なんと言ってもスタイリングでしょう!
ハンターカブの魅力は数々あるが、高級感ではC125があり、オフロードテイストではクロスカブ110もあるという厚いカブ選手層の中でハンターカブの一番の魅力は性能云々ではなく、素直に「カッコ良いな」「楽しそうだな」と直感的に思わせるそのスタイリングではないだろうか。
これまで国内でも時たま見かけることがあったCT110、オーストラリアでは郵便屋さんが使っていることで有名なあのバイクは、どこかギア感が高く、実際のオフロード性能がどうとか関係なく、ツール的カッコ良さがあった。それがなんとなく頭に残って、カブ系新機種が出る度に「なんでアレを出さないんだろうか」と思ってた人が多いはず。
そんな希望が多いことを知っていたホンダは、社内外の「ハンターカブにうるさいオジサンたち」の意見を細かく聞き取りながら妥協なく新型CT125ハンターカブを練り上げ、こうして登場させたのだ。
「待ってました!」の人は多いだろう。ベースはC125と共通するも、圧倒的に堅牢なイメージ、どこにでも出かけていけそうな各種装備、歴史を感じさせるスタイリングと先代リスペクトの各部品の作り込みに、良くやってくれた! と誰もが納得するはずだ。
カブ系なのである。性能はもう、言わずもがな。よって誤解を招きそうではあるが第一に「CT125ハンターカブの最大の魅力は、見た目だ!」と書いておこう。
絶妙なサイズ感
新しいモンキーが旧モンキーに比べるとかなり大柄で、旧いモンキーに思い入れの大きい人が「アレはちょっと違うんじゃないか」と言っているのがたまに耳に入る。しかし現代の交通事情や125ccゆえのパワーなどを考えるとアレは正解に思う。筆者はエイプ100を通勤に使っていた時に、特に幹線道路では見落とされることも多かったため、ある程度の車格は安全性にも繋がると実感している。
CT125も車格がちょっと大きいと感じる人が多いと思う。またがるとカブとしてはかなり大柄、なんなら小柄な250ccクラスと言われても「そうかな」と思えてしまうほどだ。ただそれが逆に良いと感じた部分。特に身体が大きい人にとってはこの車格が安心感や余裕に繋がることだろう。筆者も長身だが、ハンドルを左右に目いっぱい切っても膝に当たらないというのはとても嬉しかった部分。
シート高もそれなりに高くしかもシートが硬めのため足着きは他のカブに譲る部分もあるだろうが、しかしそのおかげでオフ車感が確かにあり、乗り味の演出に一役買っている。
125ccのエンジンは絶対パワーがそんなに高いわけではないものの、カブとしてはかなりパワフルに感じられる。だからこそ不整地も含めて様々な所に出かけていきたくなるハンターカブにおいては、こうしたある程度の車格があることが大切に思うし、そのフィット感やバランスはとても高いと感じることができた。
トコトコ走るトルクフルエンジン
110シリーズのカブも魅力は多いが、どうせならピンクナンバーいっぱいの125ccで良いじゃないかと思うのが人情というもの。ハンターカブに搭載されるのはC125はもちろん、モンキーやグロムにも使われてきた125ccユニットで、110シリーズに比べると豊かなトルクが魅力だろう。特にハンターカブについてはC125のようにスタイリッシュに都市部を流すというよりは、発進停止を繰り返しながら散策するという使用用途が増えるだろうから、ますますこのトルクフルな感覚が車体の意図に合っているように感じた。
カブシリーズらしく遠心クラッチのため、慣れないうちはアクセル開け始めに予想外に元気よく飛び出していく感覚があるほど活発で、このトルクは大幅にショートに振られたファイナルと合わせてハンターカブの大きな魅力になっていると感じる。
ミッションはロータリー式の4速。4速まで入れて停止すれば、もう一つ踏み込むことでニュートラルに戻れるという伝統のアレである。C125からの全体的なローギア化によりスタタンッと出る感じはかなり強まっているが、一方で4速はクルージングに適したような設定で低速での淡々走りも十分こなす。3速で引っ張り切ったら4速はもう、燃費走行のためのオーバードライブ的な感覚だ。この4速で景色を見ながらポコポコと走るのは、何だか普通のカブとは違ったハンターワールドがあるように思えた。
ただ、完成度が高いがゆえに「ここまでくるとクラッチが欲しいな」なんていう、ある意味本末転倒なことも頭をよぎった。トルクがあって、オフロードもある程度走れて、となると、自動遠心クラッチよりもマニュアルクラッチでライダーが積極的に駆動伝達をコントロールしたいと感じる場面も出てきてしまったのだ。「それじゃあカブじゃないじゃないか」と言われれば返す言葉はないのだが、それだけ完成度が高く、「もっと楽しんでやりたいな」と思ったというわけである。さらに言ってしまえば、これだけ車体もしっかりしちゃうと250cc版もあっても良いのでは? なんてさらに思考・欲望が暴走を始めてしまったのだった。
フロント周りはやっぱり最高
ハンターカブと一般的なカブの違いはなんといってもフロント周りの剛性感や前後ディスクブレーキの採用だろう。
かつてのカブはボトムリンク式のフォークで、それがテレスコピックに変わったのはわりと最近の話。しかしそのテレスコフォークも、スクーターのようにミツマタ下部にクランプされている設計で、トップブリッヂまで貫通した長いフォークを備えるのはこのハンターカブのみ。当然ながら高い剛性感が得られ、これにより効力の高いディスクブレーキも成り立ち、そしてもろもろバランスさせるためにフレームも補強されている。この効果は絶大で、強いブレーキングから安定したコーナリングができるのはもはやこれまでのカブの感覚ではない。かなり積極的にグイグイとスポーティな走りを楽しめてしまい、これも先述したクラッチが欲しいとか軽二輪版があっても良いんじゃないかなどの想いを起こさせていると思う。
国内発売のカブシリーズとしては初の前後ディスクブレーキも大変に印象が良かった。フロントはとても良く効き、そして剛性の高いフロント周りのおかげでそれを最大限使うことができる。フロントについてはABSも備え、これが不整地でもとても扱いやすい設定となっておりABSが介入する違和感のようなものは皆無。リアにはABSが備わっていないのだが、しかしリアブレーキはとてもコントローラブルでロックしにくく、これまたとても扱いやすかった。Uターンなど極低速で遠心クラッチの繋がり感をうまくぼやかすためにリアブレーキを引きずるということがあるが、こういった微妙な操作も得意で、リアブレーキの設定はかなり作り込まれていると感じる。
実用性と快適性
このスタイリングと装備、44万円というプライスなど、ハンターカブはカブの中でもプレミアムなのは間違いない。とはいえ、カブである以上日々のユースにも妥協があってはいけない。実用面もちゃんと考慮されているのである。
まずはシートに挟み込む形のヘルメットホルダーがあったのも嬉しい。タンク容量が5.3Lあるのも嬉しい。渋滞路のアイドリングストップにも、とっさの時にもすぐにエンジンを切るためにもキルスイッチの装備は嬉しかった。足着きは多少犠牲になるかもしれないが幅広のシートも快適で、またニーグリップできないがためシート表皮の滑らなさも重要で、ここも良い印象。ハンドルがラバーマウントされていて125ccの振動がやわらげられているのも良いポイントに思った。
逆に惜しいと感じたのは、メーターを基本的にモンキーと同じものを採用したことで、C125にはあったギアポジションと時計の表示がなかったこと。時計は特に通勤などで使う際には便利だし、ギアポジションはロータリーミッションだからこそ、特にオフロードなどで不意にニュートラルに戻してしまうのを防ぐためにも欲しかった装備に思う。またサイドスタンドの先端面積が少ないため、不整地では埋まっていってしまうことも。これはアフターパーツで対応できそうではあるが。
もう一つは重量だろうか。クロスカブ比ではけっこうな重量増ではあるが、これが普通に走っている分には全く気にならず、オンロードの場面では特にいつでも軽快で、重量は車格の大きさと良くバランスされていると感じた。
ただオフロード(と言っても砂利ダートなどは平気。ヌチャ路の話ではあるが)においては尻の下あたりに重量を感じることがあり、リアが大きくスライドした時などにはズシリと感じる場面も無くはなかった。しかしこれはハンターカブのアイデンティティでもある超堅牢なキャリアや、インナーフェンダーを備えるまでして高級感を追求したリアフェンダーなどといった装備とトレードオフだろう。オフロードはあくまで「トコトコ」想定であることを忘れず、ヘンに本格オフロード性能を追求するなどお門違いなことをしなければ、重量が気になるということはないはずだ。
ちょっと違うが、なんとなくセロー!?
ヤマハのセローは本格オフロードではなく二足二輪のトレッキングを謳っていたが、今回の試乗を終えてハンターカブにもどこか共通するようなイメージというか、コンセプトがあるように思えた。あちらはよりオフロードに寄っていはいるが、「道を選ばず、誰にでも、環境負荷も少なく」楽しみやすいといった意味で、結果的に購買層が求めているものは近い気がする。ただハンターカブはオフロード性能の代わりに更なる実用性や日常ユース性、アクセスのしやすさを持っているということである。
また胸を張ってファーストバイクになり得るという意味でもセローに共通する気がした。小排気量はセカンドバイク的にみられることも少なくないが、ハンターカブならばセローのように堂々とファーストバイクとしてプライドを持てそうである。
日々の通勤や移動などに使うことはもちろん、週末には趣味ユースとして満喫でき、かつバイク好きやそうでない人とも輪が広がりそうなコミュニケーションツールとしても、CT125ハンターカブは大活躍しそうである。
(試乗・文:ノア セレン)
■型式:2BJ-JA55■全長×全幅×全高:1,960×805×1,085mm■ホイールベース:1,255mm■最低地上高:165mm■シート高:800mm■車両重量:120kg■燃料消費率:61.0 km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時)67.2 km/L(WMTCモード値 クラス1 1名乗車時)■最小回転半径:1.9m■エンジン種類:空冷4ストロークOHC単気筒■総排気量:124cm3■ボア×ストローク:52.4×57.9mm■圧縮比:9.3■最高出力:6.5 kw(8.8 PS)/7,000rpm■最大トルク:11 N・m(1.1 kgf・m)/4,500 rpm■燃料供給装置:電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)■始動方式:セルフ式(キック式併設)■点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火■燃料タンク容量:5.3 L■変速機形式:常時噛合式4段リターン■タイヤ(前/後):80/90-17M/C 44P/80/90-17M/C 44P■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク■懸架方式(前/後):テレスコピック式/スイングアーム式■フレーム形式:バックボーン■車体色:グローイングレッド、マットフレスコブラウン■メーカー希望小売価格(消費税込み):440,000円