きつい前傾姿勢にならないライディングポジション。
カワサキとして、というより日本メーカーの250ccとして、しばらくぶりに登場した並列4気筒エンジンを搭載したスポーツモデルで、日本仕様は45PS(ラムエア加圧時で46PS)を1万5千500回転で発生し、レッドゾーンは1万7千回転からと80年代レーサーレプリカ時代を彷彿とさせるスペック。そして開発陣からのスポーツ性能にこだわったというコメント( https://mr-bike.jp/mb/archives/13457 )。否応なくリッタースーパースポーツのようにスパルタンなライディングポジションを想像したけれど、実際にまたがってみると、思ったものより前傾姿勢がきつくないものだった。
高さ785mmのシートに体重をあずけると、身長170cmで両足のかかとまで接地する。私は筋肉質体型でフトモモ周りが太めなので最近の細い手足の若者より足が外側をまわり、同じ身長の人より足着きは悪くなる。だからスポーツモデルでこの足着き性の良さに驚いた。セパレートハンドルはニンジャ250より少しだけ下方なだけで、前傾はきつくない。身構えていたのに拍子抜けしたのと同時に、サーキット走行も考慮したとアナウンスしながらもストリートでの使いやすさを犠牲にしていないことがうかがえた。
九州にあるレーシングコース、オートポリスを起点にして、阿蘇の周りにあるワインディングや街中を燃料満タンからほぼエンプティーになるまで走り回ったが、ライディングポジションに起因する疲れを意識することはなかった。4気筒エンジンと近い幅になるアルミツインスパーにせず、ライダーの下半身が触れる部分のボリュームを現行2気筒モデルと同じくらいにする目的もあって、高張力鋼を使ったトレリスフレームを選択したことによるメリット。窮屈でも大柄でもなくフィット感がいい。違和感なく、すぐに自分のオートバイのようになじんだ。
両ハンドルを握りやや前傾になった姿勢から変化をつけるために、見通しが良く安全と判断して、右手はスロットルのまま左手をはずして体を起こすと、私の身長ではほぼ背筋が垂直にできた。前に倒れたままと違い、背筋が起きると上半身の重さを楽に支えることができる。ツーリングなど走行が長時間になる場合に助かる。ステップ位置は後ろすぎず、前すぎず、お尻の中心の真下にあるのも効いている。もちろん私より背の低い人は同じようにはならない可能性が出てくるが、前傾姿勢が強めのモデルより負担が小さいのは間違いない。
そうありながら、ワインディングでの積極的なスポーツライディングもバッチリで、より前かがみになって、頭をスクリーンと同じ高さほどにしながらコーナーリングをしても操作感の足を引っ張ることがなく、前後左右の体重移動や、ステップへの荷重のやりやすさや確実なホールド感で気持ちよく走れた。ようするに、スポーティーながら長い移動距離を遠慮したくなるような前傾姿勢や足着きにはなっていないということ。この汎用性を高めたさじ加減に感心した。
胸のすく高回転と刺激的なエンジンサウンド。
新開発した4気筒エンジンは8千回転を超えてからスロットルレスポンスが鋭くなり加速が増していく。そしてその時の音がかなり刺激的(動画で確認してください)。2気筒エンジンのくぐもったようなものとは違い、突き抜けるようなジェットサウンド。レーサーレプリカ時代を思い出して懐かしくもあるが、前の時代より迫力が増している印象だ。1万7千回転を超えてレッドゾーンに入ってもレブリミットまでスムーズに回り切る。高回転域をキープしながら走ると楽しくて心が躍った。ものすごく速くはないけれど、昨今の250ccとしてはトップクラスと断言できる。2気筒では味わえない緻密なフィーリングで音の演出も含めて高回転域はとても魅力がある。
それでいて8千回転以下がまるでダメではなく、6千回転以上回っていれば普通に使える。それよりもっと低回転からの加速に力強さはなくシチュエーションによってはもどかしい面もあるが、動いている場合ならそれほど気にならない。阿蘇のミルクロードで前を走る4輪車の後について高いギアの低回転域で流していて、4輪車のコーナーでの減速、直線での速度変化にギア変更なく合わせていくことが可能だった。追い越したい場合などはさすがにシフトダウンしてトルクの出る回転域に入れればいいだけ。草千里までの阿蘇吉田線の標高差600mを、前を行く4輪車に合わせてほぼ5速で登っていけたから十分ではないか。出ている速度などで受け止め方に違いは出るけれど、低中回転域は無用ではない。
人によってはもどかしいと考えるかもしれないそのゾーンを助けてくれるのが、スタンダードモデルではオプション、SEとSE KRTエディションでは標準装備されたカワサキの250ccクラス初装備となったKQS(カワサキクイックシフター)の存在だ。シフトアップとシフトダウンの両方をクラッチレバーいらず。それも使いづらくなく、小気味よく使える。特にシフトダウンはオートブリッパーが効くなどしてエンブレ抑制が素晴らしく気持ちいい。だから急加速がしたければ、Ninja250同様にとても軽いクラッチレバーを握らなくても左足を踏み込むだけ。スポーツ走行を考えてのクイックシフターでありながら、阿蘇市赤水の街中で信号停止などかなり日常的なシチュエーションで使えた。私はずっとクイックシフターはいらない派だったが、ここ最近の進化によって宗旨変えしてしまった。排気量の小さい250こそギアチェンジが頻繁になるので、この装備は有意義だ。
スポーツ性能だけに特化していない。
試乗は2日間で、1日目がストリートで、2日目はオートポリスのコースを走るプログラム。残念ながら、この初日は天候が安定しなかった。晴れ間が見えてドライ路面だったと思うと、霧が立ち込め道がしっとりと濡れる。さらに時折風をともなった強い雨が落ちてきて、路面に小さい川や水たまりがいっきにできる場面もあった。状況がコロコロ変わる中でもNinja ZX-25Rはトリッキーなところをいっさい見せずに軽快に走れた。ライディングポジションから感じた間口の広さを、ハンドリングからも感じた。しゃかりきに走らずに低中速でゆったり流しながら、そのなりゆきでコーナーに入っても、セルフステアが明確に入ってバイクまかせにしておけばさーっと旋回していける。フットワークが軽くても、前後タイヤが接地している感覚を損なわないから、スピードを上げてタイヤに荷重をかけていくことが怖くない。履いていたダンロップGPRはこの車両用にアジャストされたものだ。
公道というシチュエーションでは十分なリーンアングルを持っているけれど、浅いリーンでも曲がりやすいから、乗り手を選ばず多くのライダーが不安なく操れる高い親和性がある。ある部分を先鋭化してスポーツライディングに特化させたというより、それも含めて様々なシーンでバランス良く角を落として使いやすくしたようだ。ドライ路面でペースを上げて走ると、シングルディスクブレーキながらかなり良いものになったと開発担当者が語っただけあって、素晴らしい効きとタッチのフロントブレーキ。減速しながらの進入はスピーディーに寝かせられるが、そこに急すぎる動作はなく、安定感があって速度や動きのコントロールをしやすい。そこから両輪で踏ん張りながら向きを変えていく。ここにも尖ったところがまるでなく、公道で自由度が高く使いやすい。
サスペンションも含め明確にNinja250より高性能で、アベレージスピードを上げていってもへこたれるようなところは早々顔を出さないスポーティーなハンドリングだけど、イージーなところはNinja250に負けていないと思った。それと直接関係がないけれど、ハンドルの切れ角は左右35°とNinja250と同じで2車線の幅があれば余裕でUターンもできる。
電子制御スロットル化もあってフルパワーとローパワーの2種類の走行モードが選べるが、大雨の中でもレスポンスをマイルドにするローパワーにしなくても、3段階あるKTRC (カワサキトラクションコントロール)を最も効く[3]でそれを働かせるような粗野なところを見せずトラクションさせやすかった。公道でこの装置が働いたのがわかったのは1回だけ。ドライながら路面状況があまり良くない高速で回りこむコーナーの立ち上がり、1万回転を少し超えたところで回転上昇を拒む動きが出た。燃料を使い切るまでほぼ走りっぱなしだったけれど、足着きとニーグリップを考慮した前が細い形状のシートクッションは、ステップをふんばり動きやすい形状ながら長時間でもお尻は意外なほど音を上げず。うまく圧力を分散させているのだろう。
250ccクラス最強の4気筒エンジンを新開発して、トレリスフレームに今までこの排気量で使ってこなかった上のクラスの前後サスペンションで、運動性能にこだわってはいても、刃物のように切れ切れのスポーツにしていないところがキモだ。一部の人に好評ならそれでいい、と割り切らないで、広めの許容範囲、守備範囲を大事にしたところに好感を持った。Ninja ZX-25Rは玄人向けのキワモノではなかった。エントリーユーザーが多い排気量だから当たり前なのかもしれないが“言うは易し”である。Ninja250との棲み分けもしっかりできている。これが雄大な阿蘇のワインディングで分かったことだ。
この次はこの翌日にドライで思いっきり乗れたサーキット編へ続く。
<試乗・文:濱矢文夫>
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■型式:2BK-ZX250E ■総排気量(ボア×ストローク):249cm3(50.0×31.8mm) ■最高出力:33kw(45PS)/15,500rpm ■最大トルク:21N・m(2.1kgf・m)/13,000rpm ■変速機:6段リターン ■全長×全幅×全高:1,980×750×1,110mm ■軸距離:1,380mm ■シート高:785mm ■タイヤ(前・後):110/70-17M/C 54H・150/60-17M/C 66H ■燃料タンク容量:15 ?■車両重量:183kg[184] ■車体色:ライムグリーン×エボニー、メタリックスパークブラック、メタリックスパークブラック×パールフラットスターダストホワイト ■メーカー希望小売価格(消費税込み):825,000 円[913,000円]] ※[ ]はSE
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