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試乗・解説

SCREAM! 17000rpm再び Kawasaki ZX-25R
カワサキがやってくれるはず……とのウワサはかねがねあったが、本当に250ccの4気筒を発売してくれ世の中を驚かせた。まさか本当に出すとは、ね。かつての4気筒250を知る世代も知らない世代も興味を示し、大変よく売れて買いたくても買えない状況にあるとか。今回はミスター・バイクBG1月号『現行車ニチギチレポート』との合同企画でパラツインのニンジャと同時試乗、そちらの記事も併せて読んでいただければ幸いです。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信 ■協力:Kawasaki ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/ アルパインスターズ https://www.alpinestars.com/




タイムスリップしたかのような

 250ccで4気筒と言ったら、1気筒がわずか62ccちょい、それで4バルブ・DOHCなんだから超精密機械である。ベテランライダーからしてみれば「そんなの80年代では当たり前だったよ」という認識もあろう。ただ80年代というのは今の基準で言うととてもじゃないが「当たり前」とは思えないことが普通に起こっていた時代。30年以上が経った今の「当たり前」の中では、250cc4気筒はぜんぜん当たり前ではなく、そんなものが現在存在するという異様さにみんなヤラレているのだろう。
 実車を前にしても、今風のデザインではあるものの、シンプルに250ccの4気筒であるということだけでもどこかタイムスリップ感がある。今、こんなものが存在していいのか? 的な違和感というか……それがZX-25Rをよりプレミアムな存在にしてくれているのだろう。実現させてくれたカワサキの英断を支持すると共に、そしてココ大事だが、なんとクイックシフターの付いていないスタンダードモデルは82万5000円という価格設定。ライバルのパラツイン勢が高値化していることで、結果として大差ない価格で登場となったのだ。戦略的な価格設定というべきか企業努力と言うべきか……。このタイムスリップマシンを、一部の富裕層だけの道楽バイクとせずに、若者も含めた多くのライダーが手を出せる価格としたのは本当に素晴らしいことだと思う。
 

 
 初めての試乗で言いたいことはたくさんあるのだが、やはりエンジンがまずは核となるだろう。アイドリングしている段階で、現在一般的となっている180°クランクのパラツインが一様にバラバラバラバラと言っているのに対し、こちらはコーッ!と整った音。4気筒なのだから当たり前といえばそれまでだが、250ccでこの音でアイドリングするバイクはもう20年ほどなかったのだ。非常に洗練された、緻密な音にまたもやプレミアム感やタイムスリップ感に包まれる。「へーぇ、本当に4気筒だ!」なんて(疑っていたわけではないが)改めて認識する。
 走り出すとアクセルの自然なツキが好印象。アクセルワイヤーの存在感があったため後に電子制御だと分かった時には驚いたほど、とてもナチュラルだった。カワサキは時として「なんでよ!?」というちょっと雑にも感じてしまうアクセルレスポンスのバイクを出すことがあるが、逆に「こんなこともできるの!?」と惚れ込んでしまう超絶アクセルフィーリングのバイクを出すこともある不思議なメーカー。ちなみにZX-14Rといったトップモデルが後者。ZX-25Rも同じレベルでの作り込みがされていると思うと嬉しくなる。
 パワーモードも設定されているが、250ccのパワーだと思えば迷わずフルパワーで発進。当然ではあるが低回転域ではそんなにトルクフルなものではなく、特に大排気量慣れしている人は意識的にシフトアップをしないようにして、さっさと高回転域へタコメーターを導いた方が良いだろう。6000回転付近まではエンジンにちょっとしたフリクション感みたいのがあり、そこを超えるまでは助走という感じで普段はあまり使うことのない領域となる。
 6000回転も使わない領域があるの? と思うと不思議な感じもあるが、例えば9000回転チョイぐらい回るビッグシングルなどで3000回転以下はギクシャクして使えない、なんてことはけっこうある。そうすると回転域のうち、使えるのは65~70%ほどということ。ZX-25Rは17000回転も回るのだから、最初の6000回転についてはあまり気に留めることもないだろう。
 6000回転を超える頃から4気筒らしい盛り上がりが感じられはじめ、8000回転からは楽しいパワーへと変化、本格的に気持ちが良いのは12000回転から上だ。2気筒にはないグンッとした盛り上がりがあり、ここからレッドまでの領域でタコメーターを躍らせるとまるでレーサー気分。排気音もかなり大きいため縁石がサーキットの赤と白のシマシマに見えてきてしまうほど「その気」になってしまう。忙しくギアチェンジしながらレッドゾーンまでパワーを振り絞るように回し切る快感は250cc4気筒ならではである。ベテランライダーにとっては懐かしく、初心者には「こんな世界があるのか!」と惹きつける魅力がある。
 

 

誰にでも優しい車体

 4気筒のエンジンばかりがトピックになりがちだが、ハンドリングの方はエンジン以上に好印象となった。2気筒よりは重い4気筒のエンジンが搭載され、マフラーも腹下に位置することもあって、バイクの重心はかなり低く、前の方に位置し、マスが集中している印象。スポーツバイクは重心が高い方が軽くてスポーティという考え方もあるが、逆にZX-25Rは重心が低いからこそ地面に吸い付くような感覚があり、少ないモーメンタムでコロコロと向きを変える安心感や気軽さがある。軽量なトレリスフレームや前後サスペンションの設定など車体全体で実現していることではあるだろうが、4気筒というエンジンのサイズ、重さ、長いクランクから生まれるジャイロなどがこの感覚に寄与しているとも感じられた。
 特にフロントの安心感は特筆もので、峠道によくある減速帯や路面が荒れているような所を通過してもバタバタすることなく、シタシタッといなしていく感覚は高級車のよう。倒立フォークも効いているのだろう。パラツインの方では「サスをもう少しセットアップしていきたい」と感じる部分があるのに対して、こちらはなにも手を加える必要が感じられない。そしてこのフロントの安心感から、路面やライダーの技量を問わずどんどんとスポーティな気持ちにさせてくれる。こういったスポーツマインドをもって走る上で、一点だけ手を加えるとすれば、フロントブレーキの強化だろうか。とても扱いやすいのだが、フロント周りの安心感が高いだけに絶対制動力がもっとあっても良いと感じた。パッドだけ、より強力なものに交換したらなお楽しめそうである。
 

 

実用領域はカワサキらしく確保

 カワサキは昔からナンバーの付いているバイクについては、公道で楽しく便利に乗れなければいけない、という考え方を一貫して持ってきたメーカーだ。だから無理なポジションや突飛な車体設定は少ないし、どんなにスポーティなバイクでも大抵は快適性や利便性も考慮してくれている。ZX-25Rもしかりなのだが、同時に乗ったパラツインに比べるとだいぶスポーツ方向というか、趣味方向に振っているとも感じられた。
 エンジンについては、高回転域の楽しさに対して低回転域のトルクの細さは(1気筒が125ccほどあるツインと比べるのも酷ではあるが)どうしても感じてしまう部分。四輪車に続いてワインディングを流していても、ちょっと登り坂になると失速してしまい1速ないし2速ギアを落とす必要があったりするし、排気音の大きさもスポーツマインドでいる時は楽しいが、ツーリングシーンではちょっと気になるかもしれない。
 なお、パワーモードのローパワーも試したところ、多少レスポンスが緩慢になったような気もするがそこまで大きな違いは感じられなかったというのが正直なところ。トラクションコントロールについては一度も介入することはなかった。
 車体については、ツイン比でかなりスポーティな前傾ポジション。シートも若干高く感じられ、それらから生み出される姿勢はコンパクトなクラウチングスタイル。ツーリングできない程ではないが、エンジン同様、やはり使い方がもう少しピンポイントかもしれず、例えば街中での見晴らしやタンデム性能はいくぶんトレードオフされていると思う。またコンパクト故、筆者のように長身だとハンドルをフル切りした場合ヒザに当たってしまうということもあった。もっともそれは倒立フォークを採用しているにもかかわらず大きなハンドル切れ角を確保している証拠でもあるが。
 荷掛けフックや独立タイプのヘルメットホルダーを備えているのはさすがカワサキ。加えて別体式ETCが収まるスペースがちゃんと確保されていたり、シートもペラペラではなくちゃんとクッションがあったりと、公道を走る上で便利な機能はやはりちゃんと備えておりありがたい。また上級バージョンのSEについてはクイックシフターの他フレームスライダーといった実用装備も標準となっている。
 

 

速いの?

 シンプルな質問である。果たして今の250cc4気筒は「速いのか」。
 これはストレートな問いであるからこそ、ストレートに答えるのが難しい。今回メインで走ったワインディング路においては、もちろんスポーティで楽しいということはあるが、ツインの方のニンジャでついていけないかといえばそんなことはないと思う。4気筒の回し切った時のパワーに楽しさはあるが、速度域が限られ、状況が刻一刻と変化する峠道においては、ツインのフレキシビリティが活きる場面も多く、またミスからのリカバリーなどはツインにアドバンテージがあるからだ。
 一方で例えば高速道路や、関東で言えば箱根のターンパイクのようなハイアベレージなワインディングなら、4気筒のパワーが存分に解放できるZX-25Rが速いだろう。
 サーキットにおいても似たようなことが言える。1周が1kmほどまでのコースならば軽量でトルクフルなツインの方が有利、逆に国際基準のような大きなコースならZX-25Rが有利なはず。カワサキではZX-25Rのワンメイクレースやサーキットイベントも企画しているが、その会場が鈴鹿やもてぎという大きなサーキットであるというのもそれを表しているだろう。スピードの乗る、広いコースで思いっきり高回転域を使い倒す楽しさ、またそこからキャンキャーン!!とシフトダウンする興奮。こういった場面でこそ楽しさや速さを一番味わえるはずだ。
 よって、普通に公道で走っているぶんには特別「速い!」と感じることは少ないのではないかと思う。高速道路や広いサーキットに持って行って初めて、ツインにはない高速域での速さを楽しめるのではないだろうか。
 

 

私的雑感

 このZX-25Rでとても印象が良かったのは、フィニッシュの高級感。ツインもこの4気筒も生産はタイ王国。アジアで作られるバイクのクオリティは今や大変に高く何も注文を付けるようなことはないものの、ツインの方はどこかそういった大陸系の香りというか、コストにも気を使って作っています感があるのに対して、4気筒の方は同じタイ生産にもかかわらず「お金かかってますね~!」というフィニッシュが、見た目だけではなく乗り味にも強く表れていると感じた。
 すぐに目に入る部分だけでも、例えばブレーキやクラッチレバー根元に握り代の調整機能がついていたり、トップブリッヂ周りの処理に高級感があったり、または凝ったフレームやスイングアームのデザインやラジアルタイヤの装着など、自然と滲み出てくる「ワンランク上」感があった。4気筒にしてはかなり価格をかんばっていると思うが、こういった仕上げの部分で妥協がないのはとても良いと思う。なおクラッチの軽さは特筆もので、アシスト&スリッパークラッチ採用は大歓迎である。
 もう一つ興味深いな、と感じたのは、タイヤサイズの選択、もといホイールのリム幅の選択だ。タイヤはフロント110、リア150のラジアルタイヤなのだが、ホイールのリム幅はフロント3.5、リアが4.5なのである。通常、3.5のリムには120幅のタイヤが一般的、そして4.5のリムは150もあるが、160幅のタイヤを装着する方が自然だろう。だがZX-25Rはいずれもリム幅に対してワンサイズ細いタイヤを装着しているのだ。
 これにより、タイヤのラウンド形状は緩やかなものになり、ZX-25Rの優しい肌触り、スローペースや浅いバンク角でも常に感じられる安心感はコレによって生み出されている部分も大きいのではないかと思うのだ。逆に言えば、一般的にリム幅に合っているとされる120と160タイヤを前後に履けば自然と車高や重心が上がり、タイヤは尖がったプロファイルになり、途端にサーキット走行大歓迎なスポーティさが増えるはずだ。そう考えるとタイヤサイズを変えるだけでかなり違った運動性を引き出せそうで、開発者が意図したかどうかはわからないが、気軽に色んな楽しさを追求しやすいとも思った。
 

 

若手ライダー、これを経験しておくべきでしょう!

 ではどんなライダーにこのバイクを薦めるかといえば、あえてあまりバイクの経験が深くない、若手ライダーとしたい。というのも、バイクブームを生き抜いた歴戦のオジサンライダー達は既に250cc4気筒の世界を知っているし、今や大排気量も体験済みの熟練ライダーが多いだろう。それらライダーがZX-25Rに乗ったら、懐かしさや楽しさは確かにあろうが、感動までするにはサーキットなどでヒリヒリの極限を味わわないといけない気がする。また前傾姿勢もツインに比べるとそれなりにあるため、腰や肩に爆弾を抱える年齢層にはネックになるかもしれない。
 対して若手ライダーは4気筒250ccというここ何年もなかったエンジン形式を実体験として味わってほしいというのがある。250ccはツインが当たり前の世の中で、「こんなエンジンもあるのか」「そしてこんなエンジンはこんな感じなのか」と味わい、シンプルに感動してほしい。
 価格設定含めて、若手ライダーが手を出せるZX-25R。通勤通学にも使えるような実用性もある。そして今乗っておけば10年後、20年後、さらには内燃機そのものの存続が怪しい30年後に話のネタになること間違いなしだ。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

ライダーの身長は185cm。

 

マフラー出口を避けるように湾曲したスイングアームは見た目にも非常に長い。リア周りがすっきりしておりスタイリッシュ。リアサスは地面に対して水平に近いホリゾンタルタイプ、ニンジャ1000などと同様のレイアウトだ。これもスーパースポーツハンドリングに寄与するそう。プリロード調整可能。

 

17000回転からレッドゾーンが始まる4気筒エンジン。かつてのZXRのように18000回転などもっと高回転型にすることも可能だったというが、公道ユースでの現実的なトルク特性などを考慮してこの回転数に設定。45馬力、ラムエア加圧時は46馬力を発生。

 

ツインのニンジャでは車体右側に出ていたマフラーに対し、こちらは腹下に大きなタイコを持つタイプ。マスの集中や車体の低重心化などに寄与するだけでなく、スリムゆえに駐車時に気を遣わず済むことや、停車時に触ってしまって火傷をするようなことも防げる良いチョイスに思う。
ステップはわりにスタンダードなもの。ペダルがスチール製のため曲げてしまっても気軽に曲げ戻せるのは魅力だろう。SEモデルではクイックシフターが標準装備となる。

 

φ37mmのSFF-BP倒立フォークを採用するフロント周り。ホイールは3.5インチ幅のリムに110幅という、ワンサイズ細めのラジアルタイヤを装着する。ブレーキはシングルディスクながらラジアルマウントのキャリパーを採用。コントロール性は高いが、スポーツマインドの人はワンランク制動力の高いパッドを選ぶとなおよさそうである。
ニンジャシリーズに共通するLEDヘッドライトとその周辺の細かなツノ。センター部にはラムエア用の新気取り入れ口が空いている。上級バージョンのSEモデルではスモークシールドが標準だ。

 

スポーティに見えるシートは実はけっこうクッションがあり快適性も確保されている。タンデムシートの取り外しはしやすく、さらにワイヤー引きでライダーのシートもワンタッチで着脱可能、ETCはもちろん、バッテリーへのアクセスも容易だ。タンデムシート下にはETCユニットを収めるスペースがしっかり確保され、さらにSEモデルではUSB電源も備える。

 

トップブリッヂ下に設定されているハンドルはそれなりに前傾が厳しいが、そのおかげで自然とライダーの重心がフロントに載り、あの旋回性が生まれているとも言える。またがっている時に目に入るトップブリッヂ周りの作り込みなどは高級感があり、また左右のレバーには握り代の調整機能も付いている。左スイッチボックスにあるスイッチでパワーモードやトラコンの設定ができるのだが、これもとても操作しやすく、また直感的にできてわかりやすかった。
タコメーター文字盤に「20」の文字があることに興奮する。実際にはレッドに入ったすぐ後にレブリミッターが作動する。メーターは燃費や航続距離といった各種便利表示の他、ETCの表示も内蔵。

 

テールライトはツインのニンジャと共通のようだが、テールカウルのデザインは微妙に異なっている。シャープに跳ね上げているがナンバープレートホルダーに泥除け機能も付いていて実用的。ちなみにこのホルダーは簡単に取り外すことができサーキット走行への準備もスムーズだ。
エンジン幅はあるはずなのに、フレーム及びタンクはかなりスリムに作られており、ホールド性が高いだけでなく足着き性にも寄与していると感じる。タンク容量は15Lとツーリングにも十分対応。

 

車体左側には独立したヘルメットホルダーを装着。ストリートユースに重宝する。シートに挟み込むタイプのヘルメットホルダーでは駐車時にいちいち荷物を降ろさなければいけないため、この独立タイプはツーリングシーンでも活用する場面は多いだろう。荷掛けフックはカウル後方に2つ、そしてタンデムステップのプレート部もフック形状になっている。
カウル左右につくフレームスライダーもSEで標準装備。スタンダード仕様ではオプション設定だ(2万8160円)。このほかSEはホイールにリムテープが付く。

 

Ninja ZX-25R [SE] Specification
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■型式:2BK-ZX250E ■総排気量(ボア× ストローク):249cm3(50.0× 31.8mm) ■最高出力:33 kw(45 PS)/15,500rpm ■最大トルク:21N・m(2.1 kgf・m)/13,000 rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:1,980 × 750 × 1,110mm ■軸距離:1,380mm ■シート高:785mm ■タイヤ(前・後):110/70-17M/C 54H・150/60-17M/C 66H ■燃料タンク容量:15 ?■車両重量:183kg[184] ■車体色:ライムグリーン×エボニー、メタリックスパークブラック、メタリックスパークブラック×パールフラットスターダストホワイト ■メーカー希望小売価格(消費税込み):825,000 円[913,000円]] ※[ ]はSE

 



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2020/12/28掲載