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試乗・解説

熱中サーキット! Kawasaki ZX-25R
ストリートの次はサーキット編である。前置きしておかなければならないのは、もう出てこないだろうと思っていた250cc4気筒を復活させて、より運動性能にこだわった新しいスポーツモデルだとしても、公道向け量産市販車であるのだから、ストリートでの走りを担保しつつのコース走行性能であるということ。サーキット専用モデルではない。試乗記として、その部分に誤解がないよう気をつけて書いた。だから、ある意味でこのサーキット編試乗記はとても楽しい“おまけ"だろう。さあ続きを一読あれ。
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:渕本智信 ■協力:Kawasaki https://www.kawasaki-motors.com/






 

こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/405QEdaLHC8

 
 Ninja ZX-25Rの九州での試乗初日はあいにくの天気だったけれど、ワインディングや街中でいろいろなシチュエーションを走ることができた( https://mr-bike.jp/mb/archives/14016 )。そしてサーキット走行となった2日目にやっとお日様が顔を出した。場所は熊本県との県境にある大分県日田市上津江町のオートポリス。走ったのはレーシングコース。約4,672mの全長でコーナー数は18。高低差52mのフィールドで、蘇った4気筒250ccスポーツを堪能できた。

ドライ路面のサーキットで試す

 

写真左から、Ninja ZX-25R SE KRT EDITION(ライムグリーン×エボニー 913,000円)、Ninja ZX-25R(メタリックスパークブラック 835,000円)、Ninja ZX-25R SE(メタリックスパークブラック×パールフラットスターダストホワイト 913,000円)。

 
 マシンはストリートで乗った車両そのままで、ナンバープレートをリアのマウントごと外しただけのもの。タイヤも純正ラジアルのダンロップGPR300のままだ。まず公道で乗ったときとの違いを感じたのは、KTRC(カワサキトラクションコントロール)だった。3段階ある中でもっとも介入する[3]でも公道走行では荒れた高速コーナーの出口で1度働いたと感じたくらいだったのに、このコースで[3]だとほぼすべてのコーナーの立ち上がりで制御が入ってしまった。
 

 
 フルコースを3周でピットインをするスケジュールだったので、ピットに戻ってきてすぐ[2]にしてみた。それでもコーナーによっては介入してくる。最終的には[1]に落ち着いた。このコースを走り込んでいる開発テストライダーの野崎さんが、事前の説明会で、[1]ではかなりガンガンに攻めて積極的にスロットルを開けていって少し制御がはいるくらいと言われたけれど、その通りだった。これでワインディングではわからなかったトラクションコントロールの制御の違いが理解できた。
 

 

ここでもストリートからの好印象が続く。

 前日の雨によって残っていた路面のウェットパッチもほとんど消えて、最初は硬かった体もほぐれ徐々に思いっきり走れるようになると、コーナー進入が気持ちよく決まるのがとても楽しくなった。まず公道でも感じたフロントブレーキの効きが、ここでも威力を発揮。初期の制動からしっかりしていて、レバーを握り込んでいくと、例えるならをギュッと絞りこむように効きを高められる。もちろんブレーキ周辺の性能だけでなく、フロントフォークの動きや剛性、フレームの剛性、タイヤの組み合わせがいいからこそ。
 

 
 車体が前かがみになりながらフロントタイヤを押しつぶしていくのが手にとるようだった。絶対に転んではいけないので、少しの無理もせず安全を第一にしたけれど、もしこれが自分の所有するものだったらもっと強烈にできそうな感触。1000ccの最新スーパースポーツモデルだったら当たり前だろうが、冷静になって考えるとこれは普及クラスともいえる250ccモデルである。比べるといけないが、初代Ninja250Rからすると高性能化は半端ない。
 

 
 ’80年代のレーサーレプリカブームを実際に味わったひとりとして、ラジアルタイヤ黎明期で今よりも確実にタイヤの性能が高いとは言えなかったあの時代よりもパフォーマンスにおいては勝っていると感じた。「昔は良かった」、ではなく、「昔も良かったが、スポーツ性能においてはやっぱり最新が良い」と、走行の間にある休憩時間でとりとめのないことを考えていた。
 

 
 そのブレーキの効きに加えて、昨日感心したKQS(カワサキクイックシフター)がまさに有効的だった。ヘアピンで一気に2速落としたいときも、そのまま左足でシフトペダルを踏み込めば、オートブリッパーが効いてスムーズにシフトダウンできる。コーナーリング中に立ち上がりの加速を考えて1速落としても車体の安定性にほとんど影響がなかった。ライダーの負担を軽減してくれて助かる。だから、このクイックシフターにはポジティブな印象しかない。

 
 オートポリスはアップダウンがある。上りの部分で車速を落としすぎると、250ccのトルクではどこからでもスロットルを開ければイージーに速度がのってくることはない。高回転型のZX-25Rでは、さらに低中回転域のトルクが豊かだとは言い難いので、そうなると車速を殺さないように走りながら、可能ならば高回転ゾーンをキープしたい。それに気をつけながら乗るのもまた面白い。これが公道ならば、そこまでしゃかりきに走る必要がないから、前に進みさえすれば低回転域のまま勢いがなくても何ら問題はない。コースだからそう感じてしまうだけだ。

 

楽しく走れたという事実が答えだ。

 旋回の良さ、安定感、トラクションは、この車両が出せる速度において破綻するようなことはなかった。レベルの高いレーシングライダーになると、いろいろ違う意見が出ても驚かないが、少なくとも私はそこに注文をつけたくなる部分が見当たらない。強いていえば、スピードを上げながらの切り返しとかでやや動きが重く感じる場面があったこと。これはコーナリングも含めて、意識的にもっと前輪に荷重するような乗り方をすると、よりスムーズになっていった。サーキット走行も考慮しているけれど、そこだけにこだわっていない。ストリート試乗インプレでも述べた、いろんな運転レベルや経験値のライダーがスポーツライディングを楽しむ設定だということがあらためて伝わってくる部分かもしれない。
 

 
 もっとコースで速く走りたいと思うならば、リアショックをさらに高性能なものにする、荷重バランスを変更、ブレーキをさらに鋭くするためにマスターシリンダーを変更などと自分に合うモディファイの領域になる。サーキットというシチュエーションにおいて公道向け量産車のレベルで小さいというか不満を感じたとしても、それを指摘するのはフェアじゃない。私としては、一般道とこの多様性のある本格的なコースで、思いっきり熱中して走れたことを読んでくれる人たちに知ってもらいたい。それがZX-25Rの作り手が狙ったポテンシャルだ。
 

 
 個人的に贅沢を言わせてもらえば、せっかくここまでのものになったのなら、オーナーがそれを誇れるような遠目からも分かるスタイリングの特徴が一層あってほしかった。ブランドに共通するアイコンを持つ最近の4輪車のように、スーパースポーツZXシリーズに共通したルックスも正しいとは思うけれど、せっかくなら250ccの4気筒、Ninja ZX-25Rをわかりやすく自慢したい。
 

今を変えてくれる大いなる可能性に期待。

 2日間の試乗が終わってからの帰り道、もしこの挑戦的なモデルが初代Ninja 250Rのように売れたなら、他のメーカーは静観し続けられるだろうかと考えていた。誕生は好調なアセアン市場があったからなれど、国内市場でも排気量カテゴリーの範疇を越え市場全体に活性化につながるに違いない。
<試乗・文:濱矢文夫>
 

ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

ZX-6R に少し似た顔。中央の開口部はH2のフィードバックで設計されたセンターラムエアシステムの新気取入口。これがあるのがNinja250とは違うところ。そこからフロントフォーク左側を迂回するようにダクトが通りエアクリーナーボックス→ダウンドラフトインテークへと導かれる。雨天時の水の侵入防止も考えられたレイアウトデザイン。2灯のヘッドライトはLED。フェアリングの形状に沿うように取り付けられたクリアレンズのウインカーはバルブ式。
新開発の水冷4スト並列4気筒エンジン。ボア径はZXR250 より1mm大きなφ50mm。これによって吸気バルブを大型化。排気バルブには高温に強いインコネルを採用している。ラジエターは30段。連結エキゾースト。ZX-10Rと同様に吸気ポートの出口を2段階に加工。1段目はバルブシート に沿って、2段目はポート傾斜角度に沿っている。これで燃焼室に入る混合気の流れを直線化し、吸気の流れの損失を減らすことができるという。エキゾーストパイプのレイアウトはZX-6Rのものを参考にヘッダーパイプでジョイント、これで低回転域のパフォーマンスを向上させている。フェアリング内に取り付けられたフラップによりダイレクトにエアをエンジンにあてて冷却効果を上げている。

 

フロントブレーキは310mm セミフローティングタイプのシングルディスク。キャリパーはラジアルマウントしたモノブロックの対向異型(φ32mm、φ30mm)4ピストン。フロントサスペンションには250ccクラスとしては初めてとなるSHOWA製のSFF-BP( セパレート ファンクションフロントフォーク- ビッグピストン) を使う。走行風をエンジンルームに取り入れるサイドエアダクトをフェアリングに組み放熱を促進させるしくみを採用、エンジン性能低下を抑制。軽量に仕上げた5本スポークホイールのリムテープとフレームスライダーはSEグレードでは標準。標準タイヤはこのモデル専用にアジャストされたダンロップのラジアルタイヤGPR300。フロントホイールのトラベルは120mm。
ショックユニットとリンク部分 をスイング アーム 上方に配置したZX-10R 譲りのホリゾンタルバックリンクリアサスペンション。これによってその下に大容量の排気チャンバー室を設けることができた。

 

高張力鋼製を使ったガルアームタイプスイングアーム。マフラーはマスの集中化、低重心化に貢献しているショートマフラー。右側にある出口の隣には4.5Lという大容量のチャンバー室がある。リアホイールのトラベルは116mm。

 

250cc クラス初となるKQS( カワサキクイックシフター) を装備(SEモデルには標準装備でSTD モデルはオプション)。シフトアップだけでなく、オートブリッパーが働くシフトダウンも可能だ。これは非接触タイプ。
フレーム剛性はNinja250 より高い。並列4 気筒ということで2 気筒よりエンジン幅は広いが、新設計の高張力鋼製軽量トレリスフレームで必要な剛性を確保しながら寸法拡大を極力抑えた。シートフレームと一体式。わざわざこのカラーグラフィックのために他とは違う赤いフレームを用意したところが素晴らしい。

 

ハザードランプスイッチはホーンボタンの右隣。ハザードスイッチが左手側にあるのは70年代の空冷Z時代からでもあり、カワサキの伝統。“フルパワーモード”と“ローパワーモード”の2つある走行モードと、3つのKTRC(カワサキトラクションコントロール)は、グレー色した縦長の上下で選択して、中央の黒い“SEL”ボタンで選択する。嬉しいのはブレーキレバーとクラッチレバーの両方に調整機能があるところ。クラッチレバーは油圧ではないけれど、アシスト&スリッパークラッチのおかげもあり操作はかなり軽い。

 

シートクッションはサーキットやワインディングでスポーツ走行しやすいしっかりとしたものだが、それだとお尻が痛くなるので、圧力が分散できるよう試行錯誤して作られてもの。長時間のライディングでも疲れにくい。リアシート下にはETC機器を収めることができるスペースが設けられている。独立したヘルメットホルダーや、タンデムステップフレームだけでなく、リアウインカー近くにも荷掛けフックがあるのがカワサキらしい。

 

ヘルメットホルダーもきっちり装備。車載工具はタンデムシートの裏側に輪ゴムを使って取り付けられている。内容は2種類のヘキサゴンレンチとプラスドライバーという最近のモデルらしい簡素なもの。

 

2万回転まで刻まれたアナログ表示のタコメーターの中にギアポジションインジケーターと時計がある。向かって左側は各種警告灯。右側のモノクロ液晶メーターの表示は3段になっており、一番下が、走行モードやトラクションコントロールの設定が分かるもの。中央はスピードメーター。一番上がトリップやオドなど。その左端にタコメーターに沿うよう燃料計と水温計が縦に入る。5千回転から1万7千回転まで250回転刻みで任意に設定できるシフトアップインジケーター機能も持っている。
燃料タンク容量は15L。Ninja250より横幅のある並列4気筒エンジンを意識させないスリムな燃料タンクでフィット感もいい。上面はライダーが伏せてフェアリングに隠れやすい形状。

 

Ninja ZX-25R [SE] Specification
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■型式:2BK-ZX250E ■総排気量(ボア× ストローク):249cm3(50.0× 31.8mm) ■最高出力:33 kw(45 PS)/15,500rpm ■最大トルク:21N・m(2.1 kgf・m)/13,000 rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:1,980 × 750 × 1,110mm ■軸距離:1,380mm ■シート高:785mm ■タイヤ(前・後):110/70-17M/C 54H・150/60-17M/C 66H ■燃料タンク容量:15 ?■車両重量:183kg[184] ■車体色:ライムグリーン×エボニー、メタリックスパークブラック、メタリックスパークブラック×パールフラットスターダストホワイト ■メーカー希望小売価格(消費税込み):825,000 円[913,000円]] ※[ ]はSE

 



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2020/08/17掲載