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試乗・解説

カブであってカブに非ず プレミアム原付二種アドベンチャー Honda CT125 HUNTERCUB
アウトドアテイストのクロスカブが登場してから、多くの人が「さらにもう一歩先を!」と待ち望んだ「ハンターカブ」ブランド。プレミアムカブ、C125がラインナップされたおかげで、そこからの派生としてとうとう復活、そしてカブとしては強気な値段設定にもかかわらず即大人気に! ハンターカブのブランドってそんなに強かったんだ!?
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:折原弘之 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/




失礼だが、予想外だった

 とても洗練され、かつてのCT110ハンターカブとはずいぶん違った都会的な印象で登場した新CT125・ハンターカブ。素直にカッコイイと思ったし、クロスカブが出た時からアップマフラーの「ハンター」への憧れは世の中にあったように思うため、まさに「待望の」デビューだった。しかし、初めて実車を見た時、これはなんというか、SUV的な印象を受けたのだった。本気でオフロードを楽しんだり、冒険に出かけて道なき道を突き進むというよりは、オフロードテイストを高級に演出したものというか……。スズキのジムニーではなくポルシェのカイエン……といっては極端だろうし、カイエンだってオフロードをある程度走るだろうからイメージで決めつけてはいけないが、ハンターカブ125は「道具感」より「高級感」が先行し、しかもカブで44万円という価格設定もその感覚を後押しした。

「売れるかなぁ」「世の中が求めていたハンターはコレなのかなぁ」と当初はちょっとした疑問も持ったのだったが、そんな心配はよそに大人気モデルになり今や買いたくても買えないほど(コロナのこともあるが)在庫がない車両になった。まさかここまでヒットするとは……! 失礼しました。
 

 

「カブ」ではなく「C」の系譜

 ことあるごとにハンターカブを「カブ」と呼んでしまうが、実際にはいわゆる郵便屋さんや新聞屋さん、もしくは地方の生活の大切な移動手段として活躍する、実用車としての「カブ」の印象とはかなり違う。全体的な高級感はもちろんのことだが、前後ディスクブレーキや凝った作りのスイングアームとチェーン引き周り、チェーンカバーの無い設定、サスペンションやシートにはシャキッとした剛性感があり実用車というよりは趣味の乗り物感が、見ただけ、跨っただけで感じられる。

 事実ハンターカブにはどこにも「CUB」と書いていないのだ。クロスカブは前後ドラムブレーキやチェーンカバー、無骨な角鉄のスイングアームといった装備に加えヘルメットホルダーを備えることや、非常にシンプルなアナログメーターとするなど各種設定が実用車感を引き継ぎ、それゆえかシートの下の所にしっかりと「CROSS CUB」と書いてある。
 ハンターカブは現在のカブシリーズの延長線上というよりは、かつてのカモメカブを模した令和の高級カブ「C125」の仲間であり、カブというよりはカブの上級ブランド、「C」の系譜だと捉えたい。クロスカブの方の原稿にも書いたが( https://mr-bike.jp/mb/archives/24642 )、クロスカブはN-VAN、ハンターカブはN-BOXというイメージ……なのだが、実際にハンターカブに乗ると軽自動車に例えるのも何だか違和感があるほどで、トヨタに対するレクサス……でいいのかなあ??
 

ひと回り大きいが、気にならない

 実際に触れて走り出すと、クロスカブ比ではもちろん、スタンダードなスーパーカブ110などと比べると完全にひと回り大きく、やはり日々のアシとしてというよりはハレの日のバイクという印象。天気の良い休日に「よし乗るぞっ!」と趣味的・イベント的に乗る印象が強い。シートやサスが実用車のそれではなく、シャキッとスポーツバイク的であるためダイレクト感が高く、それゆえに腰かけて体重を乗せた時の着座位置は高め、アイポイントも高くなり見晴らしがよい。

 実重量はクロスカブに対して14kg、スタンダードのスーパーカブに対して21kg重いため、押し引きの時にはそれを感じることがある。また堅牢なキャリアやアップマフラーなど重量物が高い位置にあるため、重心位置の関係でそう感じる部分もあるかもしれない。しかし走り出せば数値上は大きく感じる重量差も体感的には特に気になることはなく、またより大きな排気量のバイクから比べればあくまで「カブの範疇」であり取り回しに苦労することはないだろう。
 

 

125ccらしいパワフルエンジンはトルク型

 エンジンもC125、さらにはモンキーやグロムの系列の125ccユニット。110cc版よりも明らかにトルクフルで、クラッチが繋がってすぐの領域からグイグイと加速する。ピックアップも鋭く、低速Uターン時などは遠心クラッチの繋がり感が(クロスカブに比べると)いくらか唐突に感じてしまうほどで、この元気さならマニュアルクラッチがあっても良いかも? と思うこともあった。各ギアで引っ張っていくとトルクに載せた加速が気持ちよく、車重が増えた分を帳消しにして余りある動力性能を感じさせてくれる。
 その加速感はトルクに載せたもので瞬発力が高く、これは特に不整地などをアクティブに楽しませてくれる特性に感じる。ただ高回転域の伸び切り感は110ユニットの方がストレス少ないかもしれない。エイプが100ccで出た時に、125ccとするよりも高回転域が回り込んでいく感覚が楽しめるから100ccに設定した、という話があったが、ハンターカブについても同じ印象。排気量が増えた分、充実したのは常用するトルク領域であり、高回転を使うよりも、この領域でトルクフルな走りを楽しむのが良いだろう。
 

 
 また演出の部分もあるだろうが、110に比べるとアップマフラーということもあり排気音が耳に届きやすく、歯切れの良い排気音をライダーが楽しみやすい設定。エンジンの鼓動感、振動もライダーに程よく届き、ここでもあくまで脇役に徹するビジネス車というよりは、積極的に対話を楽しむ趣味の乗り物というイメージ。もっともそれは演出によるものなのか、シンプルに排気量増大による副産物なのかは断定できないが。

 いずれにせよ125ccユニットは110cc版とはかなり印象が違い、もちろん動力性能も違う。特に登り坂など負荷がかかる場面では110だとシフトダウンしたくなることが多いが、125はアクセルを開け増せば事足りることが多かったし、使えるトルクバンドが広いため、各ギアが受け持てる速度域に余裕があるように思えた。これは走りの部分で余裕や楽しみに繋がるということもあるが、特に重積載時やタンデム時にありがたく感じそうだ。
 

 

軽快なハンドリングはスポーツもOK

 ハンドリングに違和感はなく、とっつきやすさはカブらしいというか、特に何を気にすることもなく走り出せるもの。そしてコーナリングを楽しむような場面になると、かなり軽快な動きにも気づく。最初は軽快すぎると感じるほどスイッとコーナーに倒れ込んでいくのだが、いったんバンク角がついた状態からは逆に安定していて、フロント周りが軽すぎて不安があるといったようなことはない。路面が良ければブロックタイヤでもステップを擦るようなバンク角が可能で、懐の深さを感じさせてくれる。

 クロスカブと大きく違うのはフロントフォークの剛性感とディスクブレーキの設定。フロントフォークはステムの上部にも三ツ又が存在し、しっかりとステム上下で長いフォークを保持するのは一般的なスポーツバイクと同様。スクーターのように下部のみで保持するクロスカブでも不満はなかったのだが、しかしハンターカブはやはりしっかり感のようなものが高く、特に不整地に突っ込んでいくような場面では心強く感じることができた。
 

 
 そしてディスクブレーキだが、そもそも果たして必要なのか、そしてニーグリップができないカブという特性上、ディスクを活かせるようなハードブレーキングができるのか、という懸念を吹き飛ばす出来に嬉しくなってしまった。リアまでディスクというのはC125もリアはドラムのため国内カブで唯一。「そこまでして!?」と以前に開発者に聞いたら、海外にはリアにもディスクを備えるカブ系モデルが存在するらしく、そのノウハウを持ってきたという。
 このディスクが絶対的制動力の高さはもちろん、とてもコントローラブルで好印象。ABSが備わるのはフロントだけなのだが、ABSが作動する直前まで前輪の感覚が手に取るように分かり、またリアにはABSがないにもかかわらず、ロックさせることはとても稀。非常に良くバランスされていると感じた。なおカブのシート・ハンドル・ステップ位置の絶妙さのおかげで、ニーグリップができなくともソコソコのハードブレーキングを活用することもできたのだった。
 

 

買いたくても買えないのがジレンマ

 結論としては結局最初に戻るだろう。かつてのハンターカブと呼ばれていたCT110のように実用重視の荒野のモビリティや郵便屋さんのためのプレス仕様的扱いではなく、やはりこの新ハンターカブはN-BOXでありカイエンでありレクサスであるように思う。ビジネスバイクの枠を完全に飛び出した、様々な場面で遊べて、所有欲を満たし、とっておきの趣味時間を充実させてくれるプレミアムマシンである。

 メインの大型バイクを持っているけれど、なかなか乗る機会がないだとか、もしくはそのサイズ感・パワー感が億劫になってきたといったニーズにハンターカブは魅力的なセカンドバイクとしてピッタリ応えてくれそうだし、逆にバイクという趣味に時間をあまり割くことができない、もしくは維持費などあまり無理のないコストの範疇でバイク趣味を楽しみたいという人にはファーストバイクとしても様々な可能性を広げてくれるだろう。この高級感と作り込みだったら、「カブ」として捉えるのではなく優秀な趣味原付二種として見ることができ、44万円という価格も納得できるのではないかと思う。
 惜しむらくは現在、大人気に対して生産や流通が追いついておらず、思い立った時に買うことができないこと。じっくりと検討し、気持ちを温めておくしかあるまい。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

C125やモンキー、グロムと基本を同じとするエンジンだが、C125が高級感やスムーズさを求めて各部セットアップしているのに対して、ハンターカブはエンジンの荒々しさをそのまま表現したような味付け。トルクフルな設定は登坂も得意。

 

カブ伝統の17インチホイールだが、C125同様にディスクブレーキを装着。ABS付で安心。無骨な鉄製フェンダーとフォークブーツなどでオフテイスト満載。

 

リアもディスクブレーキを備えるのは国内カブ系では唯一。サスペンションの設定は荷物の積載を前提にしているためかシャキッとしたもの。プリロード調整機能は無し。

 

アップタイプのマフラーもまたハンターカブのアイコン。車体の重心も上がるため操作性にも個性を与えているだろうし、排気口が耳に近いことで排気音が聞こえやすいとも感じる。タンデムの際にはタンデムライダーがガニ股になること、また熱くなるマフラーエンドに気を付ける必要があるが、逆にアップのおかげでホイールの着脱などリア周りの整備はしやすいだろう。
アップマフラーに合わせるように、吸気口もキャリア下へと伸びてある程度の浸水を許容する設定。あるテスターによると、「吸排気口さえ水に入らなければ普通に走り続けるよ」とのことだが、この高級車をその水深まで入れたいかどうかは……。

 

ロータリー式ミッションをシーソーペダルで操作するのは通常のカブと同様。前側は掻き上げて使うこともできるようゴムが全周巻かれているが、実際にかき上げて使うとシフトパターンを混乱してしまうことが多かった。
通常のカブ及びクロスカブはフルカバードのチェーンケースを持っているが、ハンターカブはチェーンが露出している一般的なバイクと同様の設定。作り込まれたスイングアームや美しいチェーン引きなどが良く見えて嬉しいが、耐久性や安全性ではフルカバードに譲るか。

 

フロントフォークがトップブリッヂまで突き抜けている、かつての郵政MD仕様と同じ設定。クロスカブではフレームマウントだったヘッドライトはハンドルマウントの大型のものに。

 

モンキーのものとよく似たデジタルメーターはシンプルで使いやすいが、せっかくデジタルになったのならギアポジションや時計の表示も欲しかったトコロ。
灯火類は全てLEDだが、特にスクエアなウインカーなどはかつてのハンターカブをオマージュしたもので、そういった作り込みにグッとくる。

 

中のスポンジが硬めなのか、表皮が硬めなのか、割にしっかりと体重をホールドしてくれる印象のシート。車体からダイレクト感が伝わってくるのはカブ的ではなくスポーツバイク的で、着座位置も高く感じる。筆者のように長身だと後ろの方に座ってしまい、尾てい骨をキャリアにぶつけることがあるため注意。シート下は燃料タンクで、車体側面の鍵穴で開けるロック式。ヘルメットもこのシートに挟み込んでロックできる。

 

超堅牢な大型キャリアはハンターカブのアイデンティティー。完全にオーバークオリティだろうがそこがピックアップトラック的で良い。タンデムするには少し幅が広すぎるか。

 

●CT125・ハンターカブ 主要諸元
■型式:2BJ-JA55■全長×全幅×全高:1,960×805×1,085mm■ホイールベース:1,255mm■最低地上高:165mm■シート高:800mm■車両重量:120kg■燃料消費率:61.0 km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時)67.2 km/L(WMTCモード値 クラス1 1名乗車時)■最小回転半径:1.9m■エンジン種類:空冷4ストロークOHC単気筒■総排気量:124cm3■ボア×ストローク:52.4×57.9mm■圧縮比:9.3■最高出力:6.5 kW(8.8 PS)/7,000rpm■最大トルク:11 N・m(1.1 kgf・m)/4,500 rpm■燃料供給装置:電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)■始動方式:セルフ式(キック式併設)■点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火■燃料タンク容量:5.3 L■変速機形式:常時噛合式4段リターン■タイヤ(前/後):80/90-17M/C 44P/80/90-17M/C 44P■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク■懸架方式(前/後):テレスコピック式/スイングアーム式■フレーム形式:バックボーン■車体色:グローイングレッド、マットフレスコブラウン■メーカー希望小売価格(消費税込み):440,000円

 



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2021/10/06掲載