YAMAHA MT-10 ABS 車両解説
2017年5月、国内のヤマハスポーツモデルファン待望のMT-10/MT-10 SPの国内販売が開始された。力強い加速と、個性豊かなエンジンキャラクター。そして、俊敏なハンドリング、自在に操る楽しさ。MTシリーズが創出したこの二つの要素から生み出される、かつてない官能的な走りで多くのファンを魅了しているMTシリーズの領域をさらに拡げるモデルがMT-10/MT-10 SPだった。
動弁系にロッカーアーム式吸排バルブ駆動を採用した、最新式クロスプレーン型クランクシャフトの水冷直列4気筒DOHC、総排気量997cm3エンジン。スロットルワークに対し、ダイレクトな駆動力を得ることができる“クロスプレーン型クランクシャフト”ならではのストリートに適したトルク特性を実現。多用される常用域での優れた後輪駆動力を引き出し、9,000rpmで最大トルクを発揮する。
このエンジンを搭載する車体は、2015年モデルのYZF-R1をベースに、強度・剛性バランスをさらにチューニングしたアルミ製デルタボックス製フレーム&リアアームだ。フレームは重力鋳造構成部品を相互に溶接し、軽量かつ優れた強度・剛性バランスを実現。エンジン懸架は、クランクケース上下2箇所とシリンダーヘッド左右2箇所をリジット懸架。エンジンを強度部材に活用し、車体トータルの縦・横・捩れに優れたバランスを達成。これら骨格部品の良好な剛性バランスにより、MTシリーズのフラッグシップモデルにふさわしい“意のままに扱えるハンドリング”を実現している。
ライダーのアクセル操作を検知したECUユニットが、「エンジン回転」と「スロットル開度」に見合った最適なスロットルバルブ開度を瞬時に演算、モーター駆動でスロットルバルブを作動させ、吸入空気量制御を行うYCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)を搭載。“意のままの出力と操作感”を生み出す大きなポイントとなっている。
TCS(トラクション・コントロール・システム)は、3モード選択+OFFが選べる。発進や加速時に後輪のスピン傾向を検知すると点火時期、燃料噴射量、スロットル開度(YCC-T)を統合制御し、滑らかな発進性・走行性をサポートする。制御の強さも「1」(スポーティな走行を重視したモード)、「2」(通常のストリート走行向けのモード)、「3」(路面の摩擦力が低いところでの走行を想定したモード)および「OFF」から選択できる。
その他、シフトペダルの動きを検知すると、ECU演算によりエンジン出力を補正。噛み合っているギアの駆動トルクを瞬間的にキャンセルし、シフトアップ操作をサポートするクイック・シフト・システム(QSS)、クラッチレバーの操作荷重を軽減するとともに、バックトルクによる車体挙動への影響を抑止、市街地などでの軽快な走りに貢献するアシスト&スリッパー(A&S)クラッチ、ロングツーリングをより快適にしてくれるクルーズコントロールシステムも採用、4~6速ギアで50km/h~100km/h走行時にセット可能となっている。
エンジン特性を3つのモードから選べるD-MODE(走行モード切替システム)も搭載。走行環境やライダーの好みにより「3モード」(さまざまな走行条件に適したモード。スムーズでスポーティな走行フィーリングを低速から高速まで楽しめる)、「2モード」(3モードに比べ、よりスポーティなエンジンレスポンスを楽しめるモード)、「1モード」(最もスポーティなエンジンレスポンスを楽しめるモード)が選択できる。
2019年4月と2020年5月にモデルチェンジが行われたが、それぞれカラー設定の変更のみで2019年モデル、2020年モデルとされていた(MT-10 SP ABSは継続販売)。
2022年10月に平成32年排出ガス規制適合化と出力アップを行う実質的なモデルチェンジが行われるにあたって採用されたコンセプトは“MT-king’s Dignity”。平成32年排出ガス規制適合化のみにとどまらず出力アップ、ヤマハならではの音のモデルチェンジ、「αlive AD(アライヴ アコースティックデザイン)」が行われたことなどが特徴となっている。「6軸IMU(Inartial Measurement Unit)」搭載による各種電子制御も特徴だろう。
風格とシリアスなMT-10らしさのスタイリングはほとんど変わりはないが、ヘッドランプ周りが刷新されたことでMTシリーズの頂点に立つ力強さと凄みが増したといえる。
MT-10 SPは、MT-10の上級モデルとしてラインアップされるモデルで、スプールバルブ内蔵のOHLINS製電子制御サスペンション、アンダーカウルなどが装備される。
2024年4月「ダークブルーイッシュグレーメタリック8」を新たに追加。「ディープパープリッシュブルーメタリックC」、「マットダークグレーメタリック6」 および上級仕様のMT-10 SP ABSの「ブルーイッシュホワイトメタリック2」は継続販売された。
今回はMT-10 ABSにホイールがブルーとなった新色「マットライトグレーメタリック4」を追加する。従来色のうち「ディープパープリッシュブルーメタリックC」と「マットダークグレーメタリック6」は継続されるので3色のラインアップに変更はない。MT-10 SP ABSは変更なくブルーイッシュホワイトメタリック2を継続で販売する。