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試乗・解説

すべてが新しくなった「スポーツスターS」 新生ハーレーダビッドソンを象徴するこのマシンは 既成概念を打ち破り、新しいアメリカンツインの世界を造る
ハーレーダビッドソンの新型車「スポーツスターS」の国内販売開始を前に、東京都内で報道機関向け試乗会が開催された。エンジン、車体、そしてスタイリング。すべてが新しくなったスポーツスターはどのようなバイクなのか。約2時間ほどであったが、東京都内を走らせた感想と考察をお伝えする。
■試乗・文:河野正士 ■写真:ハーレーダビッドソンジャパン ■協力:ハーレーダビッドソンジャパン https://www.harley-davidson.com/






 新しいライトウェイト2気筒マシンとしての完成度は高いが、これはスポーツスターなのか。ハーレーダビッドソンの新型車「スポーツスターS」を試乗する前も、試乗を終えてからも、その疑問は消えることはなかった。
 先に国内での発売が始まったハーレーダビッドソン初のアドベンチャーモデル「パンアメリカ1250」に採用された、可変バルブタイミング機構付き挟角60度のDOHC水冷V型2気筒エンジン/レボリューションマックス1250をベースに、さらに中低回転域のリッチなトルク特性を与えた「レボリューションマックス1250T」エンジンは、パンアメリカではさほど感じなかったVツインらしいエンジンの鼓動を感じることができた。そしてそこからエンジンの回転を上げれば、その鼓動感は一瞬にして消え去り、ワープするような加速を見せる。これはこれで、新しい“スポーツスター”としてのパフォーマンスとキャラクターと言えるだろう。
 

ボバースタイルの定番である前後16インチではなく、フロント17/リア16インチを採用した理由は、フロントのボリューム感を増し、よりワイルドでインパクトの強いスタイリングを目指したためだという。

 
 フロントに160サイズの17インチタイヤ、リアに180サイズの16インチタイヤを装着した、いわゆる“ボバー”スタイルを、新生スポーツスターのトップバッターとして投入した理由も、想像がつく。

 2010年頃からスポーツスターは、ハーレーダビッドソンのライトウェイトスポーツモデルからライトウェイトカスタムモデルへと軸足を移していく。2011年モデルとしてデビューした、前後16インチホイールを装着したカスタムバイクのような ボバースタイルの「XL1200Xフォーティーエイト」の発表と、その爆発的な人気により軸足への荷重はさらに大きくなった。この新しく大きな潮流を新型スポーツスターに引き込むには、ボバースタイルの継承は必須だったのだ。

 今年7月にオンラインで行われた新型スポーツスターの発表会で、デザインを担当したブリジット・フィルナーは「自分たちの中にある既成概念を打ち破り、スポーツスターに対する世間の期待を上回るものにしたかった」と語っている。そのことでも、フロント19インチ/リア16インチのホイールサイズにピーナッツタンクといった、いわゆる“The スポーツスター”なスタイリングを採用しなかった理由もよく分かる。
 偶然にも日本では、ボバースタイルを採用する「ホンダ・レブル」シリーズが、ビギナーからベテランまで、幅広いキャリアのライダーを巻き込んで爆発的なセールスを続けている。足着き性の良さと、個性的なキャラクター、そして扱いやすいエンジンという点でボバーは、ビギナーを含めた多くのライダーを取り込むことができる新しいモデルカテゴリーとなったのだ。そうなると新型スポーツスターは、レブルで育ったユーザーがステップアップするときの受け皿になることも考えられるし、単純にトレンドのボバースタイルの上位モデルとして選択車両にあがることも多くなるだろう。
 

直進安定性が強く、スポーツと言うより、クルーザー的フィーリングが強い。ペースを上げるとリアサスペンションの突き上げ感が強くなる。シート下にリアサスペンションのイニシャル調整ダイヤルがあり簡単に調節できるが、今回はそれを調整する時間がなかった。

 
 新型スポーツスターのもうひとつの特徴は、その軽さだ。228kgという車重は、現在は「アイアン883」というモデル名でラインナップされる883スポーツスターと同じスタイリングを持つモデルから約30kgのダイエットに成功している。しかしマスの集中化や低重心化によって、その数字以上に車体の取り回しは軽い。パンアメリカ1250でも感じたことだが、挟角が広く背の高い大型化したV型2気筒エンジンで、DOHCに加え可変バルブ機構をシリンダーヘッドに乗せているのだから、その重さと重心の高さからアンバランスな挙動を想像するが、それを一切感じさせない。この車体のまとめ方は、パンアメリカおよびスポーツスターといった、新生ハーレーダビッドソンらしさと言えるだろう。
 

車体を寝かしてもフロントの蛇角は僅かにしか付かず、フロントタイヤが積極的に向きを変えて旋回を始めるフィーリングは弱い。街中での走行ではさほど不満を感じないが、走りを楽しみたいのならライダーが積極的にアクションを起こす必要があるだろう。

 
 ただそのハンドリングは、軽量ボディとマスの集中化を活かした、スポーティなものとは少し違っていた。直進安定性が強く、渋滞するクルマの後を走るときのような、左右に小さくハンドルを切りバランスを取りながら走行するときにハンドル操作が重く、その操作に対する車体の反応が重い。それを“安定感がある”と表現出来ないこともないがハンドル操作の軽さ、さらにはその操作と連動する車体の反応の軽さが、車体の軽快感を造ると考えていて、個人的にはもう少し素直に反応して欲しいと感じた。また車体を切り返すときにも重さを感じる上に、交差点のような低速コーナーでは曲がる方向にハンドルが切れ込んでくる。速度が上がればその切れ込み感は小さくなるが、今度はフロントが積極的に向きを変えていかない。足を投げ出すようなフォワードコントロールのライディングポジションでコーナーをガンガン攻めるタイプの車両ではないことから、そのようなスポーツバイク的なフィーリングを求めていないとは言え、このハンドリングは好みが分かれるだろう。

 この新型「スポーツスターS」が、ハーレーダビッドソンのラインナップのなかでどんな役割を果たしていくのだろうか。ミッション一体型の4カムOHVという、1957年に初代モデルが発表されて以来スポーツスターが守り続けてきた伝統的なエンジンレイアウトを持つモデルは、ハーレーダビッドソン/クルーザーカテゴリーに所属ファミリーを変え、「アイアン883/1200」および「フォーティーエイト」としてラインナップされている。そしてレボリューションマックス1250Tエンジンと同じ、挟角60度の水冷Vツインエンジン/レボリューションXを搭載した「ストリート750」および「ストリートロッド」を揃えたストリートファミリーが消滅し、かわってスポーツファミリーが生まれ「スポーツスターS」をラインナップした。7月のオンライン発表会のなかでは、リア2本ショックのバリエーションモデルの登場も示唆されたことから、ファミリーモデルの拡充も予想される。
 

斜め後ろからの新型スポーツスターを見ると、その車体の低さがよく分かる。この低重心さは、多くのライダーに対して大型バイクに乗るハードルを下げるだろう。さらに中低速域のトルクを増大させた可変バルブタイミング機構付きエンジンは、街中でも非常に扱いやすかった。

 
 それらを総合的に見て推測するに、新生スポーツスターファミリーは、パンアメリカ1250同様、ハーレーダビッドソンの斥候的任務を携えているのではないか。ハーレーダビッドソンは、その圧倒的な存在感が、ときに新規ユーザーが二の足を踏む要因にもなっている。しかし新型「スポーツスターS」やパンアメリカ1250は、いい意味でハーレーダビッドソンらしくない。その“らしくない”からこそ、開拓できるユーザーやマーケットはまだまだ多いだろう。変わりゆく二輪市場において、新しいハーレーダビッドソンの姿をアピールするにも、新型「スポーツスターS」は最適だ。

 既存オーナーやベテランたちにとっても新型「スポーツスターS」という新薬はよく効いた。スポーツスターのイメージが凝り固まっている私などはハーレーダビッドソンのマーケティングにすっかりヤラレているクチなのだ。冒頭に述べたように試乗する前も試乗後も、これはスポーツスターなのかと悩み続けていることこそ、ハーレーダビッドソンが思い描いていた市場の反応なのだ。そしてオンライン発表会でチラ見せされた、リア2本ショックのバリエーションモデルの登場が、気になって仕方がないのだから……そういうバイクファンは、少なくないはずだ。
(試乗・文:河野正士)
 

 

両足のカカトがベッタリと地面に着くほど良好な足着き性を持つ。ただ純正のステップ位置はクランクケースの前方にあり、個人的にはオプションでラインナップされている、クランクケース脇にステップを移動できるミッドコントロールのステップキットを装着したい。そうすれば加速時の踏ん張りも効き、よりスポーティでリラックスしたポジションが造れるだろう。(ライダー:身長170cm/体重70kg)

 

スタイリングにおいても走りのキャラクターにおいても、新型スポーツスターSの肝となる17インチフロントタイヤ。4カムエンジンを搭載する「フォーティーエイト」は130サイズ、ビッグツインエンジン/ミルウォーキーエイト114を搭載するボバースタイルモデル「ファットボブ」ですら150サイズであることから、その存在感の大きさがうかがえる。
ミルウォーキーエイト114を搭載するボバースタイルモデル「ファットボブ」を連想させる横長のLEDヘッドライト。「パンアメリカ1250」も、同イメージの横長LEDヘッドライトを装備している。

 

4インチの丸型TFTカラーディスプレイを装備。速度やエンジン回転数、燃料に加え空気圧や油温および油圧などさまざまなデータを表示。スポーツ/ロード/レインのエンジン出力モードの選択にくわえ、細部をライダーの好みに設定できるカスタムモードも装備し、その設定もこの画面を通して行うことができる。

 

キーレスイグニッションシステムを採用し、メインスイッチやセルフスタータースイッチは右グリップに集約。モード選択や各モードの詳細設定、表示画面の変更やクルーズコントロールの操作は左グリップ周りで行う。

 

「レボリューションマックス1250T」エンジンをフレームの一部として使用し、エンジンを中心にステアリングヘッドを持つフロントフレームや、リアサスペンションを支えるリアセクションを配置。それによって高剛性を維持しながら、軽量でコンパクトな車体が実現している。
アップタイプの2本出しサイレンサーやコンパクトなシングルシートは、ハーレーダビッドソンがダートトラックレース用に開発したレーシングマシン「XR750」からインスピレーションを得てデザインされている。右太股の熱さが心配な排気系レイアウトだが、10月下旬の混雑した都内での試乗で熱さはさほど気にならなかった。

 

スポーツスターSは6軸慣性計測ユニット(IMU)を搭載。走行時の車体の状態を正確に把握し、ライダーをサポートするコーナーリングABSやコーナーリングトラクションコントロールシステム、過度なエンジンブレーキによる後輪のスリップを抑制するコーナーリングエンハーストドラッグスリップコントロールなどさまざま電子制御システムを制御する。

 

車体前方に配置されたフォワードコントロールのステップ位置がよく分かる。この左足ステップ位置はラジエーターファンの出口でもあり、左足はかなり熱い。オプションのミッドコントロールキットは、V字シリンダーの頂点辺りにステップが位置する。
リンク式のモノショックは、パイプを組み合わせたスイングアームと組み合わせている。そのスイングアームから伸びるナンバープレートホルダーを含め、パイプ構成とすることで存在感を消し、軽快なイメージを作り上げている。

 

燃料タンクは薄く、またシートカウルは小さい。外装類を極力小さくデザインすることでエンジンが存在感を増し、車体全体の凝縮感が増している。フロントに17インチホイールを装着しタイヤ周りの存在感を増したことで、ライダーが乗車したときのサイドシルエットが底辺が長い三角形を描くことができ、それが安定感ある印象を強めている。

 

●ハーレーダビッドソン・スポーツスターS 主要諸元
■エンジン種類:可変バルブタイミング機構付き水冷4ストロークV型2気筒DOHC REVOLUTIONMax1250T ■総排気量:1,252cc ■ボア×ストローク:105×72.3mm ■圧縮比:12.0 ■最高出力:–PS/–rpm ■最大トルク:125N・m/6,000rpm ■全長×全幅×全高:2,270×──×──mm ■軸距離:1,520mm ■シート高:755mm ■車両重量:228kg ■燃料タンク容量:約11.8L ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):160/70 TR17・180/70 R16 ■ブレーキ(前/後):320mmシングルディスク+ラジアルマウント4ポットキャリパー/260mmシングルディスク+2ポットキャリパー ■懸架方式(前・後):倒立型テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,858,000円~

 



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2021/11/10掲載