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試乗・解説

新型GSX1000Sのカウル付版は、ただのカウル付ではなかった! スズキ初の「GT」降臨
スズキのスポーツネイキッド、GSX-S1000が縦二眼のLEDヘッドライト姿になってモデルチェンジ──となれば、フルカウル版のGSX-S1000Fも追ってモデルチェンジするだろう、と考えるのは普通のこと。しかしこれが予想の斜め上を行った!
■解説:ノア セレン ■協力:SUZUKI https://www1.suzuki.co.jp/motor/




GTという道を選ぶ

 先代(現行)のGSX-S1000Fは、スポーツネイキッド、もしくはストリートファイターなどと呼ばれるジャンルに属するGSX-S1000のカウル付版、と言ってしまって差し支えないだろう。もちろん細部に違いはあるが、高速道路を始めとしたハイスピード領域や長距離において防風性を確保したいライダーや、もしくは単純にカウル付のスタイリングの方が好みというライダーに支えられてきた。もちろんカウルのある分シーンによって快適さは高かったものの、しかしタンデムシートの広さやタンク容量など、ツアラーとしてGSX-S1000と大きく差別化していたかと言えばそんなことはなく、あくまで「カウル付版」というものだった。
 ところがそのGSX-S1000Fの後継は車名を変えてGSX-S1000「GT」として一新。「グランドツアラー」である。スズキはかつて2スト3気筒のGTシリーズというバイクを作っていたが、振り返るとそれ以降に「グランドツアラー」を掲げているモデルは思いつかない。強いて言うなればRF400/900や、フルカウルをまとったバンディット1250Fといったモデルがこのジャンルを担っていたかもしれないが、いずれも「GT」という名前ではなく、この新型GSX-S1000GTで初めてグランドツアラーに向き合った、と言えるだろう。
 

 

アドベンチャーモデルだけではない、スポーツツーリングという選択肢

 近年は快適で速く、各種電子制御技術も充実しているアドベンチャーモデルが各社から登場し、距離を走るならば、もしくは荷物をたくさん積んだり、タンデムを楽しんだりといった使い方をするならそちらをどうぞ、というのがトレンド。スズキもこのジャンルにVストローム650/1050という優秀なモデルを持っている。ところがカワサキのニンジャ1000に加えヤマハのトレーサー900 GTもラインナップされ、各社共にロードモデルをベースとしたツーリングモデルを見直すような動きも出てきている。

 GSX-S1000GTはそんな世の流れに対するスズキの答えだろう。軽量ハイパワーでエキサイティングなネイキッドモデルのカウル付版にとどまらず、しっかりと快適に長距離もこなす性能をプラスするべく各部のラバーマウント化など細部をアップデート。さらにはオプションのボックス類が装着でき、タンデムも十分許容する能力を持たせるなど「グランドツアラー」らしい性能を持たせてこのジャンルに参入したわけである。
 スポーツバイクのようなダイレクト感や絶対的速さは決して犠牲にせず、それでいて多くのライダーにとってメインの使い方となるツーリング性能を確保する、というそんなアプローチ。スズキ初の「グランドツアラー」の内容を見てみよう。
 

 

快適性能とタンデム性能

 先行してモデルチェンジしたGSX-S1000同様に、このGSX-S1000GTもまたユーロ5に対応するための各部チェンジを果たしており、各種電子制御の充実ももちろんトピックだ。アップ&ダウン対応のクイックシフターやクルーズコントロールなどツーリングを確かにサポートしてくれる新機能も多い。しかしここはあえてハードの部分の変化に注目したい。

「GT」を謳うだけに、荷物の積載性やタンデム性能、長距離での快適性向上のために実は多くの変更が加えられている。特に注目したいのは新作されたシートレールにより実現したタンデムシート周りの機能充実だろう。先代ではストリートファイターの派生ということもありタンデム部はミニマムな設定だったが、GTではシートレールを下げたことでシートの厚みを増し、タンデム部の面積を確保してタンデムライダーの快適性を向上。グラブバーも設定され、またアクセサリーであるサイドケースが装着できる工夫もなされた。
 併せてハンドルの位置もより手前に設定されたため、ライダーは先代比で起きたポジションへと変更。一人で乗っている時にもよりリラックスした姿勢となったが、タンデム時にはタンデムライダーと重心位置が近くなりこれもまた安心感が高いだろう。
 

 
 ライディングポジションがより起きたものになったこともあり、空力による快適性も追及された部分。風洞実験を繰り返し、肩周りに当たる風も上手にいなすようフェアリングを設定。スポーティなルックスと快適性のバランスを上手に追求しているのが伺える。
 そしてハンドルはラバーマウントされ、ステップ部にはゴムが装着され、バイクの振動をライダーに伝えない工夫も随所に投入。ネイキッド版であるGSX-S1000も同様だがタンク容量が19Lへと2L増やされたのもツアラーとしてはありがたい。これらハード部分の変更は電子制御技術のように既存のもの、兄弟車種のものを合わせ込むのではなく、新たに開発しなければいけない部分であり大変な労力が費やされたことが伺える。大きく変わったルックスから見ても明らかではあるが、新たに「GT」を掲げるためにこれは大変に力を入れたモデルチェンジだろう。
 

 

アップデートされた電子制御

 今や電子制御技術全部乗せ状態は当たり前になってしまったが、GSX-S1000GTもまた充実の各種電子制御が投入されている。ドライブモードセレクターやトラクションコントロール、クイックシフター、クルーズコントロールといった機能はこのGSX-S1000シリーズにとっては新たなフィーチャーのものも多いが、Vストロームシリーズや新型ハヤブサなどで既に知られている機能でもある。ネイキッド版であるGSX-S1000にも採用されたライドバイワイヤシステム及び電子制御スロットルボディーは新搭載で、ユーロ5規制に対応しつつパワー向上も果たすことに大きく貢献している。なおセルボタンのワンプッシュで確実に始動できるイージースタートシステムや、低回転域でクラッチを繋ぐときに自動で回転数を上げ発進をサポートしてくれるローRPMアシストといった機能ももちろん搭載する。

 もう一つの注目ポイントは、とうとうフルカラーとなった6.5インチのマルチインフォメーションディスプレイ、いわゆるメーターである。充実した各種機能をわかりやすく表示するだけでなく、スズキが用意するアプリ「mySPIN」をダウンロードしたスマートフォンと交信させることで電話機能やマップ機能を表示させることも可能になった。またメーター左側にはUSBアウトレットも用意しスマートフォンへの給電も可能となった。
 電子制御の充実は今や当たり前の装備になってきたが、そんな中でもクイックシフターやクルーズコントロールなどはGTとしての性格をサポートするものだし、そしてmySPINアプリによる今後の拡張性は楽しみな要素である。
 

 

ユーロ5対応しつつパワーアップしたエンジン

 エンジン本体は排気量など変わらず先代から引き継いだ部分が大きい。ユーロ5規制に対応するべくスロットルボディーは従来のφ44mmからφ40mmへと小径化し、カムシャフトはオーバーラップを少なく改め、排気系はさらに触媒を追加するなど変更を受けているがピークパワー向上に加えトルクのフラット化などパフォーマンスはむしろ向上しておりGSX-Sらしい速さは健在だろう。この他さらにエンジンの耐久性向上のためシフトシャフトやギアシフトカム、カムチェーンテンショナー周りが変更を受けている。
 なお、今回新たに「スズキクラッチアシストシステム(SCAS)」を搭載。いわゆるアシストスリッパークラッチなのだが、クラッチ操作の軽さはツーリングの強い味方のためこれもまた「GT」としてありがたい機能だ。
 

 

ツーリングスポーツ、復権なるか

 軽量ハイパワーなスポーツバイクでツーリングしたい、という願望はいつでもあっただろう。ダイレクト感や絶対的な速さを持つスポーツバイクはいつでも魅力的であり、アドベンチャーモデルというスマートな選択肢が一般化した今でも、やはりスポーツバイクの魅力は衰えない。ライバル社含め近年のスポーツツアラーの復権はなかなか興味深い流れである。ライバルが増えてジャンルが形成されていくほどに盛り上がりを見せることが多いため、このGSX-S1000GTはツーリングスポーツ復権の一つのきっかけにもなるかもしれない。
 国内での発売は確実。新たなスズキの「GT」の試乗記も、追々本サイトでお届けする予定である。
 

 

 

GTになってテール周りの快適性が特に充実。タンデムライドやサイドケースをつけてのツーリングを想定し、GTらしい進化を遂げている。特徴的なカウルはモノフォーカスLEDヘッドライトを採用し、大きくスラントしたフェアリングを新採用。ライダー快適性確保のための空力特性はとても力を入れている部分。ハンドルバーはラバーマウント化されると共に幅を23mm増やし、さらに手前に14mm引かれたことでライディングポジションはより余裕のあるものに。なおタンク容量はGSX-S1000同様2L増やされツーリングシーンをサポートする。

 

メインフレームは先代を踏襲するが、シートレール部は新作しタンデムライドや荷物の積載に対応。シート高の数値は先代同様だが、シートレールを下げたことでシートの厚みを増やし快適性を追求している。

 

ユーロ5規制に対応しつつもパワーアップを果たしたエンジンは、基本的な部分を先代から引き継ぎ、カムシャフト周りやミッション周りなど、耐久性も求めリファイン。新たにアシストスリッパークラッチ機能も持たせてクラッチ操作を軽くさせている。

 

電子制御スロットルボディーを新採用し、マフラーもキャタライザーが追加された新作となった。エアクリーナーボックスも見直されるなど総合的なアプローチによりピークで2馬力の向上。トルクのピーク値はわずかに落ちたが、代わりに発生カーブがなだらかになり谷を解消、平均では1.9%の向上となっている。その証拠に0-200m、0-400m加速もそれぞれタイム短縮を果たしている。

 

新たに採用されたフルカラーTFTディスプレイは各種電子制御の操作などを手元で操作できる。新たに「mySPIN」アプリが導入されたおかげでスマートフォンと連動させマップや電話、カレンダーなどの機能を表示させることも可能。またメーター左にはUSBポートも設けられたため給電も安心だ。ハンドルは先代よりもワイドかつ手前に引かれたためよりリラックスしたポジションになっただけでなく、ラバーマウント化により振動が軽減された。

 

メーターパネル上でできることが大幅に増えたことで、左のスイッチボックスには新たに十字キーが設定された。他にもクルーズコントロール用の上下スイッチなど追加されたが、ホーンボタンとウインカースイッチが変わらず操作しやすい位置にあるのは嬉しい。右のスイッチボックスはキルスイッチとセルボタンが一体化。下のボタンはクルーズコントロールのオン・オフだ。

 

先代ではミニマムだったタンデムシートも、上面にしっかりと平らな部分が確保されタンデムライダーの快適性を確保。大きなグラブバーが設定されたことでゴムネットなどによる簡易的な荷物の固定もしやすくなっているだろう。
ハンドルのラバーマウントと同じく、ステップにもラバーが張られて足裏への振動軽減をしている。
キーにはゴールドでGSX-S1000GTのロゴがあしらわれる。時代は電子キーではないかという声もあるかもしれないが、スズキはハヤブサなどトップモデルでもこの旧来のキーを採用。時として逆に複雑に感じられてしまうこともある電子キーよりも、シンプルなキーで十分と考えるライダー(筆者含む)もまだまだ多いことだろう。

 

●GSX-S1000GT 主要諸元(欧州仕様)
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:999cm3 ■ボア×ストローク:73.4×59.0mm ■圧縮比:12.2 ■最高出力:112kW/11,000rpm ■最大トルク:106N・m/9,250rpm ■全長×全幅×全高:2,140×825×1,215mm ■軸距離:1,460mm ■シート高:810mm ■車両重量:226kg ■燃料タンク容量:19L ■変速機: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・190/50ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):未定

 



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2021/09/22掲載