第46回 カタログで見るスクランブラーから本格的なオフロードマシンへ=ホンダ編 モトスポーツとデュアルパーパス=
1962年、本格的なオフロード走行用として開発されたドリームCL72が発売されました。カタログなどのPR資料にスクランブラーという言葉を日本では初めて使用したと思われます。
このCL72登場から4年後の1966年にベンリイCL125が発売され、以降ラインナップを拡充して1970年に発売したドリームCL450によって、ホンダのスクランブラーシリーズが完成しました。
この経緯については、承前啓後の第11回で紹介させていただきました。
1960年代後半は、各社からストリートスクランブラーモデルが相次ぎ発売されて、スクランブラーというカテゴリーが確立されるようになりました。
そのような中、1968年にヤマハから衝撃的ともいえるトレール250 DT-1が発売されました。250ccのDT-1は、それまでのストリートスクランブラーとは一線を画した本格的なオフロードマシンに仕上げられていました。そして、ヤマハトレールランドの建設やヤマハトレール教室の開催などで、トレールという言葉は、スクランブラーとは次元の違うカテゴリーとして区別されるようになりました。
DT-1とトレールという言葉は、他社にも大きな影響を与えたのです。
では、ホンダがストリートスクランブラーからより本格的なオフロードマシンに進化した足跡をカタログで辿りたいと思います。
※カタログは個人所有のため、汚れや破損についてはご容赦ください
※公道走行仕様のオン・オフロード車の呼び方は、各社のPR資料に基づきます。
改めて、ホンダのスクランブラーシリーズの発売年を記載します。
1962年 ドリームCL72
1966年 ベンリイCL125/CL90
1967年 ベンリイCL50
1968年 ベンリイCL65 ドリームCL250/350
1970年 CL175 ベンリイCL135(9月発売) ドリームCL450(9月発売)
1970年9月にスクランブラーシリーズが完成するのですが、その前からより本格的なオフロードマシンとして「SL」のブランドを開発していたのです。
SLの第1弾は、1969年8月発売のベンリイSL90でした。当時のリリースには、「あらゆるオフ・ザ・ロードを縦横無尽に駆ける、スポーツスクランブラー」と紹介されています。
新開発のダブルクレードルフレームに、フロント19インチの大径タイヤを装着。ブロックパターンタイヤなど、CLとは全く異なるコンセプトでした。エンジンは、CL90系の横型エンジンを流用していました。
このSL90は、早くも9か月後の1970年5月にはフルモデルチェンジし、直立型エンジンを採用。リリースとカタログには”モトスポーツ”として紹介されています。
SLの第2弾は、1970年1月発売のドリームSL350でした。セミダブルクレードルフレームに4ストローク2気筒エンジンを搭載した迫力あるスタイリングが特徴的でした。当時のリリースとカタログには、ワイルドスクランブラーとモトスポーツという言葉が登場しています。
SLの第3弾は、1970年6月発売のSL175です。アメリカで人気を博したモデルで、日本では高速道路も走行できるメリットもありました。
このSL175のリリースには、スクランブラーとは異なる「ホンダ モトスポーツ」について解説しています
=当時のSL175のリリースより=
特に山間原野でのレジャースポーツ用に設計されたモトクロ(MOTOCROSS)のような 遊びを楽しむスポーツ車として、さらにその目的地までの一般道路・ハイウエイも気軽に走れるフレキシビリティをもった、ホンダ2輪車群のもっとも新しいシリーズです。
1970年9月には、ベンリイSL125Sが発売されるなど、90ccから350ccまで4車種のSLが登場しました。
1970年9月は、スクランブラーのCLシリーズが完成。そして新しいネーミングのモトスポーツSLシリーズも90ccから350ccまで4車種が揃い、他社に対して豊富なバリエーションで対抗したのです。
そして、激戦区の250ccには、軽量化を極めるために新開発の4ストローク・OHC・4バルブ単気筒エンジンを搭載したモトスポーツSL250Sを1972年に発売したのです。
徹底した軽量化によって、136kg(乾燥重量は129kg)を実現しました。これは、他社の2ストロークマシンに比べると、5kgほど重い値でした。
1972年はホンダにとって大きな変化がありました。2ストロークエンジンのモトクロスマシン「エルシノア CR250M」を発売したのです。
これまで”4ストロークエンジンのホンダ”として二輪業界をリードしていましたが、モトクロスにおいては、軽量でコンパクトな2ストロークエンジンが主流となっていました。このため、公道仕様もこれまでのSLシリーズ(4ストローク)に替えて、2ストロークのエルシノアMT250とMT125を1973年5月に発売したのです。
エルシノアシリーズは、モトスポーツの名前をあえて使用せず、ラフロード、オフロードマシンと紹介
されています。
しかしながら、エルシノアMTシリーズは長くは続かず、4ストロークのXLシリーズ引き継がれます。
1975年5月、”XL”という新しいネーミングが付けられたXL125とXL250を発売。当時のリリースには、「トレールライディングも楽しめるオン/オフ両用の二輪車」の一文があります。
ホンダは、ヤマハのイメージがあるトレールという言葉を頑なに使わなかったのですが、一般的にはオフロードバイクの総称をトレールバイクと呼ぶことが多くなっていました。
XL250のカタログには、「Dual Purpose Machine」という言葉が使われています。ホンダのオン・オフロードモデルの呼び方は、ここからデュアルパーパスが始まったようです。
ホンダの公道仕様のオン・オフロードマシンの呼称は、CL72のスクランブラーからはじまりました。SLで新しい呼称のモトスポーツを提唱。そして1975年のXL250のカタログにデュアルパーパスを使用しました。その後、1981年のXL250Rでは”ランドスポーツ”という新たな呼称が生まれます。
時代は変わり、2005年頃になるとデュアルパーパスが復活します。時代背景やマシン特性などによって呼称が変わるのは他のメーカーも同様ですが、これからどのような呼称が生み出されるか楽しみです。