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試乗・解説

プレスフレームと4速ミッションが生み出す 柔らかくもたくましい、 ダックス125の底力
待ちに待ったホンダの新型車「Dax125/ダックス125」が、9月22日から発売される。当初7月22日発売と発表されたが、世界的な感染症拡大による資材調達の遅延や物流の混乱などによって、ホンダが6月に発売延期を発表。そして8月末には生産体制の状況改善によって新たな発売日が設定されていた。今回は、その発売に先立って報道機関向けに設定された試乗会に参加することが出来た。早速その試乗での印象をお伝えしよう。
■試乗・文:河野正士 ■撮影:富樫秀明 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパンhttps://www.honda.co.jp/motor/






 すでに3000台を超えるオーダーが入っているというダックス125。この数字は驚くべきものだが、近年活況を呈している原付二種市場(125cc市場)、そのなかでのホンダの躍進を見ると、決して大きな数字ではない。ホンダはスーパーカブ110、クロスカブ110、スーパーカブC125、モンキー125、CT125ハンターカブと、次々に原付二種市場にニューモデルを投入し、ことごとくヒットしている。それらは、あらゆる市場が停滞したコロナ禍においても原付二種市場を支え、ここ5~6年で10ポイント強も増加した市場に対して、ホンダは15ポイント近くもシェアを拡大。まさに原付二種市場を牽引する立役者となっている。
 

 
 ダックス125はその活気を呈する市場に投入するニューモデルであり、さらなるシェア拡大の使命を託されたプロダクトである。
 その意気込みは、採用した各ディテールに現れている。それが二人乗りを強く意識したデザインとパフォーマンスであり、AT小型限定二輪免許でも乗れる自動遠心クラッチであり、4速ミッションだ。

 原付二種市場は、通勤通学の移動手段として、また小型の輸送車両として、要するに道具として開発されたモデルが市場を下支えしていた。しかし近年は、ホンダのファンビークルの積極的な市場介入により、キャンプやツーリングなど小排気量車でのレジャー活動も活性化。それによって移動手段という道具としての原付二種車両にも、オーナーのライフスタイルを反映したチョイスが目立つようになってきた。また排気量125ccまでの車両をライディングできる小型限定免許の取得者の増加、なかでもAT小型限定二輪免許の取得者が大幅に増加している。ダックス125が採用したディテールは、その市場の要求にしっかりと応えたものだ。
 

 
 前置きが長くなったが、ダックス125に試乗する。
 ピンと背筋が伸びるライディングポジション。視線を落とすとT型プレスフレームの合わせ面が見え、個性的なフレームを視覚的に堪能できる。そのまま視線を上げてアクセルを開ければ、自動遠心クラッチを採用したことによりクラッチ操作などしなくても、車体は力強く走り出す。シーソーペダルのシフト操作は、つま先を踏み込んでN→1→2→3→4とシフトアップ。シフトダウンは、その逆でカカトを踏み込む。でもそのシフト操作をすっかりサボって、2速や3速からでも、一時停止の交差点からスタートできると知ると、もしかしてと思い4速からもスタートチャレンジ。後続車や道路状況によってはオススメできないが、ユルユルと発進することができた。それが分かればダックス125の操作は、エンジン回転数と選択ギアのバランスを考えながらせわしなくシフト操作をしなくてダラダラと街中を気持ち良く流すことができるようになる。
 

 
 もちろんエンジンを高回転までしっかり回して、力強い加速を堪能することだってできる。スーパーカブC125と同じ4速ミッションは、前後12インチタイヤを装着したこと、それに合わせてダックス125専用の減速比を採用したことによってその加速感は異なるが、それでも予想していたよりも車速の乗りがよく、速い。これなら混雑した街中ならスタートダッシュでクルマの流れをリードすることができるだろう。私は不得手だが、ペダル操作とアクセル操作を連動させれば、ショック無しのシフトダウンという、通好みのシフト操作も健在だ。

 ダックス125は、先に発売されているスーパーカブC125と同じ、横置きの空冷4ストロークOHC単気筒エンジンと、クラッチ操作を必要としない自動遠心クラッチ機構を採用した4速ミッションを搭載している。しかしスタイリングにおいても機能においても、ダックス125の最大の特徴である鋼鈑プレス材を用いたT型バックボーンフレームを採用したことにより、スーパーカブC125 とは異なる吸排気系を用いてオリジナルな出力特性を作り上げている。なんとエアクリーナーボックスと燃料タンクは、和菓子の最中のように、T型に切り抜いた左右対称の鋼鈑パーツを合わせたフレームの、シート下の小さなスペースに収められている。しかしそれによって、エアクリーナーボックスから伸びるエアインテークを直線的に採ることがき、それが混合気の充填効率を高め、C125よりも低回転域でのトルク感のアップに貢献しているのだ。また特徴的なアップマフラーの中身は、内部構造はもちろん、パンチングメッシュの穴の配置まで吟味し、出力やスロットルレスポンスを作り込んでいる。雑なシフト操作にも応える加速は、こういった細かな効果の積み重ねによって実現しているのだ。
 

 
 鋼鈑プレス材を用いたT型バックボーンフレームは、ダックス125最大のトピックスだ。鉄の板を金型に押し当て、高圧でプレスして製作するプレスパーツは、生産効率を追求すると同時に、車体の軽量化、そし操作性と燃費の向上が求められる現在の二輪車において、軽量で生産効率が高い樹脂パーツに、その存在を取って代われている。そんななかダックス125は、フレームというもっとも重要なパートを、鋼鈑プレスパーツを使って構成。プレスパーツに、再び光を当てた。
 その難しさは、機能パーツとして強度と剛性のバランスを取ること、そして外装パーツとしての視覚的完成度を高め、なによりダックス125という楽しい乗り物が持つ、温かみや個性を併せ持っていなければならないことだ。
 

 
 しかしホンダは、それを見事に成し遂げている。ダックス125に跨がると、そのフレームは各部で膨らみやエッジのデザインを変えながら、なおかつ全てが美しいラインで繋がっていることが分かる。それを実際に感じ取りたくて、ついついその表面を撫でてしまいたくなるほどだ。もちろん走らせてみても、前後12インチホイールという、小径ホイール特有のクイックな反応を時折見せるとはいえ、キビキビ走りもノンビリ走りも両方こなす、完成度の高いフレームが出来上がっている。
 

 
 プレスパーツが冷遇される時代に、これほど大きなプレスパーツを打ち抜ける機械と技術を持つ協力企業を見つけることも大変だっただろうし、解析技術が発達したとはいえ、そのなかで強度と剛性のバランス点を見いだし、美しい曲面を持つフレーム面を造り上げるのは至難の業だったに違いない。当然のように、開発の段階でパイプフレームとフレームカバーでこのスタイルを実現せよ、という声も上がったという。それをあの手この手でかわしながら、その声をひっくり返すだけの根拠も提示し開発が進められたという。そして逆境を覆し、プレスフレーム採用という初心を貫いて製品化したダックス125の各部を覗き込むと、ソコココに開発陣の並々ならぬ気合いを感じることができる。
 そうやって、あらゆる角度から舐めるように各部を眺める我々に、バイクを知らない人が見ても「かわいい」「いままで見たことがない」「変なバイク」みたいな反応からダックスに興味を持ってもらいたいと語る開発陣に、揺るぎのない自信を感じたのだった。
(試乗・文:河野正士)
 

 

シートの両肩がやや張っていること、シート下にさまざまなアイテムが詰め込まれてフレーム幅が広いことが気になる。しかし足を降ろすと、両足ともに、わずかに踵が浮く良好な足着き性。ステップに足を載せると、膝の曲がりは緩やか。背の高いカウンターチェアに腰掛けている感覚。ハンドル位置は、やや低め。テスターの身長は170cm。

 

排気量125ccの、ホンダファンビークルが採用する空冷4ストロークOHC単気筒エンジン採用。エアクリーナーを専用設計すると同時に吸気ダクトとスロットルボディを直線的にレイアウトすることで吸気効率を高めるなどして、力強い低速トルクを生み出す。

 

前後12インチのキャストホイールを採用。試乗してすぐは、小径ホイール特有のシビアな反応に戸惑ったが、慣れてしまえばそれもいなすことができる。前輪にはABSを標準装備。3軸MIUによって制御している。倒立タイプのフロントフォークは初期の動きもいい。
アップマフラーも、ダックスの象徴的なディテール。しっかりと消音しながら、歯切れのいい排気音を作り出すため、マフラーの内部構造はもちろん、パンチングメッシュの穴の大きさや配置も吟味したという。

 

2人乗りを強く意識し、直進安定性を考慮した長いホイールベースを採用。リアサスペンションも、2人乗りを考慮し、ややバネレートが高く設定されているようだ。エンジンやミッションはスーパーカブC125をベースとしているが、前後12インチホイールの装着などにあわせギアレシオは変更されている。

 

ダックスのモデル名を使用する以上、丸型のヘッドライトの採用は必須だったという。そのヘッドライトはクラシカルなスタイルながらLED仕様。
リア周りの灯火器類もコンパクトでシンプルなデザインが貫かれている。タンデムライダーをサポートする頑丈なグラブバーも標準装備。

 

速度計と走行距離計、インジケーターランプが配置されるシンプルなデジタルメーター。ウインクをするようなオープニングアクションも愛らしい。

 

二人乗りでの快適性を考慮したロングタイプのシートの下には容量3.8リットルの燃料タンク、専用設計のエアクリーナーボックスと吸気経路を確保。バッテリーなどの電装系パーツもひしめく。もちろんマスの集中化や生産効率の向上も考慮し、全てのパーツが配置されている。

 

ステップおよびペダル周り。シフトペダルは、シーソー式。つま先を踏み込んでN→1→2→3→4とシフトアップ、カカトを踏み降ろしてシフトダウンとなる。

 

プレスフレームは、プレスによる成形のし易さ、125cc2人乗りを考慮した強度剛性をから1.6mm厚の鋼鈑を使用。一枚の鋼鈑から3回のプレス工程を経て、側面フレーム材を打ち出すことができる。その左右フレーム材と底部などを合わせ3ピース構造となっている。

 

開発の段階ではスケッチや、クレイモデルと呼ぶ粘土を使った立体モデルは存在せず、3D CADデータと、それをレタッチしたモデリングデータによって開発が進行。またプレス鋼鈑フレームの溶接箇所は、電圧などの溶接設定にまで設計がアイディアを出し、作業を進めたという。車体右側面にあるダックスロゴは、旧タイプのイメージを踏襲しつ、疾走感溢れるデザインへとバージョンアップしている。

 

ダックス125の開発スタッフ。中央に立つのが開発責任者の八木崇さんだ。開発を担ったメンバーは皆若く、部署の垣根を越えて、自分たちがイメージするダックスのスタイルやパフォーマンスを実現するために努力を重ねたという。

 

●ダックス125主要諸元
■エンジン種類:空冷4ストロークOHC単気筒 ■総排気量:123cm3 ■内径×行程:50.0×63.1mm ■最高出力:6.9kW(9.4PS)/7,000rpm ■最大トルク:11N・m(1.1kgf・m)/5,000rpm ■変速機:4段リターン ■全長×全幅×全高:1,760×760×1,020mm ■軸間距離:1,200mm ■最低地上高:180mm ■シート高:775mm ■車両重量:107kg ■燃料タンク容量:3.8L ■タイヤ(前・後):120/70-12 51L・130/70-12 56L ■ブレーキ(前・後):油圧式ディスク(ABS)・油圧式ディスク ■車体色:パールネビュラレッド、パールカデットグレー ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):440,000円

 



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2022/09/26掲載