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試乗・解説

HONDA CBR400R 親しみやすいスーパースポーツ
国内でこの新しいパラツイン400が登場したのは’13年のことだから、比較的新しいモデルというイメージもあるし「ホンダがパラツイン?」という想いでいる人もいるかもしれない。しかしベースとなったCB500というバイクは欧州での超長寿モデルで、スタンダード/スポーツとして定番商品だ。これを国内の免許制度に合わせた形がこのシリーズ。日本でも定番になりつつある。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:赤松 孝 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/




「普通路線」をあえて選択する

 400ccという国内独自の排気量は、かつてのバイクブームの時には様々なエンジン形式で発売された。その中でパワー追求の結果、やはり4気筒が登場し、それがネイキッド時代に至るまで長らくスタンダードとなり、そしてホンダでは今でもスーパーフォアが現役である。しかし、現代の世界的に見ればこういった400~650ccモデルではツインが主流と言えよう。その中でもパラツイン、これはとてもコンパクトで使いやすい、またコスト面でも有利といった様々な要件を満たしやすいということで多くのメーカーが採用している形式だ。ホンダは海外では500のパラツインを長らく展開していたが、国内にもやっと投入したのがその500がモデルチェンジしたタイミングで同時に作った、この400cc版パラツインだ。
 

2013年4月に発売された3兄弟──左からCBR400R、CB400Fそして400X。

 
 最初に発売された2013年には、ネイキッド版のCB400F、今に続くフルカウルのCBR400Rとアドベンチャーの400Xという3兄弟だった。その時の発表会で「これは決して500のスケールダウンモデルではなくて、あくまで400ありきなんです。400ベースのちょっとだけスケールアップが500なんです」と技術者が力説していたのを思い出す。400が縮小版に感じて、どこか残念感を抱かないように言ってくれているだけにも思えたものの、500版も471ccと実際にちょっとしか変わらないことを思えば、あながち日本の400市場に対する慰めでもなく、燃費性能や環境性能などを考えて400ベースとしたのは本当かもな、とも思ったものだ。
 400ではスーパーフォアがあったものの、あえてパラツインも投入したのは将来を見据えてのことだろう。4気筒に比べるといくらかベーシックな印象も抱きそうなものではあるが、アドベンチャー系含め3機種展開できたことも考えると、また400ccでも十分な低回転トルクの確保や、環境規制への対応のしやすさなど考えると、至極真っ当なモデルである。180°クランクのパラツイン、「普通だな」と思ってしまうが、その「普通」にホンダが乗り出した。
 

 

順当にモデルチェンジを重ねたCBR

 3兄弟としてスタートしたこの新世代パラツイン、残念ながらネイキッド版のFは姿を消したが、アドベンチャータイプの400Xは’19年にサスペンションのアップグレードやフロントタイヤの大径化などのモデルチェンジを果たして進化中、そしてフルカウル版であるこのCBR400Rも細かなモデルチェンジを繰り返し、こんなにもシャープでカッコいい姿にまで成長した。
 ヒストリーを振り返ると、初期型と言える’13年型はわりとツアラー的なテイストでハロゲンの2灯(約67万円)、初めてモデルチェンジして今に続くシャープなカタチになったのが’16年(約70万円)、’18年にはABSが標準化(約78万円)、’19年にさらにモダンでシャープなルックスになって、’20年にとうとう80万円を超えるという、正常進化をしながら価格もじわじわと高くなってきたという歴史。基本部分は初期型から一貫してよきスタンダードだったことを思うと、プライスアップがちょっと気にならないでもないが、1000ccクラスと遜色ない存在感やシャープでカッコいいLED灯火類、デジタルのメーターなど最新装備を思えば妥当かもしれない。敢えて400ccを選択するライダーはやはりプレミアム感も大切にしたいところ。現行モデルはそういった気持ちに応える作り込みをしていると思う。
 
 

 

絶品エンジンに惚れる

 先述したように180°クランクのパラツインエンジンは他社も多く展開しており目新しさはない。排気音もパルスの効いたもので心地よいが、ドルッドルッドルッとそのリズムは普通であり、ベテランライダーからするとCBRの名前から想像するスポーティさは即座には見いだせないだろう。
 しかし走り出すと印象は一変。低回転域から力強く押し出してくれる感覚は250ccに多い同じパラツインとは雲泥の差で、無造作にクラッチを繋いでも車体はグイグイ進んでくれる。そして4気筒のような二次曲線的な盛り上がり感の代わりに一直線にレッドゾーンへと突き進んでいくパワーフィールは、はっきり言って意外なほど力強い。特に走り慣れない峠道を楽しもうとする場合など、コーナーのアールが読めないことは多々ありギア選択に迷うこともあるが、このパラツインなら多少選択ミスしてもすぐにリカバリーできてしまうフレキシブルさもある。
 

 
 逆にコーナーの具合を知っている峠道では、レッド付近の回り切り感が自然でこれがまた気持ちよい。中にはレッドに入ったとたん電気的にカットされるような味付けのエンジンもあるが、CBRは極自然に頭打ち感が出てきて、レッドに入っても明確なカットがなくグググ……とその領域を維持してくれるのだ。だから予想外にスピードが維持できてしまったコーナーにおいて、もう一速シフトアップして、すぐまたシフトダウンし直さなきゃいけない、なんていうことがなく、引っ張り切ってレブリミットにあてておいてもストレスが無い。積極的に走っているときは特にこのレッド付近の領域が大変に気持ち良く、エンジンの全域での力強さに加えてスポーツ領域での寛容さを感じることができた。
 さらに高速道路でも好印象は続いた。スピードが出るステージでは4気筒のスーパーフォアに譲るかと思いきやそうでもないのである。けっこう良いペースを維持するのが苦ではなく、また追い越し加速もお手の物。カウルがあることで胸元への風はだいぶ軽減され、こりゃ気持ちいいな! とついついペースが上がってしまった。ちなみに燃費はかなり無茶な回し方をしたのにもかかわらずリッター25kmほど。普通にツーリングしていれば30km/Lいくんじゃないか、という感触である。
 かつて誰かが「400ccまではツインで十分」と言ったそうだが、最新パラツインのCBR400Rに乗った2020年現在、その言葉は今も真実かもしれないな、などと妙に納得してしまった。
 ただ、もうひとつ面白さのようなものを求めるなら、大昔ホンダがやっていたように同じ車種で180°クランクと360°クランク両方をラインナップするというのも良さそうに思う。あのバルバルバルバルッと回る360°クランク、他社がやっていないだけに、今乗ったらライダーにも周りにも個性をアピールできそうだ。
 

 

現代的志向の車体周り

 懐が深くてとても惚れ込んだエンジンに対し、車体の印象はもう少しピンポイントなものに感じた。スーパーフォアが旧世代ネイキットの良い所を引き継いで、低重心で馴染みやすい車体なのに対し、CBRはもう少し腰高で、フロント周りにマスを集めたがっている印象があり、近代的なスポーツバイクのスタイルとなっている。
 実際のポジションはハンドル位置も高めでステップに至っては驚くほど低く、かつ前方に位置するものの、シートの高さなのか、前後アクスル位置に対する着座位置なのか、楽なポジションなのに常にスポーティさを訴えかけてくるのだ。それなのにいざ走ると、しっかりと曲げようとした時、ライダーにそれなりのアクションを求めてくるのが不思議に感じた。ちゃんと尻をずらし、コーナー出口に意識を集中していくような積極的なスポーツライディングをすれば、それこそCBRというネーミングに恥じない切れ味を披露するものの、ダラーっと乗っているとキッカケが掴みにくく、思うように曲がっていってくれないというか、ツアラー的なボンヤリ感があった。
 見方をかえれば、これは二面性とも言えよう。ノンビリ乗っていれば街乗りでもツーリングでものんびり走ってくれる。それでいてペースを上げたければ今日日のスーパースポーツモデルのようにライダーからの積極的な入力で旋回力をギンギンに引き出せる。ただその二面性の間の橋渡しというか、許容域みたいなものがもう少し欲しいと感じることもあった。快適でスポーティな乗り物なのだから、ライダーがどんなテンションであっても、路面がどんな状況であっても、常に一定の快適でスポーティな乗り物であって欲しい、なんてことを考えてしまう。
 ちなみに私的な意見だが、純正装着されているツーリングタイヤがちょっと硬いような印象があり、これをもっとしなやかな、例えばHレンジのスタンダードタイヤや、もしくは逆にスポーティな銘柄に交換すればガラッと印象が変わりそうな感もあった。車体がしなやかで扱いやすいのに、路面との接地面が硬質に感じたのだ。
 

 

自分に合わせ込む余裕

 現代のバイクはどれもものすごく完成度が高く、購入後のカスタムというのもだいぶ少なくなってきただろう。ETCとスマホホルダー、冬も乗る人はグリップヒーター。これで十分。という風潮も見え、あとはステッカーでも貼ってみようか、という感じかもしれない。よほどマインドが高くないとサスペンションの設定を変えてみよう、などという人は少ないように思う。
 しかしCBRについては手を加える楽しさが残されている気がする。もちろん、スマホホルダーやETCといったものはつけてOKなのだが、それとは別に先ほどのタイヤの話や、それに加えてサスペンションのセットアップなどだ。
 試乗日は400スーパーフォアとの乗り比べをしたのだったが、最初はとにかく曲がらなくてスーパーフォアについていくのに苦労した。ところがリアサスのプリロードを2段階締めたら腰高のポジションと旋回性のバランスがとれたようで、ハンドリングが途端に良くなり、逆に全域パワフルなエンジンの使いやすさを活かしてスーパーフォアより優位に立てるように変化したのだ。これはなかなか愉快な発見で、「じゃあこうしたらもっとしっくりくるかな?」と前後サスの設定を見たり、タイヤの空気圧を見たり、ライディングスタイルを変えてみたり……。
 長い歴史ゆえに完全に熟成しきっているスーパーフォアに対して、もう少しベーシックなCBRはこういった試行錯誤の楽しさが残されていると感じたわけだ。バイクはクルマ以上にプライベートな乗り物だからこそ、自分仕様に合わせ込む楽しさのようなものがあるだろう。CBRはそういった発展性を持っていると感じた。
 

 

こんな人に薦めたい

 一日乗り回して改めて思ったのは、「カッコいいナァ!」ということだった。特に今やクラシカル路線に見えてしまうスーパーフォアと並ぶととてもモダンで、こんなに尖ってスーパースポーツ然としたルックスなのに乗ると実は楽チンというのも愉快だ。「スゲーバイクに乗ってる」感があるのに、実は余裕をもって扱えています、というギャップが良い。
 スーパースポーツのスタイルには憧れるけど、600や1000の性能はトゥーマッチという人、ギンギンに走って「イケてますねー! って、それ400!?」という目で見られたい玄人さん、シャープなフルカウルデザインが良いんだけど、ポジション的にも燃費的にも無理せずツーリングも行きたいという人、などなど、幅広いライダー層に薦められるバイクではあるが、先ほど書いたようにたぶんこのCBRは「始めから非の打ちどころのない完成品が欲しい」という人よりは「より良くしていこう」「もっともっとこのバイクと仲良くなりたい」という、その先の濃密な付き合いも楽しみたいライダー向けじゃないかな、と感じた。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

ライダーの身長は185cm。

 
 

●CBR400R Specification
■エンジン種類:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒 ■ボア× ストローク:67.0×56,6mm ■最高出力:34kW〔46ps〕/ 9,000rpm ■最大トルク:38N・m〔3,9kg-m〕/ 7,500rpm ■全長× 全幅× 全高:2,080×755×1,145mm ■ホイールベース:1,410mm ■シート高:785mm ■タイヤ(前× 後):120/70ZR17M/C× 160/60ZR17M/C ■車両重量:192 ㎏ ■燃料タンク容量:17L ■車体色:グランプリレッド/パールグレアホワイト/マットアクシスグレーメタリック ■メーカー希望小売価格(消費税10% 込み):808,500円

| CBR400R試乗 by 松井 勉はコチラ→ |

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2020/12/25掲載