Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

Honda ADV150 個性、ギラリ! スモールクロスオーバー、ADV150はどう楽しいのか!?
125クラスの気軽さに、あと一歩の行動半径の広さを。身軽なのに高速道路を使える最小公約数的なバイク。今回のADV150は、言わばそんなバイクだ。個性が光るルックス、150㏄エンジン搭載で文字通り現行モデル中、自動車専用道路を利用できる最小クラスながら、ライフスタイル的商材としても機能してくれそうなワクワク感。でもホントにイケるの? じゃ、試してみよう。見ているとウキウキしてくるADV150でちょっと遠出してみたのである。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパンhttps://www.honda.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html,SPIDI=56design https://www.56-design.com/






 ADV150は125クラスが持つコンパクトさと自動車専用道路も利用できる排気量150㏄のエンジンを併せ持つスクーターだ。全体的にはX-ADV、アフリカツインとも親和性を感じさせるもので、どんな道でも躊躇無く入ってイケそうな「気分」がこのバイクには詰まっている。

 それは全体からも滲み出る。専用設計のIRC製タイヤが持つ舗装路×未舗装路のユニセックス的なトレッドフェイス。前後のサスペンションが持つ荒れ地上等、というようなルックス。実際にフロントは150mm、リアは120mmのストローク。さらに2本が並ぶリアショックにはリザーバータンクが備わり、スプリングはストロークが進行すると3段階にレートが変わるプログレッシブレートスプリングが使われている。
 

 
 最低地上高も165mmを確保し、同じくホンダのPCX160比ではフロア下が30mm高くなっている。その分、シート高も795mmとPCXより31mm高くなるが、そこはシートの幅を絞ったりして足着き性にも配慮している。
 最大のポイントはライディングポジションにある。PCXのようにリラックス系ではなく少し体を立てたような位置にハンドルグリップを配置することでアップライトなポジションとしているため、足が真下にストンと落とせるような印象だ。その点で、へそのあたりから上体が寝た感じになるPCXよりも足の裏(靴のソール)がしっかりと地面を捉えている印象があるのが嬉しい。
 

 
 エンジンは水冷単気筒OHC2バルブ、排気量は149㏄だ。11kW(15PS)8500rpm、14N・m/6500rpmを生み出す。このeSPエンジン、発電用ダイナモに電気を流し磁力の反力を利用してエンジンを始動させるので、スターターモーターギアが飛び込み、リングギアを回すノイズがない。スターターボタンを押すと、「ウン」とエンジンが回され、火が入る(実際にはウンとも言わずエンジンがアイドリングを開始するのだが)。

 始動後、エンジンの水温が適温になり、バッテリー電圧も適正値にあればアイドリングストップを作動させることも可能。信号待ちで停止するとエンジンが停止、アクセルを捻ると音も無く始動し加速が始まる。エンジン停止から加速が始まるまでのタイムラグがほぼゼロ。まったく自然に再発進が可能なこの機能、長らくホンダの十八番だった。アイドリングストップが当たり前となった信号待ちでも、4輪の多くが発進前に「ケロケロ」とスターターモーターの合唱となるのに対し、eSPはほぼ無音で始動が可能だ。
 

 

シート位置からの眺め、よし!

 着座位置がスポーツバイクと同程度の高さにあること、軽く背筋を伸ばしたアップライトなポジションも手伝って、ヘルメットごしの眺めは上々。こんなところもオフ車的な趣を持っている。普通のスクーターのように車体とウインドスクリーンが連続したデザインではなく、別体的になっているADV150。そのスクリーンは標準位置と高いポジションを手動で変更が可能だ。

 走り出す。アクセルを開けた時の動き出しは滑らか。ドルルルルンといかにもトルクがありそうな排気音とバイブレーションが伝わる。力強い印象だ。一昨年、4バルブヘッドと排気量156㏄の新型エンジンになったPCX160の力感とスムーズさには一歩ゆずるが、ADV150のそれは、単気筒らしい振動までどこかオフロードバイク風味に変換する魅力がある。

 スタートで少し大きく右手を捻るとダッシュ力もある。あっという間に次の赤信号まで到達するワープ感。PCX等と比べたら、というレベルだがタイヤパターンが発するゴロゴロ感もどこかオフ系モデル的。

 しかしそれはハンドリングにはほぼ影響なし。交差点やカーブでも頭が向かっていく感じは自然だし、ブレーキング時の食いつき感もある。PCXは曲がり出すと、そのままラインをトレースするスクーターのお手本のようなものとは少し印象が異なり、どこかバイク的な自由さがある。それもADV150の特徴のようだ。
 

 

過度な期待は禁物ながら高速道路もテリトリー

 世田谷区の南側に流れる多摩川。その橋を渡れば東京から神奈川に越境できる。お手軽な手法として第三京浜がある。環状八号線の内回りからアクセス。ぐるりと回り目の前に多摩川を越える直線が開けるまでは、何度走っても高揚感が味わえる。

 いや、本題はそこではない。ADV150の自動車専用道路でのパフォーマンスだ。まずは80km/h制限の第三京浜では? 結論はこうだ。平地、かつ向かい風などの天候条件が加わらなければ全く余裕の移動をこなす。そのまま西に進み、港北インター近くの登り区間になると、アクセル開度にゆとりは少なくなり、そのエリアで体験した向かい風によりついにアクセルワイヤーはその長さがつきた。全開だ。
 保土ケ谷料金所の先で一般道に降り、第三京浜で再び東に向かう。上りが下りになり向かい風が追い風になる。こうした条件の変化が走りのゆとりに大きな差を生むのが小排気量ならでは。往路の第三京浜は長いと感じ、復路はあっとう間に感じた。
 

 
 環状八号線の外回り出口に出て、今度は東名高速・用賀インターを目指す。渋滞した環八通りがフレンドリーに感じるほどADV150は身軽。空いた車線を選びながらスイスイと走る。軽く、アクセルを開ける手を大袈裟に捻らずとも走る余裕が魅力。

 用賀インター手前のマックを左折。いよいよ東名高速のランプを駆け上がる。今度は100km/hの速度制限ではどうかを試す。走行車線に合流。アクセルを開けると、あっさりとメーター読み100km/hに到達。その速度を維持するのも難しくない。途中、大型トラックをパスすべく追い越し車線へ。そのタイミングが上り坂と重なる。すでに90km/hは出ているから、エンジンの回転数は高いはず。第三京浜で感じた風に負ける感じはない。が、100km/hあたりで加速は上昇ペースはほぼ止まった印象に。流れ的にそれ以上のペースで迫る後続車。大型トラックをパスしたところで早々に走行車線へと待避。

 きっと時間を掛けたら110km/hか115km/h程度まではメーター表示は伸びるのではないか。下り坂や追い風ファクターがあれば120km/hの数字も見られるのか……。
 しかし150㏄のエンジンに過度な期待を掛けるのは酷だ。ミラーで後続車のタイミングを計り、追い越し車線からできるだけ短時間で戻れるようなプロセスを考える必要がある。これはこれでライディングにおける頭の体操として楽しかった。

 移動中感じた安定性、快適性は大型モデルには敵わないまでも想像した不安感はなく時間をかけたら遠くまでも行けるだろう、とは感じた。サスペンションやタイヤの吸収性、グリップ感も悪くない。連続して80km/h+でワープする感覚でルートを造り、高速道路へと乗ったり降りたりして一般道の美味しいところを繋ぐのも楽しそうだ。125とそれ以上のバイクのコンバインドしたADV150を使い倒す知恵がライダーには求められるだろう。

 

 

ダートにて。

 今回、少しダート路を走る機会があった。正直、こうした道が嫌いではない私は喜々として走ってしまった。その理由は、ほどよいパワーとその道の路面コンディションがシンクロして不安のないトラクション性能を楽しめたからだ。グラベルロードの片方の轍だけをトレースするように進む。直線は少なく路面はアップダウンがあり、そしてつねに左右に曲がっている。そんな道を、それこそ水を得た魚のように走るADV150。スクーターだし、名前はADVでもこうした場面では馬脚を現すに違いない、そう思っていた。
 しかしその予想は見事ハズレた。しっかりオフ車してるじゃん。もちろんトレールバイクのようなしっとりとしたサスペンションストロークはない。トントンとハンドルにはキックバックもくる。それでもダブルクレードルのフレームを含む車体全体で吸収力と安定感を保ちつつ、楽しい時間を提供してくれた。
 

 
 深い砂、雨のあとの泥濘などは未体験だが、あえてそんな中に入り込まなければ走破性は悪くないと想像する。その点でADV150マルチパーパスだ。

 あちこちへこの150㏄のバイクを走らせてみた。本当はスクーターだからコミューターとして実力を測るのが正しいのだろう。でもこのルックス、この装備。少し行動半径を拡げて見たくなる。その点でCT125などと同種の匂いを感じる乗り物だ。軽量なオフ車という選択肢が限られている今、ADV150はファンバイク認定だ。

 同時に、首都圏近郊のダートが少なくなりつつある今、貴重なダートを求めて遠征も可能にしたモデルだけに、コミューターとして使う人にとっても「いざとなれば何所でも行ける」という付帯性能(付帯魅力?)を持つミニマルアドベンチャーモデルだった。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

「Enhanced Smart Power」の頭文字をとってeSPエンジン。フリクションロス低減のために様々な工夫が施され燃費効率と性能を高い線で維持している。
フロアボードは前後に長さが確保されている。幅はそれなりだがスニーカー、ソールのガッシリしたトレッキングシューズ、ワークブーツでも相性は悪くない。タンデムステップは折りたたみ式。アルミ製になる。

 

フロントフォークは正立タイプ。14インチサイズのホイールは12本のスポークを持つ。2ピストンキャリパーとφ240mmのウエーブディスクを採用。フロントのみABSを備える。

 

サイレンサーは個性的。エンジンから出たエキゾーストパイプからマフラーエンドまでかなりの角度で立ち上げているのが解る。本体はスチール製。サイドにシルバーのカバーやヒートガードを付けて、エンドは黒のキャップで締める。
スプリングの巻きピッチを変えることでプログレッシブレートを得たスプリング、リザーバータンク付きのリアショックユニット。

 

ライダー側は後部に行くほどヒップポイントが広くどっかりと座れる。前方は細身で足着き性を意識。やや前方に座ることで前輪荷重の手応えが変えやすい。その位置もキープしやすいシートだった。タンデム用グリップを備えると同時に、荷物の積載性も悪くなさそうだ。シート下にヘルメットが収まるスペースがある(写真はジェットタイプ)。

 

ウインドスクリーンは可動式として高さが変えられる。トンネルを抜けたら突然の雨、変化する風向き、峠を越える時、麓とは異なる気温への対処、そんな環境変化に役立つ装備。そんなライダーの視界、体力、集中力維持に有効な安全性確保のパーツだけに走行中でも簡単に片手で簡単にできる仕組みが欲しいところ。調整は止まってから、という現方式だとユーザーがどうしても止まりたくなる衝動を抑えられない場合、また他の危険につながる場合が想像できるからだ。

 

ライダー膝前にあるグローブボックス内には充電用電源アウトレットがある。車体中央に燃料の給油口がある。

 

テーパーバーを採用するハンドルはそれほどワイド感がなく市街地でも軽快さを保ってくれた。
LCDモニターのメーターパネル。速度計を中心に左上に燃料計、時計、カレンダーが。右上にはオドメーター、トリップA・B、オイル交換までの距離が。左下には気温、バッテリー電圧、平均燃費表示が。速度計下から右にかけては瞬間燃費がリアルタイムにグラフ上に表示される。

 

右側スイッチボックスには、スタータースイッチ、ハザード、アイドリングストップの可動選択スイッチがある。
左スイッチボックスにはターンシグナルスイッチ、ホーン、ヘッドライトの光軸切り替えスイッチがある。

 

ヘッドライトはLED光源。輝度が高く対向車からの被視認性は文句なしだろう。しかし照度の明るさはもっと欲しいところ。夜、見通しの悪い市街地のT字路で、LEDヘッドライトの軽自動車がこちらの照度以上の明るさでまったくこちらの存在に気が付かず、飛び出してくる場面があった。基本、ドライバーの不注意なのだが、音でも視覚でもなく照らす明るさで自車の存在をアピールしたいこんな場面でADV150のヘッドライトは役不足だったのかもしれない。
ウインカー、テールランプはLED光源をつかい、中にX型に光る導光チューブがデザインのアクセントになる。

 

●ADV150 主要諸元
■型式:2BK-KF38 ■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒SOHC ■総排気量:149cm3 ■ボア×ストローク:57.3×57.9mm ■圧縮比:10.6 ■最高出力:11kW(15PS)/8,500rpm ■最大トルク:14N・m(1.4kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:1,960×760×1,150mm ■ホイールベース:1,325mm ■最低地上高:165mm ■シート高:795mm ■車両重量:134kg ■燃料タンク容量:8L■変速機形式:無段変速式(Vマチック) ■タイヤ(前・後):110/80-14 M/C 53P・130/70-13M/C 57P■ブレーキ(前・後):油圧式ディスク・油圧式ディスク■懸架方式(前・後):テレスコピック式・ユニットスイング式■車体色:マットメテオライトブラウンメタリック/マットガンパウダーブラックメタリック/ゲイエティーレッド■メーカー希望小売価格(消費税込み):451,000円

 



| 『2020年型 ADV150試乗インプレッション』へ |


| 新車詳報へ |


| ホンダのWebサイトへ |





2022/04/11掲載