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試乗・解説

BMW R18Bがクルーザーカテゴリーに 新風を送り込む
2021年9月末より国内での販売がスタートする予定のBMW Motorradの新型車「R18B」と「R18Transcontinental」。この新型車は8月に発表されたばかりだが、早々に日本市場に導入される。2020年4月に「R18」を、2021年3月に「R18Classic」を発表。クラシック路線で推し進めてきたR18シリーズに、モダンでラグジュアリーな装備とスタイルを持ち込んだ「R18B」と「R18Transcontinental」は、BMW Motorradのクルーザーカテゴリーを補完するとともに、世界中のクルーザーマーケットを刺激するだろう。その発売に先駆けてドイツ・フランクフルトで開催された「R18B」の国際試乗会に参加した。ここでは、そこの試乗会で感じた、この新しいクルーザーモデルの感想などを紹介する。
■試乗・文:河野正士 ■写真:BMW Motorrad ■協力:BMW Motorrad Japan BMWのWEBサイトへ






 完璧なシナリオ。「R18B」と「R18Transcontinental(以下TC)」の発表のニュースを受け取ったとき、そう感じた。クルーザーカテゴリーに最初にアプローチした「R18」では、自社の歴史的モデルのフレームシルエットを現在の技術をもって再現したり、往年のモデル同様にニッケルメッキを施したドライブシャフトをむき出しで装着したり、OHV用プッシュロッドカバーをシリンダー上部に配置するという旧タイプのフラットツイン・エアヘッドエンジンの手法を再現した新規エンジン/ビッグボクサーエンジンを開発したりと、薄まりつつあったBMW Motorrad(以下BMW)のルーツを強烈にアピール。「R18Classic」も、その路線だった。
 

今回試乗したのは、ダブルピンストライプを採用した外装やクロームメッキパーツ、コンストラクトカットを施したホイールを採用した「R18B ファーストエディション」。フロントフォークにマウントした大型カウルに加え、容量を24リットルに増やした燃料タンクによってボリュームを増したフロント周りと、シンプルなリアのフェンダーラインとサイドケースへと繋がる美しいストリームラインを形成する。

 
 しかし「R18B」と「R18TC」は、それらとは違う。大型カウルに大型ケース、それに豪華な装飾を採用した長距離走行仕様のアメリカン・クルーザーモデルや、それをベースに装飾を廃し、ツーリング性能は維持したまま若々しいスタイルを造り上げた、“バガー”と呼ばれるカスタムスタイルのクルーザーは、アメリカを中心に大きな市場規模を誇るクルーザーカテゴリーの中心的存在だ。「R18B」と「R18TC」はそこに勝負をかけてきた。もちろん、これまで以上に売らなければならないモデルだ。R18で地固めをした後に「R18B」と「R18TC」で利を取りに来る。これがBMWが書いたシナリオだと感じたのである。
 

「R18B」とともに発表した「R18Transcontinental」。背の高いウインドスクリーンやカウル両サイドに配置した折りたたみ式ウィンドディフレクターやエンジンガード、トップケースなどの豪華な装備をさらに充実。長距離走行における快適性を高めている。

 
 BMWは、このシーンを徹底的に研究してきている。それと同時に、このシーンのなかでBMWとして、どのような価値を提供できるかも議論し尽くしている。そしてBMW的手法でクルーザーカテゴリーに挑んだのではなく、クルーザーカテゴリーの作法にのっとりBMW的解釈を加えたのが「R18B」と「R18TC」なのである。

 近年、BMWはその手法で成功を収めている。S1000RRやR nineTがそれだ。それらはデビュー当初、BMWらしくないと非難も受けたが、スーパースポーツやカスタムバイクカルチャーといった、それまでのBMWのブランドイメージには存在しなかった新しいカテゴリーに、そこでの作法にのっとりながらも、最終的にはBMWらしいフィロソフィーとクオリティで、セールス的にもブランディング的にも、確固たる地位を造り上げてきた。

 そして今回は「R18B」と「R18TC」。この2台でシェアを奪い取るんだと決意し、そして奪い取れるという確信を得られたからこそ、クルーザーカテゴリーに参入したのではないか、と考える。だからこそ「R18B」と「R18TC」には、彼らが得意とする最新の電子制御技術を搭載したのだ、と。
 

OPTION719のオプションカラー/ギャラクシー・ダスト・メタリック・チタン・シルバー2・メタリック。光に応じてパープルからブルーへと色が変化。カラーのつなぎ目にはグラデーションとなるぼかし塗装を加えている。

 
 今回試乗した「R18B」には、加速や減速をしながら前車との距離を自動的に維持するACC(アクティブ・クルーズコントロール)が装備されている。これは新型R1250RTに次いで、BMWのモデルラインナップでは2番目の採用だ。またコーナリングライトを含めたLEDヘッドライトテクノロジーや、前後ブレーキを連動させ最適なブレーキバランスを造り上げるインテグラルABS、後輪のスリップを感知してグリップをコントロールするASC(オートマチック・スタビリティ・コントロール)、急激なスロットル操作やシフトダウンの際に発生しやすいリアホイールのスリップを軽減するMSR(エンジンドラッグトルクコントロール)、ライダーとパッセンジャー、それに搭載する荷物の重さに応じて車体姿勢を一定に保つオートレベリング・リアサスペンションなどなど多数を搭載。BMWのラインナップにすでに搭載され実績を上げているシステムばかりだ。
 

 
 このような電子制御デバイスをクルーザーモデルに搭載する理由を、空冷ボクサーシリーズを統括するチームのボスであるセップ・ミリッチ氏に尋ねると「クルーザーカテゴリーのなかでも、R18BやR18TCのように、フロントフォークマウントのカウルを持つモデルは、どちらかといえばクラシック側にカテゴライズされる。だからこれでも、電子制御デバイスの搭載は最小限にとどめた。しかしACCなどの先進の運転支援システムは、カテゴリーを問わず、安全性や快適性を高めるのに欠かせない技術だ。採用するメリットは大いにある」と語った。

 今回驚いたのは、ACCの可能性が、高速道路以外でも感じられたこと。アクセルONによる加速やクラッチ操作をともなうシフトアップに加え、シフトダウンしてもシステムはアクティブのまま。道路環境と設定速度、さらには走行環境によって変化する3種類で車間距離など、その特性とバランスを使い慣れれば、信号の少ない幹線道路やワインディングでも使用でき、システムとライダー自身の、ダブルチェック状態で安全を確認しながらの走行が可能だと感じた。
 

バンク角こそ少ないものの、コーナリングは軽快で、ワインディングを走るのが非常に楽しい。フロント周りの反応は自然で軽い。その反応はじつにBMWらしく、開発陣もそのフィーリングを追求したという。

 
 あと、もうひとつ言っておきたいのは、「R18B」はただゆったりと流して走るだけの、“アガリ”のバイクではないということだ。BMWが持つエクスクルーシブなブランドイメージと、クルーザーというカテゴリーが持つ“ただ真っ直ぐ走るだけ”的なイメージから「R18B」を判断してしまいがちだが、それは大間違いだ。

「R18B」は、見た目とは裏腹に、とても軽快だ。高速道路でのレーンチェンジもライダーの入力に遅れることなく反応するし、ワインディングでは滑らかで低回転域から強力なトルクを発生するビッグボクサーエンジンの特性を活かし、アクセル操作で巨体をヒラヒラと切り返しながらコーナーをクリアすることができる。その大型のフロントカウルはフロントフォークにマウントされているが、取り回しの軽さと、低速走行時に切れ込み過ぎない自然なハンドル操作、また軽快なハンドリングと高速域での直進安定性を造り上げているのだ。
 それを実現しているのは、フレームの強化とフロント周りのアライメントの変更だ。R18シリーズは、フレームの基本骨格を共有しているが、「R18B」と「R18TC」は大型カウルとサイドケース(TCはトップケースも)の装着と、そこに積載する荷物の重量を支えるため、フレーム上部のバックボーン部分を一新。R18の鋼管材から、より剛性の高い板金成型材に変更。ステアリングヘッドアングルを立て、なおかつ前方に延ばしている。そのステアリングヘッドに対し、車体後方位置にフロントフォークをセットする“ネガティブオフセット”も採用。キャスター角を立てながらトレールを延ばし、軽快なハンドリングと高い直進安定性を両立している。BMWとしてネガティブオフセットを採用したのは初めてとのことだが、そのバランスは非常に高かった。
 

このように車体が少しだけ傾いた、このあたりの反応が軽く、ライダーの入力に対するレスポンスも非常に良い。しかし高速道路など高い速度域での直進安定性は高く、ライダーを疲れさせない。

 
 開発者たちに話を聞けば、この「R18B」「R18TC」の市場投入によって、ゼロから起ち上げたR18シリーズの第1フェーズが終了したという。すでに市場に投入された「R18」「R18Classic」は発売から約1年で4000台以上を販売し、とくにアメリカ、ドイツ、中国で好調なセールスを記録しているという。そして今後は、「R18B」「R18TC」を含めた市場の反応や要望を注視するという。私自身は、この「R18B」のBMWフレーバーのバガーを大いに気に入ったが、市場でどのような評価を受けるのかとても楽しみである。
 

 

サイドスタンドから車両を起こすときは重さを感じるが、低重心なフラットツインエンジンのおかげで数字ほどの重さは感じない。また着座時に両足のカカトをしっかりと路面に着けることができ、ステップに足を乗せると(日本仕様はステップボードを採用)、膝は直角よりもやや緩やかになる。サイドスタンドはロック機構付 (ライダーは身長170cm/体重70kg)。

 

デイタイム・ライディングライトやコーナーリングライトを装備するLEDヘッドライトシステムを採用。その上に見えるのはACC用のレーダーセンサー。

 

クラシカルなアナログ表示の4連メーターを採用。左から燃料計/スピード計/エンジン回転計/パワーリザーブメーターとなる。中央には10.25インチのカラーTFTディスプレイを装備。

 

前後ホイールはアルミキャスト製に変更。ファーストエディションでは、リムやスポークの一部を切削加工した「コントラストカット」を採用している。
ACCの起動スイッチのほか、ACCの速度/車間調整もこの左スイッチボックスで行う。またBMWの各モデルが採用する、グリップ根元のマルチコントローラーで各種の設定を行う。

 

R18シリーズ共通のビッグボクサーエンジン。ROCK/ROLL/RAINの3つライディングモードと、それぞれの出力特性はシリーズ共通だ。

 

燃料タンク上に配置したスマートフォン専用のコンパートメント。充電ケーブルに加え、音楽再生など収納中も稼働しているスマホ本体を冷却するためのファンも装備している。
日本仕様は高さ720mmのシートヒーター付きスタンダードシートを標準装備。オプションで高さは同じながら表皮を変更したカスタムシート、高さ740mmのハイシートもラインナップ。

 

リアフェンダーとラインを合わせてデザインされた大型のサイドケース。左右それぞれ、容量は27リットル。内装をデザインし、防水性を高めるための設計が施されている。
リアフェンダーとサイドケースのラインがよく分かる。その流麗なラインとは対照的に、サイレンサーは地面と平行に、真っ直ぐに車体後方に伸びる。

 

BMW R18B 主要諸元
■エンジン種類:空油冷4ストローク水平対向2気筒OHV ■総排気量:1,801cm3 ■ボア×ストローク:107.1×100mm ■圧縮比:9.6 ■最高出力:67kW(91PS)/4, 750rpm ■最大トルク:158N・m/3,000rpm ■全長×全幅×全高:2,560×970×1,400mm ■軸距離:1,695mm ■シート高:720mm ■車両重量:398kg ■燃料タンク容量:約24L(リザーブ容量:約4L) ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):120/70 R19・180/65 B16 ■ブレーキ(前/後):デュアルディスク・300mm/シングルディスク・300mm ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):3,418,500円~


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2021/09/29掲載