- ■試乗・文:中村浩史 ■撮影:赤松 孝
- ■協力:SUZUKI
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズhttps://www.instagram.com/alpinestarsjapan/
あのハヤブサがこんな風に走るの!?
年に2度のテイストofツクバ。絶版車やクラシック空冷4気筒の”DOBARモンスター”のレースであり、改造無制限”ハーキュリーズ”のレースが、相変わらずの大人気です。
この5月10~11日も、春の大会”SATSUKI STAGE”が行なわれました。加賀山就臣のハヤブサ改”鐵隼(=テツブサ)”は、スーパチャージャーH2Rとの激しいバトルの末、惜しくも表彰台を逃す4位。それでも、決勝中のベストラップが0分58秒363と、予選タイムを上回るというイミフさ。
ハヤブサを”知っている”だけの人は、ハヤブサ? サーキット走れるの? ってびっくりするでしょうけれど、加賀山のフルチューンオリジナルフレーム鐵隼は別にしても、ハヤブサって実は、そうサーキットキャリアの長くないライダーにでも、すごく安全で怖くなく、走りやすいビッグバイク。ショップやタイヤメーカー主催のサーキット走行会でも、実はハヤブサで参加するライダーって多いんです。
けれど、ハヤブサの本分はやはり、ロング&ハイスピードツーリングバイク。毎年夏に、鳥取県八頭町で行なわれる”隼駅まつり”には、全国からハヤブサ乗りが集まります。24年は2700台のハヤブサが集まったんです! 文句なく、日本が世界に誇るツーリングバイクです。2025年の”隼駅まつり”開催は8月10日(日曜日)ですよ、お忘れなく!
そろそろ夏休みの計画、ロングツーリングの夢想をしはじめる春に、久しぶりにハヤブサに乗る機会がありました。オーナーでもない私がハヤブサに乗るのは、ハヤブサ初代モデルから、平均してだいたい年に一度といったところ。それでも、毎回ハヤブサの試乗は、わけもなく長距離を走ってしまう――そんなバイクです。一度、1300ccだからって1300km走ってみようと九州・熊本までイッキに走ったこともありました。
現行モデルのハヤブサは2021年登場のいわゆる3型、ハヤブサファンの間では第3世代=Generation3を指して”Gen3”と呼ばれています。Gen1が1999年発売、Gen2が2008年で、Gen3が発売から5年目で、すでに完成の域に達しているモデルです。25年モデルはカラーリング変更のみですね。
久々に乗るハヤブサは、やっぱりハヤブサでした。つまり、またがってハンドルに手を添えたら、あぁハヤブサだ、ってわかるフィーリング。かつてはカワサキZZ-Rやホンダスーパーブラックバードが同じカテゴリーでしたが、今ではハヤブサだけになっちゃいました。ライディングポジションは、GSX-Rシリーズほどではないが、前傾が強く、ハンドルも遠め。シートに腰を下ろした時のゆさっとしたリアサスの沈み方、タンクのボリューム、視界に入る5連メーターのゴージャスさもハヤブサならではですね。
エンジンスタートも、遠いところでエンジンが回っているような、ジェントルで静かなイメージ。1340cc/188PSというモンスターだってこと、まだ分からせない紳士。ミッションの入りもスムーズで、クラッチミートすると、巨体がするするするっと滑り出す。ジェントルな回転フィーリングだけれど、スロットルに手応えがあって、ズリュズリュズリュッと重いクランクが回転してトルクが湧き出てくるような感覚もまた、ハヤブサ的。シュンシュンと軽快に回るGSX-R1000Rのエンジンフィーリングとは明確に違います。
走り出すと、やはり低回転域のトルクが印象的。2000rpmからでも巨体を前に進める力があって、常用スピードならば4000rpmも回っていたら充分。街中では3速、いや4速ホールドでスロットルのオンオフだけでイケる。まるでオートマチック車のようなイージーさです。
この時の車体の手応えも、どっしりとした接地感がある安定感と軽快さが同居しているようなフィーリングで、走っていたら軽々と扱えますが、でも停まっているハヤブサはやっぱり軽くはない。このあたりの接地感ある重さもまた、ハヤブサ的です。
渋滞路だって、もちろん苦痛だけれど、ローギアで微速前進→停止→微速前進→停止というムーブがつらいのはほかのビッグバイクも同じようなもの。けれどハヤブサは、ローギアで発進したばかりの挙動が不安定な瞬間が、やはり重さを感じさせます。逆に言えば、それ以外は平気というわけ。
ハヤブサの得意フィールドである高速道路に連れ出すと、これはもう水を得た魚、空を舞うハヤブサです。クイックシフトの使い勝手も良く、変速のたびに回転が落ち込むこともないスムーズな加速とクルージングが味わえます。
トップギア6速では、100km/hが3200rpmくらい、120km/hが4000rpmくらい。うー、もっとガンガン回して超高速の世界に飛び込みたい、って気持ちとの戦いもまた、ハヤブサ的です。
クルージング時には、上に書いた前傾ポジションが効果的で、ライダーがハヤブサのエアロボディの一部になっているような感覚。前傾ポジションは、手首の角度を肩からブレーキレバーにかけての一直線にうまく合わせれば苦痛は少ないけれど、上体が前傾していて前を向くと、今度は首が痛くなる。やーね、オジサンって。
クルージング中は平和そのもの。セルボタン下の”時計マーク”スイッチをONにして、左スイッチの”セット”ボタンを押せばクルーズコントロールのセット完了。クイックシフトとクルーズコントロールのパックは、今やツーリングバイクに欠かせない装備ですね。
高速道路を駆け下り、ワインディングに踏み入れてみました。ここまで一般道10kmくらいと高速道路200km弱。肩と首は少し凝っているけれど、一時間で休まなきゃ、って程の疲れはなし。着座位置がうまくないのか、2時間ほどでちょっとお尻が痛くなったくらいです。
お気に入りのワインディングは2~3速を使う連続したコーナー区間を抜けて、絶景の中の大きなアールの
コーナーが続く区間をつなぐようなようなレイアウト? ここでも、加賀山就臣なみのハンドリングで、なんてワケにはいかないけれど、一般道や高速道路とは違うスロットルの開け閉めが楽しい。
サーキットでもない限り、安全なスピードでワインディングを楽しく走る時には、この巨体すら安定感につながっていて、怖さがない、バイクをコントロールする楽しさがあります。おー、オレいまビッグバイクを操ってるぞ――これこれ、これがハヤブサの楽しさです。
誕生四半世紀を数えたツーリングモンスターは、高速道路が得意で、ワインディングが楽しめて、一般道の渋滞もさほど苦ではないオールラウンダー。スポーツバイクには軽さが正義だけれど、ロングツーリングバイクには重さすらも安定性につながることがあります。同じスピ-ドレンジで長距離を走ると、1500ccのクルマよりも3000ccのクルマの方が快適、みたいなね。
それでもやっぱり、高速道路のパーキングに停めるとき、自宅に帰って駐輪場に出し入れするとき、重さを感じるのも事実です。これを乗り越えるのもまた、ハヤブサ乗りの矜持。
ハヤブサを見ると遠くに行きたくなる。ハヤブサに乗るとワインディングを走りたくなる。そんなバイクです。
(試乗・文:中村浩史、撮影:赤松 孝)
■型式:8BL-EJ11A ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,339cm3 ■ボア×ストローク:81.0×65.0mm ■圧縮比:12.5 ■最高出力:138kw(188PS)/9,700rpm ■最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/7,000 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,180 × 735 × 1,165mm ■ホイールベース:1,480mm ■シート髙:800mm ■車両重量:264kg ■燃料タンク容量:20L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ:120/70ZR17M/C・190/50ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■車体色:ブマットスティールグリーンメタリック×グラススパークルブラック、グラススパークルブラック×マットチタニウムシルバーメタリック、ミスティックシルバーメタリック×パールビガーブルー ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,233,000円
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