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試乗・解説

Honda GB350S これが「新世代」空冷単気筒 若いファンが10年20年乗り続けられるために
空冷単気筒という、ちょっと時代遅れなはずのエンジンを
あえて2020年代の最新技術で再現したGB350/350S。
どうして空冷エンジンが生きづらくなったのかも含めて
まずはこのバイクが本当に市販されたことに拍手!です。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:渕本智信 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/、■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/




存在感のあるきれいなエンジン

 ホンダから久々に登場した新設計の空冷単気筒エンジンモデルGB350/350S。スタイリングはごくオーソドックスに「単車」のたたずまいで、オートバイ用エンジンの基本ともいえる「空冷単気筒」エンジンを搭載した、近年ハヤリの「ネオクラシック」よりも、もう一歩クラシックなオートバイ。
 こういうの、ヤマハSR400が生産終了となってしまった今、W800やメグロK3をラインアップするカワサキが得意ですよね。ホンダは、CB1100が雰囲気的に合うのかな、なかなかこの領域に足を踏み入れてこなかった気がします。
 このモデル一番のトピックは、やはりエンジン。シリンダーが直立した、空冷4ストローク単気筒エンジン。冷却フィンがきれいな曲線を描いていて、OHCヘッドも雄々しい、久しぶりに存在感のある、美しいエンジンです。スロットルボディ、シリンダーヘッド、エキパイが水平にまっすぐ伸びていて、ここにデザイナーの思いがこもっている感じがします。
 

 
 ここでちょっと、空冷エンジンの現状を説明します。ヤマハSRやセローの生産終了でもわかるように、排出ガス&騒音規制、そしてOBD(故障診断装置)搭載義務を理由に、今どんどん空冷エンジンモデルが廃止されています。
 これは、空冷という冷却方式が、低温時から高温時の「振り幅」が大きく、燃焼効率が一定しないからなんです。適温時にはクリーン排気でも、低温時にはHCを、高温時にはNOxを多く排出してしまうので、年々厳しくなる排出ガス規制に適合させにくくなる、というわけ。これが、エンジン温度を一定にさせやすい、水冷エンジンとの決定的な差です。
 さらに空冷ならではの美しい冷却フィンが共振ノイズを発生し、水冷エンジンにあるウォータージャケットがないため、防音壁がなく、エンジン動作音がダイレクトに放出されてしまう。これも騒音規制に適合させることが難しい理由のひとつ。
 もちろん、そんなデメリットを技術的に乗り越えるのは可能。けれど、そのために空冷エンジンらしいダイレクトさや鼓動感、パンチ力をスポイルしかねない──これが空冷エンジン車が減っている本当の理由なんです。だから、ホンダがGB350/350Sを発売にこぎつけたことにまず、拍手ですね!
 

 
 GB350/350Sの空冷単気筒、やっぱり空冷っぽさを残しつつ、それでいてスムーズさも持ち合わせたエンジンフィーリングに仕上がっています。単気筒らしい鼓動は残しつつ、振動がすごく抑え込まれていて、このあたりが新世代の空冷単気筒っぽい。
 たとえば空冷単気筒の先輩であるSR。あの先輩が鼓動+振動という素のエンジン表情を、長い年月をかけて振動を抑え込んで、さらに排出ガスや騒音規制対策を重ねてきたことで、最終的には空冷単気筒「らしさ」を失ってしまったのに対し、基本設計から「理詰め」の空冷単気筒らしさを持っているGBという感じ。
 SRの「らしさ」の正体が、1978年デビューの、本当に「古い」エンジンだから、という理由なのに対し、GBはボア×ストロークやイナーシャウェイトをきちんと計算して、単気筒「らしさ」を生み出している、という感じです。
 

 

何にでも使えて、何年も乗りたくなる

 走り出すと、タコメーターがないために、正確な回転数は不明ながら、アイドリングすぐ上、2000~3000rpmで充分なトルクを発生する特性ですね。カタログデータでも、最大トルクの発生回転数が3000rpmとなっていますから、回転を抑え気味に、早め早めにシフトアップして行っても、ストールすることなく加速していくフィーリング。
 もちろん、高回転もきちんとスムーズに回り込んで、スピードを乗せていくのが苦し気、という印象はなし。5速ミッションは、5速のレシオがオーバードライブに設定されているので、100~120km/hのクルージングでも、振動がひどくなったり、回転が苦し気になる場面はありませんでした。
 それよりも、クラッチがびっくりするほど軽かったり、ミッションがきちんとカチンと入るフィーリングが気持ちいい。空冷、単気筒というと、こういった操作面が軽くないのも「味」なんて言う人もいますが、新世代単気筒は、そういう操作面もキッチリ仕上げてあります。
 

 
 ハンドリングも、少し時代をさかのぼったフィーリングに感じました。直進安定性が強くて、バンクさせて向きが変わるのがワンテンポ遅れるフィーリング。これは、フロント19インチタイヤのなせる業で、フロントの接地感が大きくて、安心感のあるハンドリング。リアホイールを17インチラジアルとした350Sの方が、より軽くバイクが寝る感じで、18インチバイアスタイヤの350の方は、もっと安定感のある印象。僕はリア18インチでのんびり走るのが気持ちよかった。

 現代のバイクって、ひとりで何台も持てない事情もあるのか、1台でなんでもこなせるキャラクターが求められることが多い。その意味では、街乗りを軽快にこなして、高速クルージングでも安定感を大きく感じることを求められたのかもしれません。その意味では、完全に合格点をあげられるバイクだと思います。
 よくできたエンジンだなぁ――それが試乗を終えての感想。もちろん、SRの初期の頃や、もっと古い単気筒エンジンを知っている世代には、単気筒らしさが物足りない、と感じるでしょう。けれど、2気筒や4気筒のスムーズさよりもグッと力感のある単気筒エンジンを、若いファンにも伝えていく、という意味では、これ以上ない完成度です。
 

 
 空冷単気筒というと、もっとガチャガチャドシドシしたエンジンを想像しがちな人もいますが、あれは設計年次が古いエンジンだから。材料も加工精度も進化した2020年代のバイクでは、出そうとしても出せない味なんです。
 1台でなんでもこなせる万能性と同じく、長期間、飽きずに長く乗って、持ち続けていられることも、現代の人気モデルの条件。それでいてGBはスタンダードが55万円、350Sが59万4000円。いいプライスですね。消費税なんてなかった頃、GB400TTは43万9000円でしたから、消費税抜きの価格で言えば、GB350は50万円。物価上昇のことを考えても、チョー頑張った価格だと思います。
 その意味でも、GBは合格点。この先20年、30年と生き続けてもらいたい!
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

14本スポークを持つアルミキャストホイール。フロントホイールは350/350Sとも同じ17インチで、350Sはフォークブーツつきのショートフェンダー。ブレーキはφ310mmの大径ローターと片押し2ピストンキャリパーで、ニッシンの新設計高剛性キャリパーを採用。

 

存在感ある美しい空冷単気筒エンジン。冷却フィンはラウンド形状で、シリンダーヘッド部分のフィンはエッジが切削加工されている。一般的なバランサーに加え、それだけでは消し切れない振動にはもう一種類のバランサーを追加。アシスト&スリッパークラッチも採用し、単気筒ならではの強いバックトルクを消し、軽いクラッチ入力としている。

 

フレームが丸スチールパイプなのに対し、60×30mmの角型スチールスイングアームを採用。サスストロークは前後とも120mmと十分で、リアサスはプリロードのみ調整可能。サイドカバー形状も350と350Sそれぞれオリジナルとなっている。

 

迫力ある重厚な低音と歯切れの良さが耳に届くことを目指して開発されたマフラー。静かすぎることなく、クリアな音質が単気筒エンジンっぽさをアピールしています。マフラーは350Sがマットブラック、350がクロームメッキと区別され、350Sにはサイレンサーガードが装備される。
GBのキャラクターを決定づけるタンク形状。スリムというより丸っこいデザインだが、ロングタンクのGBも見たい気がしました。タンク容量は15L、今回の取材では実測燃費が約45km/Lだったので、計算上ではフルタンク600kmの航続距離がある。

 

テールカウルを持たないダブルシートは350がプレーンな表皮で、350Sがタックロール入り。シート開閉はキー式ではなく、シートエンドのヘキサゴンボルトで、シート下にETC車載器用と思われるトレーを発見。エアクリーナー吸入口がむき出しのため、シート下を小物入れとしての使用するのはNG。

 
 

オーソドックスなバーハンドルは350Sの方がややショート形状。メーターはオフセットして装着されたアナログデジタル併用のワンピースボディで、ギアポジションと燃料計付き。オド&ツイントリップ、平均&瞬間燃費、残ガス走行距離や電圧計も表示するが、欲を言えばタコメーターつきのオーソドックスな2眼メーターも見てみたい。

 

ヘッドライト、ウィンカーともLED。350Sは写真のストレート、350は小型丸ウィンカーを標準装備。ロー/ハイビームの切り替えで独特の複雑な発光面積としたヘッドライトだ。
350/350Sでリアフェンダー、テールランプまわりの造形も専用デザイン。350Sは写真のデザインだが、350はよりクラシックな、完全別体のテールランプとしている。

 

キーで開閉できる左サイドカバーにはバッテリー。写真下の方にヘキサゴンレンチが収納されているが、これでシートを取り外す。
タンデムステップ裏にドローコード用のフックを、ヘルメットホルダーを外部独立とし、シートエンド下にもフックを装備。350にはグラブレールが装備され、アクセサリーでリアキャリアやシートバッグが用意されている。

 

●GB350/ GB350S 主要諸元
■型式:ホンダ・2BJ-NC59 ■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒OHC ■総排気量:348cm3 ■ボア×ストローク:70.0×90.5mm ■圧縮比:9.5 ■最高出力:15kW(20PS)/5,500rpm ■最大トルク:29N・m(3.0kgf・m)/3,000rpm ■全長×全幅×全高:2,180[2,175]×800×1,105[1,100]mm ■ホイールベース:1,440mm ■最低地上高:166[168]mm ■シート高:800mm ■車両重量:180[178]kg ■燃料タンク容量:15L ■変速機形式:常時噛合式5段リターン ■タイヤ(前・後):100/90-19M/C 57H・130/70-18M/C 63H 【150/70R17M/C 69H】 ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:マットジーンズブルーメタリック、キャンディクロモスフィアレッド、マットパールモリオンブラック [パールディープマッドグレー、ガンメタルブラックメタリック] ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):550,000円 [594,000円] ※[ ]はS

 



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2021/08/18掲載