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試乗・解説

ピークパワーがダウンしたにもかかわらず、トルク増強と徹底した耐久性向上といういかにもスズキらしい進化を果たした三世代目のハヤブサ。GSX-R1000Rが絶版となった今、スズキのフラッグシップとして新たな役割も果たすか。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:鈴木広一郎 ■協力:SUZUKI ■ウエア協力:アライヘルメット、KADOYA

上質とはこのことだ

 GSX-R1000Rがレースも視野に入れた究極性能を追求していたのに対して、ハヤブサは初代からサーキットを最優先とせず、公道をベースにあらゆる環境での「アルティメットスポーツ」を掲げていた。それは三世代目になっても同様で、速いのはもちろんなのだが、それよりも振動の少なさや排気音の静かさ、各部のフィニッシュの抜かりなさといった部分で、ますますその高級感に磨きがかかってきている。
 実はつい最近、初期型のハヤブサに試乗する機会もあった。現行型に比べると小さくて荒々しく、(シンプルに年式が古いことによる部分もあるが)現行車に比べると高級車感はだいぶ少なくその代わりにとてもヤンチャなイメージ。そんな経験をしたばかりだからこそ、そして比較試乗で究極のスポーツバイクであるGSX-Rに乗っていたからこそ、新型ハヤブサに乗るとビロードの絨毯に乗っているかのような、タマラナイ高級感が楽しめた。
 300km/hという速度が出る、という初期型のアピールは、もう今や珍しい性能ではなくなりアピールできるポイントではなくなってきただろう。ハヤブサの魅力はもはやそこではなく、そんな超高性能を超上質に味わえることにあるのだ。

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「苦もなく」が最大の魅力

 比較対象となったGSX-Rの「GSX-R編」も合わせて読んでいただきたいが(https://mr-bike.jp/mb/archives/35981 参照)、GSX-Rがスポーツに重きを置いていて、ライダーにもスポーツマンであることを求めてくることに対し、ハヤブサはライダーに何かを要求してくるといった感覚が少ない。
 大きく重たいオートバイであることは間違いないものの、シートの低さや重心の低さなどからコツさえつかめば取り回しに苦労させない優しさもある。そして走り出してもそれは同じで、GSX-Rのような「僕、メチャクチャにアスリートです! 心して乗って下さいよね!」といった、一種強迫観念のようなものはハヤブサにはまるでないのだ。街乗りの低速域でも静かでトルクフルで従順。のんびりと走っていても何も問題なく、いつの間にか6速に入っていて有り余るチカラによりオートマ感覚で走れてしまう。こんなに大きく重たいバイクにもかかわらず、この時の気軽さはGSX-R以上だ。
 そこから例えば幹線道路や高速道路で速度域が上がると、6速トップギアのまま欲しい速度へビュ~ゥッ!と加速。この時にドラマはなく、ただただ従順に、まさに「苦もなく」速度を乗せ、振動やけたたましい排気音/吸気音といった作為的な演出もない。どこまでも上質なのだ。

 速度域が上がってくると、ハヤブサの重さや長さが活きてくるように思う。空力にも助けられてか路面にへばりつく感じが出てきて、高速道路の継ぎ目などを超えても跳ねることなく路面をしっかりと捉えてただただ猛進してくれる。GSX-Rでは車体の動きに対して人間もそれに同調し、常にスポーツマインドを持って走りたいのに対して、ハヤブサでは難しいことを考えずにただ乗ってアクセルをひねっていればよいのだ。どんな速度域においてもバイクがバイクなりに走ってくれ、ライダー側は受け身に徹してただただそのエンターテインメントを楽しんでいれば良い。どんなシチュエーションでも「苦もなく」こなし、いつでも上質さを失わないのが何より魅力的だ。

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得手不得手

 特に初期型のハヤブサは「意外にコーナリングマシン」などと言われることもあるが、この三代目ではさらにディメンションがスポーティになり、そのコーナリング性能には磨きがかかっている。
 ただ、そのコーナリング性能が発揮される場面が面白い。実は得意とするのは低速コーナーなのだ。舗装林道に毛が生えたような、低速で常にどちらかに曲がっているような道では「こんなに大きなバイクがこんなにヒラヒラと向きを変えられるのか!」と驚くような軽快さを持っている。3速固定で低速トルクを使ってこういった道をグリグリと走り回るのは本当に楽しい。重心が低く、ライダーが路面に近いこともあって、多少路面が荒れているような場面でも怖さが少ないのも魅力だ。
 そして当然、ハイスピード領域も得意分野。前述したように高い速度域でも緊張感を強いることなくバイクが粛々と仕事をこなしてくれるため、怖さを伴わずに非日常域へと導いてくれる。また速度域間をワープするようなGSX-Rと違って、スピードが乗るのにしっかりと過程があるため「いつの間にかとんでもないスピードが出ちゃっていた!」ということも少ないように思う。それでも速度に慣れてしまうと予想以上にハイスピードになっていることがあるため、そんな人は新型で新たに設定された、ライダーの意志で設定できる速度リミッターをONにして走るといいだろう。

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 一方で不得手かもしれないな、と感じたのは短い直線路と中速コーナーが組み合わさったようなシチュエーションだ。直線ではスピードが出るが、進入のブレーキングでは車体の重さを感じて、特にGSX-Rと比べてしまうと止まらない感がある。またターンインの意図的なキッカケづくりも必要に感じた部分だった。
 GSX-Rでは本当に「見ただけ」で曲がっていく感覚がありブレーキングとターンインが一つの流れでできるのに対し、ハヤブサはしっかりと減速させたのち、クイックな特性を持つフロント周りはターンインしたがるけれど、重くて長い後半部分はまだ真っすぐ行きたがっている感覚が残ってしまう場面があった。

 重心が低いこともあってGSX-Rのようなペタッと寝て即座に旋回が始まる、という感覚は希薄なものの、あれこれと試しているうちに、ちょっと意識的に逆操舵を当ててあげると面白いように曲がっていくことに気が付いた。「ココから曲がっていこう」という明確な意思を持って、クッと逆操舵からペタコン!と寝かせれば、舗装林道同様に路面がすぐそこにある安心感と共に安定した上質なコーナリングが楽しめた。また重心が低いのに公道ではステップを擦ることもなく、意外にバンク角が深かったのも良いと感じたポイントだ。
 こんな乗り方やコツを探りながら、スーパースポーツとは違う運動性を上手に引き出すのもハヤブサの醍醐味。「あ、こうすれば気持ちよく曲がるんだ」というのを見つけた時はニコニコ顔である。

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オールラウンダーとして

 GSX-Rでタンデムしている人や後ろに箱をつけている人は比較的レアだと思うが、ハヤブサではあまり珍しいことでもない。こんな部分でもハヤブサがスポーツバイクでありつつも、もっと多角的な楽しみ方をされているバイクなのがわかるし、この新型でも既に様々なカスタム仕様が走っているのを見かけるからそういった楽しみ方も盛んだ。
 スズキラインナップの頂点として、アルティメットなスポーツ性の他にこういった楽しみ方も提供できるというのは素晴らしいことだ。そんなハヤブサの実力を目の当たりにしたからこそ、もう一歩先の提案もしてみたい。

 スズキの大排気量スポーツラインナップにはGSX-RエンジンをベースとしたGSX-S1000シリーズ(及びKATANA)があるが、去年GT版が追加されたとはいえいずれもわりとビンビンなスポーツモデルである。打てば響くエンジン特性と軽量な車体で、ちょっとアクセルをひねればGSX-Rの血筋を感じさせてくれちゃうのだ。
 ツアラー性能も、となるとVストロームシリーズがあるが、あちらはVツインエンジンのアドベンチャーモデルであり、かつて良きオールラウンダーとして存在したバンディットシリーズのようなモデルは現在ラインナップしていない。
 しかし今回のハヤブサ試乗で、どこかバンディット的な包容力というか、オールラウンド性を確かに感じたのであった。快適にタンデムできて、十分以上にトルクがあって、速度域に関わらず上質で、細かな峠道でも楽しく振り回せて……まさにバンディットではないか。

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 だからこそバリエーションモデルに期待したい。ハヤブサは実はけっこう前傾が強く、しかもハンドルが遠いためGSX-R以上に上体が伸びてしまうライディングポジション。これをもう少しアップで快適なハンドルにして、伏せなくともしっかりと防風してくれるスクリーンをつけ、リアにはパニアケースが付けられるようにした「ハヤブサGT」はどうだろう。こんなのがあればより快適に長距離を走れるだろうし、タンデムライダーも運転手につかまりやすい。ハンドルがもう少し高ければ取り回しもしやすいことだろう。
 もう一つはアップハンハーフカウルの、まさにバンディット的バリエーション。B-KINGほど手の込んだものではなく、シンプルにバンディットS的な、良きオールラウンダーである。今ある超充実の電子制御は簡素化して、価格も抑えてくれたらハヤブサの上質さをより多くの人が楽しめるはずだ。

 さらには海外サイトでも見かける提案だが、ターボ搭載の300馬力仕様も夢がある。一人乗り仕様にして、これはもう300万円とかの設定にしてそれこそ究極のバイクとする。スーパーチャージャー付のライバルを消し去る究極のハヤブサ、今回の耐久性向上を考えればそのぐらいは問題なくできるのではないだろうか。
 GSX-R1000が役目を終えた今、それよりも前に初期型が出ていたハヤブサがフラッグシップの役目を受け継いだ。磨きがかかったアルティメットさは本当に素晴らしい。今こそその素晴らしさをもっと多くのカタチで提案して欲しいと、GSX-Rと同時に試乗し感じた。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:鈴木広一郎)

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800mmのシート高はスポーツバイクとしては低く感じる部類。足着きも良好で、かつスポーティな気持ちで走っている時は路面が近く感じる安心感がある。ワインディングではステップを擦ることはなかったが、それでいて長身でも膝が窮屈に感じるようなことがなかったのは嬉しい。ただハンドルは特別低くはないものの遠く感じ、結果として上体の前傾はそれなりに大きく、長距離では肩や首に負担がかかると感じた。ライダーの身長は185cm、体重72kg。

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先代でストロークアップして得た1339ccの排気量はそのままに、大幅に耐久性を向上させたエンジン。ピークパワーは若干落とした代わりに常用域のトルクは増強され、現実的な使用環境においてはむしろ速くなった印象だ。熟成路線を採るのはフレームも同様で、初代から大きな変更はしていない。
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ブレーキ性能はブレンボのスタイルマキャリパーを採用するなどして強化。高い動力性能を持つが車体の重量は重めのため、ブレーキの強化は世界的に歓迎された進化だ。

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大きな容量を持つ2本出しサイレンサーも先代から引き継ぐスタイル。ただ新型ではよりシャープな造形となり先代よりも軽快感がある。排気音が常に静かなのも上質さに大きく貢献している。
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高級四輪車のような横長のテールランプ周りだが、特にシングルシートカウルを着ければ紛れもなく初代から続くハヤブサの流線型を持っている。

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中央に縦2眼のLEDヘッドライト、そしてその左右にエアインテークという形はGSX-Rと同様。Vのような形をしたヘッドライトはGSX-Rの2003年型を彷彿させる気もし、どこかハヤブサシリーズ以外のスズキの歴史も感じさせてくれる。
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ライダー側のシートはとても快適で、またタンデムシートも一定の面積が確保されているためパッセンジャーの快適性に加え荷物の安定性も高い。グラブバーも付くなどタンデムも考慮した造りではあるが、ただライダーの前傾度が強めのため、パッセンジャーはどこにつかまったらよいのか……というジレンマがありそう。街でタンデムしているハヤブサはボックスをつけている率が高いように思える。

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ツアラー的性格&役割も持っているはずのハヤブサだが、ハンドル位置は今回のモデルチェンジでいくらかライダーに近づいたとはいえそれでも割と遠い設定。小柄なライダーだと上半身が伸びてしまうようなポジションになることもあるだろう。本文中に記したように、アップハン仕様があったらより多くのライダーにアピールできるように思う。なおハンドルはトップブリッヂ上にラバーマウントされているため振動が伝わりにくくなっている。

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ハヤブサの4連アナログメーターは継承しながらも、充実の各種電子制御を示すため中央にカラー液晶を配置。様々な電子制御が充実しているが、あまりそれらを気にせずに走ることができるのも一つの魅力だ。
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もはや最高速というのはメインのアピールポイントではなくなっていると思うが、しかしフェンダーはエアフローを意識した深い形状のもの。倒立フォークの摺動部を守る役目も果たしている。

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●Hayabusa 主要諸元
■型式:8BL-EJ11A ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,339cm3 ■ボア×ストローク:81.0×65.0mm ■圧縮比:12.5 ■最高出力:138kw(188PS)/9,700rpm ■最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/7,000 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,180 × 735 × 1,165mm ■ホイールベース:1,480mm ■シート髙:800mm ■車両重量:264kg ■燃料タンク容量:20L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ:120/70ZR17M/C・190/50ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■車体色:ブリリアントホワイト×パールビガーブルー、グラススパークルブラック×メタリックNo.2、サンダーグレーメタリク×キャンディダーリングレッド ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,156,000円

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2023/02/20掲載