え、いいじゃん!
深いブルーと黒のコントラストが効いたカウルを纏ったGSX-S1000GTはその形から長距離ランナーを主張する。薄く鋭さをもって伸びたノーズとサイドセクションは計算されたレイヤーで構築され、小ぶりながらウイング的な空力パーツも現時点では欠かせない最先端の季語のように盛り込まれている。六角形の小ぶりなヘッドライトと、スクリーンへと続くフェイスも特徴的。そしてガッチリしたグラブバーと短く切られたテールエンド。全体から漂うムードは「ツアラー」という言葉から想起するゆったり感より、スピード感が香り立つようだ。
車体的にカタナと共通項が多いこのバイク、エンジンも同様に998㏄、GSX-R由来のパワーユニットを搭載する。スペック的には110kW、105N.mを生み出すその数値もさることながら、ツーリングに理想的なパワーカーブ、トルク特性も磨き込まれたという。電子制御の進化という面ではスロットルバイワイヤーが採用され、スロットルバタフライが1枚となったと同時に、綿密なスロットルコントロールも可能にしている。その結果、より乗りやすさが向上した。
バーハンドルながらライディングポジションはスポーティーなもの。相対的に上半身はアップライトながらステップ周りとで造られたやや前傾したポジションだ。シートは先端が細身でヒップエリアに肉厚のフォームを持つツーリング仕立て。ロングを走ることも捨てていない感じだ。
エンジンをスタートさせる。4気筒らしい微振動はあるものの快適性は高く、GSX-Rのような硬質な振動と音で思わずアドレナリンが湧き出すようなタイプではない。市街地をゆく。大通りを目指し住宅地の中、ゾーン30のエリアを静々と進む。交差点ごとに減速、あるいは一時停止を繰り返す。こんな場面でも、速そうなルックスのGSX-S1000GTながら、乗り手を急かすようなことがない。乗りやすいのだ。
大通りは60km/hで流れている。3000rpm目処でシフトアップをすればバイクはイキイキと走る。路線バス、大型トラックのダブルタイヤで踏まれ少し痛んだアスファルトでも意外に快適な乗り心地を提供してくれる。とりたててサスペンションに電子制御などを持つわけではない車両価格なりの装備だとは思うが、これはこれで納得の部分だろう。もちろん、減衰圧を一人乗り用としてライダーの好みで圧側、伸び側をもう少し早く動くよう数クリック減衰を調整すれば、さらに市街地では快適性が増すはずだ。
ハンドリングに関しては安定性重視なのか意外にどっしり感があった。とはいえ、重量級のそれではなく、226㎏という車重にしては、なのだが、車体姿勢とリアに履いた190/50ZR17というサイズとスポーツツーリング向けタイヤのキャラクターもそうした印象へと方向付けているのだと思う。
ブレーキに関しては市街地レベルでもコントロールしやすく、仮にタンデムライダーが乗っていてもその頭を揺さぶらずに操作することも難しくなさそうだ。市街地レベルからクイックシフターは扱いやすい。クラッチレバーの操作力はとても軽く発進時のコントロールも簡単。ローRPMアシストと名付けられた1速発進時にスロットルバルブをコントロールしてエンスト防止をアシストする機能もあるので、ミスる不安が低いのは嬉しい。実はこの機能、昨今の多くのモデルに搭載されているが、中にはユーロ5になってその存在が解らないレベルまで引き下げられたものも多い。それだけ環境規制への対応が厳しい面もあるのだろう。
TFTメーターの演出。
今やスマホとバイクを連動させるのはマストとなりつつある。GSX-S1000GTでもSUZUKI my SPINというアプリケーションを通じてライダーのスマホとバイクをBluetooth接続を可能としたコネクティビティを確立している。
スマホの予定表、連絡先、音楽、マップ、カメラ、通知などへとアクセスして、走りながらにしてそれらの情報をTFTモニターに表示、通知可能としている。
こうした機能を使わずともTFTの広い面積を持つモニターは新しさを感じた。その作画というかレイアウトにはそれぞれメーカーの個性もある。アナログメーター感を持たせたタコメーターとその他の情報を表示する手法を持たせた点がスズキらしさなのか。アプリケーションを使わない状態だと右半分にライディングモードの状態を表示していたが、例えば水温、外気温、トリップ、時計などその他の情報の文字のサイズもチラ見でしっかり確認できた。老眼には嬉しい設定だったことも付け加えておきます。
高速道路を走る余裕などもはや言うに及ばず。6速のまま巡航し、追い越し加速だってそのままわずかに右手に力を入れるだけで完了する。一人乗り、荷物なしだから当たり前ながら、思わず回したくなることがない走りに感心する。
クルーズコントロールで走行しつつ、速度調整をするのもRES /SETボタンをタップすれば穏やかに、長押しすれば連続的に速度を増すこともできる。もちろん、アクセルで調整してSETボタンを押すことでもできるが、加減速を緩やかにすませたい時はボタン操作で行うのが楽。
クルーズ中、走行風圧の減衰も上々。適度な前傾姿勢となる上半身とスクリーンやフェアリングが作る快適な空間が印象的。無風空間的なものではないが、風を感じつつしかし疲労性分は抑えているというもの。全体的に高速道路のクルーズは快適さと秘めたパワーの予感がもたらす、巡航していながらも性能に満たされるような満足感で申し分ない性能と評価できる。
そしてワインディングだ。ペースをあげて見るとやはりパワー特性、旋回性能、ブレーキング性能といったバランスが良い。加速も高めのギアでアクセルをやや大きく開ける操作をしたときの重厚感ある加速も、回転をあげて伸びを楽しむ身軽な加速も双方気持ち良い。ソフトではないが、ストロークを許容するダンパー設定のフロントフォークのため、荒れた路面でもタイヤのグリップ特性と合わせて路面への追従性が解りやすい。じわっと確実に制動力を生むブレーキング時の印象はライダーにとって解りやすく安心感があった。
ツーリング。その嗜好性により輝くGT。
ツーリングに重きを置き、目的地までの道程を楽しみ尽くすか、目的地に着いてからの行動も含めて楽しむか。おそらく経験を積むライダーほど後者の楽しみ方をする人が増えるのではないだろうか。移動は疲れず快適に。でも退屈することなくスポーティーネスも味わいたい。そんなライダーにこのGSX-S1000GTはお勧めだ。オプションリストにあるハイスクリーンやサイドケースキットを装着するのに必要なパーツといったアメニティーを揃えても車両価格+20万円ほど。天気の良い日に日帰りでというのもよいが、長期休暇に行ってみたかった土地まで片道二日の道程を走るのも楽しいだろう。
今回感じた数少ないマイナスポイントは、リアサスのイニシャルプリロードアジャスターだ。二人乗りをする、荷物を積む、出先で下ろしてショートライドに出る、そんなことを前提にしたこのカテゴリーのモデルとしてはフックスパナで回すタイプは役不足。せめてダイヤル式が必要だろう。出先で荷重が変わるそのたびに工具出して手を汚して……ではやる気が失せるからだ。
結論として、どんな場所でも道が続いていればどんなモデルも走ってゆける。が、乗っていったモノで見える景色や感性に響くものが変わってくるのがバイクの面白さだ。その点で、慣れた場所でもまた違った風景を見せてくれる性能は持っている。それがGSX-S1000GTが持つツーリング性能だと思う。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:998cm3 ■ボア×ストローク:73.4×59.0mm ■圧縮比:12.2 ■最高出力:110kW(150PS)/11,000rpm ■最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/9,250rpm ■全長×全幅×全高:2,140×825×1,215mm ■軸距離:1,460mm ■シート高:810mm ■装備重量:226kg ■燃料タンク容量:19L ■変速機: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・190/50ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:トリトンブルーメタリック、リフレクティブブルーメタリック、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,595,000円
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