インターナショナルGSトロフィー──BMWモトラッドが主催する2年に一度開催されるイベントだ。これに参加するためには、参加国の選考会で代表の座を勝ち取る必要がある。言わば世界中から集まった選りすぐりのGSライダーが夢のようなルートで、時に厳しい道を進むアドベンチャーツーリングなのだ。今回、日本から3名の男性ライダー、2名の女性ライダーの5名が参加した。ナミビアという未知の大地を世界のライダーたちとどんな旅をしたのだろうか。
■レポート:松井 勉 ■写真提供:BMW Motorrad ■協力:BMW Motorrad Japan https://www.bmw-motorrad.jp
GSトロフィーとは?
GSトロフィーは2008年から始まったBMWモトラッド主催によるイベントだ。選考会を勝ち抜き世界各国から選出されたGS乗り代表らによる究極のアドベンチャーツーリングだ。同じバイク、同じウエアを纏いキャンプをしながら6〜8日間の旅を共にするのだ。2年に一度開催されているこのGSトロフィー、そのコンセプトは、冒険、友情、異文化交流、そして仲間と訪れた国を旅することにある。
過去の開催国を振り返ると次のようになる。
- 2008年 チュニジア(アフリカ大陸北部)
- 2010年 南アフリカとその周辺国(アフリカ大陸南部)
- 2012年 アルゼンチン、チリでパタゴニアを巡る(南米大陸)
- 2014年 カナダの森林地帯を巡る(北米大陸)
- 2016年 タイ王国(東南アジア)
- 2018年 モンゴル(中央アジア)
- 2020年 ニュージーランド(オセアニア)
- 2022年 アルバニア(南東ヨーロッパ)
そして今年、GSトロフィーは2010年以来14年ぶりにアフリカ大陸へと戻ってきた。ナミビアである。アンゴラ、ザンビア、ボツワナ、南アフリカと国境を接し、その国土は日本の約2.2倍。人口は257万人(2022年の情報)ほど。1平方キロあたりの人口密度は3人とのことだ。
ナミビアは降雨量が少なく1年365日のうち360日は晴れる、と地元の人は言う。沿岸を寒流が流れ、その冷たい海流が生む風と海霧が内陸まで100km近く入り込むことも珍しくないそうで、その霧が水分を運び内陸は乾燥した世界が広がる。沿岸に広がるナミブ砂漠が広がるのも、乾燥と海から風で砂が運ばれ形成されたのだそうだ。
今回のナミビア大会には22チームが参加した。15の国と地域、そして2023年の7月にベルリンで開催されたBMWモトラッドデイズ(年1回開催される最大のイベント。日本では長野県白馬村で毎年開催されている)において、チームインターナショナルとして男性3名、女性2名のライダーの選考も行われた。GSトロフィーに参加を表明していない国々のGSライダーにも参加の門戸を開いたのだ。
2024年のGSトロフィーに参戦をするのは次の国々と地域だ。まず男性3名、女性2名のチームが参加するのは、日本、韓国、ドイツ、フランス、インターナショナル(男性チーム・ポーランド、オーストリア、ウクライナ。女性チーム・ポーランド、チェコ)、ベネルクス(男女ともオランダ、ベルギー)。
男性チームが参加するのは、南アフリカ、中国、ブラジル、ユナイテッドキングダム、ラテンアメリカ(チリ、パラグアイ)、イタリア、インド、メキシコ、ミドルイースト(UAE、サウジアラビア、レバノン)。以上22チームだ。
GSトロフィーへの参加の道は以下のようにして始まる。参加資格はBMWモトラッドのGSユーザーであること。参加国の国籍を有すること。そして各国で開催されるGSトロフィーへの代表選考会に参加し、男性はファイナルで上位3名に入ればGSトロフィーへの参加権を得ることが出来る。
女性ライダーは、男性同様各国の選考会で上位2名に入るとファイナルが開催される国際選考会への参加権を獲得し、その国際選考会ではチーム戦となり、参加国の中から上位6位に入れば本戦への参加となる、というもの。GSトロフィーでは2016年から女性チームの参加が始まった。5回目の大会からだ。タイランド、モンゴル、そしてニュージーランド大会の3大会では国際女性選抜チームが参加していた。各国の選考会で選抜されると国際選考会に参加が可能になるのは同様ながら、タイでは1チーム3名、モンゴル、ニュージーランドでは2チーム、6名だけに参加権が与えられた。
2022年のアルバニア大会から国代表として2名編成の女性チームが6チーム参加するスタイルになった。女性ライダーからのGSトロフィーへの関心が高まったことなどを受けてのことだ。
ナミビアでのトロフィーには選手だけで60名が参加し、ツーリングを先導するマーシャル、帯同するメディア、協賛各社から参加するゲスト、BMWモトラッド本社から参加する人も含めると、バイクだけで120台ものGSがナミビアに運び込まれたという。
また、運営サイドの車両として、キャンプ地へと参加者の荷物、物資を運ぶトラック、メカニックが移動するためのピックアップトラック、メディカルカーなど30台を超すサポートビークルも帯同している。さらにドクターヘリやそれに乗るフライングドクターも用意されている。これは救急要請があった場合、現場にいち早く駆けつけるためでもある。もう、世界選手権のラリーにもひけをとらない運営体制なのだ。
代表になれるのは人生で1度だけだ。これもGSトロフィーのルールであり、各国の代表選手は、参加者でありGSトロフィーやGSがもたらす世界観を伝導するためのアンバサダーでもある。彼らはその任務に縛られる訳ではないが、イベントが終わっても、その醒めやらぬ夢の世界から抜け出すのは難しいらしい。多くの参加者は口伝や体現を通じて自らが伝道師になっているケースが多い。その意味で、友情を育み、異文化交流を図り、最高の冒険を楽しむ体験は忘れがたいのだ。それがGSトロフィーなのである。
TEAM JAPANは男子3名、女子2名
2024年のGSトロフィーに日本から男女混合チームが参加することになったことは記念すべきこと。女性に門戸が開かれ5大会目にしてついに参加を果たしたのだ。
2024年の日本代表の座を勝ち取ったのは男性チームが北川博邦さん(IMG_3367.jpeg)、前原康浩さん(IMG_3320.jpeg)島田和幸さん(IMG_3354.jpeg)。女性代表は、滝本友美(現水谷友美さん)(IMG_3334.jpeg)さん、吉澤翆和乃(みわの)(IMG_3342.jpeg)さんの2名。彼らは9月13日、30時間を超す移動時間を経てナミビアのウィンドフック空港に降り立ち、1時間ほどの移動を経てGSトロフィーのキャンプ地へと到着した。
空港から仕立てられたシャトルバスはGSトロフィーに参加する他国の選手達と相乗りであり、キャンプ地では現地入りを待ち構えるメディアやオーガナイザー達がバスの到着を歓迎した。
てアフリカに包み込まれている。9月15日から6日間にわたって行われるGSトロフィー2024ナミビアがどのようなものになるのか期待だけが膨らんでゆく。
GSトロフィーで行うゲームとは?
GSトロフィーは日々、アドベンチャールートをグループツーリングしながら2回から5回ほどのゲームを行い、チームポイントを競う。GSトロフィーの哲学には「It’s not a race」というものがある。個人戦ではない、と謳っているのだ。それでいてGSトロフィーはチームコンペティションという面を持つ。
このチームコンペティション。各国代表のチームが男女のカテゴリーに分かれ、ライディング、バイク以外のコンテンツで日々ポイントを集積し順位が決められる。スペシャルステージと呼ばれるこのゲームで日々順位の変動を楽しむのだ。
いずれのゲームもチーム全員で行い、例えば走行コンテンツでは3名の走行タイムの合計がチームの成績となる。いわゆるタイムトライアル形式なのだが、足着きや転倒がペナルティポイント(時間)として加算されるトライアル的なものや、エンデューロテストのようにスピードだけを競うタイプがある。足着きペナルティはないものの、転倒すればタイムロスになるような路面で設定されるケースが多い。スピード以外にもスタートからゴールまでどのチームがバイクを停止させたり足を着くことなくスローライドができるか、という遅乗りゲームや、3名のラップタイムが近いほど上位に来るというコンテンツも行われた。
走行以外のコンテンツでは、GSやナミビア、BMWにまつわる常識クイズが10問出されたり、パンク修理をいち早く行うコンテンツ、方位磁石を持って岩場を巡るコンテンツなども行われた。
男性チーム16,女性チームが6あり、走行コンテンツと走行しないコンテンツでは順位によるポイントが異なる。例えば走行コンテンツの場合、1位25、2位20、3位16、4位14、5位12、6位11以下16位まで1ポイント差で獲得できる。
走行コンテンツ以外は、1位20、2位15、3位13、4位12、以下15位まで1ポイント差となり、16位は0ポイントとなる。女性チームは6チームなので、最低でも11ポイントもしくは10ポイントが入り、男性チームは下位に沈むと得点差が開くことになる。
キャンプ地の食事は6日間どれも素晴らしかった。サラダ、マッシュドポテト、数種類の肉料理、野菜や肉の煮込み、魚介、そしてデザートなど好みの料理を自分で皿に盛り付け食べられる。どれも美味しく食欲が旺盛なライダー達が束になっても食材が枯れることはなく、食事への不満は聞かれなかった。ビールやワインも飲めるのでテーブルを共にした他国のライダー達と打ち解ける時間にもなった。食事後にはその日の結果が発表され、1日を締めくくる。
こんな毎日が続くのだ。
ちなみにシャワー、トイレはナミビアに関してはとても清潔で設備も素晴らしかった。
幹線道路とトロフィールートのコントラスト
道路も幹線道路は綺麗に整備されていた。突然穴があったり、道が崩れているなどの荒ぶれたことがなく、ダート路も広く綺麗に整備されていた。反面あえて幹線道路を外せばそこはアフリカの道。今回多かったのは涸れ川の砂の中を走るルートだ。男性用には時に涸れ川が60㎞も続くルートが待ち構え、初日には砂の深みでバイクが振られていた参加者達も、日一日と砂をマスターしてゆく成長ぶりは見事だった。そもそも高いライディングスキルとフィジカルを持つことで選考されたライダー達。与えられたR1300GSを乗りこなす姿はだれもがヒーローに思えたほどだ。
ライダー達はバイクのケアに対してもクレバーさを求められる。ダメージを与えると、チームにペナルティポイントを与えられてしまうからだ。バイクのダメージとして、バイクを乗り換える必要がある場合は60点、クラッチ交換50点、バーンナウトなどで無駄にタイヤを消費して交換が必要になった場合35点、ホイール交換25点、指定空気圧からの変更15点、レバー類の損傷交換2点、ブレーキ、シフトペダルの交換、ウインカーなどもその対象となる。つまり不測の転倒は仕方ないにしても無理して転倒することは避ける必要がある。
It’s not a raceというワードを思い出して欲しい。GSトロフィーを走るライダーは、旅す
スペシャルステージは旅のスパイス
GSトロフィーの面白さの一つが6日間の旅をしながら日々、ゲームをこなし自分たちのスキルを試す。それがタイムなどで計算され順位付けされるのだ。It’s not a raceというフィロソフィーを持つGS トロフィー。それでいてチームコンペティションという側面がある。つまり個人戦ではなくあくまでもチーム戦なのだ。
男性3名、女性2名。走行タイムの計測は最初のライダーがスタートしてから最後のライダーがゴールするまでのタイムを取る。なので、ツーリングの途中で怪我や体調不良で誰かを欠くと必然的にタイム計測の公平性が保てなくなる。ナミビア大会でも途中でUSAチームの1人が腹痛による体調不良で走行出来ないことがあった。その間、ゲームにはUSAチームに帯同するメディアが代役で走行したものの、代表ライダーではないため成績からは除外された。選考されたライダーがスタートからゴールまで走行し、ゲームの成績を競う、というルールがあるため、USAチームは成績的には低迷することになった。
過去にはメディアが怪我などで欠けたチームのスペアライダーとなったこともあったが、現在はそれもない。代表チームのライダーによる戦いでありそれが人生に一度しか参加できないGSトロフィーの方向性なのだと運営側が修正したのだろう。
次回からGSトロフィー2024ナミビアを振り返ってみよう。(続く)
(レポート:松井 勉、写真提供:BMW Motorrad)
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