全日本ロードレース選手権第2戦がスポーツランドSUGOで開催された。最高峰となるJSB1000クラスとST600は2レース開催、そしてST1000とJ-GP3は1レースが行われた。安全対策強化のためコースの全面張替後の戦いとなりコースコンディションの変化に加え天候不順となった決戦では、各クラスの勝者たちの切なる思いが交錯した。
- ■文・佐藤洋美 ■写真:赤松 孝
■JSB1000クラス
開幕戦もてぎで独走優勝した#3 水野 涼(DUCATI Team KAGAYAMA)は事前テストでの転倒でケガを負い、そのためレース欠場が伝えられていた。水野を欠いたが、#7 津田拓也(Team SUZUKI CN CHALLENGE)、#14 日浦大治郎(Honda Dream RT SAKURAI HONDA)がスポット参戦した。
レコードは昨年のSUGOでヤマハの岡本裕生が記録した1分25秒360。それが目標タイムとなり激しいアタック合戦が始まった。#2 中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)が序盤に25秒台に入れ、#4 野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)、#31 浦本修充(AutoRace Ube Racing Team)が決勝を思わせるデッドヒートを見せながらタイムを更新する。中須賀がトップかと思われた終盤、浦本が1分25秒373を記録し逆転して8年ぶりのポールポジション(PP)獲得となる。2番手は1分25秒570の中須賀、3番手は野左根が同タイムで付けた。セカンドタイムでレース2のグリッドが決まり、中須賀がPP、2番手に浦本、3番手野左根となった。
レース1決勝、野左根がホールショットを奪い、中須賀、浦本が続き、ダンロップ開発ライダーの#10長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)は初期性能の高いタイヤ特性を生かしトップ争いへと加わる。4周目の1コーナーで、中須賀がトップに浮上。大きなトップ集団の中で#6 名越哲平(SDG Taem HARC-PRO.Honda)が転倒。そして浦本がマシントラブルでピットロードへと向かい、そのままリタイアの波乱の幕開けとなる。
トップ争いは集団から抜けた中須賀と野左根の戦い。5周目の馬の背では野左根が仕掛けるが、中須賀が抑える。野左根は中須賀をマークして最終ラップまで離れず勝機を狙う。中盤には中須賀がタイムアップして25秒台へと突入する。だが、野左根も同様にタイムを上げた。16周目には中須賀はファーステストラップを記録する底力を見せる。最終ラップの22周目、バックストレッチ手前のレインボーで、野左根が遂にトップ浮上するが、馬の背で中須賀が前に出る。シケインに並んで進入する激しさとなるが、中須賀が前で最終コーナーを立ち上がる。スリップから出た野左根だったが、0.004秒差で中須賀が優勝を飾り、野左根が2位となる。3位でチェッカーを受けたのは津田だったが、黄旗無視のペナルティで降格、4番手争いを制した日浦が繰り上がり3位となった。
ウイニングランでは、中須賀はかつてのチームメイトであり後輩ライダーの野左根とグータッチ、お互いの健闘を称え合った。
中須賀がレースをふり返る。
「トップに立って速いラップタイムを刻めば逃げることが出来るかと思ったが、野左根が非常にいい走りをしていて引き離せず、最終的には自分のほうがキツい状況に追い込まれました。リスペクトしあえている仲なので、最後までおもしろいレースを見せることができたと思う。最後に勝ち切ることができて良かった」
一方、中須賀を追い詰めた野左根は言う。
「2位という結果でしたが、中須賀さんがレース中盤にペースアップしたときはけっこう苦しかったのですが諦めずにしっかりついていけたことで、最後にまた勝てるチャンスが訪れました。ラスト3周は自分のほうが余力はあるかなと感じていたのですが、自分のほうが勝負ポイントという点で弱かったことが、ゴールタイムでの4/1000秒差だと思っています」
序盤戦での野左根の速さは特筆できるものだったが、このレースでは終盤までのトップ争いを見せ力が増した印象だという質問に「自分でも驚いています。ちょっと、自分で自分を褒めたい」と語った。覚醒した野左根のレース2での戦いが楽しみになった。
レース2決勝は、雨の影響からウェットパッチが残るがラインはほぼドライ。スタートで飛び出した野佐根はホールショットを奪うが、2コーナーで転倒してしまう。替わってトップに立ったのは津田だが、すぐに長島がトップを奪う。それを追う浦本、中須賀。その後方の#8 岩田 悟(Team ATJ)と#9 伊藤和輝(Honda Dream RT SAKURAI HONDA)が追う。トップ争いは長島と浦本、そこに中須賀が迫り、岩田、伊藤、津田、#11 関口太郎(SANMEI Team TARO PLUSONE)、さらに#30 鈴木光来(Team ATJ)も追いつきトップ集団は8台。
浦本が一気にトップ浮上し、中須賀が追い、2台の接近戦となる。18周目、馬の背で浦本のミスを見逃さず中須賀が首位を奪う。ラストラップの22周目には、中須賀がこのレースのファステストラップタイムを記録し優勝を飾った。浦本が2位となり、開幕戦に続いての表彰台をゲットする。激しい3番手争いを津田が制した。4位に伊藤、5位に鈴木と若手が食い込んだ。
レース1も3位でチェッカーを受けながら降格となった津田は、黄旗区間は追い越し禁止であることは充分に理解していたが、周回遅れがラインを譲ったことで、前に出なければ危険だと判断し前に出たことが違反となった。厳格なルールの元で決定されたことだが、危険回避という観点では、津田の行動が正しかったと判断する関係者も多くいた。異議申し立てをしたが、受け入れられることなく、津田はレース2に賭けて表彰台へと登った。
津田は憤る感情を抑えるように語った。
「スズキのCNチャレンジで、鈴鹿8時間耐久に向けてのテスト参加ですが、スタッフの懸命なサポートを思うと、レース1の表彰台に上がれなかったことは、申し訳なく、悔しさが残りました。きっとこの悔しさはずっと残ると思います。レース2で3位になることが出来て良かったです」
トラブルでレース1決勝をリタイアした浦本は語る。
「ポールポジションからのスタートでしたが、トラブルでピットイン、しばらくはムカムカと怒りや悔しさがありましたが、気持ちを入れ替えてレース2に挑みました。勝負所でウェットパッチがあり、攻めきれず……。条件は中須賀さんも一緒なので完敗です」
だが、その力が中須賀を脅かすところまで来ていることを示した戦いでもあった。
ダブルウインの中須賀がレースをふり返る。
「とてもスリッピーな路面で、タイヤを温めるのも難しい状況だったので、序盤はとにかくガマンして、タイヤをマネジメントしながら周回したことで、自分に有利なレース展開に持ち込めましたが、浦本がミスしてくれたから前に出られたので、あれがなければとてもキツかったと思います」
それでも、ダブルウィンを飾り強い中須賀が帰って来た。優勝は昨年の5月鈴鹿以来だ。ダブルウィンは4月のもてぎ以来となる。
中須賀は「去年の後半戦はずっと怪我に泣かされて、肩が外れて、またくっつけて、また外れてという状態だったのが、今年に関して、その影響がない」と勝利数のカウントも動き出し91として13回目のタイトル獲得へ大きく舵を切った。
■ST1000クラス
昨年のチャンピオン國井勇輝(ホンダ)がMoto2参戦でゼッケン1不在の戦い。やっと1戦目を迎えた。ポールポジションは#4 國峰啄磨(TOHO Racing)。
決勝朝のウォームアップは雨、それでも決勝前には雨が上がり、ラインが乾き始める。ドライへと傾くことを狙ってスリックタイヤを選択するライダーもいた。だが、大方はレインタイヤを履いた。
#33 亀井雄大(RTJapan M Auto and Kamechans)が序盤からトップに立つ。それを追う國峰、#34 ナカリン・アティラットプワパット(Astemo SI Racing with ThaiHonda)となる。亀井はトップを快走し大きなアドバンテージを築き、一時は7秒と広げる。が、國峰を捉えて2番手に浮上しアティラットプワパットが、その差を詰め始める。14周目にはその差が2秒を切る。その猛攻を察知した亀井は、ペースをコントロールするが、周回遅れの出現もあり、最終ラップにはその差は約0.5秒となった。シケインの攻防から最終コーナー立ち上がりでは、アティラットプワパットが亀井のスリップストリームに入ったが、0.117秒で亀井が勝った。全日本ロードレース選手権での自身初優勝を獲得。アティラットプワパットは2位となり、3位に國峰が入った。
アティラットプワパットは、アジアロードレース選手権(ARRC)開幕戦ASB1000でダブルウィンを飾り急成長しているライダーだ。初めての全日本、コースもチームも、初めての挑戦だった。アティラットプワパットは「今は勉強中」と語った。
亀井は2022年まで本田技研鈴鹿製作所に勤務、Honda Suzuka Racing TeamからJSB1000に参戦。トッププライベーターとして活躍、その速さから2023年はYOSHIMURA SUZUKI RIDEWINに移籍し会社を辞めてプロフェッショナルライダーとしての道を歩む。2024年はTeam ÉtoileからFIM世界耐久選手権(EWC)に参戦。そして、今季は新チームからST1000にフル参戦を決め、2年ぶりの全日本に挑み、初優勝を飾ったのだ。
「まずは優勝できて、ほっとしています。自分のためだけでなく、チームのためにも、支えてくれている方々のためにも勝てて良かった。決勝はレース序盤に逃げてやろうという戦略。これがうまくハマったと思います。想定よりもアティラットプワパットが速くペースを上げないといけなくなりましたが、なんとか勝利を手にできた」
年末には「来年はどうしよう」と思い悩むが、救いの手が伸び、自分をライダーとして走らせてくれようとする人が現れるのだと亀井は笑顔を見せた。
■ST600
ST600クラスは決勝2レース開催。昨年チャンピオンの阿部恵斗がARRC参戦となりチャンピオン不在の戦いとなる。ポールポジションは#44 南本宗一郎(AKENO SPEED・YAMAHA)が獲得した。レース1決勝でホールショット奪う。2番手には#3 伊達悠太(AKENO SPEED・MAVERICK)が順位を上げ、#6 松岡玲(ITO RACING BORG CUSTOM)が3番手となり、スタートで出遅れた#2 長尾健吾(TEAMKENKEN YTch)がトップ争いに追いつく。南本、伊達、松岡、長尾のトップ争いから、南本と伊達が抜け、白熱した戦いとなる。終盤には雨が落ち始め、17周目に赤旗が提示され、15周目の通過順位が正式結果となった。南本が優勝、伊達が2位、長尾が3位、松岡が4位となった。
「スタート前に雨雲レーダーを見て、雨が降りはじめるだろうと予想していたので、赤旗提示によるレース終了の可能性もあるので、絶対にコントロールラインはトップで通過しようと思っていました。本当は、最後までレースをやって勝ち切りたかったですが、最後の3周を戦える余力は残していたし、これもレースなので、シーズン初戦を勝てたことを素直に喜びたい」
そう語る南本はST600のトップライダーとしてタイトル争いを繰り広げ、2021年にST1000にステップアップ、チャンピオン争いを繰り広げ、2023年にはARRCSS600クラスでチャンピオンを獲得、翌年にはASB1000で戦った。WGPやスーパースポーツ選手権への代役参戦などの経験があり、ヤマハの次世代ライダーだ。今季は仕切り直しの全日本参戦、まずは、初戦で力を示した。
レース2決勝は、雨の影響は残るもののドライコンディションで行われた。予選セカンドタイムでグリッドが決まり、ポールポジションは長尾。スタートから長尾、南本、伊達が飛び出す。そこへ予選10番手の#5 藤田哲弥(TN45RacingTeam)が追いつきトップ争いとなる。11周目、転倒者のマシンがコース上に残り赤旗中断となる。10周目の通過順位のグリッドとなり、10周でレース再開。長尾、伊達、南本、藤田の争いとなる。超接近戦となり、そこに松岡、代役参戦の#48 荻原羚大(SDG Team HARC-PRO. Honda)が追いつきトップグループが6台に膨れ上がる。シケインでは、藤田が一気に2台を抜き、5周目のシケインで藤田がトップに浮上。トップ6に加えて#16 田中啓介(NitroRyotaRacing 16)と大ケガからの復帰戦の#11 小山知良(JAPAN POST Honda RACING TP)がトップグループに加わった。だが、7周目、転倒があり再び赤旗中断となった。
規定周回数に足りていないと、レース再開を望む声もあり、コントロール前でライダーたちの話し合いとなったが日没時間などの影響もあり再開せずに、5周の通過順位が正式リザルトとなり、ポイントは3分2となった。
藤田が優勝、南本2位、伊達が3位、荻原が4位、松岡が5位、長尾が6位。藤田は初表彰台登壇で優勝を飾った。
藤田は群馬県出身で、同郷のWGPライダーの青木宣篤の秘蔵子と呼ばれた。2017年にはアジアンチャレンジ、2021年にはアジアタレントカップ参戦と海外経験もあり、2023年に長島哲太率いるチームに引き抜かれた。偉大な先輩たちから認められた才能を発揮し優勝を飾った。
「ちょっと終わり方がよくなかったと思いますが、自分にもしっかりトップ集団で走れて、なおかつ勝負できる力があることが証明できた。レース1の後、遅くまでサーキットに残り、スタッフと相談してマシンの仕様も大きく見直しました。昨年と比べて、マシンの変更に合わせられる能力も、少しついてきたように感じています」強豪ひしめく戦いで藤田の存在がクローズアップされた戦いとなった。
■J-GP3
決勝朝のウォームアップ走行はウェット走行となった。事前テストからレースウィークで雨の走行は初めてとなり、決勝前に雨は止んだが、肌寒く路面温度も下がった。
ポールポジションは事前テストからレースウィークと絶好調の#1 尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)。決勝でもスタートダッシュで首位に立つ。#2 若松 怜は(JAPAN POST docomo business TP)は出遅れるが、すぐに挽回して尾野の背後に迫る。尾野と若松は後続を引き離すが、#5 高杉奈緒子(TEAM NAOKO KTM)が追い上げトップ争いに迫るが転倒、変わって#10 武中 駿(Team Plusone)、#8 大田隼人(MARUMAE Dream Kitakyushu CPARIS)が迫る。
5周目に若松がトップに立ち尾野を引き離す。尾野は大田に先行を許す。若松はタイムアップして独走体制に持ち込む。単独で大田は2番手を走行、3番手尾野に武中が迫りバトルを展開するが、武中が制して3番手をキープする。だが、尾野は路面コンディションの変化に合わせてライディングを変えて武中に迫り3番手を奪い返す。終盤には太田、尾野、武中の2番手争いとなり、その争いから武中は転倒してしまう。若松は独走優勝を飾り、尾野は2番手争いを制して2位となり、3位に太田が入った。
ウイニングランでは喜びを爆発させた若松は、スタンディングガッツポーズで観客の声援に何度も何度も応えた。
「朝起きたら雨が降っていて、正直なところかなりげんなりしました。でも乾いてくればまだチャンスがあるかも知れないと天気の回復を願いました。朝のウォームラップで他のクラスが走行して、少しずつ路面が乾き始めていたので、ST1000クラスやST600クラスに参戦しているチームメイトたちからコース状況を教えてもらい『レース終盤はかなり乾くと思うから気をつけなよ』とアドバイスももらいました。序盤の貯金を活かして、なんとか開幕戦で勝てたのでうれしいです」
V4チャンピオン尾野を倒すことを誓う若松は、身長は170㎝超えの19歳、まだ背は伸びている印象の若手ライダーだ。小柄な体格の選手が多いJ-GP3クラスでは不利だが、それでも尾野を負かすことで自分の力を示し世界への夢をかなえようとしている。師匠のWGPチャンピオンの坂田和人が「まだやれることがあるだろ」と他クラスへの移行ではなく残留を選択した。
昨年の最終戦では尾野とチャンピオン争いを繰り広げ、先行した方がタイトルを得る緊迫の戦いに挑み、攻めに攻めた若松は転倒してしまう。
「あれから約7ヵ月間も悔しい思いを抱えていたので、この優勝で喜びが爆発しました」
初のチャンピオン獲得に向けて若松は、どうしても欲しかった開幕勝利を得た。
全日本第3戦筑波大会はJ-GP3のみの開催となり、2レース開催で尾野弘樹がダブルウィンを飾った。第4戦は、8月23日~24日に栃木県モビリティリゾートもてぎで開催される。
(文・佐藤洋美、写真:赤松 孝)