2022年はちょい足しと
チューニングを整え進化。
過去の記憶を辿ってみる。以前乗ったCBR400Rの印象を包み隠さずに言えば、間違いなくまとまったバイク、だけど趣味性「命」のバイク乗りにはなにかが足りないだろうな、と思っていた。400だから? いやいや、そうじゃない。だって価格も割り切れるほどリーズナブルではないし……、500のお下がり感? 何だろう、ちょっと足りないのは解っても、明確に言い当てられない。そのなにかをコレだ! と突き止められずモヤモヤしていた。
CBRと言う名前からすれば確かに600、1000のRRシリーズが持つ究極さはない。でもそれはそこを狙ったスパイシーモデルではない。CBR400Rそのものは、よく走り、よく曲がり、問題なく止まる。今日ライセンスを手にしたライダーから、酸いも甘いも体験した幅広いライダーをターゲットにしたパッケージングでコレはこれだ。エンジンだって必要にして充分。僕の中でカテゴリーとしては、NC750X的な「乗れば都」的なジャンルにグループ分けされていた。いや、NC750Xはすっかりキャラが立ってきたが……。
まあ、ホンダにとって400といえばCB400SFシリーズがある。走りの性能と乗りやすさを融合させた弟分、CBR250RRもしっかりとした個性派だ。するとCBR400Rは? フルカウルのスタイル、ネーミングから放たれるスポーティーなルックスと、汎用性の高いバイクとしてラインナップを埋めるニッチ役か……。でもどこか割り切れない
アシスト&スリッパークラッチの装備でレバー操作力が軽く、4速で30km/hからでもスルスル加速するフレキシビリティーに富む並列2気筒エンジン。ソフトな印象のフロントサスと、多少乱暴に握ってしまっても安心できる制動力にチューニングされたフロントシングルディスク。いわば角を丸めた存在だった。まあ、人によっては刺激がタリナイ! と思うかもしれない。CBRを名乗っていながら、その実、もっとも実用的なスポーツツアラーでもあるCBR400R。これはこれ、他に代替のない存在でもあったのだ。
2019年に施されたモデルチェンジでスタイルや灯火類などアップデイトが行われ、メーターパネルを含め刺激成分が増えた。今回試乗したモデルもそれを基本的に踏襲している。
前置きが長くなったが、2022年モデルのハイライトはこうだ。なによりのトピックは、新しい環境規制に適合したことに加え、足周りのアップデイトだ。これまでフロントがシングルだったブレーキをダブルディスクへと変更した。ラジアルマウントキャリパーの採用で一気にCBRルックに磨きが掛かった。その狙いはサーキットで1コーナーめがけてブレーキング競争を繰り広げるためのものではなく、より軽く制動力を引き出せるようにしたものだ。
また、デザインを変更しフロントホイールは軽量化され、リアスイングアームの剛性バランスも最適化された。さらにフロントフォークにSHOWA製のSFF-BP(セパレートファンクション・ビッグピストン)という左右で機能を分けた特徴を持つ倒立フォークを新たに採用している。ストロークの作動初期から充実した減衰圧を生み出し、上質な乗り味が特徴となる。
親しみやすさは健在。
走りの上質感、数段アップ。
ライディングポジションはCBRの名前から想像する前傾きつめなものではなく、スポーツツアラーとしてしたてられた親しみやすさは相変わらず。左右がセパレートになったハンドルバーをフロントフォークのトップブリッジの下に装着してスポーティーさをアピール。しかしながら、そのグリップ位置は下げ過ぎず、絞り過ぎずな適度な高さと広さを確保。それでいてシート位置や全体のデザインとのバランスで、しっかりCBRルックに見合ったスタイルに収まっているのはさすが。
そのシートは前後に長さがありライダーが座る座面後方はワイドで肉厚。先端はタンクと併せて細身に仕立てられているため足着き感やライダーが触れる部分のフィット感ともに良好。さらにステップも高さ、後退具合ともスポーツとリラックスさを兼ね備えたもので、ポジションパッケージも緊張を強いないのがいい。そのため、都市部から走るのが気持ち良いワインディングまで長時間の移動でも手首や首に疲れがたまらないのが嬉しい。
エンジンは400㏄並列2気筒エンジン。そのスペックに変化はなく34kW(46ps)と38N.mというもの。そのエンジンはいわゆるユーロ5適合となり環境性能をワンステップ上げている。マフラーの音質が滑らかでノイズ感が減っている。と、同時にアイドリングから振動の少なさも磨きがかかったように思う。並列2気筒180度クランクが醸す「グルグルグル……」という元気で軽快さだけではなく、快適さと上質さも上げているのだ。
軽いクラッチレバーとそのつながりが解りやすく不安なく発進できる低回転トルクの恩恵でCBR400Rは最初の転がり出しから早くも自分の手の内に入ってきた。カチ、カチと決まるシフトフィールも◎。小ぶりで2000rpm刻みのタコメーターを凝視する必要は一切なし。右手と耳の感覚でバイクを走らせられる。4000~5000rpmも回せば加速感、速度の乗りは大満足。その領域で振動も少ない。
なによりサスペンションがいい。路面からの入力に角がない。高級感ある乗り心地なのだ。また、市街地レベルでもダブルディスク化の恩恵は大きい。まず、減速時のフロントフォークの動きが滑らかでピッチング方向の姿勢変化をゆったり出しつつ、ゴツゴツさせない吸収力。まるでCBR1000RR-R FIREBLADE SPに装備される第2世代オーリンズスマートECか! と言いたくなるほど、フラットな姿勢感のままで「ス」っと入力をいなしてくれる。軽いレバータッチのままバイクを減速、停止させると、自分がホントにブレーキかけたのだろうか、というほど雑味がないままタイヤが持つグリップ感、接地感もミッチリ伝えてバイクを停めてくれる。いいじゃない、これと思わずニンマリ。もちろん、乗り心地も上質。
この質感ある走り、高速道路を走っても同様。舗装したての路面のような滑らかさ。80km/h、100km/hからの追い越し加速も6速のまま楽勝でこなすし、シフトダウンしてアクセルを捻れば、4000rpmあたりからのトルク感同様、掴みやすく解りやすい加速度で回転を伸ばしてくれる。どこかに盛り上がりがあるタイプではないが、いかにもツインエンジンらしい仕上がりだ。
ワインディングでもコーナリングファンに貢献してくれた。前モデルはあえて穏やかな旋回性を与えることでツアラー的性格を持たせていたのかな、と思った。その分、扱いやすく開けやすいエンジンと車体の旋回性のバランスが安定性方向にまとまっていた記憶がある。キビシイ物言いをすれば寝ても曲がらない感じがした。だから、前モデルはリアのイニシャルプリロードを1段、もしくは2段上げることで前後サスの動きのバランス、姿勢の変化を入れることになったが、新型はスタンダードのままで前輪がしっかり仕事をしてライダーが望む方向に頭をスッと入れてくれるから曲がり方が気持ち良い。
旋回性が良いので、アクセルを早めに開けて立ち上がれる。開け待ちがなく走りのリズムがアップテンポになった分、CBR感をより簡単に引き出せる。だからといってガンガン攻める走りを強いることがない。ツーリングペースでライディングしていてCBR400Rとの対話が増えたという印象だ。このバイクとのやりとりが増えた感覚こそ、今回のCBR400Rに施されたアップデイトの目的ではないのか。
燃費もいいのね、キミ!
CBR400Rと走ってその上質感にちょっと虜になった。おまけに燃費もよくて特に気にしなくても30km/l以上を軽くマーク。このご時世、レギュラーガソリンでお財布にも優しいバイクなのだ。たぶん、燃費を少し意識したら35km/lくらい割とラクにマークするのでは、という期待も。
結論としてCBR400Rは進化した足を持ち、全体にスポーティーさもアップ。この密な対話を楽しめるゾーンのような部分が増えたところが魅力だった。個人的には500のお下がり? と思っていたコトを反省した。その背景にある400という記号性がそうさせたのかもしれない。たとえば懐かしのフェラーリモデルにあるような搭載されたエンジンの特徴を記号にしたネーミングとかどうだろう。4バルブ、DOHC、2気筒でCBR422Rとか……。いや、JDM(ジャパニーズ・ドメスティック・マーケット)の機種がある一部の世界のマニアに受ける時代。400という名前こそエキゾティックなのかもしれない。いずれにしても、新型CBR400Rは走るほど深さを楽しめるバイクだった。
■エンジン種類:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒 ■ボア×ストローク:67.0×56,6mm ■最高出力:34kW(46ps)/ 9,000rpm ■最大トルク:38N・m(3,9kg-m)/ 7,500rpm ■全長×全幅×全高:2,080×760×1,145mm ■ホイールベース:1,410mm ■シート高:785mm ■車両重量:192㎏ ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・ 160/60ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:グランプリレッド/マットジーンズブルーメタリック/マットバリスティックブラックメタリック ■メーカー希望小売価格(消費税10% 込み):841,500円
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