Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

僕の初めての4気筒はFWだった KAWASAKI Ninja ZX-25R試乗
2020年の話題を独占した感のある、25年ぶりの4気筒250cc。
「あの頃」を知っている世代は、ZXR250と比べてどうなの? と思うしそうでない若いファンはNinja250と比べてどうなの? と思うだろう。
ハッキリ言うと、半世紀ぶりの4気筒250ccは、そんなびっくりするほど速くはない。
それでも、2020年現在、この4気筒250ccがラインアップされているという事実こそがいちばん大事なことなのだ!
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:南 孝幸 ■協力:カワサキ https://www.kawasaki-motors.com/






 
 初めての4気筒250ccモデルは、すでにみなさんご存知のとおり、1983年のスズキGS250FW。当時16歳の僕は、まだ原付免許すら取ることが許されない高校1年生。三ナイ運動強力推進校だったからね。
 月刊オートバイで、そのFWの登場を知ったときは、ホントに心底驚いた。当時、バイク好きはクラスにたくさんいたんだけれど、その中のN君と話した内容すらざっくり覚えているほどだ。今日の原稿は長いぞぉ。

N「ヒロ知っとるや? ニーゴーで4気筒の出たとぞ」
 僕は長崎出身。当時もちろん、長崎弁だ。N君は本屋のS君の中学時代からの親友で実家が金持ち。毎月バイク雑誌をいち早く入手して、1日売り、6日売り、15日売り、24日売りと、月に何冊も学校に持ってくる役割だった。
僕「うそば! FWって400のことじゃないとや?」
 僕は当時、免許を取ってRZ50に乗るのが人生の夢だった高校1年生。いつかはRZ250も欲しいけど、35万4000円(今でも覚えているこの価格・笑)もするバイク、大人になっても買えないだろうなぁ、ってずっと思ってたコだった。可愛い(笑)。
 

国産初の4気筒250ccモデル、スズキGS250FW。4気筒=高性能というイメージ通りではなかったが、このモデルがなければ4気筒250ccは生まれなかったかも。
それまで、日本のメインカテゴリーだった400ccの「おさがり」的イメージだった250ccが独立独歩の道、スポーツバイクへの道を歩み始めたのがこのヤマハRZ250だった。

 
N「マッジぞ! 250で4気筒って! 水冷ぞ水冷!」
僕「RZが2ストでVTがVツインだけん、スズキは4気筒にしたとかねぇ」
N「乗りたかなぁ。どげん速やかとやろうか」
僕「4気筒やけん、RZよりVTよりスゴかとやろうなぁ」
N「そらそうぞ。4気筒ぞ!」
 は~。ため息をつきながら、雑誌広告に掲載されているFWの「この写真は実物大です」との説明文付きのピストン、コンロッド写真を眺めていた。
 4気筒だから速い……。メカニズムのことなんか何も知らない、1983年の高校1年生の会話ですのでお許しください。

 けれど、その後に高校を卒業して原付免許を取って、すぐに中型免許も取った浪人生の僕は、運命のいたずらか、同居していた兄のツテで250FWを買うことになる。たしか1万km弱走った中古車を、25万円じゃなかったかな。兄が15万、ぼくが10万円出した……はず。兄の「FW譲ってくれる、って人がおるけどどーする?」って誘いに飛びついたのは僕だ。
 そして、初めて乗ったFWは、本当に滑らかなエンジンフィーリングで……遅かった。えぇ拍子抜けするほどに遅かった。初めての中型バイクだって理由以上に重く感じたし、整備状態も良くなかったのか、ぐにゃぐにゃするハンドリングだったのを忘れない。
 静かなサウンドで、マフラーからふぉー、ふぉー、ふぉー、ってきれいな音が聞こえたけれど、一緒に走った友人のXL250Sに、そして兄のCB250RSに信号ダッシュで簡単に置いて行かれた。そんなバカな……。4気筒なのにオフロード車より単気筒より遅いって!
 GS250FWって、そういうバイクだったのだ。
 

’80年発売のRZ250を打倒すべく生まれたホンダVT250F。4ストロークで水冷、しかもV型、しかもDOHC4バルブという当時の超ハイメカ250ccスーパースポーツ。
GS250FWの後に生まれた4気筒250ccは、このヤマハFZ250フェーザー。250ccらしい軽量なボディと、4気筒エンジンらしい超高回転エンジンで4気筒ウォーズの発火点に。

 

4気筒250ccは当たり前だったあの頃

 それから幾年月、僕がこの仕事を始めたのは1988年。時はすっかりレーサーレプリカブーム真っただ中、大型免許も取ったし、当時の愛車がGS650Gだった僕は、今度は仕事としてもバイクに携わり、乗るようになった。
 そして、いつかの企画で、FZ250フェーザーに乗ることがあったのだ。たしか中古車試乗の企画で、ショップからお借りして、自走で編集部まで運んだのだった。
 フェーザーといえば、FWの次に発売された250ccの4気筒モデル。あのFWは買って半年で盗まれちゃったけれど、あちこち走ってそれなりに時を共にして、250ccの4気筒エンジンの特性は知っているつもりだった。

 けど、フェーザーが速いのなんの!(笑) 無理もない、フェーザーはFWより20kg近く軽く、9psも力があって、軽く3000回転もたくさん回った。ええええ、オレのFWって何だったの!
 この仕事を始めてからしばらく、乗るニューモデルは400cc/250ccが多くて、そのほとんどがレーサーレプリカと呼ばれる4気筒エンジン搭載車だった。2ストローク車も多かったけれど、2スト車はどんどんサーキット向けに特化して行って、4スト車がストリートバイクとして残っていった気がしている。
 4気筒の250ccモデルはすっかり当たり前になって、最後にはレーサーレプリカブームも去り、ジェイドやバリオスといったネイキッドモデルが残った。もちろん、それもずっとリアルタイムで乗って来た。おそらく、歴史上の4気筒250ccモデルはみんな乗ったと思う。
 ここまでが前置き。ホントに長くてすみません。
 
 

250FWとフェーザーのあとにはホンダCBR250Fが発売され、4気筒250ccモデルの最後発モデルとして発売されたのが、このカワサキZXR250だった。
出力規制を受け、カワサキはZXR250のエンジンを全面改良。45psは42psとなったが、さらにショートストロークの高回転型に変更。当時最後の4気筒250ccエンジンだった。

 
 あれから幾年月。レーサーレプリカなんて呼び名はなくなってしまったけれど、スーパースポーツモデルとしてNinja ZX-25Rが発売された。ネイキッドモデルじゃない、スポーツバイクとしての4気筒250ccモデルは、25年以上ぶりだろうか。
 フルカウル、水冷4気筒DOHC16バルブエンジンという共通点はあるものの、あの頃は当たり前だったアルミツインスパーフレームはスチールトラスフレームになり、フロントダブルディスクはシングルディスクに、そのかわりまだ発売されたてだったラジアルタイヤは標準装備になった。やはり気になるのは「当時の」4気筒モデルとの違い。ちょうど、半年ほど前に’95年式のZXR250に比較試乗したばかりだ。
 

 
 Ninja ZX-25Rの車体のコンパクトさは、ほぼあの頃のまま。ハンドルが高めの分、あの頃ほどライディングポジションはキツくないけれど、当時のスポーツバイクの特徴ともいえる低いシート高もきちんと踏襲されている。このあたりは、ベテランやエキスパートなど、特定の層だけを狙っていない、というアピールのはず。
 エンジンをかける。アイドリング域からのスムーズさはあの頃のまま、サウンドは静かななか、音量自体もさほど変わりないように思える。
 クラッチを切ってギアを1速に踏み込むと、エンジン回転数が自動的に上がり、発進エンストを防ぐシステムが採用されているようだ。このあたりは現代のバイクならではだね。
 ゆっくりとクラッチをつないで発進。さすがに250ccなだけにドンとくるトルクはないけれど、スーッとストールするような危うさもなく、旧ZXR250よりも力強い。
 アクセルを開け増しせずにクラッチをつなぐようなアクションでも、きちんと前に進んでくれるトルクがある。このあたりは明らかに25年分の進化が感じられる。ほぉ、こんなに力あるんだ――そんな感じ。

 
 それでも、発進トルクあたりの力でいえば、現行のNinja250やCBR250RRなどの2気筒勢の方が上だろう。けれど、トルクのある2気筒エンジン独特のカドのある押し出し感はなく、4気筒の回り方はやはりスムーズだ。
 回転を上げていくと、スーッというスムーズな出力特性を力強く感じ始めるのが6000rpmあたり、そこから徐々に力が出てきて、10000rpm以上となると、レスポンスもシャープになり、吸気音、排気サウンドも4気筒らしさを強くしてくる。
 パワーバンドは13000rpm~16000rpmあたり。キュンキュンと鳴くように回る4気筒が本領を発揮するエリアだ。このフィーリングこそ、かつての旧ZXR250で味わっていたような、現代の2気筒スポーツモデルでは味わえない4気筒の気持ちよさだ!

 
 ハンドリングは、旧ZXRが高い剛性の車体と前後サスペンションで「ひとカタマリ」感で動いていたものが、よく動くサスペンション、剛性の高すぎないフレーム、さらにグリップのいいタイヤでしなるように動いている感じ。これは、おそらくタイヤの単体性能が上がったゆえの、それにバランスさせる動くサスペンション、フレームなのだと思う。
 2気筒勢と比べると、重量増、特にエンジン回りの位置に重さを感じるけれど、それは動きが悪くなる重さというわけではなく、ハンドリングをしっとりする方向に働いている。エンジン回りの重量増を、位置や重心をきちんと考えぬかれているためなのだろう。

 

大きな差は感じない けれどワクワクが止まらない

 では、旧ZXRと新Ninja ZX-25Rの4気筒エンジンの差はなにか。それは、やはり低回転域のトルク感だ。同じ水冷並列4気筒DOHC4バルブで、ZXRはボア×ストローク49×33.1mm、ZX-25Rは50×31.8mm。一般的にビッグボア×ショートストロークは高回転パワー型、低回転のトルクが弱いとの認識があるけれど、30年近くの隔たりがあるエンジン設計で、フューエルインジェクション仕様ということもあって、アイドリング上あたりから6000rpmあたりのトルクはZX-25Rの方が上だし、それ以上の回転域もZX-25Rの方がきれいにフリクションロスなく回る。
 とはいえ25年の差が大きいか、と言われればそうでもない。特に高回転域で、びっくりするようなパワーは感じないし、あぁあの頃っぽいな、でも低回転域で力出してきたなぁ、というイメージだ。
 たとえば空想でゼロスタートのヨーイドンをすると、旧ZXRよりZX-25Rの方がややダッシュよく、6000rpm、10000rpm、15000rpmに到達するのがZX-25Rの方が早く、高回転域の力強さは互角――。そんな感じだ。これは、おそらくキャブレターとインジェクションの差も大きいのだろう、低回転~中回転ではインジェクションの燃焼効率がよく、高回転では互角――そんなイメージなんだと思う。
 

 
 では現行Ninja250、2気筒との差は何かというと、これも空想ヨーイドンすると、低回転~中回転で2気筒がリード、4気筒のパワーが湧き上がってくる6000rpmくらいからZX-25Rが追い付いて引き離す――そんなイメージだ。
 関東近県のサーキットでいうと、桶川やトミンでは2気筒、もてぎショートや筑波1000、日光では互角、全日本が開催されるような筑波2000やもてぎフル、菅生や鈴鹿では4気筒の方が速い――そんな表現だと分かりやすいかもしれない。
 

 
 それでも、性能差はさほどでなくても、ZX-25Rが実際に発売されたこと、この250cc4気筒モデルが実際に新車で買えること、誰でもショップで買えることの意義は大きいと思う。16歳の僕のように、「ホントに250ccで4気筒? うそでぇ」なんて、バイク好きの若者がどこかで素っ頓狂な声を上げているかもしれないことが、今のバイク界には大事なことだって思うからだ。
 ZX-25Rの発売で、すぐに「ライバルも4気筒250ccを発売!」って時代ではないのかもしれない。けれど、この250cc4気筒がバツグンに速く扱いやすく、売れに売れたらひょっとして……。
(試乗・文:中村浩史)
 

Ninja ZX-25R [SE] Specification
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■型式:2BK-ZX250E ■総排気量(ボア× ストローク):249cm3(50.0× 31.8mm) ■最高出力:33 kw(45 PS)/15,500rpm ■最大トルク:21N・m(2.1 kgf・m)/13,000 rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:1,980 × 750 × 1,110mm ■軸距離:1,380mm ■シート高:785mm ■タイヤ(前・後):110/70-17M/C 54H・150/60-17M/C 66H ■燃料タンク容量:15 ?■車両重量:183kg[184] ■車体色:ライムグリーン×エボニー、メタリックスパークブラック、メタリックスパークブラック×パールフラットスターダストホワイト ■メーカー希望小売価格(消費税込み):825,000 円[913,000円]] ※[ ]はSE

 

φ310mmのローターとラジアルマウントの4ピストンキャリパーを組み合わせたシングルディスク。2気筒Ninja時代から、カワサキ250はシングルなのに効く! フォークはφ37mmのショーワ倒立で、タイヤは前後ダンロップラジアルGPR300。

 

完全新設計の水冷4気筒DOHC4バルブエンジンは、アルミ鍛造ピストンを採用するショートストローク型で、フューエルインジェクション、電子制御スロットル(TbW)仕様。アシスト&スリッパークラッチ仕様で、パワーモードは2種類、トラクションコントロールが3種類から選択できる。

 

サイレンサー別体ではなく、スイングアーム下に消音チャンバーとキャタライザーBOXを持つショートマフラー。これはリアサスのリンクをスイングアーム上にレイアウトしたことで可能になったもので、マスの集中化をクリアしている。スプロケットは14/50丁とショート目(特にドリブンが大きい!)で、オーナーの好みで、もっと最高速方向へ変更できる。

 

フューエルタンクはカバーやレイヤー類がないスチール製。タンクパッドは純正アクセサリーで税込み5137円。車体サイドのスライダーはKRTエディションに標準装備される。
ヘッドライト、テールライト、ナンバーランプにLEDを採用、ウィンカーはオレンジバルブ+クリアレンズ仕様。テールランプデザインはZシリーズ共通のデザインイメージだ。

 

前後分割式のシングル風シートで、シングルシートカバー(税込9086円)は純正アクセサリーで用意される。キーロック式で脱着できるリアシート下のUSB電源ソケットはKRTエディションにのみ標準装備。アクセサリーで装着すると7238円だ。ETC車載器はアクセサリー。

 

キーロック式の外部ヘルメットホルダーを標準装備。シート裏のビルトイン式よりもコストがかかるが、便利さと使いやすさは外部キーロック式が上だ。

 

Ninjaシリーズ共通のSUGOMIデザインを採用。パッと見、ZX-6RにもNinja650にもNinja250にも見える。ということは4気筒のネイキッドZ25Rもラインアップ??
アナログタコをメインに、ギアポジションつき液晶つきメーター。オド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費計、燃料&残ガス航続可能距離計、気温&水温、パワーモード&トラクションコントロールを表示する。

 

右スイッチはキルスイッチ&タコメーター、左スイッチに「SEL」(=セレクト)ボタン付き制御スイッチを配置。パワーモード&トラクションコントロール変更はイージーだった。

 

KRTエディションに標準装備される、精度も高いKQS(=クイックシフター)。クラッチ操作なしでシフトアップ&シフトダウンが可能で、スパスパと決まって、一度味わうとKQSなしが物足りなくなる。STDにも純正アクセサリーとしてあと付け装着が可能。税込み4万810円。

 

ナンバープレートステー、タンデムステップステーに荷かけフックを標準装備。スポーツバイクと言えども、こういった気遣いが.を忘れないのがカワサキのいいところ。

 



| 新車詳報『Ninja ZX-25R』のページへ |


| 新車詳報『Ninja250』のページへ |


| 2017年、Ninja250試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します) |


| 2018年、『Ninja250の逆襲が始まった』の記事はコチラ旧PCサイトに移動します) |


| KawasakiのWEBサイトへ |

 





2020/11/12掲載