新シリーズの展開はわかりやすいもの
モトGPの公式タイヤとしてすっかり浸透したミシュラン。なぜモトGPをやると決めたかと言うと、2016年にモトGPで使うホイールサイズがそれまでの16.5インチから、公道でも一般的な17インチになったからということが決め手だったらしい。一般の使用環境での高いバランス、ミシュランの掲げる「トータルパフォーマンス」を実現するため、同じ17インチタイヤで頂点を極め、その技術をフィードバックしようというわけだったのだ。
モトGPをやるようになってから飛躍的にミシュランタイヤが良くなったかと言えばわからないが、少なくとも近年のミシュランはまさにトータルパフォーマンスの高い、好印象のタイヤが非常に多い。ツーリング寄りのロード/パイロットロードシリーズでは新たに「ロード5」というモデルが登場し非常に高評価を得ている。もう公道におけるワインディングではこれで十分! と言われるほど、ツーリング向けタイヤであるのに妥協のないスポーツ性も備えている。
そしてさらに上、というかよりスポーティな趣向、もしくは走行会や草レースなどサーキット走行も視野に入れる人に向けたラインナップが一新され、今シーズンから各サイズで展開されている。それは品名に「パワー」がつくシリーズで、パワー5、パワーGP、パワーカップ2の3種。加えてサーキット専用のパワースリック2も加わった。
パワー5はワインディングやハイウェイをターゲットとした公道でのスポーツタイヤ、パワーGPはサーキット走行も視野に入れた、公道とサーキットの比率を50:50に設定したタイヤ、パワーカップ2は90%サーキット想定で、自走での走行会参加者は公道を走っても大丈夫ですよ、といったイメージでの展開。カップ2に向かうにしたがってよりスポーティさが高まると同時に、共通性のあるグルーブデザインの量が減っていきスリックに近づいていくなど、ルックス上でもそのターゲットゾーンを明確にしてくれる新商品展開となっている。
最も公道向けのパワー5をチェック
この新商品群の発表と同時に試乗会も行われたのだが、テストコースでの試乗が叶ったのは最も公道向けのパワー5。
パワー5はこれまでのパワーRSというモデルの後継という位置づけでありつつ、細かく言えばパワーRSがパワー5とパワーGPへと細分化もされているというポジション。よって、2モデルの中ではより公道向けという位置づけながら、パワーRSよりもユルイタイヤというわけでは決してなく、5もGPもそれぞれRSよりアップグレードされ、スポーティさも確保し、かつ公道でのシチュエーションも網羅するという、まさにトータルパフォーマンスの向上を謳っている。
パワー5は前後それぞれに最適なシリカコンパウンド及びブラックカーボンコンパウンドを配置し、前後に2CT技術を採用。2CTはセンター部に比較的耐摩耗性に優れたコンパウンドを、サイド部には比較的グリップ性に優れたコンパウンドを配置する技術だが、リアには2CT+と呼ばれるものも採用。これはタイヤの深部にはセンター部で使う固めのコンパウンドを敷き、サイド部にはグリップに優れるコンパウンドを載せるというタイプの2CT技術で、これによりコーナリング時のスタビリティが向上するとされている。またシリカコンパウンドと11%というボイドレシオ(シー/ランド比などとも言われる、表面積に対するミゾの比率)を採用することでウェット性能も追及している。
なおパワー5に限らずこのパワーシリーズ全てに新採用された「ベルベットテクノロジー」とは、タイヤのサイド部に微細な凹凸によるデザインを施し、光の反射のしかたでグレーとブラックのコントラストを生み出してデザイニングしているというもの。高級感のある演出である。
「これで十分」のアップデート
試乗できたのはこのパワー5であり、同型のバイクに前作パワーRSとパワー5をそれぞれ装着したものが用意されたことで直接比較することができた。選んだバイクは新型のスズキカタナ。ご存知のように1000ccネイキッドであり、大きなアップハンドルにより姿勢はアップライトなもの。それでいて十分以上にパワフルであり、パワーシリーズのようなプレミアムタイヤ、そしてサーキット走行は考えにくいことからその中でもパワー5を履く最右翼だろう。
サーキット走行は想定されていないとはいえ、試乗コースは様々なシチュエーションを安全に楽しめるテストコース。場所によってはサーキットと変わらないようなハイグリップ路面や気持ちの良いコーナーがあり、また高速周回路ではカタナでも230キロを優に超えていく最高速が出せてしまう。
比較試乗ということでまずは前作パワーRSから走り出す。このパワーRSは自分のバイクに装着していたこともありとても印象の良いタイヤ。試乗コースの細かなワインディングのようなところも、高速周回路も何ら不満なく走ることができ、「RSの時点で十分なんじゃないだろうか」などと思いながら新型のパワー5へと乗り換える。
新型が出るまでは大概の商品は「十分」なのだな、などと考え直してしまう。より良いものを知らなければ、既存のもので満足できるのは当然だ。が、パワー5の進化はすぐにわかるもので、これを知ってしまったらRSは遠慮したい、とまで感じてしまった。
なにせハンドリングが圧倒的に軽い。フロントホイールのジャイロが減ったような感覚で、スイスイとコーナーに放り込めてしまう。これがスーパースポーツのようにそもそも旋回性がとても高くさらに前傾が強いモデルだったらそこまで気づかないかもしれないが、アップハンのカタナだとより顕著で、コロリコロリとコーナーへと倒れ込んでいくのだ。ペースを上げていった時、RSでは加速時にフロント荷重を確保して旋回性を保持するためアップハンを手前に引きながら伏せていたが、パワー5ではその必要はなく、身体が起きたままでもアクセルを開けた時のはらみかたが少なくコーナー後半がとても楽になる。
となると逆に落ち着きがなくなってしまった部分もあるんじゃないか、などと訝ってしまうが、高速周回路ではビシッと安定していて何も不安はなく、神経質なクイックさはどこにも表れないから不思議だ。リアタイヤの径を大きくして前下がりな姿勢にした、だとか、フロントタイヤの径を小さくしてクイックにした、という感覚ではなく、タイヤの径はそのままにホイールをより軽量なものに換えたかのような、そんな感覚なのだ。パワーがあるのにアップハンで、あんまりパワーをかけていくとフロントがすぐに軽くなってきてしまうといったネイキッドモデルこそ、この特性の恩恵にあやかれるんじゃないかと感じさせられた。
トータルパフォーマンスに感服
細かなワインディングを想定した入り組んだコースと高速周回路、またその他にもウェット路面でのブレーキングやスラロームなども経験できたのだが、ウェット路面のように状況が悪くなっても軽いハンドリングとしっかりした接地感は失われず、まさに公道でのあらゆるシチュエーションを想定したトータルパフォーマンスを実感することができた。また商品説明ではサーキットは想定していないとのことだったが、この性能ならば走行会やちょっとした草レースを十分楽しめるだろうという印象も得た。
よりツーリング向けのロード5も評価は高いが、このパワー5、そのトータルパフォーマンスの高さはかなりのモノで、一般ユーザーからの評価もきっと高いものとなるだろう。
筆者はミシュランタイヤ全般について走りのパフォーマンスに加えて摩耗していった時の性能劣化の遅さも魅力の一つだと感じている。例え偏摩耗が進んでもハンドリングが著しく悪化することが少なく、比較的穏やかに性能低下する印象があるのだが、パワー5もその性格・性能を持っているとすれば、このトータルパフォーマンスを長く楽しめるということ。スポーティなマインドを持ちつつ、ツーリングで遭遇しうる様々なシチュエーションもストレスなくこなしたいそんなライダーに、今期のフレッシュタイヤとして是非とも薦めたいパワー5である。
(試乗・文:ノア セレン)
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