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試乗・解説

見た目通りにアクティブ! 見た目通りに楽しい! Honda ADV150
PCX150の派生モデルでしょう? と冷めた目で見てはいけない。というか、すでに計画台数を上回る台数が注文されているのだから誰も冷めてはいないか! 良く動くサスペンションと明らかに元気なエンジン。活発な150スクーターとして、これはかなりイイ!!
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:依田 麗、ホンダモーターサイクルジャパン ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/

ADV兄弟は魅力的!

「回らないエンジン」を世に出して、そのかわりとても燃費が良く、便利で、日常使いでは何の不足もなく、かつ十分速くてしかも安いという、それまでになかった価値観を世に示したホンダNCシリーズ。世界的に良く売れ大成功したモデルだ。スポーツモデルとしてその「回らないエンジン」に疑問を持つ人もいたにはいたが、その意見は少数派だったことを販売が証明している。
 そのNCシリーズの中で現れた派生モデルX-ADVは、DCTを装備したクラッチレスのスクータースタイルでありながら、スクーターではなくちゃんとしたスポーツモデルでもあるという不思議な乗り物。しかしこれが滅法良い。速く、スポーティで、快適で、オフロードテイストのルックスもとてもカッコ良い。値段が張ることもあって国内ではあまり見かけることはないが、乗り物としては大変優秀で海外での評価も高い。
 今回のADV150発売は、改めてX-ADVをアピールしなおす絶好のチャンスだったためこんな書き出しになってしまった。X-ADVとADV150はネーミングやルックス以外での共通性はほぼないとも言えるのだが、現場にはX-ADVも展示してあり、改めて「あれは本当に良いバイクですよね!」などと関係者間で盛り上がってしまったための導入文、許されたし!
 

 

便利だけじゃない。面白い軽二輪スクーター

 さて本題である。ADV150はご存知、大人気の軽二輪スクーターPCX150の派生モデルである。かつて軽二輪スクーターといえば250ccで各社がより豪華なモデルを競って出していたビッグスクーターブームがあったが、その流行もいつしか沈静化、各社250ccスクーターはすっかり寂しい状況になってしまった。代わって台頭してきたのは原付二種クラスと車体などを共用する150ccクラスだ。その中でPCX150は非常に高い完成度で大人気となっており、ライダーに「150ccで十分」と納得させる性能を有している。
 そのPCX150のバリエーション、ADV150。ちょっと外装を変えただけじゃないの? と思いそうなものだがさにあらず。そのスタイリングが示すようにもっとアクティブな性格が与えられており、ゆえに専用設計の部分も多い。インドネシア、タイといったアジア圏の不整地も走ることを想定されているだけに、ルックスだけのバイクではないのだ。
 

 

各種専用設計の本気

 特にADVらしく変更されたのは足周り。フロントは130mm、リアは120mmのストロークが与えられ、そしてPCXの細身のタイヤに代わってブロックパターンがアクティブな印象を与えてくれるファットタイヤが備わる。リアサスもリザーバータンク付きのいかにもスポーティなものが備わり、これら変更のために多くのものを作り直しているのだ。というのも、ファットなタイヤを入れたうえでしっかりとセンターを出すためにはエンジンユニットごと左にオフセットする必要があったため。超絶バランスで成り立っているPCXに対してこんなことをするのはけっこうな大手術である。あわせてPCXにはない装備としてリアにはディスクブレーキもセットしている。
 パワーユニットや駆動系も、ADVらしいアクティブな特性とするべく専用設計。サルーン的位置づけのPCXに対して、ADVは遊び心やキビキビ感を求めたものということで、エンジンは低中速域のトルクを向上させ、駆動系もそれに合わせたことで鋭いダッシュを持たせており、PCXとは違う性格を作り出している。
 ユーティリティはスマートキーの採用が印象的か。多機能で無骨なデザインのメーターもアクティブな印象を与えてくれ、また上下二段階で調整できるウインドスクリーンもより多くのライダーに喜ばれる装備。さらに日本ではグリップヒーターやETCの使用も想定されるため日本仕様のみACG及びバッテリー容量も大きく確保され、またトップボックスが一般的な日本市場のためにリアキャリア(純正アクセサリー)が装着できるような設計もなされた。
 

 

PCXとは違うエキサイトメント!

 走り出せば明らかにPCXよりも元気な加速に驚かされる。試乗前に上映されたイメージ映像ではライダーがアクセルを大きく開けるシーンが度々映し出されたが、開発陣も積極的に加速を楽しむような特性をアピールしたかったのだろう。狙いはまさにその通りで、停止状態からのワイドオープン、40キロから、60キロからとそれぞれの速度域からワイドオープンしてみたが、どれもとてもキビキビと加速してくれて気分が良い。車体の小ささや軽さによる感覚的な部分もあるだろうが、イメージとしては80キロぐらいまでだったら250ccクラスにも負けないぐらいの機動力を持っているんじゃないかと思うし、活発さで言えば兄弟車であるPCXの比ではない。こちらの方が明らかに心拍数が高まる設定だ。
 対してそれ以上の速度帯となるとさすがに加速が鈍ってきて、いくらエキサイティングな味付けがなされているとはいえ、PCX同様に150ccという排気量を思い知らされる。高速道路では法定速度を守ったクルージング(当然だが)に徹するのが現実的だろう。ただ、高速道路を長距離移動するためのバイクではないためそれはそれで正解なのだ。150ccという軽二輪枠であるがゆえ、神奈川県内などでは特に多い有料道路や自動車専用道路を利用することが可能だということが大切なのである。
 

最初は開き気味のハンドルにオフ車テイストを感じて慣れるのに少し時間がかかるものの、シートやフロアボードのフィット感が高くてすぐに一体感を得ることができた。アクセルを開けた時の瞬発力がPCX150比でかなり高まっており、80キロあたりまでの加速ならかなり速いと言える。

 
 せっかくストロークが伸ばされた足周りを持っているのだからオフロードも入ってみた。いくらオフロードイメージとはいえスクーターには変わりないためオフロードを積極的に楽しむためのものではないだろう。しかしいざ踏み入れてみたらPCXよりは明らかに安心感が高い。専用設計のホイールと、リアは径を落としてまで履いたハイトのあるタイヤのおかげ、またもちろん専用となっているストロークのあるサスペンションのおかげでもあろうが、まるで車体剛性そのものが上がっているような安心感をもってオフロードでも全開走行を楽しめた。
 繰り返すが、決してオフロードを積極的に走るためのものでは、ない。しかし例えば奥まったところにあるペンションへのアクセス路が砂利道だった場合、もしくは期せずして砂浜に乗り入れることができる海岸線に出られた場合など、PCXだと「ちょっとな……」となりそうな場面でそれがない。むしろ嬉々としてそれら場面に突っ込んでいきたくなるような足周りを持っており、ADVは見た目だけのバイクじゃないと実感できる。
 

オフテイストがあるからって本気のオフ性能を試そうとするのはジャーナリストの悪癖。スクーターなのだから「不整地も多少こなせるように」という設計意図を尊重するべきだ。とはいえPCX150比では不整地の許容度は確実に上がっており、砂利道などでも恐れずにはいっていきやすいのは確かだ。

 

長身でもOK!

 足周りが伸ばされたことや、軽快で見晴らしの良いアイポイントを得たいという設計意思のため全体的に背の高いバイクであることは間違いない。その分足着きが犠牲になっている部分もあろうが、シート形状や足を下に下ろす部分のえぐれなどが良く考えられており、足着きがすぐに気になるということもなかったのは良いポイント。逆に筆者のように長身でもノビノビと乗れるのが高評価。足を投げ出せる感じなどはPCXとほぼ共通ではあるものの、開き気味のものが採用されたファットバーやシートの自由度、ホールド性などから窮屈さは一切感じず程よいフィット感を楽しめた。メーターやミラーはとても見やすく、シート下も広く、またタンデムシートが広くてタンデムも良さそう。ハンドル切れ角も46°と大きく、Uターンはお手の物。スポーティなルックスに対して実用性が損なわれていないのが嬉しい。
 個人的な好みの部分で注文があるとすれば、スクリーンはもう少し高い位置まで伸びても良さそうな感はあったのと、ABS作動時の作動音が盛大で驚かされたこと。リアブレーキがディスク化したことで最初はロックしやすく感じたが、それは慣れの問題だろう。スマートキーも同様、個人的にバイクには不要だと思っているが、これも慣れるはずだ。あとこれはADVに限らず近年のホンダ車全般だが、ウインカーとホーンのスイッチの位置が他社と上下逆なのはどうしても使いにくいということを、しつこいようだが記しておく。
 

 

開発者とかわすADV裏話

 試乗会場には開発責任者の箕輪和也さんが、わざわざ赴任先のタイから参加。ADV開発のお話を伺えた。最初に聞きたかったのは「シティアドベンチャー」というコンセプトの意味だ。
「オンとオフ両方を楽しんでもらいたいですね」と箕輪さん。オンとオフは単純にオンロードとオフロードのことだけではなく、日々の通勤などの実用ユースがオン、そして休日のレジャーユースをオフと捉えての意味だ。
「インドネシアやタイでも実用車の中の一番上、ハイエンド実用車という位置づけです。実用的な用途にはもちろん応え、その上で休日には都市をちょっと離れて、遊びにも活用できるモデルです」
「都市をちょっと離れ……ということは千葉や秩父ってことですね」と畳みかけると笑いながら「そうですね」と返答。普段は都市部の移動手段として活躍し、休日には千葉や秩父といった都市近郊のスポットでツーリングを楽しみ、かつちょっとした不整地の奥にだって冒険に出かけられるクルマ、ということだ。
 オフロードを意識したデザインだが、実際にオフロード性能もテストしているのだろうか。
「オフロード車専用のようなテストはそもそも存在しないんです。モデルごとに不整地走行や耐久性テストの項目は独自に定められていますので、そういった項目は皆クリアしています」
 ということは今回走ったような砂利道っぽい道の走破性やABSの作動感、転倒した場合の損傷個所などは把握済みということだろう。またリアホイールの径を小さくしてまでわざわざハイトのあるタイヤを装着したのだから、不整地での走行はかなり意識していることが伺われる。
 スクリーンがもう少し高くても良いような気がしたのと、LEDのライトはモデルによってあまり明るく感じないことがあるが、そこら辺は?
「スクリーンは身長170~175cmぐらいの人を想定して作っているのと、連続高速走行をする機会は少ないので、高い防風性よりはスクリーンのフチが視界に入ってこないあたりを狙い、またコミューターとして視界の広さを狙いました。低い位置でPCXと同様の高さになりますね。またLEDヘッドライトは十分な光量を確保しています。日本よりも夜道が暗いアジア地区でも暗いというコメントは出てきていませんので大丈夫だと思いますよ」
 まだ30代の箕輪さん、タイから来たばかりで「寒い寒い」と言っていたが、笑顔を絶やさないナイスガイだった。楽しいADVと楽しそうな箕輪さんがかぶって、なんだかいい波長が流れているようでうれしくなった。
 

笑顔の眩しい、開発責任者の箕輪和也さん(左)と、営業責任者の古賀耕治さん。自信をもって、かつ楽しそうに商品の説明をしてくださった箕輪さんからはADVへの愛を感じられ、「こんな人が作ったバイク、乗ってみたい」と感じさせてくれた。古賀さんは日本導入を見越し、発電容量増大やリアキャリア必須! など様々な無理難題(?)を箕輪さんにリクエストした人物。そのおかげもありすでに計画台数を上回る受注を得ている。

 

見た目通りの性能

 試乗を終えた感想は、「見た目通り」というもの。ADVという名前とX-ADVとリンクする見た目から、ベースモデルよりは活発でFUN領域が強まっているだろうとイメージできたが、乗ってみたらその通り、期待通りの乗り物だった。イメージ映像にあったアクセルを開けた時の瞬発力だけが予想以上だったと言える項目だろう。ADVは発売前から販売計画台数を上回る注文が入っており、すでに大ヒットモデルとなっているが、このスタイリングやリリースを見ただけで「これはなんだか良さそうだな!」と感じたのならば、その直感は正しい。ベースは信頼のPCX、それをさらに楽しくしたのだ。直感を信じて買って間違いない。
 

 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

こちらは身長173cmでの足着き性。写真の上でクリックすると両足時の状態が見られます。

 

130mmへと伸ばされたサスペンションと46°という大きなハンドル切れ角が魅力。ホイールは専用設計で、スポークの間隔を狭くすることでリムからアクスルに伝わる荷重変化を均一にしているとか。ブレーキはウェーブタイプで、フロントのみABSが備わる。
オフロードでの衝撃吸収性を求めて空気の容量の多い、ハイトのあるタイヤを履かせるためにリム径は13インチに小径化。幅も太くなったため、エンジンや駆動系は左にオフセットするという大手術を受けている。タイヤは専用設計、そしてリアにもディスクブレーキが備わった。

 

手動で上下できるスクリーンは低い位置でPCXと同じ高さ、高い位置でも「もう少し高くてもいいかも」と思ったが、視界を遮らない位置を探ったそう。操作は左右のノブをひきながら上下するのだが、もう少しシンプルな仕組みでも良かったような。

 

自由度の高いステップボードのおかげで長身でも悠々と足を投げ出せるのは好ポイント。また足を地面に着く部分はカジュアルにえぐられているためシート高が高くなっているのに足着きが気にならない。絶妙な設定に感じた。
前後に長くて自由度がある上、腰のホールドが良くて車体との一体感を得やすかったシート。タンデム部も広く、かつスクエアなためタンデムはもちろんのこと、荷物の積載等も容易だろう。純正アクセサリーのキャリアも用意される。

 

軽二輪クラスと考えればスマートキーの採用も当然かもしれない。私的には使いつけないためむしろ通常のカギの方が良いと感じているクチだが、慣れればきっと良いのだろう。シートや燃料フタの開閉はスムーズでやりやすかった。
こういったカッコいいモデルはシート下容量などは多少犠牲になっても……的な風潮がある中でここでもADVは妥協無し! 素晴らしい収納力だ。シートが大きく開くのも開口部にアクセスしやすく好印象。

 

ファットバーであること、またスクーターとしては垂れ角も少ないハンドルはオフ車テイストを強めてくれるアイテム。肘を張って乗りたくなるが、すぐに慣れて違和感はなくなった。ミラーも無骨でカッコいい!
リアもディスクブレーキとなったことで左にも油圧のリザーバータンクがついた。ホーンとウインカーのスイッチ位置が他社と違うのは最近のホンダのトレンドだが、大変使いにくくとっさの判断ができなく困る。その証拠に試乗会当日もプップカとホーンを鳴らすジャーナリストが後を絶たなかった。要改善。

 

反転液晶と、上に日差しを遮ってくれるツバがついたことで、とても見やすく印象の良いメーター。X-ADVと共通する無骨なイメージがアクティブな気持ちにさせてくれる。液晶左右下部についているボタンも節度があって、こういう所で高級モデルだと感じさせられた。

 

●ADV150 主要諸元
■型式:2BK-KF38 ■全長×全幅×全高:1,960×760×1,150mm■ホイールベース:1,325mm■最低地上高:165mm■シート高:795mm■車両重量:134kg■燃料消費率:54.5km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時)44.1km/L(WMTCモード値 クラス1 1名乗車時 )■最小回転半径:1.9m■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒SOHC■総排気量:149cm3■ボア×ストローク:57.3×57.9mm■圧縮比:10.6■最高出力:11kw(15PS)/8,500rpm■最大トルク:14N・m(1.4kgf・m)/6,500rpm■燃料供給装置:電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)■始動方式:セルフ式■点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火■燃料タンク容量:6.0L■変速機形式:無段変速式(Vマチック)■タイヤ(前・後):110/80-14 M/C 53P・130/70-13M/C 57P■ブレーキ(前・後):油圧式ディスク・油圧式ディスク■懸架方式(前・後):テレスコピック式・ユニットスイング式■フレーム形式:ダブルクレードル■車体色:マットメテオライトブラウンメタリック/マットガンパウダーブラックメタリック/ゲイエティーレッド■メーカー希望小売価格(消費税込み):451,000円


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2020/02/21掲載