写真で見て感じていたスケール感とはまるで違う。特にBMWとしては過去最大の排気量となる1802ccの空冷水平対向2気筒OHVエンジンはすごい迫力だ。見慣れているRシリーズの1.5倍はある。排気量が1.5倍くらい大きいのだから当たり前といえば当たり前だが、想像していたより大きかった。黒く塗られたシリンダーなんて普通の人のフトモモから競輪選手のフトモモになったくらい太い。置いてあるだけで圧倒される存在感。
このBMW R18 CLASSIC First Editionはいろんなところが光っている。シリンダーヘッドカバーや、エンジンカバー、マフラーがクロームメッキなのは普通としても、ハンドルの部分、フロントブレーキやクラッチのマスターシリンダー、バー、ミラー、グリップエンドなどもキラキラ。視線を下げるとリアブレーキマスターシリンダー、ブレーキキャリパーもキラキラ。出し惜しみせずとことんやった感じ。シャフトドライブにはカバーはなく、むき出しになったドライブシャフトユニットでさえニッケルプレートメッキを施して光らせている。
それでも外装やフレームなど黒い部分との対比で嫌味のない上品さがあるから唸ってしまう。欧州貴族的な雰囲気と表現すればいいだろうか。日本メーカーが作るものとも、クルーザー市場の盟主であるHARLEY-DAVIDSONとも異なる。機械の性能だけでは語れないエモーショナルな部分が必要なクルーザーだから、文化的な部分が強く出ているのだと思う。
だから、これまでのBMWのイメージにはなかった機種だけど、ちゃんとドイツで生まれたBMW特有の世界観が伝わってくる。正直に話せば、R18のことを初めて知ったときに、「BWMがいまさらクルーザーを出す必要があるの?」と思った。だが、実車はその疑問を笑って一蹴するだけの説得力がある。
大きさを恐れる必要のない操作性とパワー制御
跨がってエンジンを目覚めさせながら、軽くスロットルを開けると、ドドドドというすごみのある低音と、BMWフラットツインらしいバラバラとした歯切れのよい音が混ざった排気音とともに力強く右に低いグラっと生き物のように車体が動く。「レイン」「ロール」「ロック」と3つのエンジン特性モードがあって、もっとも活発な「ロック」でアイドリングさせたまま、降車し傍から眺めると、ゆれる、車体がゆれる。大きな心臓からの鼓動がそのまま車体全体に伝わってエンジンをかけたまま置いてあるだけでも左右にゆれ動く。動作の早い“震え”ではなく、ワッサワッサとした“ゆすぶり”だ。
昨年に登場して話題となったR18に後から追加されたCLASSIC First Editionは、フロントホイールが19インチから16インチと小径になって、大型スクリーン、リアのサイドの大きめのバッグを装備しているのが特徴。よりツーリング仕様になっている。お尻がスッポリと収まる面積がしっかりあるシートは、ローシート仕様で、高さは690mmなので足着きは余裕。身長170cmの筆者でも膝に余裕ができる。貫禄のある大きさながら、ハンドルグリップ位置は同身長の人より腕が短めな私でも近く感じられ、上体の前後自由度も大きいから、御せない不安を与えない。足を載せるステップボードはいわゆるミッドコントロールの位置で、椅子に座るようなかっこうで、膝の曲がりはほぼ90度。
スリッパークラッチを採用していることから、大排気量2気筒のトルクを受け止めるクラッチでもレバー操作が軽いのは助かる。1速に入れて動いてしまえば車両重量374kgの重さが消え、アイドリング回転に近いところでクラッチをミートしたままスロットルから手を放してもエンストすることなく前に進む。そのポジションとエンジン特性から、試乗コースにあったパイロンを巻いていくUターン場所でも、大きく外側に振って侵入しなくてもクルっと回れる。クルーザーモデルの常で、すぐにフットボード裏が地面に当たってしまうから、試乗車を傷つけないように気をつけながら操作していたけれど、そうじゃなければもっと小さく回れるだろう。重心が間違いなく低いから、そろそろと歩くような低速で動かしてもふらつかない安定感。
ゆっくり走る場合でもスロットル操作にパワーの出方が機敏すぎず、速度をコントロールしやすい。そこからひとたび、スロットルをワイドオープンしたら3千回転で158Nmものトルクを発揮するエンジンは、力強い怒涛の加速だ。2千回転から4千回転まで最大トルクに近い150 Nmのトルクが続くとアナウンスされていたが、たしかに頻繁にシフトチェンジせずずぼらに乗っても、この回転域にあれば、右手のひとひねりでスピードアップ。しかしながらあくまでもジェントルな印象を失わない。
せわしない乗り方をしなくてもいいのは大排気量と制御のたくみさのたまもの。わざとシフトダウンをして急減速、ラフにスロットルを開けての急加速など繰り返してみたけれど、エンジン・ドラッグ・トルク・コントロール(MSR)が働いているのか、粗野なところをまったく見せずフラットに近い乗り味が続く。トラクションコントロールにあたるオートマチックスタビリティコントロール(ASR)もある。シリンダーに足が近いから、シフトアップは一般的な足の甲でやらずに、シーソーペダルの後ろ側をかかとで踏んだ方が確実にできた。
前後サスペンションには突っ張ったフィールはまるでなく、初期の柔らかさがありながら適度な減衰をして体を前後に動かすピンチングモーションが上手におさえられた乗り心地。コーナリングはさすがに機敏とは言えないけれど、低速ではセルフステアも強すぎずニュートラル。ハイスピードで切り返しが連続するシーンでは起き上がり小法師のような感覚がありながらも、フットボードを踏んづけながらメリハリあるスロットルワークをすれば、なんてことなくスムーズな走行ができる。
キャスターは寝ているが装着されたステアリングダンパーが高速域で仕事をしているのだろう。どの速度でも手こずることがない。
ニューカマーながら高い実力で魅了する。
1930年に誕生したR5をリスペクトした有機的なカタチのクランクケース形状が特徴的な大きなエンジンもふくめた、他のクルーザーとまったく似ていない個性がありながら美しいと思わせるスタイリングと仕上げ。進ませれば幅広い技量のライダーが戸惑わない走りの作り込み。クルーザー市場にあらわれた、見せる、魅せる、強力な新人は台風の目になりそうだ。
(試乗・文:濱矢文夫)
■エンジン種類:空油冷4ストローク水平対向2気筒OHV ■総排気量:1,801cm3 ■ボア×ストローク:107.1×100mm ■圧縮比:9.6 ■最高出力:67kw/4, 750rpm ■最大トルク:158N・m/3,000rpm ■全長×全幅×全高:2,465×950×1,130mm ■ホイールベース:1,725mm ■シート高:690mm ■車両重量:358kg ■燃料タンク容量:16L(リザーブ容量:約4L) ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):120/70 R19・180/65 B16 ■ブレーキ(前/後):デュアルディスク・300mm/シングルディスク・300mm ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):2,976,500円
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