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MoToGPはいらんかね

●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com/Aprilia Racing

 5月下旬のイタリアGPムジェロサーキットで、すでにシーズンは第8戦である。ひと昔前なら第8戦は一年の折り返し地点だったけれども、2022年はこれからがいよいよヨーロピアンラウンド中盤戦。ファンにとっては「お楽しみはこれからだ」という、なんともぜいたくな状況である。

 そしてこの週末も、パドックでは様々なことが発生した。まずは走行初日の27日(金)に、ラズラン・ラザリ率いるRNFレーシングが、来季からヤマハを離れてアプリリアのサテライトチームとして活動することを発表。現下のアプリリア陣営の勢いを考えれば首肯できる選択だが、ヤマハサテライトからのスイッチは、チーム代表であるラザリの機敏でスマートな才覚も感じさせる。

 彼らがヤマハ陣営から離脱することにより、新たなインディペンデント勢が2023年にMotoGPへ参入しない限り、来季のヤマハはファクトリーチーム2台のみ、という状態になることも考えられる。ヤマハ陣営は500cc時代からずっと何かしらのサテライトチームが存在していたように記憶しているのだが、もしそのようなことになるのであれば極めて異例の事態、といってもいいかもしれない。

#ラズラン・ラザリ
※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 欧州企業のドゥカティやアプリリアが気を吐く一方で、スズキの今季限りでの撤退といいヤマハの縮小可能性といい、さらにホンダはマルク・マルケス(Repsol Honda Team)が2020年の右腕骨折以来4度目の手術で戦線離脱を発表(これについては後述)し、陣営全体の成績もどうにも冴えない状態と比較すると、なんというか、国別GDPでは未だに世界第3位とはいいながらも購買力平価で見るとじつはG7の中でも最下位、という世界的にぱっとしない日本の現状と呼応しているようにも見えて、なんとなくツラい。

 ……話題を少し変えましょう。

 今回の週末は、パンデミックの影響で延期になっていたマックス・ビアッジ氏の殿堂入りが正式に発表された。250ccクラス時代に4連覇(1994~97)した圧倒的な強さや、その勢いを駆って最高峰500ccに昇格した98年には開幕戦日本GPの鈴鹿サーキットで、ビックリするような速さを見せて土曜予選でポールポジションを獲得。日曜の決勝レースでもそのまま優勝してしまったときの、あのスピードは本当に鮮烈だった(古い話でスミマセン)。

 なんといっても当時はドゥーハン最強時代である。そこにいきなり割って入ったのだから、勢いと能力の高さをひしひしと感じさせた。あの年のマルボロカラーでホンダNSR500というカラーリングは、見慣れるまでやや違和感もあったものの、チームのボスがあのアーヴ・カネモト氏であることを考えれば、いきなり才能を全開させたこともおおいに納得できた。

 その後、ヤマハファクトリーへ移ってホンダへふたたび移籍し、さらにSBKではアプリリアに二度のタイトルをもたらしたことは、ご存じの方も多いだろう。現在は、Moto3クラスで佐々木歩夢とジョン・マクフィーを擁するSterilgarda Husqvarna Max Racingのチームオーナーとして、パドックで重要な位置を占め続けている。

 ビアッジ氏の殿堂入りイベントの翌日、土曜には昨年限りで現役活動に終止符を打ったバレンティーノ・ロッシ氏のバイクナンバー「46」を欠番とするセレモニーが行われた。ひょっとしたら、ビアッジ氏かロッシ氏のいずれかの式典でふたりが肩を並べて握手したりしながらお互いの業績を讃えあう「歴史的和解」の演出があったりなんてすれば、大いに話題になるし面白いのではないか……、ともちょっと想像してみたのだけれども、やはりそれは妄想にすぎなかったようで、両氏が過去のあれやこれやを水に流してお互いに打ち解け合うにはまだ少々の時間がかかる、ということなのでありましょう。

#46

 さて、レース。

 ご存じのとおり、優勝はペコことフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)。昨年のムジェロでも優勝を期待されたものの、トップ走行中の序盤に転倒してリタイアを喫した。今回は鮮やかな速さと圧倒的な強さを見せて、一年前の雪辱を果たした格好だ。

「ホームGPで勝てて最高。ウィニングラップで叫びすぎたので、声が出ない。ホームGPで勝てて良かった。チームも自分も全力でがんばったし、今週はとてもいい感じで作業を進めて勝つことができた」

 とメーカーとチームの地元で達成した勝利を喜んだ。ムジェロサーキットはロッシ氏の現役時代には来場者のほとんどが彼のファンで占有され、コースサイドの至るところが黄色く染め上げられていた。ロッシウェアや旗を掲げる観客は今年も相変わらず健在のようだったが、やはり時代は移り変わる。

#63

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「レース前に、グランドスタンドや芝生席でたくさんの人たちがぼくの旗を振っている姿が見えた。いったいどれくらいいたのかわからないほどで、優勝後のウィニングランでは皆の前で停まって挨拶をしようと思った。観客席に投げ込めるモノは全部脱いで投げ、ヘルメットも放り投げようかと思ったけど、(その後にノーヘルメットで走行すると)ペナルティを受けるかもしれないと考えて、それだけは思いとどまった」

 今回の優勝は、ロッシ氏の教え子でもあるペコが継承者としての地位をコースサイドの観客に向けて広く宣言したような感もある。

 2位はファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)。今回の週末では、新バージョンのフェアリングで臨んだが、どうもいまひとつ気持ちよく走れないようで、土曜の予選を終えた段階では「今年初めて、トップスピード以外の部分に納得がいかない。どうもうまく旋回できない」と漏らしていたが、決勝レースに向けて従来型のフェアリングに戻したことが、どうやら効果的だった模様。

「スタートをうまく決めてからオーバーテイクにかかったけれども、フロントは切れるしリアは滑るしで、たいへんだった。直線でドゥカティに抜かれると(コーナーで)抜き返した。レース前はダメで元々だと思ってフェアリングを元に戻したらかなり良かった」

 クールダウンラップでは、昨年のイタリアGPでセッション中のアクシデントにより命を落としたジェイソン・デュパスキエの旗を掲げてコースを一周した。

#20
#20

 そして、アレイシ・エスパルガロ(Aprilia Racing)が3位。ポルトガルGP以降4戦連続の3位表彰台というこの安定感は、まさにチームと成長とライダーの多大な貢献の結実で、じつにじつにスバラシイ。

「今日は正直なところ優勝争いを目指していたんだけれども、VR46の2台(フロントロー2番グリッドスタートのマルコ・ベツェッキと、3番グリッドスタートのルカ・マリーニ)を抜くのに時間がかかってしまった。ふたりともまだレース経験は浅いのにとても良い走りをしていて、ミスもなかった。もうちょっとミスしてくれるんじゃないかと思っていたんだけど。だから、彼らを抜くのに15周ほどもかかってしまった。彼らの立派な走りを讃えたい。前にいるペコとファビオを狙うには遅きに失したものの、それでも上々の結果」

 兄エスパルガロ自身の充実した手応えを感じさせるコメントだが、新世代のライダーたちへ向けたエールも、ベテランライダーならではの余裕、といったところだろうか。ちなみにアプリリアは、走行前の木曜日に、来シーズンも兄エスパルガロとマーヴェリック・ヴィニャーレスの両ライダーで臨むことを発表している。

#41
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 ところで、今回のイタリアGPでは土曜午後の予選で、ディッジャことファビオ・ディ・ジャンアントニオ(Gresini Racing MotoGP/Ducati)がルーキーイヤーながら初のポールポジションを獲得。2番グリッドと3番グリッドは兄エスパルガロの上記コメントにもあるとおり、Mooney VR46 Racing Teamのベツェッキとマリーニで、ドゥカティ陣営最高ルーキーと2年目のイタリアンライダーたちがフロントローを占拠する、地元イタリア的大快挙を達成した。

 決勝もこの3名がトップスリーを占めればさらに大騒ぎになったことだろうが、やはり現実は少年ジャンプのスポーツ漫画のようにはいきません。ディッジャは後方から迫り来るベテラン選手たちの集団に呑み込まれて翻弄され、最後は11位でゴール。ポールポジションスタートだけに手放しでは喜べないリザルトだが、今回の決勝レースではたくさんのことを学んだようだ。

「トップライダーたちはとても正確に乗っている。ブレーキで深く突っ込んでも、ラインをキッチリと締めている。スロットル操作も超スムーズで、しっかりとトラクションを稼いでゆく。自分自身が前を走れたこともうれしいけど、すぐ目の前で観察していろんなことを勉強できたことがとてもよかった。ペコのデータを見て走りを理解していたつもりだけど、じっさいに目の前で見ることで、どうやって走ればいいのかを学べた」

 ディッジャは、Moto3時代から自分自身のスタイルを〈ディーゼル〉と自称していた。動き始めるまでは少し手間がかかるけれども、いったん勢いづくと猛烈な力を発揮する、というようなニュアンスだ。じっさい、中小排気量時代の彼は〈ディーゼル〉そのものの力強さで大いに存在感を発揮した。今回の貴重な経験を咀嚼することで、きっと近い将来に力強いライダーへ成長することだろう。

#49
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 また、6位でフィニッシュしたVR46のルカ・マリーニも、上位ライダーと共に走って吸収することが多かった、と振り返った。

「予選と決勝では乗り方を変える必要があるけれども、ペコやファビオ、アレイシたちの後ろについて走ることで、彼らがレース中にどうやって走り、(タイヤを)マネージしているのかを見ることができた。

 自分は彼らと一緒に走ることができる、とわかったことも大きな収穫だった。僕にも彼らを負かすことはできるかもしれない。負けないライダーなんていないのだから。でも、今の自分にはまだ足りないものがある。コーナー進入の最後の部分(トレールブレーキング)では、ペコたちのようにうまく停めて曲げてゆくことがまだできていない。ここが非常に重要な部分で、ルマンよりもうまく停めることができるようにはなってきたけど、次のバルセロナに向けて、まだまだ改善していく必要がある」

 じつに聡明なコメントで、やがてルカが兄の衣鉢を継いでタイトル争いに加わる日もそう遠くないかもしれない。

#72

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 さて、マルク・マルケスである。2020年の右腕骨折以降4回目の手術を決断するに至った経緯は、MotoGP公式サイトで記者会見の模様が無料公開されているので、概要はそちらでご参照いただきたい。

 日曜の決勝は10位でゴール。レース後には、肉体的にも厳しかったが精神面での集中力維持が難しかった、と振り返った。

「序盤の6~7ラップは楽しく走れたけれども、スタートが良くなかったので前と離れてしまった。それなりに安定したペースで走れたけれども、ヒヤリとする瞬間があったので以後は無理をしなかった。腕上がりで痛みもあり、力を入れることが難しかった」

 土曜夕刻の会見でも述べていたとおり、復帰の見通しについては術後の回復次第なのでまだわからない、と話すにとどまったが、渡米して手術をした後にスペインへ戻り、マドリードでリハビリを行うつもりだ、と明かした。

 これから手術をし回復するまでの長い道のりを考えると、メンタルの強さを自負するマルケスといえども、精神的にかなり辛い状況だろうことは容易に察しがつく。土曜の会見直後に、ライバル選手たちはマルケスの決意を支持し、万全の復帰を願うエールを贈った。

「本当に強い人間だと思う。彼自身の決めたことが、最善の選択なのだろう。この2年間が彼にとって本当に辛く厳しい時間だったことはまちがいない。だから、彼がやると決めたことを応援したいし、支えたい」(F・クアルタラロ)

#93

「つい先ほど彼のモーターホームで話をしてきたけど、心から応援してあげたい。マルクはメンタルが最も強いライダーのひとりであることは間違い。とはいえ、それにも限界というものがある。彼がいま耐えているものを想像すると、言葉を失ってしまう。

 今のマルクは、彼本来の乗り方をしていない。しっかりとフロントに加重せず、後ろ乗りになっている。けっしてバイクのせいでそうなってるわけじゃない。スピード云々ではなく体のポジションがいつもの彼じゃない。マルクの話では、アメリカの医師は最高の水準だということだから、きっと100パーセントで復帰してくれるだろう」(A・エスパルガロ)

 また、弟のアレックス・マルケスは、日曜のレース後に、兄の様子について以下のように話した。

「肩の荷が下りたと思う。昨夜は(会見での発表後に)LCRのホスピタリティでふたりで夕食をともにした。幸せそうだったし、落ち着いてリラックスしているようにも見えた。今の状況に向き合って行くには、これが最善の方法だったのだと思う。以前の手術では少し不安な様子もあったようだけど、今回も大きな手術とはいえ、とても落ち着いている。マルクはリラックスしているし、家族にとってもチーム全体にとっても荷を下ろすことができたと思う」

 最強の状態でなければ戦う意味がない、と考えるゆえの手術決断と実施なのだろうから、ぜひとも以前同様に最強のマルク・マルケスとして復帰を果たしてもらいたい。おそらく世界中の二輪ロードレースファンが、そう考えていることだろう。

 さて、中小排気量クラスでは、Moto3で鈴木竜生(Leopard Racing)が今季初表彰台の3位。序盤からトップグループを熾烈に争いながらレース中のロングラップペナルティで、2秒の差が開いてしまったが、そこからじわじわと追い上げを開始。レース終盤にふたたび優勝争いに食い込んでいったのはさすが。今季はなかなか表彰台を獲得できなかっただけに、今回の結果で弾みをつけていただきたいものです。

#moto3
#moto3

 山中琉聖(MT Helmets – MSI)も最後まで表彰台を争ったものの0.222秒届かず、結果は5位。昨年の山中はデュパスキエのチームメイトだっただけに、今回こそ表彰台獲得、という強い決意で臨んだ気迫は全身から伝わってきた。本人は悔しかっただろうが、いいレースでした。

 そして前回2位の佐々木歩夢は、金曜のFP2で転倒。両鎖骨を骨折して、以後の走行を欠場した。2週連続開催となる次戦第9戦の復帰は厳しいだろうが、一刻も早い回復と復帰を祈りたい。

 Moto2では、小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)が3位表彰台。例によって非常に安定感の高い走りで、今シーズン4回目の表彰台獲得。ポイントでは、首位のチェレスティーノ・ビエティ(Mooney VR46 Racing Team)と同点の108ポイントで並んでいる。

#moto2
#moto2

 次戦は6月5日決勝のカタルーニャGP。バルセロナ郊外のモンメロでは、きっと今年も例年同様に劇的なレースが繰り広げられることでありましょう。ではでは。

#イタリアGP

【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と最新刊「MotoGP 最速ライダーの肖像」は絶賛発売中!


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2022/05/30掲載