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レース・イベント

●インタビュー・文:西村 章  ●写真:スズキ
〈敗軍の将、兵を語らず〉という。戦で負けた側を率いた将は、その兵法や戦術について弁解がましく述べるものではない、という意味だ。しかし、〈敵を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず〉、ともいう。2020年にジョアン・ミル(Team SUZUKI ECSTAR)が20年ぶりのライダーズタイトルを獲得し、チームタイトルも手中に収めたスズキ陣営だったが、2021年シーズンはライダーランキング3位(ジョアン・ミル)・13位(アレックス・リンス)、チームとコンストラクターはともにランキング3位という結果に終わった。そこで今回は、2021年の敗因分析と2022年シーズンに向けた捲土重来の展望について、プロジェクトリーダーでありチームリーダーでもある佐原伸一氏に伺った。最終戦のレースウィークにバレンシアサーキットでたっぷりと聞かせてもらった話は以下のとおり。ではさっそく、参りましょう。

―まずは、今シーズン、ジョアン・ミル選手とTeam SUZUKI ECSTARがタイトルを獲得できなかった理由を教えてください。

「今年の取り組み姿勢とスタンスは、タイトル防衛というよりも、むしろ、いつものようにトップを目指してチャレンジしましょう、という方針で臨んでいました。そうやってトップを目指して戦っていくなかで、単純にいえば、我々のパッケージがタイトルをとるには充分ではなかった、ということです。タイトルを獲ったファビオ・クアルタラロ選手とヤマハさんのパッケージよりも劣っていました」

―そのパッケージは、どういうところが劣っていたのですか。

「ジョアンの例でいえば、彼は去年のチャンピオンなので、実力が今年のチャンピオンを獲ったクアルタラロ選手よりも劣っていたとは思っていません。それ以外の、マシンだったりチームのレースの進め方だったり、といったライダー以外のところが足りていなかったのだろう、と考えています。来年のチャンピオンを目指すためには、そこを改善しなければならないでしょうね」

Team SUZUKI ECSTAR
以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

―開幕2連戦のカタールで話を伺ったときは、予選の位置が課題、と佐原さんはおっしゃっていたと思います。シーズン全体として見ても、そこは今年もずっと課題であり続けたようです。しかし、17戦目のアルガルベGPでは予選3番手、決勝レース2位、と好内容でした。

「そう。去年もそこは課題であって、常にレースで追い上げを強いられる展開が多かったですね。スズキはパッケージとしてレース後半が強いから、作戦として追い上げることができていました。今年は我々のその部分が弱くなったというよりも、ライバルがそこを改善してきたために、スズキが持っていた優位性も減って追い上げも難しくなってきた、というのが事実でしょうね。追い上げに頼って予選はべつにどうでもいいや、と思っていたわけではけっしてなくて、いろいろ考えて手を尽くしてやってきたけれども、かならずしも全部のサーキットでその努力が予選結果に結びついていたわけではありません。

運の要素もあったと思います。予選のタイムアタック中にイエローフラッグが出て、タイムがキャンセルされたり、他のライダーと絡んでアタックできなかったりしたこともありました。それでも、速い選手はいつも平均して速いので、そこ(予選)は改善ポイントであるとは思っています。ただ、オートバイというものはひとつ何かを変えたら劇的によくなる、というものでもなくて、特別なことをやると逆にバランスも崩れてしまって、予選結果もそこそこで決勝の強みもなくなっちゃう。虻蜂取らずにならないために、ライダーも含めて、どうやっていこうか、と皆で探っている最中です」

―いまの予選の一発タイムを見ると、とくにQ2ではトップと12番の差は僅少です。Q1でトップ2を取ってQ2へ勝ち上がっていくのも緊密な争いになっています。ほんのちょっとの差で、グリッドがかなり後ろの方になってしまうのも事実ですね。

「Q1でトップ2に入ってQ2へ勝ち上がっていく方が、FP3でトップテンに入ってQ2へダイレクトに進出するよりも難しいような気がするんですよ。予選は一発タイムだから何があるかわからないし、ちょっとのことで上位ふたつの枠を逃してしまうこともある。実力をしっかりと出していれば、うちのライダーたちはいつもトップテンにいられるはずなんです。それをときどき逃しちゃいましたよね。

ライダーとしてのアタックのしかたもあるとは思うんですが、スズキのバイクの特性と併せて、どうすればいちばんいいか、ということがぼんやりと見えてはいるものの、こうすればいい、という決定的な方程式がまだ見えているわけではありません」

―レースの勝負についていえば、リア用のライドハイトデバイスが入ったのは後半戦のレッドブルリンク(第10戦スティリアGP)からでした。

「今年の前半戦は、リアデバイスがマシンの競争力やパフォーマンスを左右する大きなファクターだったので、戦闘力に与える影響力は大きかったと思います。前半戦はそれが入っていなかったために苦しい戦いを強いられることもありました。それは事実です。ただ、それがついていることでマイナスになる場合もあるんですよ。ここではあえて詳しく言いませんけれども。それを念頭に入れると、もし、前半戦からリアデバイスがついていたとして、そのおかげですべてのレースが現実の結果よりもはたして良かったのかというと、必ずしもそうではないと思います」

#36

―コース特性やレイアウトなどにも左右される、ということですか?

「もちろん、それもあります。直線が長くてその手前のコーナーが小さくて立ち上がりでウィリーしやすい場合などは、たしかに効果が大きいですよね。ラップタイムもそうですが、レースは相手との競争なので、ストレートでたとえ前に出られてもコーナーで抜き返せばいいじゃん、というような単純なものではない。そういう意味では、ひとりで走っているとタイムは出るけれども、相手がいるとコーナーで自分のスピードを出せないので不利になるという、そういうコースもあったと思います。だから、コーナースピードが重要になるコースではうちのバイクのいいところを出しやすかったのですが、デバイスがつくとその分、重さが増えるわけじゃないですか。重量増加は、不利になるひとつの要因ではありますよね。デバイスがついていれば成績がよかった可能性はある反面、全部のレースで必ずしもそうではなったかもしれない、というのはそういうことです」

―重さは、かなり変わるものなんですか?

「メーカーによってかなり違うとは思うんですが、うちの場合は無視できないですね。もともと、バランス重視のバイクなので、そこにある一点で重さが加わると、そのバランスが崩れてしまうんですよ。モノをつける以上、その重さをなくすことはできないので、ついた状態でバランスを取り直す、という作業がレッドブルリンク以降は必要でしたね。だから、バイクのパッケージとして毎回アップデートされていたような状態です。ハッキリ言ってしまえば、そこがいま、我々が日々取り組んでいることでもあるし、来年に向けてさらにやらなきゃいけないことでもあるんです」

―アルガルベGPでアレックス・リンス選手の肩に搭載されたショルダーカメラを見ていると、左手回りの作業がすごく大変そうな印象がありました。

「見られちゃいましたね(笑)。でも、そう大変でもないですよ。もともとリアのデバイスは、スタートで使うために開発されたモノじゃないですか。うちはもともとフロントだけについていて、リアにもやらなきゃいけなくなった。デバイスがつく前でも、やらなきゃいけない作業は(マッピング変更の)スイッチがあったりしてまあまあ複雑なので、そういう意味では忙しいですけれども、今のところライダーがマネージできる範囲内です」

#42

―デバイスのバージョンは、どんどんアップデートされていくような状態だったんですか?

「他のメーカーに比べて採用が遅かった分、開発過程にあるといってもいいくらいなので、おそらくヤマハさんやドゥカティ、アプリリアなどが試行錯誤してきたことを遅れてやっている状況だったのだろうと思います。感触としては、いまはまずまずまとまってきたかなというところですね」

―デバイス操作は完全にマニュアルですか?

「メーカーによってはオートでやっているところもある、という話も聞くんですが、我々の場合は、いまあるものをまずは使いこなす。そして、ちゃんとした形にアップデートする。次のステップを踏むのは、それがすんでからの話ですね」

―2021年のTeam SUZUKI ECSTARは、ダビデ・ブリビオ氏がいなくなり合議制のマネージメントチームで運営を進めることになりました。雰囲気はどうでしたか?

「レースの進めかたそのものには、影響はなかったと思っています。それよりも、レースに付帯する業務、たとえばいいレース結果をマーケティングへ活用することだったり、スポンサーさんのケアだったり、そういった部分はダビデが能力として非常に長けていました。そこを私ひとりでカバーするのは無理だと思っていたので、チームのマーケティングメンバーがイニシアチブを持って、逆に私は皆のアドバイスを受けながら進めていったような状況でした」

―佐原さんはチームを運営していく関係上、今年はずっと現場にいたわけですが、開発を進める日本側との連携や影響はどうでしたか?

「良くも悪くも、ありましたよ。悪い影響は出さないように努力して、サーキットに私が毎回来る状況になる前に、開発部隊のリーダーを決めて日本側の補強作業は手配しておきました。そのおかげもあって、開発作業はそのリーダーを中心にやってもらい、私もそのリーダーに相談しながらコントロールをしていく状況でした。それでも、細かいところまで目が届かなかったのも事実で、気がついたら自分の思っていたところや現場が考えていたところと少しズレが出ていた、ということもないわけではなかったですね。それは悪い部分。

いい部分は、開発部隊と離れたことで、いままで見ることができなかったものを俯瞰して見ることができるようになった。その反面、こっちにずっといると、いままでなら俯瞰してチーム状況を見ていたのが、中に入ったことで見ることができなくなった。だから、良し悪しなんですよ。ダビデみたいな人がいると、レース現場を切り盛りしていることに対して、日本から俯瞰で見ている私がアドバイスする。また、日本のファクトリーを俯瞰で見ているダビデが、こうしてくれないか、こういうほうがいいんじゃないか、という意見を送ることができる。そこの部分が、ひとり抜けたことによるダメージはありましたね」

Team SUZUKI ECSTAR
Team SUZUKI ECSTAR

―では、開発等の作業には満足はできましたか?

「自分としては、10点中5点かな(苦笑)。もうちょっとできるかなと思ったんですけど、やり始めてみるとケアしなきゃいけないものが予想以上に多くて、量としてはオーバーフローしていたのが正直なところです。かといって、けっして回せていないわけではなくて、さっきいった合議制のメンバーがマネージメント業務も非常にうまくカバーしてくれているので、結果的にできてはいるんです。でも、『ホントはオレがそこをやらなきゃいけないんだよなあ……』というところも皆にやってもらっていたりするので、そういう意味でせいぜい5点かな、と」

―マネージメントに関しては、来年のチームマネージャーは?

「だいぶ固まりそうなところまで来ています。決定はしていないので、まだ何もいえないんですが、選択肢としてこれしかない、というところには来ています。それがまとまらなければ最悪、今年と同じ体勢で運営していくことになるでしょうね」

―ブリビオ氏に代替するような人物にマネージャーとして入ってもらう、ということですか?

「そうですね」

―発表はいつごろくらいになりそうですか。

「そうですね……、年内には発表したいと思っています」

―佐原さんは、できればサテライトを持ちたい、とずっと言ってきました。今後も検討は続けていくのですか?

「じつのところ、2022年からサテライトを持つのはタイミングとしていいチャンスだったんですよ。ちょうどインディペンデントチームのメーカー契約が更新するタイミングだったので、好機ではあったんです。が、会社としてそこはやらない、ということを決めたのも事実なので、次のチャンスがいつかはわかりませんが、今後もいろいろなチームと話をして準備は進めたいと思います。インディペンデントチームのメーカー契約の更新状況を考えると、おそらく2023年に我々がサテライトを持つ、というような直近の話にはならないと思いますが、そこはいろんなチームと話し合いながら準備を進めていきたいと考えています」

Team SUZUKI ECSTAR
Team SUZUKI ECSTAR

―2022年はヤマハ4台、ホンダが4台、KTMが4台、そしてドゥカティは8台になります。8台という勢力は、なかなかの圧力になるのでは?

「たしかにそれは圧力ですね。でも逆に、よくできるなとも思います。予算的にはなんとかなるのかもしれませんが、あんなにたくさんのサテライト勢の面倒を中央であるドゥカティファクトリーがよくマネージできるな、と感心します」

―2021年シーズンはドゥカティが強くて、この2年でKTMも実力をつけてきた印象があります。逆に日本のメーカーは、欧州企業と比べてパンデミックの影響などで負荷が大きくなった面はあるのでしょうか?

「欧州の企業もけっしてラクではないと思いますよ。欧州との比較はともかくとしても、我々の場合は、レース以外の部分でも会社が少なからずパンデミックの影響を受けています。会社の業績にダイレクトに影響しているので、その意味ではレースにかけることができるエネルギーは間接的に影響を受けてしまっているのかもしれません。もちろん直接的にも、エンジニアたちがときどき交代で現場へきて状況を見て、それを日本へ持ち帰って正確なアップデートをする、ということがいまは簡単にはできませんよね。

私自身、去年は最終戦のポルトガルだけだったんですよ、現場に来たのは。チャンピオンが決まったあとに来て、『確変がかかったみたいに成績がよかったから、きっとチームもいい感じになってんだろ!?』と思って実際に来てみたら、外からは見えないところで、ここを修正しなきゃならないなあ……、と改めて見えてくるものもありました。例年なら数戦に一回は来ていたのですが、新型コロナウイルス感染症の影響もあってなかなか来ることができなかったとはいえ、『失敗したなあ……』と痛感しました。もうちょっと来ていなければならなかった。ひょっとしたら、それが多少、チーム力という点で今年の成績に影響してしまった部分もあったのかもしれない。悪くなっているということではけっしてないんですが、去年のうちに改善していなければならかかったことができていなかった、ということです」

―とはいえ、2021年シーズンは、同じ日本企業であるヤマハがライダーズタイトルを獲得しました。ヤマハにあってスズキになかったものは何なのでしょうか?

「ん? リアデバイス(笑)。冗談はともかく、でもそれはたしかに大きいですよ。大きいファクターであることは認めます。あくまで〈たら・れば〉の話ですが、去年のうちに開発ができて今年の第1戦から持っていれば……、チャンピオン争いをできていたかどうかはともかく、もう少しいい戦いをできていたかもしれません。

あとは、アレックスの転倒が多かったですね。カタールでは表彰台に乗らなかったけど、いいところを走っていたんですよ。ポルトガルでもトップ争いの最中に転んだり、その後も怪我をしたり、といったことが続いた。そういったことがなくて毎戦しっかりゴールしていれば、いまごろダントツでポイントトップだぜ、という状況だったんですよ、とくに前半戦は。それが、転倒や怪我でチャンピオン争いから脱落してしまった感がありましたね」

#42
#42

―ミル選手はエミリアロマーニャGPのあと、1週間ほどバイクに乗らなかった、と言っていました。やはり今シーズンは相当プレッシャーがあったんでしょうか?

「うん、あったでしょうね」

―第17戦のポルティマオ(アルガルベGP)では、その部分がかなり吹っ切れたようにも見えました。

「ディフェンディングチャンピオンじゃなくてチャレンジャー、と最初に言いましたけれども、チャンピオンを意識し続けたらレースはできないと思います。意識しないようにしていたって、どうしてもある程度は意識してしまうものじゃないですか。

プレッシャー……というと少し違うけど、ひっかかるものや迷いがポルティマオのときはなかったですね。彼はもともと賢いライダーなので、その賢さをしっかりと出せればなにも心配することはないんです。たとえプレッシャーがあったとしても、レースをスタートした後にジョアンがオートバイの実力を出しながら、のびのびとレースをエンジョイしてくれれば自然と結果につながると思います。エンジョイしてほしい、というのはアレックスも同じなんですけどね。

去年までは、予選で失敗した場合でも、決勝で〈日曜のアレックス〉になればなんとか巻き返せていました。ウチはもともとスタートはいいんですよ、リアデバイスを使う前から。でも、その優位性はリアデバイスを使っているメーカーがうまくまとまってきたために、いままでならスタートで5台抜けていたのが同じようには抜けなくなってきた。巻き返しがいっそう難しくなっているので、予選がさらに重要になっているのが現状です。だから、初日からがんばろう、と皆で話をしています」

#36
#36

―来年は史上初の21戦になります。開発する側の負荷はどう変わりますか?

「開発する方としては、しんどいですよね。たくさんモノを作らなければならないわけですから。ただ、エンジンの制限台数は、まだ決まってないんです。レギュレーションでは、20戦までは7台、と明記されているだけで、それ以上のレース数については文言がなく、想定されてないんですよ。もうすぐGPコミッションで決まると思います。でも、7台でも回せますよ」

―あ、回せますか。

「何もなければね。万が一、1台使えなくなったりするようなことが何かあれば難しくなるかもしれませんけれども。自分自身の問題としては、レースが増えると日本にいる時間が減ることになるので、開発面などのマネージメントが大変になりますが、でもまあ、それはしようがないですね」

―最後に、バレンティーノ・ロッシ選手の引退について、同じパドックで過ごしてきた佐原さんはどう感じましたか?

「うちのバイクに一度乗ってほしかったな、と正直なところ思いますね。話を持ちかけると、きっと『うん』といってくれるだろう、という自信の裏返しとして言ってるんですけどね。プライベートで話をするときに、『乗ってみる?』と冗談で聞くと『乗りたいね~』と言ってくれるんですけどね。彼はトップライダーのリファレンス、誰もが目指すところですよね。我々も、彼が乗っていたホンダやヤマハに早く追いつきたいと考えて開発してきたことも過去にはあったので、バレンティーノがいなくなるのは、なにか大きな穴が開いてしまうような印象がありますね。私がMotoGPの現場に来たのは2004年だったんですが、そのシーズンって彼がヤマハに移籍した年ですよ。それで、いきなり勝っちゃったんですからね。すごいライダーですよ」

Team SUZUKI ECSTAR
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【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と最新刊「MotoGP 最速ライダーの肖像」は絶賛発売中!


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2021/11/24掲載