レボリューションマックス
ハーレーと言えば空冷の挟角Vツインと相場は決まっていたが、そんなハーレーラインナップに加わったのがこの新作水冷ユニット「レボリューションマックス」エンジンだ。水冷・DOHC・可変バルブタイミングを搭載するモダンなこのエンジンは、ナイトスターシリーズに975cc版を、そしてこのスポーツスターSやパンアメリカには1252cc版を搭載する。馬力は7500回転で121。はっきりと速い。
ハーレーの水冷エンジンと言えばかつてのV-RODシリーズを思い浮かべる。あのエンジンも非常に速く、少し時代を先取りし過ぎた感もあったかもしれないが魅力的だった。時を経て改めてハーレーラインナップに加わった水冷ユニット、その実力はいかに。
ちなみにストリート750の水冷ユニットも忘れてはいけない。国内ではヒットにならずラインナップから消えてしまったが、スポーティなアメリカンVツインとしての魅力は確かにあった。
回し込まずにすっ飛んでいく
水冷DOHCと聞くと高回転高出力というイメージもあるだろう。事実最高出力は7500回転で発するのだから、回すのが楽しいエンジンなのは間違いない。しかしパンアメリカと違って、こちらはより日常的にこのハイパフォーマンスに触れることができるよう、より低回転域でトルクフルな加速が楽しめるようにセッティングされているといい、事実3000回転ほどから信じられないような加速感が楽しめる。
水冷エンジンだからと言って無機質ではないのも嬉しいトコロ。ハーレーらしいジャラジャラとしたメカニカルノイズを発しながら、それでいて振動は少なくトルクフル。その感覚はまがいもなくハーレーであり「これはちょっと違うかな」などと思うようなスキはなかった。
3000回転ほどから盛り上がる加速はドカカッ!という感じではなくウワワァーッと車体が軽くなるフィーリング。路面を蹴っていくというよりは、どこかターボ的な、滑っていくような加速を見せる。特にSモードではその加速が強烈で、6000回転ほどでシフトアップしてしまい再びアクセルをバカァ!っと開けるとその気持ちの良いことと言ったらない。敢えて最高出力の7500までを使わず、スポーツスターSが狙ったという日常領域でのスッ飛ぶ加速を、各ギアでアクセルをワイドオープンしながら楽しむのがたまらなく楽しいのだ。
シャープでダイレクトな車体
車体の方はスポーツスターとしてみた場合、かなり極端にも思えるだろう。トラッカーシートやアップタイプのマフラーなどはフラットトラックを強く意識したスタイリングでカッコ良いのだが、フォワードコントロールで低いハンドル、低い車体と極端に太いタイヤなどはいわゆるスポーツの本道とは言えまい。
しかしこの構成が、レボリューションマックスエンジンのパフォーマンスを楽しむのに向いているとも感じた。とにかく速いためしっかりとバイクにつかまっていなければならず、そのために前傾姿勢を作り出す低いハンドルは必須だろう。またかなりストロークが短くかつハードに感じるサスペンションの設定もまたダイレクトなパワーフィールに貢献している。アクセルを開けてから路面を蹴って車体が進むまでのタイムラグが少なく、弾けるように加速しつつ、それでいてライダーの重心及び視線が路面に近いためその強烈な加速が怖くないというのも魅力だ。
ただこのハードなサス設定はギャップやマンホールのフタを踏んだ時にはかなりの突き上げも覚悟しなければならない。気持ちよく強烈加速を楽しんでいる時に思わぬ段差に遭遇したらすかさず尻を浮かせていなす必要があるだろう。しかも現車にはミッドコントロールステップがついていたためそれもしやすかったが、出荷時はもっと前方にステップがあるためこの尻浮かせ行為もなかなか難しそう。これは気を付けたいポイントだ。
フロントになんと160幅という極太タイヤも、スポーツという視点では異端だ。リアに履くような太さのタイヤであり、走り出しは予想通りにいくらか重たい印象は確かにあった。しかし試乗当日はかなり寒かったこともあり、走り出してしばらく経ちタイヤに熱が入り内圧も上がったらそんなに気にもならなくなった。コーナーの寝かし込みなどは、かなり横に飛び出しているステップへ入力することで車体を機敏に動かすことができ、そんなダイレクト感も手伝い、タイヤの太さが気になってしまうということはなかった。
有り難い小変更
ハーレーに限らず、BMWなどでもそうだが、左右独立ウインカースイッチなど独自の設定を持つ外国車はまだある。しかしスポーツスターSではウインカースイッチは国産車同様に左側に集約され、スタンドもかつてのロック機能付きのものではなく国産車同様の使いやすいものになっている。かつ左右のレバーもハーレー定番の太いタイプではなく、国産車同様の細いタイプになっていて繊細な入力が大変にしやすかった。これら変更はシンプルにこれまで慣れていたものと同じになってストレスなくハーレーに乗り換えられるという魅力があるだけでなく、細いレバーなどは純粋にスポーツ走行をするうえでより適しているため真っ当・正当な進化といえるだろう。
これに加え、ハンドルロックの位置がこれまで国内外のバイクで定番だったステム下部ではなく、アクセスが容易なステム上部になっているなど、国産車以上に使い勝手の部分でも進化していると感じる。メーターの見やすさや操作のしやすさ、各モード選択といった設定の、説明書を見ずとも直感的にできる親和性など、本当に高いレベルにあると感じる。
エンジンや車体が個性的なのは素晴らしいことだが、ライダーに接する所は直感的・無意識的、かつ便利に操作できるに越したことはない。むしろそうであるからこそ、エンジンや車体の個性もまた輝くと思う。スポーツスターSはそこの所、本当に上手にまとめた魅力的なバイクである。
王道にするのか、ちょっと違う道を行くのか
スポーツスターの名前こそあるものの、かつてのスポーツスターのように(カスタム次第で)本当に高いスポーツ性を追求できる、というパッケージではなく、今のスポーツスターSはスポーティな楽しさを日常で味わえる、といったアプローチに思う。そしてそれは大成功しているだろう。
ただ、ハーレーの本道からはちょっと外れているのは事実だろう。果たしてユーザーはここについてきているのか。試乗現場で関係者に伺ったところ、旧くからのハーレー愛好家はやはり空冷の伝統的なスタイルを好む傾向にあるというが、新規ユーザーや若いユーザーはレボリューションマックスエンジン搭載の水冷ハーレーにも個性を見出し、選んでくれている人も多いという。かつてのV-RODやストリート750は少し時代が早かったかもしれないが、満を持して登場したこのレボリューションマックスユニットはしっかりと市場に溶け込んでいっているようで嬉しい。
水冷DOHCで120馬力を発しても、これは間違いなくハーレーだった。ハーレーの次世代の提案に世の中が追い付いてきたと実感できた。
(試乗・文:ノア セレン、写真:Harley-Davidson Japan)
かなり多くのボタン類を備える左右のスイッチボックスはもう少しシンプルにしたかった所。ただ各ボタンの作動性は良好。グリップヒーターのボタンはあるが、これはオプションのグリップヒーターを装着して初めて作動できる。なおウインカーとホーンは国産車同様に左側に集約されていて、国産からの乗り換えでも戸惑うことはない。
■エンジン種類:可変バルブタイミング機構付き水冷4ストロークV型2気筒DOHC REVOLUTIONMax1250T ■総排気量:1,252cc ■ボア×ストローク:105×72.3mm ■圧縮比:12.0 ■最高出力:90kW(121PS/7,500rpm)■最大トルク:125N・m/6,000rpm ■全長×全幅×全高:2,270×──×──mm ■軸間距離:1,520mm ■シート高:765mm ■車両重量:221kg ■燃料タンク容量:約11.8L ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):160/70R 17・180/70 R16 ■ブレーキ(前/後):320mmシングルディスク+ラジアルマウント4ポットキャリパー/260mmシングルディスク+2ポットキャリパー ■懸架方式(前・後):倒立型テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):2,494,800円~