インターナショナルGSトロフィー──BMWモトラッドが主催する2年に一度開催されるイベントがスタートした。日本から3名の男性ライダー、2名の女性ライダーは、用意された過酷なスペシャルステージをどう戦ったのか? 第1日目から3日目までのレポートだ。
■レポート:松井 勉 ■写真提供:BMW Motorrad ■協力:BMW Motorrad Japan https://www.bmw-motorrad.jp
DAY1 ウエルカムトライアル
ミッドガードからグランドスタートを切った朝、そこから間もない場所に廃墟を使って設定されたこのステージは、R1300GSがすっぽりと収まる仕切りの中にバイクを入れ、1台ずつスタート。短くもタイトなカーブを描いたコースを進み、フィニッシュでバイクを停めたら、高い所に吊られたベルを鳴らしてゴール。ベルが鳴ったら次のライダーがスタートする、というもので、チーム全員がフィニッシュするまでの時間を計測。足着き、コースオフなどはペナルティが加算される。距離が短く、アクセルを開けたくともタイトなだけに豪快には開けられず、クレバーに走ったチームが上位に付けたようだ。
このスペシャルステージ1で日本チーム男子は9位、女子は1位! を獲得。
DAY1のスペシャルステージ2は「アクラポビッチチャレンジ」と名付けられたステージ。幅の広い砂地の涸れ川を使い2本のバナーを立てた間を通るようにコースを造り、距離的には400メートルほどだろうか、スタートからゴールまでフカフカの砂を走るパワフルなステージだった。
今回のGSトロフィーではR1300GSが使われた。高いオフロード性能を持つとはいえ、軽量なオフロードバイクの愛好家にしてみればこんな場所を大排気量のアドベンチャーバイクが入るなんて想像できないかもしれない。このステージは一人目がスタートした後、5秒間隔でチームメンバーがスタートする方法が採られた。スタックや転倒した場合、チームのライダーが助け合うのだが、フィニッシュしてから助けに行くか、目の前で苦労する仲間を助けるのかでも順位は分かれたようで、助けに行ったライダーが同様にスタックする場面もあった。ミイラ取りがミイラになるケースだ。
このステージ、日本チームは男子が9位、女子が1位で通過。初日の総合成績を女子は1位、男子は11位となった。
DAY2 アイアイバからスピッツコッペへ
ディープサンドのステージでは度肝を抜かれたGSトロフィーの参加者達。出発前日に行われた全体ブリーフィングで共有されたように日一日とタフさを増すと言われたため2日目の朝も期待と緊張感に満ちた表情でスタートをしてゆく。この日のためにトレーニングを積み、スキルを磨いてきたライダーばかりだ。
向かったスピッツコッペは、広大な砂漠の中にそびえる岩山がある場所だった。そこへの道は時折砂地の混ざるトレールが続いていた。初日に見た涸れ川や各所で群生する植物が姿を消し、ついには地平線まで続く丸く黒灰色の小石が敷き詰められた大地が続く中を進む。トレールの轍は薄い。ときおり思い出したかのように人家があるが、それを過ぎれば再び同じ風景が続く。豆粒のようでありそれでいて周辺になにもないだが明確な道標となる岩山が見え始めてから1時間ほどだろうか、眼前に迫る岩山や巨大で神々しく地面からせり出している。それがスピッツコッペだった。初日よりも100㎞ほど短い移動ながら充実の184㎞だった。
この日のスペシャルステージは次のようなものだった。スペシャルステージ1はフライングボクサーと名付けられたもので、巨大な岩盤の上に設営されていた。谷に見立てた岩のくぼみ(およそ幅10メートル程度で、高低差は2メートルほどか)に対峙して置かれた2台のサポートカー。そのクルマのバンバーに設置されたウインチからロープを張り、そこにスキーリフトのように宙吊りになったR1300GSを人力で対岸の地点まで渡すというもの。3名の男子チームの場合、牽引して宙吊りになったバイクのバランスをとり、2人がロープでバイクを対岸まで渡す。女子は帯同するマーシャルがバランスを取る役目をはたしチームの2名がバイクを曳く。
スタートの合図で対岸にあるロープを納めたバッグまで走り、そのバッグから2本の牽引ロープを取り出し、バイクが置かれたスタート地点に戻りカラビナでバイクに結索。これもゲーム時間のうちに含まれる。
見ているだけでも奥歯に力が入る。男子チームですら苦闘するなか、当然日本女子も腹の底から唸るような声を絞り出しながら力をだすが、うまくいかない。このゲームで、男性チームは13位、女性チームは6位に甘んじることになった。240㎏のバイクを空中に吊られているからとはいえ、それを人力で動かすとは。ちなみに少しだけゴールに向かって上り勾配な印象で、スルスルとはいかない。制限時間3分に設定されていた。が、速いチームは1分と掛からず最初に動き出したモーメントを使ってゴールまで曳き切る、というのが大切なようで、一度止まろうものなら……。なによりバイクを押したり引いたりするのとはまったく異なる力が必要だ。お疲れ様、とはまさにこのこと。
スペシャルステージ2は再び壮大な岩場のなかで行われた。ステージ1も大きな岩盤だったが、こちらはもっと巨大。SENAロックチャレンジと銘打ったこのステージでは、岩盤と岩が織りなす地形を使ったループコースを設定。そこには岩場のトンネルも含まれる。巨大な丸い岩が斜面にとどまる不思議な光景の中で行われた。
ルールは、SENAのヘッドセットを使い、最初に走ったライダーがコースを周回するのに使った時間と同様のタイムをその他のチームメンバーも出し、その差が少なさで順位を競うというもの。ゲーム中、そのラップタイム計測にあらゆる機器の使用は認められずチームの誰かが1、2、3、4、5と数えるなど同じリズムで行う必要があった。中には誰が歌っても同じリズムだという理由で各自が国歌を歌って時間を合わせたというチームもあった。
結果的にはかなり時間差が接戦だったというこのゲームで、男子は12位、女子は2位に付ける。2日間の総合ではチームジャパンは男性チームが13位、女性チームはドイツと並んで1位タイとなった。
スピッツコッペのキャンプには7月にドイツのガーミッシュパルテンキルヘンで開催されたBMWモトラッドの大祭、モトラッドデイズで発表されたR1300GSアドベンチャーとそれに乗ってナミビアまでGSトロフィー2024の勝者に与えられるトロフィーを運ぶという長い旅を終えた4台の新型R1300GSアドベンチャーが到着。彼らの旅は前半をドイツからモロッコまで、後半は9月上旬にナミビアの隣国ボツワナ共和国からスタートして9月16日にここへとやってきた。いや、この岩山の周辺見渡す限りなにもないように思えるこの場所での現地集合ってそれだけでスゴイと思った。その彼らも合流した夕食や夕食後の成績発表は大盛り上がりになる。乾燥して澄んだ空気、夜空もクリアでその星の数は夜のとばりに針で穴を開けたかのように地平線から反対のそれまで遮る物さえなければ目線の高さから全てが星空だったのも強く印象に残っている。
DAY3 タフなステージが待っていた
この日はスピッツコッペのキャンプ地に戻る156㎞の周回ルートが設定された。初日や2日目と比べれば距離は短いがナミビアのGSトロフィーを語り継ぐことになるほどタフな1日となった。それは途中50㎞にも及ぶ涸れ川の中を走行するというザラ目の深い砂をGSトロフィーの参加者達はコンボイで走行することになった。この日、女性チームはそのルートのタフさから別ルートを走ることになった。
この日、3つのスペシャルステージが行われた。一つ目はキャンプサイトに隣接した岩盤の上で行われたスピッツコッペ・INSTA360チャレンジがそれ。これは方位コンパスを頼りに指示書(ルートマップ)に会わせたルートを辿るゲーム。徒歩によるナビゲーションゲームだ。広くはないエリアで行われたが、オリエンテーリングなどに使われる方位コンパスの使い方をマスターしていないと、方位を数値で指示されているので多くのチームがミッションコンプリートならず、という様相だった。このステージで日本勢は男子が7位タイ、女子が3位タイとなる。
スペシャルステージ2はキャメル・ソーンツリー・チャレンジと名付けられていた。これ、駱駝が葉などを食べる木々で、ソーンとは棘。そのクギのように堅く鋭い棘でタイヤがパンクしたという想定で、パンク修理を終えるまでのタイムを競うもの。涸れ川のほとりにスタート地点が設けられ、チームの1人はバイクで対岸にあるパンク修理用のR1300GSが置かれた場所へと走る。残るメンバーは足で走り、その涸れ川の途中に置かれたパンク修理の道具袋を持って対岸へと急ぐ。そして3名で協力して棘に見立ててタイヤに刺してある木ネジを抜き、チューブレスタイヤのパンク修理の手順で直す、というもの。最後に空気を入れる必要はなくスクリューを抜き、パンク修理を終えるまでの時間が競われた。
このチャレンジで男子チームは12位、女子チームは5位となる。
この日、3つめに用意されたステージは長い涸れ川走行の途中に用意されていた。涸れ川のほとり(中州?)に生えた木々の木陰でランチを摂ったあとその涸れ川をさらに進んだところで行われた。涸れ川の名にちなみオマルル・メッツラー・チャレンジと名付けられたこのステージは、ディープサンドと岩場を巡るテクニカルステージで、ルートは初日のアクラポビッチチャレンジ同様、バナーを目印にコースを走り、一人目が走り終えると次のライダーがスタートする、というもの。
このステージは男性のみ行われた。女性チームはこの日、涸れ川セクションを短縮した別ルートを移動したが、それでも現地に到着するのに時間がかかり夕暮れまでにキャンプ地に着くことを優先してこのステージをキャンセルとした。
チームジャパンは3名でこのステージを乗り切り、7位でフィニッシュ。マキシマムタイムも設定され中にはそれを越えるチームもあった。また転倒でサイドスタンドスイッチにダメージを受け1速に入れるとエンジンが止まる、という不運に襲われるチームもあった中、チームジャパンは健闘した。
そして初日に課題として出されたフォト・チャレンジの集計もこの日行われた。これはチーム全員が映った写真をスマホなどで撮影し、キャンプ地でオフィシャルにメールやエアドロップで伝達。それを5名がジャッジ(BMWモトラッドのCEOを含むGSトロフィーの運営スタッフなど)。各チームの写真に投票し、得点が決まるというもの。このフォトチャレンジで日本男子チームは2位、女子チームは3位を獲得。総合では男性チームが12位、女性チームは2位タイとなっている。(次回に続く)
(レポート:松井 勉、写真提供:BMW Motorrad)
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