ラリールックのバイクが大ブレークしたのは1980年代。当時と比べるまでもないが、ダカールや長距離ラリーの神通力は現在では残念ながらさほど強くない。当時の流れから成長進化したアドベンチャーバイクセグメントは、ルーツがラリーを戦うバイクにあった、という史実すら薄れた。それに現在も続くモータースポーツとしてのラリーは、参加車両が450㏄単気筒までというルールに則り、エンデューロバイク、オフロードバイク由来のイメージがある。どちらかといえばストリートバイクとの親和性が下がっているのも要因だろう。
だから、ホンダのショールームの中に並んでいたとしても、そもそもラリーって何だ? というあたりの布教から始めないといけない現在、CRF250 RALLYが背負うハンディは小さくないのでは、と思う。
そのイメージリーダーたるダカールラリー。1989年まで4連覇したホンダが、通算5勝をあげた「世界一過酷なモータースポーツ」の世界に復帰したのが2013年。ホンダがワークスチームを送り込んですでに9シーズン。現在、9戦2勝の戦歴で、2020年、2021年とワークスマシン、CRF450 RALYが連覇をしている。(2021年ダカールラリーについてはコチラを参照→ https://mr-bike.jp/mb/archives/19725 )
CRF450と言えば、モトクロッサーのCRF450RやエンデューロバイクのRXが思い浮かぶ。どちらもハードコアなイメージで、想起する通りのオフロード性能を持つ言わばプロツール。さらに言えばトランポで運ぶバイクで、長距離を自走するイメージがない。そうしたバイクが持つ性能を下敷きにラリー用に開発したバイクで戦われるレースなのだ。過去には、サハラのテネレ砂漠で大排気量のラリーバイクが最高速度200km/hを越えた、という時代もあった。瞬間最大風速的な速度以外、すべての運動性は現在の450クラスのマシンが高く、その走破性に合わせたラリーのルートも以前よりエクストリーム性が高い。
しっかりとしたワークスマシンルック。
そんな中、二代目CRF250 RALLYは、運動性を突き詰めた今のラリーバイクのセオリーをしっかりと外観デザインに落とし込んでいる。ビッグタンクと言われエンジン上部に丸々とした燃料タンクを搭載し、それがスタイルアイコンにもなった1980年代のラリーバイクとは異なり、縦面こそ面が広いが幅は狭く、低重心を意識した造形。オフロードバイクらしいストロークのあるサスペンション、空力特性に優れたフェアリングと快適性。次世代アドベンチャーバイクの姿がここにある、と言いたくなるようなかっこよさだ。
そのボディーパネルが全て機能に帰結しているか、というと口の悪い人の言葉を借りれば「張りぼてじゃん」となる部分も確かにあるが、僕はこのスタイルが好きだ。いや、逆に機能を詰め込みRC213VSのようなCRF250 RALLYも見てみたい気がする。しかしそれはどう安く見積もっても500万円(でも大バーゲンだろう)はくだらないハズ。だとしたら、この価格で楽しめる250オフとしては嬉しいバイクであることの方が有り難い。
教習所で大型免許が取れる時代が始まってもうすぐ四半世紀。以来、市場が中型クラス中心から大型モデル中心にシフトした日本では、環境規制の強化とともに消えたバイクが多かったし、最近の250クラスは賑わいを取り戻しているが、ことオフモデルに関してはなかなかスケールメリットを見いだせない。そんな中、フルモデルチェンジを敢行するのは大きな決断だったと想像する。その点もホンダに「ありがとう」と言いたい。
話を250 RALLYに戻すと、スタイル的には先代と大きく変わってはいない。本家ワークスマシンもその姿を大きく変えることなくラリーを戦っているからという部分もあるし、すでに完成度の高いスタイルとも言えるのだ。
また、足着き性の高いローダウンモデル(LD)の名前を廃止し、LDが標準仕様に。ロングストロークのサスペンションをSモデルとして販売するアフリカツインでもとられた手法を採用した。CRF250Lが140㎏、RALLYが152㎏となるが、先代よりも軽量化されたのが特徴だ。
エンジン搭載位置をアップし、地上高もしっかり確保。
搭載されるエンジンは水冷DOHC単気筒。先代がCBR250Rと同系のエンジンを搭載し、とにかくホンダ250オフの歴史を紡ぎたい、という思いで造られたCRF250Lだった。2012年、ちょうど桜が散るころ、群馬県の山中で行われた試乗会でエンジニアの熱い思いを聞いたのが思い出される。
オンロードベストなCBR用単気筒エンジンは天地に長く、CRFでは最低地上高が低めだったり、肝心な1速と2速のギアレシオが離れていたり、そこまで開発コストが回らなかったという部分を差し引いても生産中止になったXR系の後を繋ぐ、という意図は見事。タイ生産モデルとして様々なコスト問題をクリアしてCRFシリーズが250クラスに登場したのは嬉しいニュースだった。そうした部分を含め2021年にモデルチェンジした新型では懸案だったそうした部分もしっかりと手直しされている。
パッと乗り、やや頭が重たいか……。
CRF250 RALLY<S>はシート高が885mm。シートの先端が細く絞られ足がまっすぐ降りる印象で、股関節がバイクの幅で開く印象は少ない。体重84kgの筆者だと跨がった時点でサスも沈むので足着きに不安はなかった。ライダーの重みで沈む量が大型アドベンチャーバイクよりも大きいので、足着きに不安な人はショールームで確認をしてみて欲しい。その際、ド新車ではなく、慣らしを終えた試乗車で確かめるのが吉だと思う。ある程度の走行距離を稼いだバイクの方がリアサスの動きがスムーズでリアルな足着き感が確かめられるからだ。
12リットルと大型ではないが、上方で容量を稼いだタンクやフェアリングを装備するせいか、サイドスタンドから起こす動作に対し、少し頭が重たい印象があった。エンジンも30mm高くなったこともあるのだろうか。先代のローダウンがシュッと起きた印象とは少し趣が変わっている。サスペンションストロークが換わり地面についているタイヤの接地点から上物が遠くなるのでそうした印象になるのかもしれない。
クラッチが軽い。アシストスリッパークラッチが入った恩恵は市街地などクラッチレバーを頻繁に操作する場面で有り難い。遠出をしたときにも1日快適に走れるのではと思う。操作系が軽いとバイクが軽いと感じられるのも恩恵。ただ先述した上が重たい印象は街中レベルで曲がる時、最初少し気になった。60km/h程度で流れる市街地。大きな交差点にさしかかり減速、そして左折するような場面で、少し上半身と下半身の動きがずれるような印象もある。剛性を落とした柔らかいシャーシにしたそうだが、普段アドベンチャーバイク(つまりもっと重たくパワーのあるバイク)に乗っている筆者にとってゆるさとして伝わったのかもしれない。サスペンションの路面追従性が良く、乗り心地が麗しい。しんなりと路面入力を吸収している。
高速道路では快適さに感動。
市街地を抜け高速道路へ。大型アドベンチャーバイクの中にはオープンカーのフロントウインドウのように大きなウインドシールドを持つバイクもある。それに比べたらCRF250 RALLYのそれは小さい。それでも首から下、胸元あたりまで効率よく風圧を抑え、両肩にはそれより少しだけ風量を上げたような印象で風を届けている。背中に巻き込むようなドラッグも感じない。空力が素晴らしいと言う印象だ。
エンジンのパワーに不満はないが、250という限られた原資だ。その力を風と対峙するというより上手く風を横と上方に流している印象で、100km/h巡航をしていても頑張っている感はそれほどない。市街地で感じた緩さはなく、風の力も使ってしっかりと直進するかのような印象だ。ここでも乗り心地が良い。
以前乗った先代のLD仕様のRALLYは、サスストロークが短く、ライダーの体重でストロークの大半を使い、結果的にバンプストップラバーが高速道路の継ぎ目でも頻繁にボトムタッチすることでズンという突き上げお尻に食らうことがあった。ロングディスタンスイメージのバイクでこれはちょっとツライと。今回乗ったS仕様に関しては快適性についてなにも問題が無い。これなら遠出が楽しみだ。
ワインディングではシャープさが欲しい。
ワインディングをツーリングペースで走るCRF250 RALLYのエンジンは高速道路同様スムーズ。特に3000rpmあたりまでの力感がなかなか。その先、大きくアクセルを開けて回転を伸ばすよりその辺りまでのトルクを使って走るほうが断然気分が良かった。なんだろう、この排気量の大きな単気筒感は。ショートになったというファイナルのこともあって心地よさが群とアップしている。
ここは自分の乗り方とバイクのチューニングという好みの違いレベルかも知れないが、直進から旋回へとアプローチする瞬間、ハンドリングの正確性のような部分が少しゆるめに感じてあと一声シャープさが欲しかった。
先代がロードバイクでも追っかけ回すような元気の良いハンドリングだったのが少しだけ懐かしい。逆にオフ車風にリーンアウト気味に乗るとその印象を打ち消すことができたところもあった。ブレーキングなどのスタビリティは悪くない。この辺はダートにいってもう一度考えたいと思う。
ダートはやっぱり楽し。
短い時間だがダートも走った。ツーリング時に感じた3000rpmあたりまでのトコトコ感は林道ツーリングでものんびり楽しくバイクを走らせている気持ちがあって充実する。サスペンションも砂利道でのギャップを上手く吸収しながら走ってくれるので走りやすい。ビギナーでも安心してRALLYを走らせることができると思う。
少しペースを上げた。3000rpm以上で少しエンジンのパンチが、それ以前よりフラットな伸びとなるエンジン。3000rpmあたりまでは250とは思えない満足感がある。大排気量から乗り換えても、この領域までなら満足感がある。シフトアップして増速できる力感があるので、不満がない。ギアリングも適切だ。
逆に、そこまでの印象と少し様相が変わるのがミドルレンジだ。250にそこを期待するのは酷な話なのだが、ボトム領域がスイートなだけにそう感じてしまうのかもしれない。4000rpm台から6000rpmあたりまで待ちの時間という印象だ。それ以上では右手に同調するようにパワーが沸き、トップエンドまでフラットで使いやすい特性だ。安心して回せるのは嬉しい部分。その分、ミドルレンジでは動きの良いサスにエンジンのトルクが吸収され、車体のレスポンスが落ちるように感じるのかもしれない。
輸出仕様の300ccぐらいあるとその辺もバランスするのかも。そんなことを思いながら走り続けた。でも250にしてこの体躯。150㎏を超す車体ながら全体といては良くできていると思う。欲をいえば、アスファルトで感じたのと同様、どこか車体にシャープさが欲しい印象もある。しかし下りのカーブ、ブレーキングしながらアプローチするような場面でもしなやかな走りをみせてくれたので、この車体バランスは一つの正解なのだと思った。
250のオフ車として。
オフ車で林道に行こう、オフ車でキャンプしに行こう。ロングツーリングに行こう。そんなホリデートランスポートの役をCRF250 RALLYは担ってくれるだろう。やんわりとした乗り味ゆえ、アドベンチャーバイク乗りが増車した場面ではその乗り味にギャップを感じるかもしれないが、結論としては250のオフ車として正論なのだと思う。
頭の重さに関しては、辛口バージョンを作って、レーサーのCRFで採用しているチタンタンクなんて載せてみてはどうでしょうか。チタンのサイレンサー(もちろん公認マフラーで)、得意のエンジンハンガープレートで剛性をちょいとシャキッとさせて「ああ、俺もリッキーやケビンのように砂漠を駆けるぜ!」とダカール王者をイメージしたプレイに浸れる仕様があったら限定でも欲しくなるな。250レプリカに期待する一人として夢見心地の仕様も期待しておきたい。
(試乗・文:松井 勉)
■型式:2BK-MD47 ■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:249cm3 ■ボア×ストローク:76.0×55.0mm ■圧縮比:10.7■最高出力:18kw(24PS)/9,000rpm ■最大トルク:23N・m(2.3kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:2,200×920×1,355mm [2,230×920×1,415mm] ■ホイールベース:1,435mm[1,455mm] ■最低地上高:220mm[275mm] ■シート高:830mm[885m]〉 ■車両重量:152kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):80/100-21M/C 51P・120/80-18M/C 62P ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク(ABS)/油圧式ディスク(ABS リアキャンセル機能付き) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式(倒立タイプ)・スイングアーム式(プロリンク)■フレーム:セミダブルクレードル ■車体色:エクストリームレッド ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):741,400円[741,400円] ※[ ] は<S>
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