしては驚異的な人気ぶりを発揮してきた。
ただ意外にも、その知名度の高さからはあまり想像できないのだが、この稀代の名車“Africa Twin”シリーズの歴史自体はわずか10年足らずしか無かった。初代XRV650Rの登場から、2代目XRV750Rを経て、3代目のXRV750R、2000年の最終モデルの製造中止までのわずかな期間に超新星のごとく耀き、そして消えていった。まだ“パリ・ダカールラリー”と呼ばれていた当時の壮大なアドベンチャー・ラリーでの活躍を背景に、その存在を強烈に印象付けたということだろう。
それはともかく、新時代のAfrica Twin、CRF1000L Africa Twinは、2014年11月のEICMA2014(ミラノショー)に出展された「True Adventure プロトタイプ」で示した方向性を実際に製品化したモデルといえ、ホンダの英国現地法人であるホンダモーターヨーロッパ・リミテッドが、2015年5月に「2015年中に発売する」と発表したのが正式デビューとなっている。国内登場は、さきにふれたとおり、翌2016年の2月となった。
スタイルは、昨今の“ダカール・マシン”CRF450 RALLYのイメージも取り入れてはいるが、LEDヘッドライトを備えたフェアリングを始め、18リットル入りの大型燃料タンク(初代のAfrica Twinは何と23リットル入り)などにより、まぎれもないAfrica Twin一族のDNAを受け継ぐデザインで、新世代ながらも紛れもないアドベンチャーマシンであることを強烈に主張している。
搭載されるエンジンは、“ユニカムバルブトレイン”や“軽量キャストカムシャフト”などの最新テクノロジーを取り入れた新開発の直列2気筒で、270度位相クランクによる不等間隔爆発及び、ツインプラグの位相点火制御システムなどを採用することで、優れたトラクション性能を発揮するとともに、小気味よい鼓動感も実現している。
また、エンジンの背面にバッテリーなど重量物を集中配置することで、マスの集中化も実現。さらに、軽量でありながら十分な剛性を確保する「セミダブルクレードルフレーム」の採用によってオフロードでの優れた走行性能とオンロードでの安定感のあるハンドリングを両立。荒れた路面でも効率よく動力を伝達する“Honda セレクタブル トルク コントロール”を全車に搭載。Honda独自の“Dual Clutch Transmission”採用モデルでは、オンロードからオフロードまでライダーの感覚に沿ったコントロール性能を発揮するよう3段階のシフトパターンを選択できるようさらに進化している。
このCRF1000L Africa Twinをベースに“オンロード・スポーツツアラー”としたのが、今回登場したNT1100だ。我が国の現実からすればAfrica Twinがその実力を発揮するシーンはほとんど限られており、アドベンチャーを楽しむより、ツアラーとして活躍しているシーンがほとんどとさえいえてしまう。
ならば“オンロード・スポーツツアラー”としてしまった方が現実的ということだろう。
★ホンダ ニュースリリースより (2021年12月17日)
●新型スポーツツアラー「NT1100」を発売
~日常の扱いやすさと長距離走行の快適さを両立したスポーツツアラー~
Hondaは、スポーツモデルとツアラーモデルの融合を図りながら、「快適性」「多用途性」を高次元でバランスさせることで、日常の扱いやすさと長距離走行の快適さを両立した新型スポーツツアラー「NT1100」を2022年3月17日(木)にHonda Dreamより発売します。
●排気量1,082cm3エンジンを搭載し、低速から豊かで幅広く使えるトルクと高回転までスムーズに回る特性を持たせることで、力強くスポーティーな走りを楽しめるパワーユニット。
●一連の変速操作を自動化し、スロットル操作など他の車体操作に集中することで、より確実に安心感を持ってライディングを楽しむことを可能とする、デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)を採用。
●快適で上質なクルージングを楽しめる5段階に手動で調整可能な大型のウインドスクリーンや、ストローク量を確保したサスペンションがもたらす快適な乗り心地。
●アップライトなライディングポジションと、高いアイポイントで得られる解放感と扱い易さに加え、シート各部の厚さを最適化することで、長時間走行時の疲労軽減と快適性に寄与。
●6.5インチタッチパネル式TFTフルカラー液晶のマルチインフォメーションディスプレイや、ゼンリンの浮き上がりと後輪スリップを緩和する、Hondaセレクタブル トルク コントロール(HSTC)などの先進装備を採用。
●別売りの純正アクセサリーに、トップボックスやパニアケース、タンクバッグなど好みや用途に応じた選択を可能とする豊富なラインナップを用意。
- ●販売計画台数(国内・年間)
- 800台
- ●メーカー希望小売価格(消費税10%込み)
- 1,683,000円(消費税抜き本体価格 1,530,000円)
- ※価格(リサイクル費用を含む)には保険料・税金(消費税を除く)・登録などに伴う諸費用は含まれておりません
- 【NT1100の主な特徴】
- ■デザイン
- ・シンプルながらキャラクターラインを強調させるデザインを施して、引き締まった印象と軽快さを与えています。
- ・カラーリングは、マット仕上げで、モダンな印象の「マットイリジウムグレーメタリック」とエレガントな色合いで洗練された印象の「パールグレアホワイト」の計2色を設定。グラフィックを使用せずにロゴも控えめに配置することで、スポーティかつ落ち着いた上質感を表現しています。
- ■車体
- ・車体パッケージングは、各パーツの最適配置により、マスの集中を図ることで、高速巡行時の安定感と市街地などでの軽快性を両立させたハンドリングを実現しています。
- ・大型のスクリーンは、ライダーの好みに合わせて高さと角度を5段階に手動で調整可能。ハンドルグリップとステップの前部に配置したディフレクターとあわせ、高い防風性能を持たせ、クルージング時の快適性に寄与しています。
- ・足まわりは、フロントフォークに倒立式ショーワ(日立Astemo株式会社)製SFF=BP(セパレート・ファンクッション・フロントフォーク・ビッグピストン)を、リアクッションにシングルチューブ分離加圧式を採用。優れた路面追従性による上質な乗り心地に寄与しています。また、ABSを標準装備し、様々な走行状況で安心感のあるブレーキ操作を可能としています。
- ・アップライトなライディングポジションに加え、シート各部の厚さを最適化するなど、長距離走行時の疲労軽減と高い快適性に寄与しています。また、シート高を抑えながらシート幅のスリム化を図ることで、足つき性に配慮しています。
- ■パワーユニット
- ・動弁系にユニカム形式を採用した排気量1,082cm3エンジンを搭載。吸排気系を専用設計とし、低速から豊かで幅広く使えるトルクと高回転までスムーズに回る特性を持たせることで、力強くスポーティーな走りを楽しめるパワーユニットとしています。
- ・デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)を標準装備。クラッチレバーとチェンジペダルによる変速操作をなくし自動化することで、スロットル操作など他の車体操作に集中でき、より確実に安心感を持ってライディングを楽しむことを可能としています。
- ■先進装備
- ・6.5インチタッチパネル式TFTフルカラー液晶のマルチインフォメーションディスプレイを採用。Apple CarPlay、Android Autoに対応しており、それぞれのスマートフォンをUSBケーブルで接続することにより、スマートフォンのアプリケーションを使用することができます。また、Bluetoothによるスマートフォンやインカムとの接続機能を有しています。※1
※1走行中のスマートフォン本体の操作はおやめください。 - ・前輪の浮き上がりと後輪スリップを緩和する、Hondaセレクタブル トルク コントロール(HSTC)を搭載しています。
- ・走行状況に応じた出力特性のモードを選択可能としたライディングモードを搭載。タンデム走行などでの快適な加速感を重視した「TOUR」モード、オールラウンドな特性の「URBAN」モード、雨天時などの走行に適した「RAIN」モードの他、自分好みのモード設定が可能な「USER」モードを採用しています。
- ・長距離ツーリングなどでの快適性に寄与するETC2,0車載器を装備したほか、巡行時に便利なクルーズコントロールを搭載しています。
主要諸元
車名型式 | 8BL-SC84 | |
---|---|---|
NT1100 | ||
発売日 | 2022年3月17日 | |
全長×全幅×全高(m) | 2.240×0.865×1.360 | |
軸距(m) | 1.535 | |
最低地上高(m) | 0.173 | |
シート高(m)★ | 0.820 | |
車両重量(kg) | 248 | |
乾燥重量(kg) | – | |
乗車定員(人) | 2 | |
燃費消費率(km/L)※2 | 30.5(国交省届出値 定地燃費値※3 60km/h 2名乗車時)★ | |
19.3(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)※4 | ||
登坂能力(tanθ) | – | |
最小回転小半径(m) | 2.8 | |
エンジン型式 | SC84E | |
水冷4ストローク直列2気筒SOHC(ユニカム)4バルブ | ||
総排気量(cm3) | 1,082 | |
内径×行程(mm) | 92.0×84.1 | |
圧縮比★ | 10.1 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 75[102]/7,500 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 104[10.6]/6,250 | |
燃料供給装置形式 | 電子制御燃料噴射装置[PGM-FI] | |
始動方式★ | セルフ式 | |
点火方式★ | フルトランジスタ式バッテリー点火 | |
潤滑油方式★ | 圧送飛沫併用式 | |
潤滑油容量(L) | – | |
燃料タンク容量(L) | 20 | |
クラッチ形式★ | 湿式多板コイルスプリング式 | |
変速機形式 | 電子式6段変速(DCT) | |
変速比 | 1速 | 2.866〈2.561〉 |
2速 | 1.888〈1.761〉 | |
3速 | 1.480〈1.375〉 | |
4速 | 1.230〈1.133〉 | |
5速 | 1.100〈0.972〉 | |
6速 | 0.968〈0.882〉 | |
★減速比1次/2次 | 1.863×2.500 | |
キャスター★(度) | 26°30′ | |
トレール★(mm) | 108 | |
タイヤサイズ | 前 | 120/70ZR17M/C 58W |
後 | 180/55ZR17M/C 73W | |
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ダブルディスク |
後 | 油圧式シングルディスク | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック式 |
後 | スイングアーム式(プロリンク) | |
フレーム形式 | セミダブルクレードルフレーム |
■道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)
※2 燃料消費率は定められた試験条件のもとでの値です。使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります
※3 定値燃費値は、車速一定で走行した実測に基づいた燃料消費率です
※4 WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます