第42回 =50年前はひと昔= 1974年に登場したホンダのニューモデル
十年一昔と言われますが、私の感覚では十年程度は少し前くらいに思えます。年寄り臭くならないように、なるべく”昔”という言葉は使わないようにしてきました。五十年一昔という言葉はありませんが、50年も経てばひと昔と呼んでも不自然ではないと思います。
前置きが長くなりましたが、50年前の1974年に登場したホンダの新製品を見ながら、現在のバイク環境についても考えを巡らせてみたいと思います。
1974年、私は本田技研工業に入社し、埼玉製作所狭山工場の車体組立課に配属され、社会人のスタートを切りました。最初の仕事は、軽自動車「ライフ」のアクセルペダルの取付でした。当時の狭山工場は、四輪完成車組立工場でしたので、バイクとの接点は全くありませんでした。
夏休みに山形県の実家に残してきた愛車「ハスラー90」を取りに帰り、趣味のカタログ収集に走り回りました。紹介させていただくカタログは、そのころに集めたものですから、汚れや傷などはご了承ください。
【モンキーZ50J】
モンキーにスイングアーム式リアサスペンションが装備されました。そして、ブロックパターンのタイヤを装着しオフロードイメージのレジャーモデルになりました。このブロックパターンのタイヤは、2017年のモンキー(50)最終モデルまで継承されました。
【CB750 FOUR】
ギアが入っているときにセルモーターが回らない、ニュートラル・セーフティスターターなどの安全装備が採用されたモデルです。
【CB550 FOUR】
CB500 FOURの排気量をアップし550 FOURとして登場。カタログでは500 FOURから引き継いだビンテージイメージを訴求しています。
女性向けのモペッドとして1973年に誕生。ペダル周りにカバーを追加し、花柄のシートやフロントバスケットを標準装備するなど、装備の充実を図りました。エンジンは、軽量・コンパクトな2ストロークです。8月1日発売 76,000円。
CB450のDOHC2気筒エンジンをベースに排気量をアップ。これまでのハイパフォーマンスモデルからビンテージイメージのスタイリングに生まれ変わりました。12月4日発売 365,000円。
【CB400 FOUR】
CB400 FOURが登場したときの排気量は408ccでした。その後に免許制度が急に変わり、400ccを境に通称中型免許と大型免許に区分されることになりました。そのため、CB400 FOURの排気量を398ccとしたモデルを開発し、1976年3月に発売しました。
CB400 FOURは、免許制度に翻弄され開発コストが上昇したこともあり、短命に終わったモデルになりました。
【エルシノア MT250/125】
ホンダは、2ストロークエンジンのモトクロスマシン「エルシノア CR250M」を1972年に発売しました。これまで”4ストロークエンジンのホンダ”として二輪業界をリードしていましたが、オフロードレースにおいては、軽量でコンパクトな2ストロークエンジンが主流となっていました。このため、公道仕様もこれまでのSLシリーズ(4ストローク)に替えて、2ストロークのエルシノアMT250とMT125を1973年5月に発売したのです。
MTシリーズは、この後4ストロークのXLシリーズに引き継がれます。一方、2ストロークのモトクロスマシンCRシリーズは、30年以上に渡り高いポテンシャルを発揮し、モトクロスレースで数多くのタイトルを獲得するロングセラーとなりました。
=1970年代前半の二輪車を取り巻く環境=
1970年、ホンダは安全運転普及本部を設立。1973年には、モーターレクリエーション推進本部を設立し、安全運転と健全なスポーツの両面から活動を展開しました。当時は、暴走族の活動が社会問題にも発展した劣悪な環境にありました。このような中、高性能をイメージさせるスーパースポーツバイクの投入は控え、特に大型モデルではツーリング路線やビンテージ路線を強く押し出す傾向にありました。
1975年には、暴走族対策の一環として、免許制度の変更が行われました。先に記述した400ccを境とするものでした。400cc超の自動二輪免許を取得するためには、通称一発試験で合格しなければならず、20年に渡り教習を受けられる権利がはく奪された悲運な時代でした。グローバルに通用する考えや活動が常識になった現在でも、400ccを境とした免許制度が50年も続いている事を異常だと認識しなければならないと考えます。
いつの時代も法律を守らない人たちのために、新たな法律が施行されて善良な市民がその被害にあうという図式は変わりません。過去を知るベテランライダーは、良きことも悪しきことも若い人たちに語り継ぐことが大切だと思います。
グローバル感覚を身に着けた若者たちが、共に日本の二輪環境の改善に取り組んでくれることを期待して。
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